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第三話 英雄と勇者の召喚

 

「うわぁっ! 何が起こった!」

「光が消えた?」

「どこやここは!」

「なんか貴族っぽいのがいるんですけどぉー」

「はぁ! スマホ繋がんねー!」


 書物庫の風景が写真をスクロールするかのように切り替わり、どこかの建物内にわぁ達は突っ立っていた。

 取り敢えず、武器は持ち込めているから武力面では大丈夫だと思いたい。


「これあれじゃねー!」

「異世界転移キター!」

「追放フラグ来ねえかなー」


 今、わぁの下に表れている魔法陣が光を失って消えていこうとしていた。

 つまり、この魔法陣は役目を終え、効果が切れたということで、人を転移させるものだったと考えていいはず。

 物理法則どこいったと、にわかに信じ難いものではあるものの、実際に場所が移動しているで受け入れるしかない。


「みんな! 一旦落ち着こう。混乱しては何も出来ない!」

綾也りょうや君の言う通りよ! まずは落ち着いて」


 この場には魔法陣が二つあった。

 一つは、チームのリーダーらしき少年が必至に落ち着かせようと努力している30人の集団の足元。

 もう一つは、勿論わぁの足元にあり、わぁとシャルちゃん以外に知らない人が3人近くにいる。

 わぁの近くにいる人達は30人グループとは反対に全く会話がない。

 目線を素早く動かして、状況判断に努めているようだ。


 わぁも真似しようとするが、いくら見てもここが何処か推察できない。

 それよりもわぁが得意なのは人を見ること。


 丁度、正面に一番豪華な服を着て座っている人物と、そこに控える武器を持った人達が何も言い出すことなく、こちらを凝視している。

 色々な感情が混ざり合い、色がごちゃごちゃして見えるが、共通しているのは緑色と橙色と薄い赤。

 恐れと期待と焦燥である。

 恐れと期待はわぁ達、魔法陣に乗っている者に向けられており、焦燥は差し迫っているナニカに対するものであるということは読み取れた。


「あの! すみません。一体ここはどこなのでしょうか?」


 ある程度、30人グループは落ち着いたのかリーダーらしい少年が、椅子に座わっている人に問いかけた。

 途端、控えている人達の感情の色が変わる変わる。

 激情に駆られて叫び出してもおかしくない感情を見せている人もいるのに、全員が口を閉ざしていた。


「ここはアルバレス王国の王都カリタギラである。汝らからすれば異世界と言えば分かりやすいか」


 座っている人はどっしりとした声だった。

 しかし、どこか投げやりに感じる。


「い、異世界ですか。なんで僕達はそんなところにいるのでしょう?」


 リーダーの少年は異世界という言葉にも動揺はしているものの、自分達の立場を理解することを優先したらしい。

 確かにわぁもそれは知りたい。


「我が呼んだからである」

「何故ですか?」


 そこで会話が一旦途切れる。

 座っている人、王冠を被り、威厳があることからして恐らく王様。

 その王様が赤いもやもやを漂わせるも息を吐くことで、赤いもやもやを消した。

 この王様、怒りをコントロールできるタイプか。


「汝らに我ら人類を救ってもらうためだ」

「えーっと、僕達にそんな力はないのですが」

「有ろうと無かろうと我らは汝らに全てを託さざるを得ない状況だ。どうか人類を救ってくれ、とな」


 はっきりいって、なんで救わなくてはいけないのか。

 そう思った瞬間、頭に痛みを感じ、例の紙の内容『人類を救え』という文字が脳裏にこびりつく。


 絶対に人類を救わなけ・・・・・・・ればならない・・・・・・

 何故、さっき救おうと思わなかったのだろうか。


「何から救うのですか?」


 そう、救うには害となる対象を知る必要がある。


「魔人類以外何があろうか。それらを全て殲滅してもらいたい」

「……少し時間をください」


 リーダーの少年撤退。

 制服からして高校生なはずだから、この受け答えも相当なプレッシャーがあったろうに。

 そもそも王様も酷すぎる。

 まともに説明する気がない。


「宰相、後は任せた」

「かしこまりました。勇者殿と英雄殿を広間にお連れしろ」


 王様は王座がある方の裏口からぞろぞろ人を引き連れて姿を消した。

 そして、わぁ達はわけも分からず、誘導されるがままに場所を移動させられる。






 ※※※





 広間は眩しい一歩手前の明るさで、30人グループとわぁの5人グループ、控えていた人達が入っても余裕で運動できるくらい広かった。

 ただ、物置ひとつなく、絨毯さえ敷かれていないのはいかがなものだろうか。


 この広間は普段何に使っているのかと思考が脱線しかけたが、控えていた人つまり宰相が説明しだしたので、聞くことに集中する。


「順に説明させていただく。

 まず、そこの窓からうっすらと大きな壁が見えるだろうか」


 壁?

 宰相の合図とともに控えていた人達が大きな木組の窓を開ける。

 そこには青空と城下町、そして遠目にうっすらとだが巨大な壁が見て取れた。


「え、どこ?」

「あれだ。なんか遠くの山を見ている気分だな」「視力悪いから分かりづらいょぉー」

「やべぇ。超でけぇー!」


 視力的に見えない人もいるらしい。

 わぁは田舎育ちだから、視力には2.0以上の自信はある。

 しかし、この壁が一体何なのか。

 図書館の歴史書に書いてあった一文を思い出したが、そんなわけないと頭を振り記憶を追い出す。


「その壁までが人類の領域である。それより先は魑魅魍魎ちみもうりょう蔓延はびこる魔境。許可なく簡単にあの壁の外に出れはしないが、一人で出た暁には骨すら残らないと覚悟しておいてもらいたい」


「えっ、ま?」

「壁までって、えっ?」

「全ての人がこの壁の中にいるの?」

「……帰りたい。帰りたい」

「なんかこんな漫画見たことある」

「なるほど。俺たちが敵に無双するパターンね」

「恐らく、あそこまでの距離は……で、人口密度は……だから、総人口は……」

「本当に、異世界なんだ」


 良い反応する30人の高校生達である。

 説明している宰相も説明しがいがありそうだ。

 内容はともかく。


 それにしてもあの壁が例の歴史本に書いてあった貴防壁か。

 貴防壁が突破されたら人類は絶滅するというのが現状らしい。

 逆にここから挽回して、魔人類を文字通り全滅させるのがこっちの勝利条件ということか。

 はっきり言って、数からしても成し遂げられるとは思えない。


「しかし、勇者殿にはその魔人類を撃退し得る力が召喚された際に付与されているはずだ。試しに『ステータス』と唱えてみるといい」


 宰相が言い終わるのを待たずに、好奇心旺盛な高校生達は個人個人で『ステータス』と呟いて、宙を眺めていた。


「職業、重戦士。レベルは1だけどなんか強そう」

「回復師? 看護師的なやつかしら?」

「あ、召喚師や」

「……商人か」

「やっぱ魔物を倒せばレペルが上がるのかな?」


 わぁも『ステータス』と呟いてみたものの、何も起こらない。

 僕の周りの四人も各々に呟いていたが、出ないとわかると高校生達を注視していた。


「英雄殿や我々はステータスというものが閲覧出来ないので、詳細は話せないが、神託により授かっている言葉はある」

「神託ですか」


 リーダーくんは神託という単語に引っ掛かりを覚えているようだが、追求はしないようだ。


「『勇者よ。職業一つにつき、ギフトを一つを施し、魔人類を殺せば殺すほど力が増すようにした。その対価に人類を救え。人類を救った暁には元いた世界、地球への帰還も約束しよう』と仰られた。私には理解し難いが、我々ではなく勇者殿に力を託されたことは神の思し召しである。それを頭に入れ、是非とも戦ってもらいたい」

「分かったが、人類救ったら報酬は出るのか? しかもお前はある意味俺達を拉致したことにもなる。その辺の補償もどうなっているのか聞きたい」


 リーダーくんに代わり、新たに発言したのは目付きが鋭い黒系の服が似合いそうな少年だった。


「報酬は我々に叶えることが可能ならば、なんでも願いを叶えてみせよう。ただし、前払いは一切できないのでそこは了承してもらいたい。補償としては一年間の衣食住だ」

「補償が少ない。俺達が地球に帰れるまで衣食住は用意するべきだろうが」

「悪いが、我が国に今そこまでの余裕はない。戦況によっては伸ばすことも考慮するが、確定はできない」

「ちっ。使えねえな」

「ちょっと十六夜君。流石に失礼過ぎるよ。宰相さん、申し訳ございません」


 十六夜君とやらはどこか厨二病っぽいから厨二くんと呼ぼう。

 リーダーくんが厨二くんの代わりに軽く謝っているが、既に手遅れだろう。

 もやもやの色合い的にも宰相の沸点を軽く超え、怒髪天を衝く一歩手前の状態でギリギリ冷静を保っているレベル。

 普通の人なら殴り飛ばすレベルだが、おもてにも出さないのは流石宰相というべきか。


「……最後に戦う準備だが、まず5グループに分かれてもらう。内訳は英雄一人に対し、勇者六人だ。そして1グループに兵を五千与える。それでこちらの指定した戦地に行き、使命を全うしていただく。質問は一切受け付けないので、グループを組み終えたらそこの使用人に告げろ。では失礼する」


 止める間もなく、宰相は部下の何人かを連れながら広間から出ていった。

 恐らく、感情が爆発する前に出ていきたかったのだろう。


「これからどうすんの!?」

「英雄とか勇者とか意味わかんねー!」

「俺らはステータス見えるから勇者だろ。じゃあ、あいつらが英雄じゃね?」

「結構美男美女が揃ってるわね」

「きゃー! あたし、あの男の人まじタイプなんですけどー!」


 先生が去った後の教室ってこんな感じかな。

 わぁは教室にいた人数は数人程度だったから、ここまで騒がしくはなったことないけれども。


 さて、ここからはわぁ達の勝負。

 今までの話を統合するに、わぁ達が英雄ってことだろう。

 そして、1グループにつき、英雄は1人。

 すなわち、英雄達との人材引き抜き対決である。

 とは言っても指名したところで組んでくれるかは高校生達本人次第だし、どうしたものか。


「おい。そこの綾也とかいったか? 余のところに来い」


 腰に響くようなバリトンボイスを目の前の男性は発した。

 見た目は武王という言葉が一番当てはまる。

 三十路にもいってない容姿だが、風格や威厳というものは先程居た王をはるかに凌ぐものを持っている。

 わぁの【読心色】を通しても一切焦りや怒りといったマイナスの感情が見当たらない。

 今、見えるのは黄緑色だけ。

 つまり、信頼。

 普通は他人に信頼を寄せるものだが、この男は自分に対する絶対的な信頼であることが立ち姿からでも読み取れる。

 故に、風格、威厳、自信を乗せた通る声に、ただの高校生が不平不満を言えるどころか一声も上げられなかった。


「後は貴様と貴様と貴様と貴様と貴様だ」

「「「「「は、はいっ!」」」」」


 指すことも無く、目線だけで選び抜いた武王は宰相の肩に手を掛け、耳元で何かを囁いた。


「あ、ああ。後でそちらに持っていこう。おい、そこのメイド何をしている。早くこの方達を第一会議室にお連れしろ」


 王に仕え続けてきたはずの宰相でさえ、若干腰が引けている。

 一体、この武王は何者なのか。

 この広間を出る直前の武王の姿から、武器が棒と剣の二つしかないことから才能は二つということになる。

 しかし、隠している可能性もある。

 普通は隠すことに引け目を感じ、そこからマイナスの感情が読み取れるもが、あの武王にはこれが一切ない。

 結局、武王はわぁ達になんのヒントも与えることなく、六人の高校生を引き連れて広間を出ていった。


「ひぃー、おっかないねぇ。あいつは一体どこの誰なんだか。同じ世界に居たならゾッとしたぜ」


 武王に圧倒されて静寂が支配していた広間に、粘り気のある声が響く。

 その声の発生源である三十後半ぐらいの男は、残虐な盗賊が一番似合いそうな風貌であった。

 盗賊らしき男は、高校生達をぎょろりとした目で凝視しながらゆっくりと近づいていく。


「だが、今はありがてェことにあの野郎は人類を助ける仲間と来たもんだ。まさに百人力よ、ギャハハハ!

 ただよォ、これ以上素質がある奴を勝手に引き抜かれたら堪んねェ。勝手に選ばせてもらうぜ」


 盗賊らしき男が無造作に女子高校生の髪を持ち上げ、短剣を首筋に当てた。


「痛いっ! 痛い!」

「おい、ガキ共。俺のグループに入ったらこいつを好きにしてもいいぜ。殺そうが拷問しようが犯そうが構いやしねェ。邪魔されるようなら俺が守ってやるよ。どうした? 入りたい奴はいねぇのか?」

「いやっ、いやー!」

「これ以上泣き叫んだらぶち殺すぞ」

「ひっ」


 高校生達は突然の事に驚き固まり、リーダーくん不在も相まってまともな対応が出来ていない。


「やめなさい! 私達は人類を救わな・・・・・・ければならない・・・・・・・のよ! 無闇に人を傷つけるのは愚者のすることだわっ!」


 刃を当てられている女子高校生が嗚咽を我慢して涙を流している姿に我慢出来なかったシャルちゃんが、盗賊らしき男に斧を向ける。


「確かに人類を救わな・・・・・・ければならない・・・・・・・が、それと殺すのは関係ないなァ。俺を説得するには全然足りねェ。出直して来な、嬢ちゃん」

「貴方の自論には興味無いわよ。この私が、その子を放しなさいと言っているの! じゃないとこのまま叩き潰すわ」

「嬢ちゃん如きにやられるような鍛え方はしてねェよ。ただ、これ以上踏み込むならこいつの首を掻っ切るぜ」

「じゃあ取引よ。その子を放して、貴方のグループに女の子を入れない代わりに、貴方が連れていく人選に対して邪魔しないであげるわ」

「おいおいおい。俺が損してねェか? せめて嬢ちゃんだけじゃなく、そいつらにも邪魔しねェことを約束させたら、こいつを解放してやるよ」


 盗賊らしき男はわぁともう一人の女性をちらりと見た後、シャルちゃんに視線を戻す。


「んー、わぁは全然問題ないかなー」

「わしもそちに優先権を譲るとしようかの」


 もう一人の女性というよりも幼女というべき存在がまるで年寄りみたいな言葉遣いをしていることに多少の違和感を覚えたが、周りの人達はあまり気にしていないようである。


「取引成立ね。放してもらえるかしら」

「……ちっ。ほらよっ」


 盗賊らしき男は女子高生をシャルちゃんに向かって乱暴に突き放した。

 舌打ちした割には感情に揺らぎがなかったので、恐らくここまで盗賊らしき男の思惑通りなのだろう。

 これから、わぁはこういう人達と渡り合って魔人類を撃滅していかなければならないと考えると、ストレスが溜まりそうだ。


「おい。そこの3人と、端にいる2人と、そこのお前。俺についてこい。さっきと似たようなことさせてやるからよ」


 指名された男子高生達は周囲の様子を伺いつつ、俺指名されただけだから仕方なく行くだけだから、というていで盗賊らしき男の元へ移動する。


「なにビクビクしてやがる。タマついてんだろォ? 気に食わねえ目をしてるメスガキなんて何も出来ねェ小物だ。将来、俺らが狩る側にまわんだから堂々と歩きやがれ」

「俺らが狩る側……」

「確かに視線だけじゃあ何も出来ない」

「……この人についていけば」


 選ばれた男子高生達は盗賊らしき男に感化され、今まで隠していたドス黒い感情が目に表れ始めた。


 わぁからすれば、この盗賊らしき男は好きなタイプではないものの、英雄として召喚されただけはあり、カリスマ性は備わっているらしい。

 武王とは別の種類のカリスマではあるが。


「オッサン、決まったぜ。早くメイドに案内させろ。震えてこっちに来やしねェ」

「ああ。私の部下に行かせる。それより、英雄殿。こちらとしては勇者殿が傷つくことは戦力低下にも繋がりかねないので、今後ああいう行動は慎んでもらいたい」

「へいへい。ご忠告ドーモ」


 宰相は顔を引き攣らせながらも、部下に指示を出し、盗賊らしき男のグループをこの広間から退出させた。


 さて、癖の強そうな奴らは退出した。

 ここからはわぁのターン。


 高校生は後18人。

 どう選んだものか。


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