2章-③
久方ぶりに投下できました~!
「クリスタ、いきなりびっくりするじゃないか」
ガキんちょが、眉を寄せた。
『すまんすまん、ついおかしくてなぁ』
笑い声の主は、悪びれもなく返答する。
『くっくっく。それにな、フレア。お前さんが少しなりとも他人に興味を持つなんて、珍しすぎて明日は雨降るんと違うか?』
「…」
困った顔をして立ち尽くすガキんちょ。手に持っている縄が、少し緩んだ。
今だ!
バツバツッ! ブチッ!
袖に仕込んだ短刀で、腕と脚を拘束していた縄を切る!
「!?」
ガキんちょが慌てて振り向くが、遅ぇっての!
とにかく雑踏に紛れちまえば、あいつも魔法を使ってこねえだろ!
だけど、初めに追われたことを思うと、油断できねぇ。
ここは、奥の手を使っとくか。
すぅー……っ、はっ。
深く息を吸い込み、短く吐く。
走りながら、その呼吸を繰り返す。
だんだん、自分の体が馬のように速くなっていくのを感じる。
すっ、すっ――。
だけど、通行人にぶつかるなんてことはしねえ。
女子供にぶつかったら、吹っ飛ばしちまうからな。
いつのころからだろう。
この稼業をして、足が速いっていうのに気が付いた。
普通に走っていても速ぇんだけど、自分に暗示をかけるように呼吸を整えると、誰も追いつけねぇ。
とにかく後ろも見ないでがむしゃらに走る。
間もなく、街の端が見えた。
が、しかし。
ざざざざざっ。
「止まれ! 大人しく投降しろ!」
自警団と見られる奴らが、行く手を阻んだ。
しかし、慌てて駆け付けたもんだから息が荒い。
あーあ、そんなんで俺を止められるって本気で思ってんのかねぇ。
「止まるわけ、ねぇだろっ!」
とりあえず、槍を持っているおっさんの真正面に突っ込んでいく。
「なっ、何を!」
慌てておっさんは槍を突き出すけど、遅ぇ。
槍の穂先に虫でも止まりそうだぜ。
体制を低くし、穂先をかわす。
おっさんには、突然俺が消えたように思えるだろうな。
そして、そのまま勢いを殺さず、突貫する!
ドカッ!
「ぐへっ!」
下腹部を強打したおっさんは、ぶつかったところを押さえながら苦悶した。
その隙を狙い、おっさんを飛び越え、自警団の集団から逃れる。
おっと? だけど後ろにもう一人。
剣を持った若い奴が立ちはだかっていた。
「そうやすやすと逃がしてたまるか!」
雰囲気や構えから、さっきのおっさんよりは腕がたちそうだ。
そう簡単には横をすり抜けさせてくれなさそうだな。
「俺、あんまり戦闘には向いてないんだよね」
走る勢いは止めずに、右手に短刀を構える。
少し大げさに振りかざして、相手に短刀を注目させるように。
「だったらどうした! 大人しく捕まった方が身のためだぞ!」
若者は短刀を警戒しつつ、俺から目を離さずに叫ぶ。
――かかった。
左手で、腰に下げていた手提の中を探り、小袋を一つ取り出した。
それを、若者に気取られないように袖の下に隠す。
同時に。
ブオッ!
剣の切っ先が、帽巾をかすめる。
危ねぇ。
意外と距離を詰めてきやがった。
少なくとも、おっさんよりは手強そうだな。
続きも、できるだけ早く更新いたします。