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それはきっと  作者:
9/18

なぞる

――日沖ってなんなのあれ。

 教室の前で偶然耳にした言葉で、彼女達にしてみれば数多くいる気に入らないやつの愚痴の一つなのかもしれない。

 俺は岸岡が食って掛かるのではないかとすこしびびってた。彼女たちから飛び出す罵詈雑言は聞くに堪えないし扉を隔てていると言ったって、俺でさえここにはいたくなかった。ましてや、岸岡にとっては友人の悪口だ。好きな人の悪口だ。走って逃げだすか扉を開けてまくしたてるか、どちらにしても面倒になりそうだと思った。

 だが彼女はそんな心配をよそにけろっとしていた。

「高木、入るのやめて帰ろっか」

 忘れ物があったのに教室に入れず、結局学校に戻った意味がなかったし、マイナスの収穫を得ることになってしまった。


「お前、平気なのか」

 意外にも平気そうな岸岡を見て俺はつい口に出してしまった。

 いつもの店。いつもの席。今日はパンプキンムースとモンブランタルトだ。

「ピーマンってさ、私嫌いじゃなかったのね。不味いと思ったことなかったの」

 突拍子もないことを言い出すのは岸岡の癖なのか。だが、俺の会話を無視しているわけではないだろう。

 俺だって別にピーマンを嫌いじゃない。むしろ好きな方だと思う。

「へえ」

「だけどね、あるときピーマンをすごくおいしく感じて、本当に本当に美味しくって、なるほどなあって思ったの」

 意味が分からない。一体岸岡は何の話がしたいんだ。

「味はどう?って聞かれて普通ならそれは普通だけど、美味しいって思ったのなら、不味いがあるじゃん。だからさっきのことだって少しは嫌な気分にはなるけれど、私にとっては理解できることなの」

 岸岡の考えを岸岡の例えを、理解するのは難しいと思う。ピーマンの例えがまず俺には分からない。美味しいなら不味いがあるってのはもう理解不能だ。岸岡の言葉はときどき俺の理解を超えてしまう。そんな俺の戸惑いが伝わったのか岸岡がため息をついた。

「つまりね、監禁したいほど日沖が好きな私がいるってことは、監禁したいほど日沖が嫌いな誰かがいたっておかしくないってことだよ」

 やれやれ、と岸岡はおれのタルトから大きな栗を持っていった。


054 なぞる

10/10/20

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