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第2話「カラオケ」

カラオケの設定について現実のものと違うと感じるかもしれませんが、機種の違いということに…。(苦し紛れの言い訳)

 春の声が聞こえたあの日。


 僕とハルは興奮冷めやらぬまま、日が暮れるまで話し込んでいた。ハルの両親が帰ってきたという一報でその日は解散。帰り際にハルがまた来るねと残していった。


 翌日の昼頃、またハルが家を訪ねてきた。思ったよりも早い「また来るね」に僕は驚いた。てっきり、1週間後とかそのくらいだと思っていた。


 そう思うほど僕とハルの距離は中学の3年間で広がっていたのだ。しかし、翌日の昼頃、つまり約15時間後というのは早すぎるのではないだろうか。しかも、何も連絡もらってないので準備も寝癖直しも出来ていない。まぁ、来てもらう分には僕は全然構わないからいいのだけれども。


 玄関を開けると外着姿のハルがいた。カジュアルなパーカーにジーパンと、いかにも無難だが、ハルが着るとこれがどうにも素晴らしく見えるのだ。


 ハルは僕にあることを切り出す。


「一緒にカラオケに行かない?」


「いきなりだね、別にいいけど。なんでカラオケ?」


「こうして喋れるようになったって事は、歌っているのも聞こえる訳でしょ? 友達とカラオケに行ってみたかったんだよね」


 そうか、ハルはこれまで声を使う類の遊びは出来なかったのだ。周りの友達がやっているのに、自分だけその話題からも置いて行かれてしまうのはつらいだろう。


 そういえば、ハルと僕と他の友達のお泊まり会でカラオケに行く事になった時も、ハルはずっと合いの手を入れるだけで寂しそうだった。


「せっかく行くなら他の人も誘おうか?」


 同級生を当たれば、予定が空いている奴は1人か2人はいるはずだ。

せっかく行くのだから賑やかなほうがいいと思った。


「誘わなくていいよ、私、へたっぴかもしれないし、皆の前で歌うの緊張するから。ていうか、そもそもこれを付けてないと聞こえないから2人限定じゃん」


 ハルが左手の薬指に着けている指輪を見せた。


「わかった、近くのところでいいよね?」


「もちろん!」


 カラオケに行く途中チラッと見えた、ハルの期待に胸を弾ませている笑顔がまぶしかった。


◆◇◆◇◆◇◆


 家の近くのカラオケボックスがリニューアルオープンしたらしく、そこに行く事にした。


 噂だが、僕たちと同じクラスメイトの永原結衣(ながはらゆい)がそこで働いているらしい。あくまで噂なので、流石に出くわす事は無いと思いたい。実は、永原結衣(ながはらゆい)は同じ中学校出身だ。特段仲が良かった訳でも無い、軽く挨拶をするぐらいの仲なので外で会うとしたら少々気まずい。


永原結衣(ながはらゆい)わかる?」


「クラスメイトだしわかるよ。確か、同じ中学校だったよね? どうして?」


「実は、今から行くカラオケで働いてるらしいんだよ」


「そうなの!? どうしよう。上手く喋れるかな?」


「いやいや、いたとしてもスタッフだからそんなに話しちゃ迷惑じゃん。それに、ハルは指輪をつけてるやつとしか話せないだろ?」


「そうだった! いやー、いきなり話せるようになると感覚がおかしくなるね」


 そうこう話している内に、カラオケに着いた。

リニューアルオープンしたというだけあって、前に来たときよりも随分と奇麗になっていた。


 フラグ回収しませんようにと願いながら、店のドアを開ける。


「いらっしゃいませー。…って城ノ戸くんに葉山さん!?」


「うげっ」


 案の定と言えばそうなるのだが…。受付にいたのは永原結衣だった。

思わず、心の声が漏れてしまった。


「うげっとは何よ! はぁー、クラスメイトにバイト姿を見られるとか最悪ね」


「まさか本当にいるとは…」


「城ノ戸くんは私のことお化けか何かと思っているの!? まったくもう。ほら、検温と消毒をするから、手を出して」


 永原はあまり人に興味がある人物では無いと思っているので、僕たちの名前を憶えていたのが意外だった。


「このシートに記入お願いします」


 接客モードに切り替え、黙々と作業をしていく永原。時間はとりあえず2時間にしておいた。


「7号室です」


 言われた通り7号室に行き、部屋のソファーに腰を下ろす。


「永原がここで働いているのは本当だったんだな」


 ハルも驚いた様子だった。


「見事なフラグ回収だったねー」


「今度、クラスで会うとき気まずくならないかな…」


「大丈夫だよ。永原さんいい子だと思うから」


 ハルは永原と面識がないと勘違いしていた。


「なんだ、友達だったのか」


「永原さんとは席がお隣さんなの」


 クラスが始まったばかりなので、未だに出席番号順で並んでいる。

葉山(はやま)永原(ながはら)だから名前順的には隣になるかもだ。


「でも、筆談になっちゃうから、あんまり喋れてないけどね。仲良くなれるかなぁ」


「ハルなら出来るよ。よし、歌うか。最初はハル入れていいよ」


「ありがとう。何歌おうかなぁ」


 ハルは楽しそうに声を弾ませながら言った。

 最終的に1990年代の名曲を選んだようだ。紅白にも出た、みんなが知っている名曲だ。


「よし! じゃあいくよ!」


 ハルは歌っている間、ずっと満面の笑みを浮かべていた。


 この曲は昔からよく聴いていたと言っていた通り、歌詞を間違えることもなく、音程を取るのが難しそうなところも危なげなく歌っていた。


 ふと、マイクのエコー機能がまるで機能していないかのような声の響き方に違和感を感じた。機械の不調だろうか。


 ただ、ハルが楽しそうにしているのは見ているとこっちも楽しくなってくる。昔は境遇からかよく泣いていた。そのたびに僕が慰めていたなと懐かしさすら感じる。


歌い終わると、どうだった?と僕に聞いてきた。


「上手かったよ、はじめてなのに凄いな!」


「やったぁー! 何点、取れるかな?」


「あれ? 採点できませんでしたってなってる」


 本来であれば点数が表示される筈の画面には大きく「採点できませんでした」と映っている。


「どうしたんだろう? マイクが壊れてたのかな」


「ちょっと貸して」


 ハルからマイクを借り、あーあー、と発声するが問題なくエコーがかかったので、マイクの不調ではなさそうだ。


「マイクは壊れていないみたいだ。適当な曲を入れるから歌ってみて、採点のモード変えてみたから」


 さっきまでは、歌詞のみで分かりずらかったが、今度は音程のバーが表示される精密な採点モードだ。これで原因が絞り込めるはずだ。


「わかった。えーっと、ラララ―ラー。あれ? 音程のバーが表示されてないよ」


 やはり、ハルの声を機械が拾っていないみたいだ。


「やっぱり、ハルの病気が原因かもしれない」


「どういうこと?」


「ハルの声は家族以外には聞こえないだろ? つまり電子機器もその対象ってことだよ」


「確かに、電話もできなかったしね」


「そういうことになるな」


 今になってハルの病気について、情報が増えた。

1度、整理するためにいろいろ試す必要がある。


「ヒロ、気になっていた事があるんだけど、試していいかな?」


「いいよ、何を試したいの?」


「今もこうして話せている訳だけど、その条件を確認しておきたくて。指輪を外していても話せるのかとか、距離の制限があるのかとかね。やっぱり知っておく必要があると思う」


「わかった。協力させてくれ」


 すると、扉がノックされ、部屋に永原が入ってきた。


「永原? どうした」


「うち、ワンドリンクオーダー制だから。さっさと注文してくれない?」


 あ、すっかり忘れてた。


◆◇◆◇◆◇◆


現在、調べて分かった事は以下の3つだ。


1つ目:声が聞こえるのは指輪を付けている時のみ。


 少し、指から指輪が外れるくらいだったら大丈夫だった。指から完全に外すと聞こえなくなる。


2つ目:距離の制限について


 距離の制限は調べられる限りだと無かった。当然だが、距離が離れるほど、大声で会話する必要があるのは普通の人と同じだ。日常会話程度であれば特に困ることは無いだろう。


3つ目:電子機器にハルの声は乗らないということ。


 これが出来れば、音声通話でスピーカーにすれば誰とでも会話が可能だったのだが、残念ながら出来なかった。そもそも、電子機器はハルの声を拾ってくれない様なので他の方法でも難しいだろう。


 最後にもう一つ気になっていることがある。むしろこれが一番重要かもしれない。


 検証のため、ヨシキを呼んだ。


「えぇっ! ハルと喋れるようになったってマジ!?」


 ヨシキにハルと話せるようになった事を打ち明けると目が飛び出しそうな程に驚いていた。


「実はそうなんだ」


 俺はヨシキに事のいきさつを話す。


「良かったな!家族以外にできてよ!」


 ヨシキがそう言うと、ハルは嬉しそうに頷いた。


「まあ、この指輪を付けているって事は夫婦として家族の判定になったってことなんだけどな。もちろん法律的には夫婦とは違うし、どうして指輪がトリガーになっているかはわからない…。」


 俺がそう補足説明をすると。


「ということは、この指輪をつけている時は、葉山千春じゃなくて城ノ戸千春ってこと…ムグッ。ンー!ンー!」


 ヨシキが言い終わる前に顔を真っ赤にしたハルが口をふさいでしまった。


「プハッ。悪い悪い冗談だって。それで手伝ってほしい事って?」


「俺以外でも指輪を付けていたら声が聞こえるのかを検証したい」


「了解!それじゃあヒロのほうの指輪をもらってもいいか」


 指輪を渡すのに若干の抵抗感を覚えながらも、指輪をヨシキの手のひらに乗せた。


「……はい、どうぞ」


「ありがとう。よし、じゃあいくぞ」


◆◇◆◇◆◇◆


「すげー!ハルと話せる!」


『…………………』


「良く見つけたよなこんな裏技」


『………………………………』


「ハルが見つけたのか? すごいな!」


『………?』


「てか、なんか若干声が枯れてない?」


『………………。…………………?』


「久しぶりに歌ったから? カラオケに行ったのか!」


『…………………………』


「今度一緒に行こうぜ。別に採点がなくたって、歌えりゃ遊べるだろ」


『……………! ………………』


 ハルの声が聞こえず、ヨシキの声だけが聞こえるこの光景。こうして客観的に見るとかなり異様な光景だと感じる。


 ただ、これで調べたい事は終わりだ。


 まとめると、ハルとペアの指輪を左手薬指に付けている人ならば普通に会話できるということだ。心理的に特別に想っているかどうかに関わらずだ。


 メモに検証結果を書き込んだ。


 ハルが指輪をはめている人物なら誰とでも話せる。つまり、俺は彼女にとって唯一無二の存在では無かったという訳だ。


 メモはいっぱいに書き込まれ満たされた。

だが、俺の心に少しの空白を感じるのは気のせいだろうか。

お読みいただきありがとうございました!

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