弄ぶ
スクールバッグを横にかけて、席についた。
「高木は愛梨とヤりたいの?」
“おはよう、高木”といったいつもの挨拶をふっ飛ばして、高木に聞いた。
日沖はまだ朝練中だ。今日は少し早く来たから、教室にいるクラスメートの数も少ない。
「相変わらずだな、岸岡は」
もう高木の朝の日課となっている読書する手を止めて、私のほうを向いた。顔はすこし歪んでいる。
「おはよう、岸岡」
「おはよう、高木」
私のほうからいつもはかけている言葉を高木からかけられる。
「一体、何なんだ」
高木は栞を挟んで本を机の中にいれた。今日はもう読書を諦めたようだ。
「教室じゃあ私の話はできないでしょ。それに一ミリも崩れてないんでしょ」
「ああ、一ミクロだって崩れていない」
高木は優しい。私の不安を簡単に吹き飛ばす。愛梨は早く高木にこたえてあげれば良いのにと思うのは傲慢だろうか。だけど、そう思わせるほど高木は優しい。
「それでも、その話を教室でするなよ。しかも仮にも女子が」
仮にもは余計だ。私は立派な女の子だ。
「高木って男女差別するんだね。男とか女とかそうやって分けるんだね」
高木はため息をついた。
「悪かった。男女は関係ない、高校生が朝からそんなこと聞くな」
これでいいか?
私は笑みを浮かべて頷いた。
高木は優しい。とても優しい。
「で、岸岡はどうしたんだよ」
それはね――
「愛の深さが知りたくて」
023 弄ぶ
09/03/22