願う
「岸岡って、そういうファンシーなこと書く奴だっけ」
高木がのぞきこんでいるのは私の書いた短冊だ。
今年の担任がお茶目でどこかから竹と短冊を持ってきたのだ。竹は黒板の隣に飾ってある。書けた人から順に吊るしていってあるから何枚かはもうたらされている。
高二にもなって七夕にお願いごとかと呟いたクラスメートもいたけれどなんだかんだで皆楽しんで書いている。
「前に言ったじゃん、紗那には意外と可愛いところがあるって」
その意外とが余計です、日沖様。日沖の短冊を見てみると『試合で勝てますように』だった。
「いかにも日沖って感じだね」
「でしょ。高木は『愛梨ちゃんに会えますように』とか?」
日沖が高木を茶化す。
「ないない。学校でそんなこと書けないからね」
高木はそういうけれど、学校で愛梨の話を散々しているんだから今更だと思う。高木が短冊を私たちの目線まで上げた。
『期末の結果が良いものでありますように』
「夢もへったくれもないじゃん!」
「つまんないわー。愛梨ちゃん絡みじゃないなんて」
まだ日沖は愛梨の話を引っ張る。
高木は苦笑している。愛梨の話はことあるごとに持ち出されるので随分動揺しなくなった。
「まあ意外だったけど、岸岡のが一番いいよな」
そんなにファンシーなことを書いたつもりはなかった。かけるような願いがとくに浮かばなかっただけだ。
水色の短冊に丸っこい字が並ぶ。
『織姫と彦星が無事に出会えますように』
006 願う
09/04/01