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魔女ジルルキンハイドラへの人探し

深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。

魔女の名は、ジルルキンハイドラ。

その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。

そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。

俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。

ペットの名はトットルッチェ。

人語を解する稀有な黒いライオンである。

ある日のことである。

一人の客人が、彼女の元へ訪れた。


「すみません。どなたか・・・」

「いらっしゃい。何か用?」

入ってきた女性の客人にトットルッチェが出迎えた。

客人はヒッと小さく悲鳴を上げ、トットルッチェののんきな声に怯えながらも答えた。

「あの、ここに魔女様がいるとやって来たのですが」

「ああ、ジルに用ね。おーい、ジル。お客さんだよー」

返事は返ってこない。

「寝てるのかなー。ごめんね。ちょっと待てる?もしかしたら結構時間かかるかもだけど」

「申し訳ないのですが、抜け出してきているのであまり時間は取れないのです」

客人の姿は一見みすぼらしいが、臭いが違う。

ああ、お忍びかと、トットルッチェはあくびした。

「そっか。じゃあ、今回は諦めた方がいいかもね」

トットルッチェがそう客人に勧めていると、階上から足音が聞こえた。

「ん~。トットルッチェ呼んだ~?」

「ああ、起きてきたみたい。良かったね」

ジルは眠そうに眼をこすり、客人の前に姿を現した。

寝間着姿で、頭に本の帽子をかぶっている。

「お客さんかぁ。いらっしゃああぁぁぁ~~~~」

そして、いつものように階段を踏み外す。

「あの、大丈夫ですか?」

「あう~、痛い~」

「気にしなくていいよ。ジルも好きでやってるから」

トットルッチェは体をさするジルの心配などせず、客人に席を勧める。

「別に好きでやってる訳じゃないもん!」

とジルは立ち上がり、客人の向かいに座った。

「それでここに来られた用件とは?」

「え?あっ、はい。実は人探しをして欲しいのです」

居住まいを正し、お仕事モードのジルに少し驚き、客人は答える。

「分かりました。では、その探して欲しい人の特徴など教えていただけますか?」

「それが分からないのです」

「分からないとは?」

「実は探して欲しい人物とは私の子供なのです。あの子は私が産んですぐに引き離されたので、私はその姿すら見ていないのです」

「どうしてそんなことに?」

「忌み子だったそうです。何を以てそう思ったのか、私にはもちろんわかりませんし、問うてみても誰も答えてはくれませんでした」

ジルは腕を組み、唸る。

「それじゃ探しようないねー」

とトットルッチェは明るく現状を説明した。

そこで客人は何かを思い出したように、懐からペンダントを取り出した。

「これは?」

「これと同じものをあの子も持っているはずなのです。侍女があまりにも可哀そうと憐れんで、無断であの子に与えたものなのですが、今もきっと持っているはずです。侍女はその事がばれて暇を出され、連絡が取れなくなってしまいました。ですので、そのペンダントが本当にあの子の元にあるのか、それも確かではないのです。もしかしたらペンダントを盗んだ侍女のついた嘘かも知れませんし・・・」

とうつむく客人の手からペンダントを受け取ると、ジルは外の世界を覗き見る。

「でも、可能性があるのなら探してみましょう」

森を越え、草原を越え、山を一つ越え、街の中の、建物の一つ、その中にある棚。

「ありました」

客人は立ち上がり、期待に胸躍らせる。

しかし、けど、と続けるジルの言葉にすぐに表情は曇った。

「ペンダントはおそらく質屋に」

「そうですか」

落胆と共に客人は席に着く。

そして、自分に言い聞かせるように客人は呟く。

「それでもこれであの子に一歩近づいたと思えばいいですよね。もし質屋に売ったのがあの子を拾った人だとしたら、あの子へつながる道になるだろうし。もし侍女が売ったのだとすれば、侍女へつながる道になる。そうすればあの子がどういう子なのかが分かるかもしれない。その時はまたジルルキンハイドラ様にお願いしなければいけませんが」

と客人は力なく笑う。

ジルはそれに答え、快諾する。

そして、客人はジルから質屋の場所の書いた地図をもらい、報酬をジルに渡し去っていった。


「見つかると良いねぇ」

「うん。さっきの人は言葉にはしなかったけど、ペンダントだけ盗まれて、その子供はもうこの世にはいない可能性だってあるけど」

「だね」

「それでも見つかって欲しいなぁ」

「だね・・・それはそうとジル、いつまでその本を頭に乗せておくつもりなの?」

「へ?・・・もしかして私ずっとかぶったまんまだった?」

「うん。器用にもね。普通階段落ちた時に取れると思うけどねー」

「・・・あぅ~」


それから、幾年月が流れた。

「トットルッチェ!この本破ったでしょ!!」

「ごめんよー。わざとじゃないんだってー」

「人探しを依頼したいのですが・・・」

ノックと共に現れた客人にはっとして、ジルとトットルッチェの動きが止まった。

白く長い髪と赤い瞳、常人ならざる容貌に同じ魔女かとジルは思ったが、そうではないようだった。

ジルは角でトットルッチェを殴るために持ち上げていた本をテーブルに置く。

そして、何事も無かったように席に座り、客人に向かいの席を勧めた。

「それで探して欲しいと言うのは?」

「はい。私の母なのですが、どうやら私は捨てられたらしくその姿を知らないのです。ただ・・・」

客人は懐からペンダントを取り出した。

「赤ん坊の私にこのペンダントがかけられていたそうです」

ジルは客人からペンダントを受け取り、記憶を探った。

「一時は質に入っていた時期もありましたが、私と母とをつなぐ大切なものです。これを頼りにどうにか母を探せないでしょうか?」

ジルは赤い瞳をじっと見つめる。

そして、口を開いた。

「申し訳ないのですが、さすがにそれだけだと探しようが無いです。きっとそのペンダントも同じようなものが多くあるでしょうし。お役に立てず、すみません」

「そうですか」

客人は残念そうに言葉をこぼすと、ジルに感謝を述べ、去っていった。


「どっかでさっきのペンダント見た事あった気がしたけど、気のせい?」

「ううん。何年か前に見たよ」

「じゃあ、何で探してあげなかったの?あの子の母親。あの子から血の臭いがしたから?」

「懐の短刀が見えたから。それとあの子の目に憎しみの色が映ったから。きっとあの子がお母さんに会ったら殺すんじゃないかって思って、止めたの」

「でもさ、さっきの子が母親を殺すかもしれないってのは一つの可能性でしかないでしょ?実際会ってみたら殺す気無くなるかもしれないかったんじゃない?そう思うとさ、せっかくの感動の再会の機会を奪ったってことにならない?」

「それもそうだけど・・・」

「まあ、どっちでもいいって言えばどっちでもいいんだけどねー。ただ僕だったら自分の子が殺しに来たって恨みはしないかなー」

「そう言うものなのかな~」

「人によりけりだとは思うけどねー。ただジルには一生分からないとは思うけど」

「・・・トットルッチェ、それどういう意味?」

「えっと、ジルはこの先恋人できないだろうから親の気持ちなんて分からないだろうなってことなんだけど・・・もしかして分からなかった?」

「分かってる!!」

「そっかー。分かってくれてたか。よかったよかった」

「全然よくな~い!!!」

そして、ジルは再びテーブルの上に置いてあった凶器、本を振りかざすのであった。


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