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7話 勇者たちに反撃してみた

 スラム街の荒れ果てた宿屋。拾ったゾンビ娘と襲ってきたゴブリンたちが部屋の片付けをしている。自称地獄の番犬というゾンビ犬はちょこまかと歩き回ってゴブリンたちに邪魔者扱いされていたが。


「オヤビン、部屋もだいぶ綺麗になりやしたギャ!!」


 細身のゴブリン、ボヤングが大声を出す。


「オヤビン!」


 なにか、誰かに話しかけているようだ。


「オヤビンてば!!」

「え、俺?」


 どうやらボヤングは俺の事を呼んでいたらしい。嬉しそうにうなずく。


「部屋、片付けやしたギャ!」

「いやちょっと待てよ、片付けたって、壊れた椅子とかを脇に寄せただけじゃないか。別に片付けたって訳じゃ……」

「広くなりやしたギャ!」


 どうやらゴブリンの片付けっていうのは、空間を確保しただけで十分らしい。部屋の端でうずだかく重ねられているゴミの山はまったく気にならないようだ。


「まあいいか、俺だって別段ここの小屋を宮殿にしようなんて事は思っちゃいねぇから」


 別に褒めていないのにボヤングは照れながら頭をかいている。


「それにしてもオヤビンってのはだなあ……」


 俺が話をしようとしていた時だった。


「オヤビン……」


 小屋の外にガラクタを出しに行っていた大柄なゴブリン、ドンズルが泣きながら入ってくる。


「いでぇ、いでぇよぉ……」


 ドンズルは頭から血を流し、腹や腕にも切り傷ができていた。


「どうしたドンズル!」

「なにがあったギャ!?」


 姫ゴブリンのゴブリコがドンズルに駆け寄る。ボヤングも急いで肩を貸した。


「外……勇者……」


 それだけ言ってドンズルは意識を失う。

 ケルベロスが小屋の外に向かってグルルとうなる。


「スラム街の掃除ってクエストだったからなんだと思ったけど、どーしてゴブリンが町でうろついているんだよ!?」


 小屋の入り口に立つ男。逆光で顔はよく判らないが、俺の知っている声。


「シドニア……」

「ああん? なんだ、ゴブリンを追ってきたら奴隷のクアズ君がいるじゃないか? あれ? おめぇ逃亡奴隷になったのか? 奴隷商人はどうしたよ?」


 ずけずけと入り込んできたシドニアとその取り巻き連中。

 俺の胃の中から酸っぱい物がこみ上げてくる。


「お、俺は……もう、奴隷じゃない……」

「はぁ? なに言ってんの? 一日二日でどうやって奴隷から解放されるってんだよ! さてはおめぇ、奴隷商人を殺して……いや、それはないか」


 シドニアは下卑た顔を俺に向けて、嫌らしい笑みを見せる。


「だっておめぇ、攻撃力皆無だもんなぁ! あーっはっはっは!!」

「う、うるさいっ!」


 俺は渾身の力を込めて拳を振るう。


「当たるかよ」


 シドニアが軽く身をかわすと、俺のパンチは部屋にあったテーブルにコツンと当たる。


「ま、当たった所で痛くもかゆくもないけどなぁ! あーっはっはっは!」


 腹を抱えて笑うシドニアと取り巻きども。かつての俺の仲間だった奴らだ。


「クアズさんを笑うなぁ!」

「ガウゥ!」


 プルとケルベロスが冒険者たちに襲いかかる。

 だが、シドニアたちは余裕だ。


「おい、こいつゾンビだぞ。噛まれると面倒だ、一撃で倒せ」

「シドニア、俺たちだって歴戦の勇者パーティーだぞ。こんな低レベルのザコにやられる訳がないだろう」


 シーフの男が切れ味の鋭い短剣でプルを切りつける。ゾンビのゆっくりとした動きでは避けられない。

 ケルベロスがプルの足を払って転ばせるが、それでもシーフに左腕を切り落とされてしまう。


「あれ?」

「なんだお前、ゾンビごとき一撃で倒せねぇのかよ! ぎゃーははは!!」

「だっせー!」


 シーフが討ち損じた事で嫌な笑いの輪が広がる。


 俺は深くため息をついて、自虐的につぶやく。


「間に合わなかった……」

「あぁ?」


 シドニアは俺のつぶやきに反応した。


「なに言ってんだおめぇ、間に合わないとかじゃねーだろ。おめぇの存在自体が手遅れなんだよ!」


 シドニアが大剣で倒れたプルに切りつける。


「腕を切られる前に、かけられなかったって事だ」


 振り下ろされた大剣がプルに当たった時、激しい火花と共に大剣が弾かれた。


「な、なに!?」


 俺のかけた物理防御ガードがようやく効き始めて、プルは物理攻撃から守られる。


「シドニア、まずいぞ……このゴブリン」


 奥の方でスペルユーザーがわめく。

 ゴブリコに向かって炎の魔法を唱えるが、炎の塊がゴブリコに当たってもゴブリコは平気で立っている。


「なんだこいつ、一瞬燃えるのに、傷一つ負わないぞ!」


 スペルユーザーが恐怖で杖を落とす。こうなっては俺と同じように肉弾戦が苦手な魔法職だ、ゴブリンに襲われて錆びた短剣の餌食となる。


「ギャー! 痛い! いたたた!! ヒーラー、回復を! 回復をかけてくれ!!」

「かけてるんだけど、全然効かないのよっ!」


 ヒーラーが傷をふさごうとするが、一度ふさいだ傷がパックリと開く。


「傷が治らないのよぉぉ!!」


 当然だ。


 俺がこいつらに古傷再開ゲイプをかけているからな。

 古傷再開ゲイプは傷を開く魔法で、本来なら自分が治癒させた傷や傷痕を見て判るような傷にしか効かない魔法だが、目の前で治癒されている傷なら開かせる事くらい簡単だ。


「傷が……治癒が……あぁぁ!!」


 ゴブリコたちはスペルユーザーからヒーラーへと攻撃のターゲットを変更する。

 治癒も効かず、自己再生能力もない冒険者程度ではこの攻撃を止める事はできない。


 一方的にやられるばかりじゃないんだぞ。

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魔王を倒した勇者が王国から解雇されたのでスローライフの邪魔する奴をSSSスキルでぶっとばしてたら戻ってきてと言われたけどもう遅い! 反撃したら今度は俺が王様になっていた件
理不尽な世の中を無双スキルで吹っ飛ばせ! 連載中の長編ハイファンダジーも併せてお楽しみください。 こっちはそこそこ真面目です。
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