七章 「穴、決別、ジルルキンハイドラ」 -3-
「ジル、こんなところにいたんだ」
ゲルガー砦のはずれ、そこにジルはシャベル片手にしゃがみこんでいた。
「うん。何か用?トットルッチェ」
「何か用じゃないよー。ルトワナ軍連れてきたら、聞いてなかったみたいでさ。軽く混乱してるよ。さっさと行って治めてきてよ。というかさ、言ってなかったの?ルトワナ軍来るの」
「うん。シュレミアの援軍が来ることになってたから。情報が漏れていたみたいだから、そう言うことにしておけば、ベネキア軍に余裕が生まれるでしょ。その間にトットルッチェが援軍を連れてくる算段。でも、死ぬ必要のなかった人まで殺しちゃった」
「けど、それで助かった人も多くいるでしょ?」
「それはそうなんだけどね」
力なく笑うジルにトットルッチェは首をかしげる。
「昔ね。私ここにいたんだ。あの地下の迷宮もその時に作ったもの。きっとあれが無かったら、誰も助けられなかった」
「その迷宮があった事も知っていたんでしょ?それも計算の内?」
「計算か・・・あのね、トットルッチェ。私の中にもう一人の私がいて、その子が私の感情とは別に冷静に采を振るっているって言ったら信じる?」
「多重人格って奴?」
「ううん。そんなのとは違うけど」
「ふーん。まあ、僕としてはどっちでもいいけど、ジルが多重人格でもそうじゃなくても」
「だからそんなのとは違うって!」
「わー、暴力反対!」
しかし、ジルの振り上げたシャベルはトットルッチェに向かう事無くゆるりと地面に刺さる。
「もしかして、ジル元気ない?」
「かも」
「ふーん」
興味なさげなトットルッチェは他のものに目をやる。
ジルの前に開いた小さな穴。
「これから落とし穴でも掘るの?」
「違うよ~。地層を見てたの」
「地層?」
「この黒い薄い層があるでしょ。ここは私の思い出の時代」
「楽しかった時の思い出?」
「ううん。悪い思い出」
「まあ、生きてればいろいろあるよ、うん」
「私のせいで、ここは昔生き物なんて、一切生きていけるような土地じゃなくなってしまった。でも、今はまばらだけど草も生えてきている。木も場所によっては生えてきている。やっと生きていける土地になろうとしているのに、何でまた私殺し合いしてるんだろ・・・」
「ジル・・・」
「私戦争嫌いなのに」
うなだれ、涙をぽろぽろ流すジル。
トットルッチェはその傍らに静かに、寄り添った。
「でもね、さっきまで、トットルッチェが来るまで私、これを使おうとしていた」
懐から取り出したのは黒い液体の入った小瓶。
「嫌いだって言いながら、私人を殺す事を考えていた。おかしいよね」
「うん。ジルがおかしいのはいつもでしょ」
「む~、何でそう茶化すかな?」
そう怒りながら、涙を拭うジル。
「・・・こんなものがあるからそんな風に考えちゃうのかな?」
「でも、それが無いとこの先困ったことにならない?」
「なる事があるかも。でも、私は私らしくいたいから」
「ふーん。まあ、ジルの好きなようにすればいいよ」
ジルは目を閉じる。
思いだされる多くの記憶。
その中で生きていた多くの人々。
そして、
「あのね、トットルッチェ」
「ん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
そして、小瓶を穴の中に入れた。
お疲れさまでした。
これで少し長いお話はおしまいです。
この後は一話完結の形に戻ります。




