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2章-⑥

「こんなところまで逃げてきて……。探すのに時間がかかったぞ!」


 いや、お前こそ! どうやってここまで来たんだよ!


 そんな俺の困惑なんてお構いなしに、ガキんちょはずかずかと俺様のねぐらに入ってきやがる。

 他人様の家に上がるときは少しは遠慮するもんだぞ!? マナーってもんを知らねえのかこいつ!


 いや、そんなことはどうだっていい。

 なんにせよ、俺のことをどうあってもとっ捕まえたいって顔をしていやがる。


「さぁ、神殿まで大人しくついて来てもらうぞ!」



 真剣な面持ち。

 絶対俺を逃がすもんかって気合が、右手に溜めている炎の勢いを強めている。


 何考えてやがる?

 こんな狭いところでそんなもん放たれたら、大怪我なんかじゃ済まねえ。

 洞穴が崩れるのに巻き込まれるか、炎で逃げ道が無くなり、最悪二人とも死んじまう。

 だけど、そこまで頭が回らないのか。あるいは相打ちを狙っているのか――。


 仕方ねえ。


 俺よりもどう考えたって年下相手に本気を出すなんてみっともねぇが、やるしかねぇか。


「出ろよ。どうせ逃がす気なんてねぇんだろ? だったら、外で決着つけようぜ」


 短刀(ナイフ)の柄に手をかけ、外へ(うなが)す。


「安心しろよ、外に出たとたん逃げたりなんてしねぇからよ」

「……」


 少し迷ったみたいだが、大人しくガキんちょはついてきた。


 やれやれ。

 俺は荒事なんてあんまり得意でないんだけどね。


        ●


「さて。おっ始める前に、改めて名前を名乗っておくか。俺はティム」

「知っているぞ」


 何を今更、という顔をして顔をしかめるガキ。いや、可愛くねぇな。


「お前は?」

「フレアだ」


 可愛げがねぇ割に、名前は案外可愛らしい。なんかむかつく。


「大人しくお縄についた方が、怪我をしなくて済むぞ」


 フレアの右手に溜められた炎が、いっそう強さを増していく。


「一応言っておくが、手加減なんかしない」

「俺だって、まだ縛り首なんてごめんだからな。勝たせてもらうぜ!」


 お互いに数歩ずつ距離を取りながら、相手の出方を(うかが)う。

 

 フレアの強さは、朝に嫌というほど実感した。

 油断なんてできねぇ。


 じり……じり……。


 張り詰めた空気が、流れる。


 短刀(ナイフ)を握る手に、汗がにじむ。


 フレアの、炎が揺れた。


 ―—来るか!?


 ばったーん!


 ……手に溜めていた炎は一瞬で掻き消え、フレアがその場に倒れ伏した。


 え?

 何がどうなった?


 恐る恐る、近づいてみることにした。


 息が荒い。

 顔も、生気を失ったかのように真っ青だ。

 ―—魔力の、使い過ぎか?


 それか、疲労の線もあるな。


「おい、お前―—」

「う……」


 気を失っているのだろうな。苦しそうに(うめ)き、身じろぎすらしない。


 これは、好機という奴じゃねぇのか?

 いま、こいつのことを放っておいて逃げれば、さして苦労なく逃げることができる。

 街道越えは大変そうだが、縛り首よりはずっとましだ。


 だけど……。


「よ、っと」


 フレアの小さな体を抱え、洞穴の中へ。


 いくら自分が助かりてぇからって、こんな小さな子供を放っておくなんて。

 そんなことをするくらいなら、死んだほうがましだ。


 外套(マント)を地面に敷き、その上にそっと寝かせる。


 フレアの小さな体はじっとりと汗ばみ、苦しさがひしひしと伝わってくる。

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