5話 ゴブリンと戦ってみた
探索という程でもないが朽ちた宿屋を調べてみると、奥の部屋にはボロボロのベッドやワラ束が残っていた。
プルたちを治した俺は、廃屋になった宿屋で少し横になる。天井から差し込む日の光が当たって温かい。
「少し休憩だ。おい、お前らは眠らない……よな、ゾンビだから」
「うん、眠くない。っていうより眠いっていう感覚、忘れちゃった」
「それは楽でうらやましいぜ。まあいいや、俺は少し寝るから、お前ら見張りでもしてろよ。別にどっか行っちまっても構わねえけど」
俺は自分の腕を枕代わりにしてプルたちに背を向けた。
すぐさま俺の腕になにかが当たるような気がする。
「あ、言っておくがな、俺を噛もうとしても無駄だぞ」
「ほえ……」
振り向いてプルを見ると、歯が欠けて涙目になっているプルがいた。
「やっぱりな。俺には物理防御の魔法をかけているからな、噛みついた程度じゃ俺の皮膚には届かねえよ」
「そ、それを早く言ってよ……」
「まったく、油断も隙もありゃしない……ふあぁ~」
そう言いながらも俺はだんだんと眠くなって、目を閉じようとする。
ドガン! ガラガラガラッ!!
耳障りな音が襲いかかり、眠るどころじゃない。
「チッ」
俺は舌打ちをしながらゆっくりと目を開ける。
「なんだうるせえな! 俺がこれから寝ようとしていたのに!」
俺は起き上がって音のした方を見た。
この宿屋の入り口、俺たちが入ってきた方だ。
「クアズさん、ゴ、ゴ、ゴ!」
入り口の方を見ていたプルが慌てて俺の所へやってくる。
ケルは音のした方へ向かってうなり声を上げていた。
「なんだよ、落ち着いて話せよ」
俺がプルの頭を軽く押さえてやると、プルの首がコロリと落ちた。
「どわっ!? わったったった……傷貼付塞!」
今度は俺が慌ててしまったが、まあ落ち着け。落ち着け俺。
どうにか床に落ちたプルの頭を拾って胴体とくっつける。プルは目をパチパチしているから、大丈夫だろう。元通りだ。
多分な。
「それでいったい何の騒ぎなんだよ」
「ゴ、ゴゴゴブリンが!」
そこまで言ったプルの胸に錆だらけの短剣が刺さっていた。
ドロリとした黒い血が服を濡らしている。
「ク、クアズさん……」
「ゾンビだから平気だろ。それよりゴブリンかよ!」
プルは置いといて前に出る。
「なんだお前らいったい! ここは俺が先に来たんだぞ!」
「グギャギャッ! それがどうした! オレらはこの辺りを牛耳るブリコ一家の縄張りだぞっ!」
「ブリコ一家だぁ? 知らねえなあ。どうせそこいらにいるゴブリンどもだろ」
「なんだグギャァ! いてもたろかボゲぇ!」
ゴブリンは唾を吐き散らしながら俺に向かって威嚇してきた。
この宿屋に入ってきたゴブリンは三体。パーティーでも組んでいたら前衛があっさり片付ける程度なんだが……。
俺は攻撃力皆無だからなあ。素手も武器も、まず当たらない。
「さてと、どうしたものか」
ゴブリンは細い奴と、大柄な奴、そして大柄な奴が背負っている小柄な奴だ。
「なあおい」
「なんだギャ!!」
「いちいち怒鳴るなよ。そのでかいのが背負っている奴、怪我、してんだろ?」
長いこと治癒師をやっていた俺だ。怪我人の気配は鼻で判る。
好きではないが、血の匂いには敏感なんだ。
「お、お前たち……」
背負われているゴブリンが喋り始める。
「人間の言葉なんて信用ならないんだよ、くっちゃべってないで、とっととやっておしまい……」
「ほいだギャー!!」
細い奴が錆びた短剣を右手に持って剣先を揺らす。似たような短剣を最近見たような気がする……。
「あ、プルに刺さっていたのと同じ奴か!」
「そうだギャ! お前もその女子ッ娘みたいにムネムネに短剣をブッスーしてやるギャー!」
困ったな、戦闘になったらどうしよう。
物理防御の魔法があるからあの短剣程度の攻撃は俺に効かない。
「死ぬギャー!」
ゴブリンの細い方が短剣を振り回す。俺に当たりそうになった所で、ゴブリンの短剣が火花を散らして弾き飛ばされた。
短剣はそのまま回転しながら飛んでいって、天井に突き刺さる。
「ボギャ!?」
ゴブリンはなにが起きたのかまったく理解できていない。見えない壁に弾かれて短剣が飛んで行ってしまった。その事実すらもだ。
「物理防御は攻撃を防ぐだけじゃなくて、攻撃された力をそのまま相手に弾き返すからな。まあ、硬い岩に切りつけたようなもんだ。思いっきり叩けば、手にも反動がそのまま伝わるって事なんだが……」
それでも解らないだろうな。
俺としては魔力が尽きるまではダメージを負う事はないし、俺の魔力はかなりの量が残っているから何年でも持ちこたえる自信がある。
「とにかく、俺には勝てないんだよ」
まあ俺も勝てないが。攻撃力皆無だから。
俺は攻撃しても当たらないし、奇跡的に当たったとしてもダメージを与える程の力は無い。
せいぜいたんこぶができるくらいのダメージだ。
それでもはったりだろうがなんだろうが、この戦闘を片付けなくちゃならんな。
「どうした、もう攻撃は終わりか?」
俺はあえて挑発してみる。
「グギャァ!!」
ゴブリンは奇声を上げて俺に襲いかかってきた。振り上げた拳が俺に当たる直前、物理防御によって弾かれる。
「ボギャァ!!」
鉄板に殴りかかったような感じだろう。手の皮がめくれて血が噴き出した。
「ひぃっ……なんて硬さギャ……」
ゴブリンは手をさすりながらフーフーしている。
さて、呪われていると思えるくらい攻撃力がない俺はどうしたものか。
ひとしきり悩んで、ゴブリンに背を向けた。
「なめるなギャ!」
当然ゴブリンは襲いかかってくる。
「ボギャァ!!」
そして自滅した。




