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第一話 ボーイミーツガールは暗闇で

 気づいたらここに突っ立っていた。


 何も見えず、何も聞こえず、何も触れない暗闇に。


 幸い、素足から伝わる床の感覚だけはあり、辛うじて立っていると認識できる。


「あ、あー」


 口は動く。

 そして、わぁが何者かという記憶もある。


 しかし、何故ここにいるのか、ここは何処なのかが分からない。


 誘拐されてここに来たのだろうか。


 部屋の大きさでも確認しようと一直線に進むも壁にぶつかる気配すらない。


 考えられるのは今のところ3つ。

 とてつもなく広いのか、無限に続いているのか、まっすぐ進めていないのか。


 声が響く様子もなく、誰かが返事をしてくれる様子もない。


「誰かぁー! 助けてぇー!」


 精一杯の声で叫ぶもやはり反応はなし。


「うーん。誘拐にしては目的が見えないよねー」


 わぁを誘拐するのは変態が多かったから、向こうから直ぐに接触してきたのに。


「変態さーん! いませんかー! わぁはここですよー!」


 透き通る声が暗闇に吸い込まれて消える。


 耳鳴りが聞こえるほど静かな空間へと逆戻り。


 一応、腕を上げて何かないか探ってみるものの、上には何も引っかかるものはなかった。

 当然横もである。


 ならば少なくとも感覚がある下つまり床を調べていくしかない。


「つるつるしてる。埃もないっぽい。掃除上手いなー」


 埃が舞って咳き込むことは無い。

 恐らく寝転がっても塵一つ服に何も付かないだろう。

 だから手で何かないか探すのも1つの手段ではあるのだが、如何せん広かったことを考えると物凄い手間になる。


「どうしようかな? 服以外何も持ってないし。ん、服?」


 服には基本ついているはずのポケットの中に何か入っているのではないか。


 服をまさぐってポケットの位置を確認する。


 位置からして、ここに来るまでに着ていた服ではない。

 誰かに着せ替えられている可能性があるとなれば、人と接触するまではそれほど時間はかからないと思いたい。

 服の腹部についているポケットに手を突っ込むと、指先に何かが触れた。


「紙かな?」


 本当に紙かは不明だが、感触的にはメモサイズの紙なのだ。


「でも何も見えないし」


 だから、なんの進展もない。


 そう思っていたのに、取り出した瞬間、脳に文字が刻まれた。


『天から真の才を二物与えれし者よ。ここに汝の才を示す。


【美貌(儚げ)】【読心色どくしんしょく


 最終調整フェーズⅠ 暗黒 [脱出せよ]』


 本来暗闇で文字が見えるはずもない上、理屈も現象も理解できないけど、読めるから今は気にしない。


 んー。

 色々情報が出てきたが、推測するには流石に情報不足過ぎるから、紙の差出人も、最終調整という語も無視。

 だから気になるのは天から云々(うんぬん)を与えられた者がわぁを指しているということかな。


「身に覚えはあるよねー」


【美貌(儚げ)】は、庇護欲が唆られるとか幸薄そうとか散々言われた記憶がある。

 幼少期は力強くなることに期待していたけど、後々何かと便利な容姿だと納得した。

 頻繁に少女と間違えられて誘拐されたから自称でもない。


【読心色】は、人の心がその人の体に漂うもやもやの色で分かるという、幼少期から悩まされてきた才能。

 実際に人からもやもやが出ているわけではないけど、わぁにはそう見えるのだ。


 例えば、わぁに対して怒っていたら赤色。

 欲情していたら桃色。

 無関心だったら白色。

 侮蔑していたら紫色。

 といったもやもやが目に見える。

 そして、その感情の度合いは色の濃淡によって表されていた。


 だから、わぁの世界は常に彩られていた。


「でもなんで知ってるのかな? 親に変な子扱いされてから誰にも言ってないのに」


 確かにこの2つはわぁの才能だ。

 ただその才能に【美貌(儚げ)】【読心色】という名前をつけた覚えはない。


「そもそも脳に文字が刻まれる技術とか聞いたことないんだよねー」


 もしかしたら、わぁが知らないだけかも知れない。

 色々他にも気になる点もあるけれど、今は脱出を試みよう。


 紙によると、どうやらここから脱出できる方法は存在しているようだし。


「んー。わぁの才能は人ありきだからここでは使えないなー」


 地道に手がかりを見つけるしかない。

 持っているのは、ポケットに入っていた紙と、着ている服のみ。

 感触からして多分貫頭衣で、下着は履いてないようだ。


「貫頭衣の腰あたりに結んである紐くらいかな、使えるのは」


 紐をほどいたら、横からわぁの裸が丸見えだけど。


「うん。進もう。進んだ先が出口だよ、きっと」


 地面に何かあるかはいちいちしゃがんで手で調べてなんてやってられないので、足で運良く踏めて見つかればいいなという前向き思考でいくとする。


 ひんやりとも温かくもない温度を感じない真っ平らな地面の上を、わぁはぺたぺたと裸足で歩く。


 ただひたすらにぺたぺた、と。


 暫く真っ直ぐ歩き続け、この方法で出口が見つかるのかと自信を持てなくなってきた頃、微かに音が聞こえた。


「んー?」

 わぁは立ち止まり耳を澄ます。


 ぺたぺたぺた、と誰かの足音が聞こえた。

 その瞬間、わぁの視界にもやもやが宿る。

 姿が見えないので恐らくそこに人がいるであろう場所に濃い緑色のもやもやが現れた。


 どうやら、こちらに向かってきている人は恐怖しているらしい。

 確かに気持ち早歩きだし。


 これは声をかけた方がいいのかな?


「誰か出てきなさいっ!」


 心細そうな女の子が必死に強がっているような声。

 濃い緑色から少し淡くなった。

 声音が聞こえたことで情報が増え、感情の読み取りがより本来の感情に近づいたのだろう。

 わぁの【読心色】はあくまで、人の動きから感情を推測する才能であって、心を読める超能力ではない。


「はいはーい。ここにいますよー」

「うひゃっ!」


 ぺたんとお尻が床についた音がした。

 腰でも抜かしたのかな?


「い、いきなり声かけないでよ! びっくりするじゃない!」

「それは理不尽な気がするよー」

「そ、それもそうね。ごめんなさい」

「いえいえ、お構いなくー」


 わぁが思うにこの子は金髪ツインテールではないだろうか。

 ツンデレキャラっぽいし。

 暗闇で互いの顔が全く分からないので、わぁは適当に最近見たアニメのツンデレキャラに当てはめて会話する。


「なんかおっとりしてるわね。というよりも危機感が足りてない? えーっと、あなた女の子よね? 今の状況分かってるの?」

「んー。まー、だいたい?」


 責めているのではなく、心配してくれているようだ。

 もやもやも淡い水色に変わってるし。

 男であることは今は黙っていよう。

 ひとまず、声だけでも瞬時に女の子だと断定される複雑な気持ちは置いておく。

 変に刺激しちゃっても困る。


「だいたいって……。まあ、いいわ。それよりもさっきは返事してくれてありがとう。私はシャルルよ。シャルって呼んでちょうだい」

「うん、シャルちゃん。わぁは遊鈴ゆうれい。よろしくねー。シャルちゃんはどうしてここにいるの?」


「知らないわよ。でも意識がなくなる前に何かしらの大規模な魔法が発動していたのは認知できたわ」

「まほー?」


 なにその摩訶不思議な力。

 日本に魔法なんてないはず。

 しかもわぁの名前をスルーとは。

 シャルちゃんが日本人の可能性がなくなってきた。


「魔法も知らないの? 一体どんな田舎から来たのよ」

「全校生徒10人もいる学校の近くの、一面田んぼの都会に住んでたよー」

「田舎じゃない。危機感ないのはそのせいかしら?」

「危機に対しては人一倍敏感だよー」


 シャルは溜息をつく。


「ユーレイはここはどこかは……分からなそうね」

「うん。わかんないねー。出れたら嬉しいかな」

「ここに出口なんてあるのかしら?」


 あの紙を取り出していないのだろうか。

 少なくとも存在を知っているなら、脱出方法はあると思うはず。


「シャルちゃん。お腹触っていい?」

「はぁ!? ダメに決まってるじゃない。あっ、ちょっと!」

「ごめんねー」


 声が出ている位置を口だとして、だいたいわぁと同じ背丈くらい。

 だとしたら、お腹はこの位置かな。

 シャルの後ろに回って両手で抱きしめるように、お腹をまさぐりつつ、ポケットの中に入っている紙をそっと抜き取る。

 わぁと同じ作りの貫頭衣で助かった。

 お陰でスムーズに実行できたのだから。


 紙に一瞬意識を向けて自分のポケットにしまった。


『天から真の才を二物与えれし者よ。ここに汝の才を示す。


【直感】【斧術】【暴食】【炎ノ魔法】


 最終調整フェーズⅠ 暗黒 [脱出せよ]』


 才能が4つ。

 わぁより優秀で羨ましい。


 それはそれとして、さっきからお腹を撫で回しているが、【暴食】の割には太っている様子はないし、むしろ適度にぷにぷにしていてずっと触っていたい。


「いい加減にしなさい!」

「がふっ」


 何も見えない状態のはずなのに、関節をきめられたまま床に抑えつけられた。


「この変態! 男だったら炙ってるわよ!」


 男とバレないようにしないと。

 わぁも同じことをしたら許してくれるだろうか。


「痛い痛いってば。わぁのお腹も触らしてあげるから許してー」

「結構よ! それよりもさっさとここから抜け出すからついてきて」


 シャルちゃんはあっさりと拘束をとき、わぁの手を掴んで持ち上げ、ずんずんと迷うことなくわぁを引っ張っていく。

 さっきまで出口の存在を疑っていたのに。


「何か知ってるの?」

「知らないわよ。でも私の勘がこっちって囁いているから」


【直感】かな。

 なんて便利な才能なんだろう。


「その勘は当たるの?」

「今まで百発百中よ。でも好きな時に勘が働くわけではないわ」


 勘を外さない時点で物凄く優秀である。

 これは何がなんでもシャルちゃんを手放さないようにしなければ。

 恐らく、紙の文を鑑みるに、ここにはわぁ達以外にも才能を持つ人が多く閉じ込められて、何かを試されている。

 何を試されているのかまでは分からないが、試練を乗り越えるには強い人と組まなければ、わぁはあっさり切り捨てられるかもしれない。


 だから戦闘向きの才能も持っているシャルちゃんに何としてでもとり入らないと、わぁは生きていけない。

 最悪、奴隷のような立場でも構わない。


 大袈裟になりつつある思考は、シャルちゃんが立ち止まったことによって停止した。


「この辺に何かあるはずなんだけど」


 そう言ってゴソゴソと動くシャルちゃん。

 真っ暗なせいで何をしているのかまでは分からないが、何かを探していることは分かる。


「床にあるの?」

「仕掛けがあるはずよ」


【直感】ってそこまで分かるのか。


 わぁも手探りで床に手を這わせていく。

 相変わらずのつるつる具合だが、今欲しいのは変化。

 ザラザラしているところとかないものか。


「「……」」


 互いに沈黙が続く。

 ちょっと気まずい。

 呼吸音が聞こえるから近くにいると認識できるので、不安を覚えることはないけど、辛い。


 気にしないように無心で手を滑らせていると、一部凹んでいるところに触れた。


「シャルちゃん。なにか見つけたよー」

「やるじゃない。右手で触れといて」


 シャルちゃんの手がわぁの胸にあたり、爪が胸の一部を軽く引っ掻いた。


「んっ」

「ちょっ、変な声出さないで」


 そのままシャルちゃんの指はわぁの胸から腕へそして手へと滑らしていき、凹んでいるところへと到達する。


「……シャルちゃんのエッチ。指がいやらしかった」

「見えないから、普通に指で辿っただけじゃない!」


 めちゃくちゃゾクゾクとした甘い痺れが背骨に伝わったんだけど。


「そんなことより、ここから出られそうよ。ここが取り掛けで、開けると一人通れるくらいの穴が現れるわけね」

「んー。それは良かった」

「でも足がつきそうにないわね。飛び降りるわよ」

「……え?」


 止めるまもなく、シャルちゃんは「先行ってるわ」と言い残して、さっさと飛び降りたみたい。

 動く気配が消えたから間違いないはず。

【直感】を信じているからこそ、躊躇なく飛び降りれるのだろうか。


 わぁもと思い、穴を足で探り、そっと穴に入れるも当然足はつかない。


「これ落ちたら、串刺しということはないよね?」


 ここを出るには落ちるしかないのだろうけど、飛び降りる勇気が出ないわぁは暫く両足を突っ込んで脚をぶらぶらさせていた。


「今のわぁのもやもやは間違いなく緑色だよー」


 心が落ち着くまでここにいとこうと、ゆっくりしていたのが祟ったのか何者かに足を引っ張られて穴に吸い込まれる。


「――っ!」


 叫び声すら出なかった。








 ※※※








 咄嗟に目をつぶってしまっていたのだろう。

 衝撃がいつまでたっても来ないので恐る恐る目を開けると気づけば誰かの腕の中にすっぽりと収まっていた。


 目の前には月のように輝く髪色に、アメジストよりも深い紫の暖かい瞳、見目麗しい顔立ちが。

 そして、弾力ある慎ましい桃色の唇がゆっくりと開き、そこから透き通った声が発せられた。


「……可愛い」

「いやー、美人さんに言われると照れちゃうなー」


 可愛いか。

 そんなのわぁからしたら言われ慣れているのだが、今回は妙に新鮮に感じたのだった。

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