2章-②
思いもよらないことをフレアから言われたティム。
触れる手に懐かしさを覚えたのだが――。
「……」
あまりにじっと見ていたせいか、ガキんちょが、怪訝そうな表情で質問してくる。
「何だ? 顔に何か付いてるか?」
「あ、いや~……。これからブタ箱にぶち込む人間を褒めるって状況に、なかなかお目にかかったことが無かったからさ……」
すると、今度は眉をきゅっと寄せて、さらに訝しげな顔で、
「綺麗なものを綺麗と言って何が悪いんだ? お前、馬鹿なのか?」
――と言ってきたから更に調子が狂う。馬鹿は余計だけどな。
まぁ、でも、全く話をする気がねぇって訳じゃなさそうだな。
もしかして、会話を続けていたら見逃してくれるかも――? という一縷の望みを賭けて、話を続ける事にした。
それでなくても、時間を稼いでいたら何かが起こるかもしれない。そんな奇跡を願ったってバチは当たるまいよ。
「なかなかいないって意味では、この髪と目の色を褒める奴ってぇのもそうだな。お前こそ、変わり者だな」
そう、かなりの変わり者だ、こいつは。
先にも説明したが、この世界では『魔法が髪と瞳に現れる』。
実際にそれを使える使えないはともかく、属性に抱く印象と色は関連している。
例えば炎の魔法持ちは燃え上がるその色から、赤い色として出ることが多い。
水や氷の魔法持ちだと深い海の色や澄んだ水を湛える泉のように、青かったり白っぽかったりする。
だから俺の髪や瞳は――魔法が具現化していない『有色人』とは言え――変わった色をしているから、よくひどい目にあうんだ。
行く先々で不気味なものを目の当たりにしたように見られるならまだいい方だな。
そうじゃなければ武器を振り回されて追っかけられたりする。
死にそうな目なんてしょっちゅうだ。
いい事なんて、何一つ無い。まるで何かの呪いの様に付きまとうそれを、疎ましいと思いこそすれ、綺麗なんて……。
「……? こんなにきらきらしているのに?」
それをこいつは、まるで宝物を見ているかのように純粋な目をして、そんな事を言ってきやがる。……調子が狂っちまう。
ふいに、ガキんちょの手が、俺の髪や頬に触れた。
子供特有のふにふにとした触感なんて微塵も無い、意外なほどにごつごつとした指先や、掌。
よく見たら、古傷の上へ新しい傷を重ねたような痕がそこかしこにある。
ひどい所は手に巻いている包帯が傷跡に癒着していた。剥がそうにも剥がしづらそうに見受けられる。
炎の魔法の使い手……『炎持ち』特有の、常人より暖かめの体温が、肌をなぞる指から感じられる。
なぜだろう、ひどく懐かしい。
心地いい陽の暖かさのようなガキんちょの体温を、俺は知っているような気がした。
だが、そんな感傷に浸っていられたのも、束の間であった。
思い出したかのようにぱっと手を離すとガキんちょは、俺を縛り付けている縄を引っ張る!
おい! 俺は言う事を聞かない犬じゃねえんだぞ!
「寄り道をしてしまったな、行くぞ」
と一声かけ、またしても無理やり引きずっていく。
こっちは抵抗できないもんだから、されるがままに引きずられていくが――正直痛い!
大通りなので多少道路は整備されているものの、それでも小石や砂利がさながらおろし金のように肌に擦り傷を作っていく。
「痛ぇってば! ちったぁ優しく扱いやがれ! 俺様は繊細なんだよ!」
「そう言ってっ! 少しでも緩めたらっ! 逃げる気なのは分かっているぞ!」
体格差もあるだろうが、両足で踏ん張りながらガキんちょはにらみを利かせている。
いやいやいや、本当に痛いから、勘弁してくれませんかね…。
いい加減頭にきたので、周りに大声でやたらめったら叫んでやろうか、と思ったその時。
『ぶわはははは! ずいぶんイキの良いガキやないかい!』
下品な笑い声が、ガキんちょの懐から聞こえてきた。