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魔女ジルルキンハイドラへの相談

深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。

魔女の名は、ジルルキンハイドラ。

その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。

そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。

俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。

ペットの名はトットルッチェ。

人語を解する稀有な黒いライオンである。

ある日のことである。

一人の客人が、彼女の元へ訪れた。



「すみません」

「は、は~はわわわわ~~~」

丁度蔵書を整理していたらしく、シルの手には大量の本が乗っかっていた。

そこに声をかけられ、返事をしようとしたが、体制を崩す。

結果、本に埋もれるわけである。

「大丈夫ですか?」

「あう~。ひどい目に、あ、大丈夫ですよ。大丈夫~。それでご用件はなんですか?」

ジルは散らばっていた本を片し、男に椅子を勧めた。

勧められた席の近くでは、トットルッチェが昼寝をしている。

男はおっかなびっくり、そろりと席に着いた。

そして、ジルは向かいの席に座るのである。

「実はジルルキンハイドラ様にご相談があって来たのです」

「ふむふむ」

男は何から切り出せばいいのやらと、思案し、こう言葉にする。

「俺は二十の顔を持ってるのです」

「二十の顔?」

ジルはまじまじと男の顔を見る。

「ひとつしか見えませんが?」

「あ、いえ。そういう訳では。すみません。少し回りくどい言い方をしてしまいました。二十の顔とは色々な職業という意味なんです。俺は騎士だったり、パン屋だったり、いろんな職業を掛け持ちしてるんです」

「へ~。なんだか目が回りそうですね」

「もちろん一遍に同じ職をという訳ではなく、順繰りにやっているのですけど」

「はぁ」

「どの職業も楽しいのですけど、やっぱり深いところまでは出来ないっていうか。ひとつに絞らなきゃって俺、自分でも思うんですよね。それでいろんな人に相談したんですけど、何かしっくりこなくて。それで無礼だとは分かってるんですけどジルルキンハイドラ様のところに・・・」

男の言葉を聞き、ジルは腕を組む。

それからウンウン唸りを上げた。

一見幼女にしか見えないジルである。

男の表情は自然と不安なものとなる。

「先ほどあなたは二十の顔とおっしゃいましたけれど」

「はい」

「もう一つの顔はお考えないのですか?」

「もう一つの顔?」

「あなた自身思い当たる節があると思いますけど?」

そう言われて、男はあっけにとられた顔になり、深く考え込むような顔になり、やがて困ったような泣き出しそうな顔になった。

それから釈然としない表情のまま男はジルに礼を言い、その場を後にした。



「あのさ、ジル。さっき言ってたあの人のもう一つの顔って何?」

「ん?トットルッチェ、起きてたの?」

「うん。本片付けるの手伝ってって言われそうだったから、寝たふりしてた。それで、そのもう一つの顔って・・・」

「トットルッチェ~!何で寝たふりなんかしてるのよ。一人で片付けるの大変だったんだから!」

「う、うわ。ちょっとジル、落ち着いて。本投げないで。暴力反たーーい」

「トットルッチェ、待ちなさ~い」



それから、幾ばくの年月が流れた。

またジルの元に別の男が訪れる。

「こちらはお世話になったと我が主からの礼である」

男は金貨の入った袋をおもむろにジルに手渡した。

「そう」

「では、失礼する」

用件は済んだと、早々に立ち去ろうとする男の背にジルは声をかけた。

「どう?あなたの主は?」

問いかけに男は答えず、ただにこりと笑った。



「すぐ帰っちゃったね。何か後ろめたいことでもあったのかな?お世話ってジル、何したの?どっかの偉い人脅したりとか?」

「なんでそんなこと私がするのよ~。いつだったか、いろんな職業を掛け持ちしていてどの職に絞ったらいいか分からないって相談に来た人いたでしょ?」

「ん?そんなことあったっけ?まぁ、いいや。それで?」

「彼は王族に血をつらねる者だったのよ。ただ彼はそれをよく思ってなかったみたいだったけど」

「なるほど。あー、なんか思い出してきた。そして、嫌がるその人をジルが丸め込んだと」

「だ~か~ら~、なんでそうなるのよ。私はただ彼にどうしたいのか?って改めて聞いただけよ」

「そだっけ?まぁ、いいや。でも、王様かぁ。食ちゃ寝し放題。理想の職業じゃん。なんで嫌がるんだろ?」

「そんなトットルッチェじゃないんだから」

「そして、ジルも人のこと言えないっと」

「うっ・・・」

「でも結局あの人って、王様になったんでしょ?やっぱり皆になってーって言われたんだろうねー」

「というよりは、人の上に立つ覚悟ができたってことじゃないかしら。それが王様でなくとも人の上に立つってことは大変だから。悩んじゃうのは当然の話だわ。ただ、その自覚もなく立場だけ上ってのもいるにはいるにはいるけど、これは問題外だしね」

「へー。人間って面倒なんだねー」

そして、ジルルルキンハイドラは森の奥から彼の治世を見守るのであった。


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