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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
99/102

第 99 夜   『秘密の宝石』

語り部 : 誉田智代ホンダトモヨ

お相手 : 数高秀範カズタカヒデノリ

 どこにいってしまったの?


 確かここに直しておいたはずなのに。


 よく考えなきゃ、よく思い出さなきゃ。



   第 99 夜

    『秘密の宝石』


 彼からの初めての贈り物。


 私の誕生日にプレゼントされたペンダント。


 高校生にはちょっと贅沢な。


 でも決して高価ではない、米粒の半分くらいの大きさの人工ダイヤの埋まったアクセサリー。


 臨時でやったアルバイト代を叩いて私のために買ってくれた。


 明日はわたし達が初デートをした記念日。


 ちょうど休みの日なので、会う約束をしている。


 あのペンダントに合わせて買った洋服、それを着ていこうと思っていたのに、肝心のアクセサリーが見つからない。


 見つけ出すことの出来ないままにデートの当日。


「あ~あ、折角の記念日なのに、しょうがないな」


 白いブラウスの胸元、本当なら赤い花の模様をしたペンダントが彩りを添えてくれるはずだったのに、このままじゃあ、付けていないのが目立っちゃうな。


 上から薄手のカーディガンを着て、私は家を出た。


「やっぱり黙って過ごせるなら、黙っていた方がいいな」


 あれを貰った時、彼の目の前で包装紙を破いて中を確認した。


 その時の顔が良かったと、苦労した甲斐があったよと言ってくれた。


 その日から毎日付けては外して、眺めて直して、また出してを繰り返し、きっとそのどこかで、おかしなところに入れ込んでしまったんだろう。


「帰ったらもう一度、部屋中を引っ繰り返すしかないなぁ」


 ともかく、先ずは今日を楽しまないと、心にしこりを持ったままじゃあ楽しむことも出来ないや。


 気を取り直して。


 なんて、そう簡単にできるもんでもない。


「おはよう」

「うっす、さっ、行こうか」


 デートの場所を水族館に選んだのは良かった。


 涼しい場所だから上着を脱がずに済む。


「おっきい水槽、もしこのガラス割れたら完全に溺れちゃうね」


「これがガラスだったら絶対保たないよ。アクリルが割れるってあり得るのかな? 大地震だったら他のところから水が漏れることはあるか? 一度一カ所に力が掛かったら水圧で一気に流れ出すことはあるかもね」


 一言くだらないことを言うと、何十倍かに膨れあがって返ってくる。


 最初はそれに疲れて合わないのかな? って悩んだけど。


 そのほとんどが自己完結してくれるから、気楽に聞き流せばいいと気付いてからは、割と楽しいってことが解った。


「見て見て、足長ぁ~い」


「名前のまんまだよな。タカアシガニって、確か足が細すぎて水の中でしか体を支えきれないんだっけ? 違ったかな? まぁいいや、世界最大級の節足動物って、どんな進化の仕方なんだろうな。遠くの物を取るのには便利かもしれないけど、俊敏に動くのって、苦手そうだよなぁ」


 このように、ほとんどの情報が聞き覚えだったり、憶測だったり、エセ情報だったりと、何の役にも立たないから、気楽にスルーできるのだ。


 彼的には嘘は言ってないらしいから、私としては信じていいのか疑うべきかって言うところで、悩む必要はあるのだけれども。


 こんなやり取りを入場から退場までずっと続けて、よくこんだけ喋って疲れないなぁと感心しつつ、水族館を後にした。


 ここの水族館に行ったら、次は近くの大型スーパーに行くのが定番。


 何かを買うわけでもないけど、ここなら暑いといって、上着を脱ぐこともないしね。


 今日は屋内で過ごせる場所をチョイスするのがいいだろう。


 私達のデートの主導権は大体が私が持っているから、このまま夕方まで過ごせば、私の大失態を隠し通すことが出来る。


 今日は早めに切り上げる方向で、折角のセレモニーだけど、残念がってばかりもいられない。


「なぁ、カラオケでも行かない? そうだなぁ~、三時間くらい」


 珍しい。彼が要望を述べてくるなんて、いつもは下らないことを考えるのに、思考の8割くらいを使っているのに。


「うん、いいよ。でも三時間って長くない?」


「ああ、いや、ずっと歌ってなくてもいいよ。お喋りしててもいいし」


 なんで三時間にこだわっているのかは分からなかったけど、カラオケだったら別にいいか。


 脱がずに済みそうだし。


 と思ったんだけど、これが意外と歌い出すと暑くなってくる。


 実は彼より暑がりな私は、いつもは部屋に入って直ぐにクーラーの電源に手を伸ばすんだけど、今日はあえて付けなかったんだ。


 でもやっぱりクーラーなしではいられない。


 しかも今日はこの薄手のカーディガンを脱ぐことはおろか、ボタンを外すことも出来ないので、いつもより設定は低め。


「そんなに暑いんなら、上着脱げばいいんじゃあないか?」


 普通そう思うよね。こっちの都合を知らないんだし。


「ちょっとね、肩冷やしたくないんだ」


 なんて苦しすぎる言い訳をして、私はどうにかここを切り抜けようとした。


「なに? 肩痛いの? ちょっとほぐしてやろうか? ウチの母さんなんて絶賛してるんだぜ」


「え? いやその、そこまでは……」


「ダメだよ。肩こりを甘くみちゃあ、俺が信用できないって言うんならマッサージでも受けに行こうか? 直ぐ側に評判のお店あるぜ」


 ああ、これだから情報マニアは……。


「あ、いやごめんなさい。本当に大したことないから、そ、それに下手に揉むと後から揉み返しがきたりするっていうじゃない?」


「あー、言うねぇ。それは最後の詰めの甘さだからな。ちゃんとほぐしてやれば大丈夫だよ」


 むー、逃げられないのか……。


「でもあまり強くし過ぎてもいけないだろうし、上着の上からでも大丈夫かな? 皺にはならないと思うけど」


「ああ、うんうん、それでお願いします。本当に頼れる彼氏でよかったよ」


 とは言っても本当に肩なんてこってないから、出来ればそっとしておいて欲しいんだけど。


「あれ? すごい柔らかいな、奥の方から痛んでるのかな? ちょっとだけ強めに押すね」


 その判断は医学的にあっているのかを問いただしたいところなんだけど、こちらには大きな後ろめたさがあるから、とにかくここは我慢が大事。


 そんなやり取りをはさみながらも、どうにか秘密は死守して、カラオケの時間は終了した。


「本当に今日は楽しかったよ。それじゃあまた学校で」


 これ以上ボロを出さないうちに帰らなきゃ。


「ああ、あのー、さ。食事しに行かないか? ちょっと予約している店があるんだけど」


 予約の時間まであと少し、サプライズで隠していてくれたのは、大人の雰囲気のお店。


 将来絶対に行ってみたいと思っていたレストラン。


 この日のためにまたアルバイトしてくれたのだという、彼の行為を無下には出来ない。


 だけど食事に行って、上着を脱がないというのも難しい。


 もうここは正直に白状するしかない、か。


「あ、あのね?」


「なに? どうかしたの?」


「秀範くんのくれたペンダントなんだけどね」


「ああ、あれかぁ」


「あれを貰った日から、私毎日嬉しくて嬉しくて、付けたり外したり、ずっと眺めてたんだけど、昨日の夜は確かにあったの。けど今朝つけようと思ったら見あたらなくて、部屋の中にあるのは間違いないの。けど、つけて来れなくて……」


「ああ、そうだったんだ。俺はまたてっきり、その上着には合わなそうだから、つけてきてなかったんだと思ってた。中のシャツには合いそうだけどね」


 えっ? そう、なのかな?


 私はこれでもアリだと思って着てこようと思ってたんだけど、いや、そんなことより知ってたんだ。私がペンダントつけていなかったこと。


「うん、まぁ一応つけてるのかなって気にはなったからね。隙を見て覗いちゃったよ」


 本日会って間もない話だそうです。


「智代ちゃん、そんなに気にしてて、今日一日楽しかった?」


「う、うんそれは大丈夫。ばれてないつもりで、ばれずに済むと信じていた場所を選んでたから、楽しんではいたよ」


 その開放感が隙を生んだんだろうけど、もう今さら関係ないや。


「ごめんね、気を使わせちゃって」


「いやいや、智代ちゃんが楽しめたんなら問題ないよ」


 本当にバカみたい。


 でもよかった正直に話して、って今さらだけど。


 これで本当に気兼ねなく食事を堪能できる。


「あ、ちょっと私……」


「え、ああ、うん、じゃあ注文しておくから」


 私はお店に入ってすぐ、お手洗いに立った。


 まさかここで、カバンの底から探し物が見つかるなんて、思いもしていなかった。

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