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0章~一章

挿絵(By みてみん)       0



 これは、巡りめぐる運命の物語。

 


 全ての運命の交点を探る物語。



 だけど、それに気づくのは、まだまだ、遥か遠い先……。




       1


「のぉうわぁぁああぁ!!!」

 町の裏通り、ごろつき共しか使わないような裏路地を、絶叫しながら走り抜ける男がいた。


 ……俺だ。


「ゴルァ待てやこのこそ泥が~!」

 はるか後ろからは、叫び声を上げながら追いかけてくるチンピラ共数名。それだけならば、わざわざ体力を消耗して絶叫を上げながら走らずとも、逃げ切れるまで引き離していた。

 そう、それだけならば。


 いくら背負っているザックに金銀宝石札束が詰まっていようが。


 いくらチンピラ共を()くため迷路じみた入り組んでいる裏路地を、ゴミを蹴散らし、あるいは飛び跳ね、はたまた柵をよじ登りながらかれこれ二十分くらい走っていようが。

 俺の走りに追いついて来る奴なんてそうなかなか居ないと自負しているつもりだ。


 だけど、おい。こりゃ、なんの悪夢だよ!

 後ろから一人、つかず離れずの距離でついて来ていやがる!

 帽巾(フード)を目深に被っているから顔はわからねぇ。

 体格はかなり小柄な――おそらく子供だと思われる。

 そいつに見つかっちまったのが運の尽きだ!


 はじめはちょっと立ち寄った田舎町で『小悪党の屋敷に、最近金が流れてきている』っていう情報を小耳にはさんだだけだったんだ。

 この街は少し歩いただけでも、浮浪児がちらほらと見かけられた。だからついつい『仕事でもすっかな』って思っただけなんだよ!

 

 ほんの少し下調べしただけでも、警備は穴だらけだし、侵入しやすい箇所もいくつかあった。今回の仕事は楽勝だな、なんて油断したのが間違いだったわ!

 

 巡回する警備の隙をついて、あともう少しで無事脱出――って時に、そいつはいた。

 逃走する経路の真ん中に、ぼろきれのような外套(マント)をはためかせ、立っていたんだ!

 当たり前に、俺は逃げだした。

 こういう時のために、いくつも逃走経路は用意しておくもんだ。

 だけど――。

 

 屋根の上から逃げようとしたら、いつの間にか先に上っていやがるし。

 んじゃ、庭の茂みを抜けようって思ったら、そこから出てきやがる。

 あげくの果てに、ゴミにまぎれてやり過ごそうとか思っていたら――ゴミ箱の中から飛び出してきやがった!

 あまりの衝撃と気味の悪さに、思わず叫んじまったよ! なんてこった!


 それにしても、今追いかけてきている子供――気味が悪ぃにも程がある。

 走りながら時折何かつぶやいているし。距離を取ったかと思えば、一気に詰めてきやがって!

 少なくとも子供に追いかけられるいわれなど――今の所は――無い。その上に、いい大人であるチンピラ共ですら荷物を背負った俺に追いつけていないのだが、子供のくせに五十メートルくらいの距離を保ちながら付いて来るなんて!

 悪夢だ……悪夢としか思えねぇ。

 しかも、銃でも持っているのか、時折走っている俺の足元で『パァン!』と何かが()ぜる。なんだよ、こんな田舎に銃が流通しているって話、聞いたことねぇぞ!?

 そのせいで逃げたい方向に逃げられず、今こうして苦戦しているのだ。

 そしてまた、俺の左足すれすれを。

『ヒュッ』と何かがかすめていき、危険を感じた俺は、とっさに右の薄暗い通りに入った。

 ……待てよ。ここは確か……


 行 き 止 ま り だ 。


 目の前には、ちょっとやそっとでは飛び越えられないような高い壁。後ろからは謎の子供と後から追いついてきたチンピラ共。しかも手には短剣(ナイフ)やら拳鍔(ナックルダスター)やらのおまけ付きだ。

 チンピラ共は『ぜぇ……ぜぇ……ちくしょう、てこずらせやがって……』と、肩で息をしていたが、子供の方は、全く息を切らせた様子も無い。ただ目深に被った帽巾(フード)の奥から凄然(せいぜん)と俺を見ていた。まるで、『逃げたらどうなるか分かっているだろうな』とでも言うように。

 ……あぁ、詰んだな。

 流石の俺も、そう思った。

「ここまで追い込まれちゃ、流石の〈義賊サマ〉もオシマイだなぁ~、こそ泥さんよぉ~?」

 いやらしい笑みで、チンピラAがこちらを見る。

「それにしても、流石は『先生』! 俺たちでも手を焼いたこそ泥をこんな簡単に追い詰めちまうなんて!」

「……」

 チンピラBは、短剣ナイフを持った手で器用に揉み手をしながら、今ではその沈黙に不気味ささえ覚える子供に()り寄っていく。

 自分達より子供なのに『先生』とは、言い得て妙かな。と、緊迫した場面にもかかわらず、少し吹き出しそうになる。まぁ、年貢の納め時にじたばたとあがくのは、俺の美学に反するし。

 折角だ、軽口でも叩いてやろう。

「お宅らこそ、野郎一人のケツを(アリリ)みたいに追っかけて、恥ずかしくないのかねぇ? しかも、ちゃんと俺様に追いついて来てんのなんて、見かけんお子ちゃま一匹じゃね? ……うぷぷ……俺だったら恥ずかしすぎて穴掘って埋まるね、確実に」

 これで最後かと思い、全力で小馬鹿にしてやった。

 すると一気にチンピラ達の導火線に火が着いたらしい。

「おぅおぅおぅ! だったらお望み通り、今ここで畳んで身包みはがして(さら)して穴掘って埋めてやる!」

 ……何か、俺が言ったのより増えてない?

 じり……じり……とチンピラ共と俺との距離が縮まっていく。少しずつ下がっていったのだが、やがて背中に壁がぶつかる感触がした。

 不気味な子供を挟んで、チンピラと俺との距離は十……九メートル……。

 いよいよあと少しで俺に届く距離となった所で、子供の所に擦り寄って行ったチンピラも合流し、一斉に俺に飛び掛って私刑(リンチ)しようとした。

 その時。

 (すべ)てが緩慢(かんまん)に流れていく様に見えた。

 今までただ何も言わず立っているだけだった子供が疾風(かぜ)のような速さで振り向き、ぼろぼろの外套(マント)をひるがえし、拳を振り上げた。

 その勢いで、顔を隠していた帽巾(フード)が取れ、首から上を(あら)わにする。

 短めの髪が、揺らめく蝋燭(ろうそく)の火の様に、(あか)い光を放っていた。

 振り上げた拳はいつの間にか炎を(まと)い、炎は周りの空気を取り込みながら、加速度的に大きくなって、そして…。


 ズドン!


 轟音と熱と光を放ち、炎はチンピラ共全員に命中した。

「あが……が……」

 口から鼻から黒い煙を吐きながら、チンピラ共はその一撃で行動不能に追い込まれていた。


 俺は何が起こったのかよく分からないまま、目の前の子供を凝視した。

 爆風の残滓(ざんし)がその子供の、耳にかかる位の短い髪を撫でる。

 ほのかに(あか)い光を放つ髪の色は、俺が()()()()色とは違っていた。

 白に近い、少しくすんだ灰色だった。

 そして子供は、チンピラ共全員の行動不能を確かめると、振り向いて俺に近づいてくる。

 その顔は思ったより幼く、見た所九~十歳位であろうか。

 外套(マント)と同じくらいあちこちボロボロな着衣の隙間から、健康的に日焼けした肌が見える。

 しかし多少やせ気味なのか、服で隠していない腹はぺたんこだ。

 少し太めの短い眉を逆立て、口をぎゅっと『へ』の字に結んだその顔から、逃げも隠れも出来ない雰囲気が読み取れる。……まぁ、隠れる所はここには存在しないが。

 大きな扁桃(アルマンド)形の目は少しだけ釣り目がちだが、標準よりはやや整った顔立ちだと思う。

 その目の色は、暗く鈍い青緑色であった。


                     ●


 この世界はまだ『世界』として認識されていなかった。

 各所に『国家』『自治区』などはあったが、基本的に自分の住んでいる場所以外には、人々は余程でなければ関心を払うことは少なかった。

 確かに、より良い住環境や財政を求めて国々が(いさか)いしたり戦争を起こしたりする事もあるにはあった。だが、人類は当事者たちや国家間を渡り歩く商人が害を(こうむ)る程度の認識しか持っていない。

 せっかく先人たちが(のこ)した数々の知恵や技術を伸ばすことも忘れ、緩慢(かんまん)衰退(すいたい)しているように思えた。

 そんな中、数百年前、この世界の人類に変化が起こり始めた。

 この世界の人類は万国共通で、例外はあるものの黒、あるいは黒に限りなく近い茶の髪と瞳である。

 しかし、まれに黒や茶以外の髪と瞳を持った者が生まれるようになった。

 中には成長すると共に、氷を生み出す、まばゆい光を放つ、風を操るなどの能力が発現しだした者たちもいた。

 そんな通常とは髪と瞳の色が異なり、また特異な能力を持つ者達を、人々は畏怖(いふ)・尊敬・侮蔑(ぶべつ)等の感情を込めてこう呼んだ。

 『魔法持ち』、と。


                     ●


 髪と瞳の色から察するに『魔法持ち』であろうその子供は、俺のことをすみずみまで観察していた。懐から何やら紙を取り出して、見比べては無遠慮な視線を向けている。

 うう……流石にここまでじろじろと見られては、何やら居心地が悪い。

 何はともあれ、この子供は追われていた俺をチンピラ共から助けてくれた恩人である。

 何がなんだかよく分からないというのが本音だが、大人の礼儀として、ここは一つ礼を言っておこう。

「あ、あのっ!」

 俺はとりあえず、子供に礼を言おうと近付いて行く。

「何だか分からないけど助かったよ、ありが……」

 だが話の途中で、その子供の拳から放たれた炎が、俺の鼻面をかすめる。じゅっ、と音がして、前髪を焦がした。

 あまりに唐突に襲った危機に、俺の顔面が見る見るうちに蒼褪(あおざ)める。

「ちょ……ちょっ! 一体何すんのぉおぉ!!?」

「見る角度によって色を変える玉虫色の髪に……明け方の空のような色の瞳……。外見年齢は――十五から十八歳くらい。お前が最近ここいらを騒がせている〈義賊〉という名の単なる薄汚いこそ泥『ティム』で間違いないな?」

 しかも、結構ひどい物言いのおまけ付だ。

 この街で仕事をしたのは、まだほんの二、三回だっての!

 その上に、だ。

 まさか自分よりも小汚らしい格好の子供……いや、あえてここで訂正する! チビのくそガキに『薄汚い』呼ばわりされるとは夢にも思って無かったわ!

 ……ま、まぁしかし、ここは一つ、助けてくれた事もあるし、多少の暴言は目をつむって…と思った所で、ふと、その子供の持っている紙切れに目がとまった。

 そこには、『自称〈義賊〉ティム 懸賞金(けんしょうきん)四千グリム 生け捕りが望ましい』と書かれてあった。

 ……おい、ちょっと待て、もしかしてこのガキ……いや、お子様は…。

「〈賞金稼ぎ(バウンティハンター)〉・フレアだ。大人しくお縄につけ、こそ泥」


                                             to be continued…

こちらでも投下しました!

宜しくお願いいたします!


表紙は宝宝拳様に描いていただきました!(許可済みです!)

誠にありがとうございます~ヾ(*´∀`*)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませ方、引きが素晴らしく、続きが気になる展開です。 キャラが動いている様がよく伝わってきます!
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