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魔女ジルルキンハイドラへの贄

深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。

魔女の名は、ジルルキンハイドラ。

その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。

そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。

俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。

ペットの名はトットルッチェ。

人語を解する稀有な黒いライオンである。

ある日のことである。

一人の客人が、彼女の元へ訪れた。


「あの・・・」

「ごめん。今忙しいから、後にして。あのさ、ジル。ここはこれでいいんだよね?」

「違うよ~。ここは先にこの部品を入れとかなきゃだよ。じゃないと、ネジ締めた後だと、入らないよ」

「ああ、そっか。そっか。じゃあ、ここは?」

「ん~、えっとね、そこはね・・・」

客人は来た。

が、丁度ジルたちはトットルッチェの罠を作っている最中で、無視されてしまう。

哀れ、そのまま日が暮れて、罠が完成するまで放置されるのであった。

「出来た!やったね、ジル!」

「うんうん。なかなかだね~。ここまで凝ったの作ったの、久しぶりだね~」

「そだねー」

「あの・・・」

「あれ、お客さん?まだいたの?」

「は、はい。すみません」

「それで、御用は何でしょう?」

お腹の減ったジルは機嫌が悪かったが、一応待ってくれた客人には対応する。

客の男に席を勧めた。

「実はお願いがあってここへ来たのです。ジルルキンハイドラ様・・・僕を殺してください!」

「・・・はい?」

切迫した様子の男に対して、ジルはポカ~ンとした顔で呆気にとられている。

「僕は今までの人生、いい事なんて全然なくて。何やっても駄目で、人に迷惑かけてばかりなんです。もうこんな僕なんて死んでしまった方が・・・」

「自暴自棄って奴だねー」

「けど、こんな僕でも死ぬ前に一度でも誰かの役に立ちたくって。そんな時です。ジルルキンハイドラ様のお話を耳にしたのは。ジルルキンハイドラ様は人の体の一部を使って薬とかを作ることができるんですよね?だったら、この体全部差し上げます。それで、少しでも誰かの役に立てれば・・・」

ジルは黙って、考え込む。

男はうつむいて、ジルの答えを待った。

トットルッチェはおなか減ったので、奥へ食料をあさりに行った。

丁度昨夜のウサギ鍋の残りがあったので、これでいいやと飛びつくが、鍋をひっくり返す。

どんがらがっしゃん、と物音が聞こえ、ジルの眉がヒクヒクする。

下に落ちてもトットルッチェには全く関係ないので、ウサギ鍋はそのままおいしく頂かれるのであった。

「・・・分かりました。いいでしょう。ですが、薬を作るために必要な材料が足りていないのです。なので、申し訳ないですけど、その材料を集めていただけますか?」

男はこくりと頷く。

それからジルは紙に材料を書き、男に渡すと男はその場を後にした。


「あれ?お客さんは?」

「お使いを頼んだ」

「ふーん」

「それよりも私もおなか減ったな~。ご飯にしよっと」

「そだね」

「トットルッチェ、私の分は?」

「えっと・・・吐いた方がいい?」


数ヵ月後、客人の男はまたジルの元を訪れた。

「あの、ジルルキンハイドラ様はいらっしゃいますか?」

「ううん。ジルは今出かけ中。もう少し時間かかると思うけど、待ってる?」

男を毛繕いをしながらトットルッチェが出迎えた。

男は安堵の息を吐く。

「そうですか。では、こちらの品をジルルキンハイドラ様にお渡し願えますか?」

そう言って、男はジルに頼まれた品をトットルッチェに渡す。

続いて金貨の入った袋を取り出し、

「それとこれを」

「ん?依頼料の前払い?」

男は首を振る。

「いいえ。依頼のキャンセル料です。正直ジルルキンハイドラ様が不在で、助かりました。一度依頼したものをどう言って断ればいいか分からなくて。せめてお金だけでもご用意させていただいたのですが。受け取って頂けるでしょうか?」

「良く分からないけど、多分大丈夫じゃないのかな?」

「それはよかった。もしかしたら一度契約したら断れないのかもとも思っていましたから。では、お納めください」

そして、男はトットルッチェにお金を払うと去っていった。


「ジル。帰ったよ」

「うん。じゃあ、後であの人にそのお金返しに行ってあげてね。これから何かと物入りだろうから、自分で使いなさいって言って」

「うん。まあ、いいけど。でも、なんで?」

「なんてことないよ。ただあの人が旅先で大切な人に出会ったってだけ。人の運命なんてたった一度の出会いで簡単に変わったりするものだって事」

「ふーん。ジル式ナコード術って感じ?」

「そんなんじゃなないけど・・・」

「もし運命を変える様な出会いなんて無くって、うまくいかなかったら?」

「その時は何か理由をつけて、また違う材料を探しに行ってもらうわ」

「次も駄目だったら?」

「また違うのを頼む」

「その次も駄目だったら?」

「また違うのを。その内誰か見つかるだろうし。トットルッチェが来る前には材料探し自体が生きがいになって、楽しそうに人生を謳歌してた人もいたし。別に変じゃないと思うけど?」

「・・・ああ!なるほど!そうしてジルに便利な小間使いが出来る訳だね。うんうん、納得」

「なっ!?そんなんじゃ・・・」

「じゃあ、そろそろ僕は行くから。じゃあね」

「ちょっと待ちなさい!トットルッチェ!・・・本当にそんなんじゃ・・・」

そして、トットルッチェはジルの言いつけ通り、男に金を返しに行くのであった。


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