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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
98/102

第 98 夜   『二人の学園祭』

語り部 : 宮瀬耕作ミヤセコウサク

お相手 : 西村敦子ニシムラアキコ


盛立役 : 大内紀之オオウチノリユキ

      小暮基樹コグレモトキ

 映画作りをする事になった。


 クラスの出し物だ。


 学園祭の出し物としての映画作りをする。


 誰が言い出したのかは覚えていないけど、こんな事なら他の良案を提示するべきだった。


 俺は裏方となった。


 本当はもっと他にも楽な係があったのに、何故か一番面倒な編集係になってしまった。


   第 98 夜

    『二人の学園祭』



 監督兼シナリオ係の西村敦子の指示が、ああでもないこうでもないと、頭の上を飛んでいく。


「あんた、うちのクラスで一番パソコンに詳しいじゃない」


 西村のその一言で、役割分担として、編集係をさせられてしまっている。


 できれば他がいいと、反対したが、口で勝てる相手ではない。それはもう諦めた。


 誰かがやらないといけないというなら、それが俺になったと言うのもしょうがない。


 ただ、たった二日でやれと言うのか、しかもカット割りだけで一日を費やしてしまい、これをたったの一日でつなぎ合わせないとならない。


「そう、そことそこを合わせて」


 他のみんなはもう帰った。


 後は西村監督と作業係の俺だけ。


 視聴覚教室のコントロール室を占領しての、泊まり込み作業。


 担当の先生はついさっき、「何かあったら呼べよ」と言って、職員室に行ってしまった。


 おいおい、男女を二人っきりにして何かあったらどうするんだ?


 何もする気はないけど。


 しかし仕事量が半端じゃあない。


 場面場面に合わせた曲や効果音などの素材は揃っているから、たぶん間に合うとは思うけど。


「これはもう徹夜決定だな。西村ぁ、そこそこで帰っていいからな」


「なに言ってんの! 編集中、分からないところがあった時、あんた一人じゃあ、どうにもならないでしょ?」


 いや、カット割りの際に一通り一緒に見たし、絵コンテもあるし、別にいなくてもまとめるくらいなら問題ないのだが。


 と言うか、西村がいると集中できない。


 こんな狭い部屋で、好きな子と二人っきりなんて。


「パソコンに詳しいって言うんなら、大内や小暮にも手伝って貰ったら、もっと早く終わってたんじゃあないかぁ」


「あの二人はマニアックすぎるのよ。学園祭の出し物に、あり得ないものが出てきたりしそうでしょ?」


 言われてみればそうかもな。


 まぁ、ここでぐじぐじ言ってても終わりはこない。


 やるしかないんだよな。


「ふぅ、なんかお腹空いてきたねぇ」


「ああ、そうだな。それじゃあ買い出しにでも行くか」


「ああ、いいよいいよ宮瀬は作業続けてて、私が買ってくるから」


「おいおい、息抜きくらいさせてくれよ。一応今晩かければ、完成する目処までは立ったんだからさ」


 折角好きな子といられるんだから、ちょっとは役得もあってもいいだろう。


 気分だけでもデートしてる的な。


 デートと言っても近くのコンビニまでだから、気分がのっかるほどじゃあないけど、これはこれでやっぱり得した気分にはなれた。


「宮瀬ってそんなに食べるんだ?」


「えっ、これくらい普通だろ? それよりお前だって、そのデザートの数は……」


「あっ、頭使うと糖分が必要になるんだよ。それにデザートは別腹」


 まっ、西村は痩せすぎって感じだし、少しは脂肪付けた方がいいからな。その、胸とか……。


「あれ? 空箱だけ? 売り切れかな」


 欲しい商品が見あたらず、店員さんに聞くと生憎切れているらしい。


「なに?」


「ああ、ミントのタブレット、お気に入りのがあるんだけど、ここの店は品切れらしいんだ」


「そっか、もう一件当たってみる? 徹夜には必要でしょ」


 別に他の種類のでもよかったんだけど、折角だからプチデート気分を続けさせてもらおう。






 お気に入りだけあって、ミントの効き目はバッチリ。


 そろそろ10時を回り、編集も2/3が終わった。


「ふー、やっと見えてきたかな。ここまできたら後一息だな。出来たら夜食とか欲しいけど……」


 西村のデザートがまだ残っているはずだけど。


「あれ? 返事がない」


 吐息が聞こえてくるから、そこにいるのは確か……。


「……寝てる」


 器用に椅子に座って、寝息を立てている。


「好きな子のよだれ顔か、これはこれでプレミアかな」


 寝顔を拝めるなんて、学祭万歳だな。おっ、よだれ拭った。


 しかしこのまんま、こんな格好で寝かせておくのも可哀相だな。


「へたに寝相を崩したら、パンツとか見えそうだしな。横にしてやるか」


 ちょうど椅子に座ってる状態だし、その姿勢のまま抱きかかえれば、起こさずに横にしてやれそうだ。


「よぉーっす、どうだ、捗ってるかぁ?」


 呑気な担任が登場、手には毛布を持っている。


 グッドタイミングだな。


「おいおい、宮瀬、寝ている女の子を襲ったら退学だぞ」


「バカなこと言ってないで、手伝ってください。ちょうど毛布も持ってきてくれたんだし、こいつ、横にしてやりたいんで」


 先生は毛布を敷いてくれて、俺は西村を抱きかかえて横にしてやる。


「へぇ、お前以外と力強いのな」


「いや、彼女が軽いんですよ。もう少し体重増やせばいいのに」


「女の子にそれは失礼だぞ。軽いも重いも言われると傷つくらしいからな」


「ふーん、先生はさすがに詳しいですね。ああ実践済みってヤツですか」


「からかうなよ。お前もほどほどにして、寝られるんなら寝ろよ」


 そう言って自分は、宿直室に戻っていった。


 いや、だから男と女を二人残していくなって。


 先生もここで寝ればいいじゃん。


「とにかくもうちょっとだ。頑張って仕上げるか」


 出来上がったら西村を起こして、ちゃんとチェックしてもらわないといけないしな。






 時計の音、キーボードを叩く音、マウスをクリックする音、そして彼女の寝息。


 ヘッドホンをする俺の耳には、映画の効果音や台詞が流れているけど、部屋の中に流れているのはわずかな物音だけ。


 日も変わって、そろそろミントタブレットだけじゃあ、起きているのも辛くなってきた頃に、ようやく編集作業は終わった。


「うぅーっ! 終わったぁ。けどダメだ。今から西村を起こしても、俺がもう耐えられん。少し寝て、起きたら最終チェックするか」


 俺は西村が寝ているところから、できるだけ離れたところに毛布を敷いて、少しのつもりで横になる。


 その途端に意識は遠のき、夢の世界に旅立った。


 夢の中、俺は西村と教室で二人っきり、椅子を並べて座り雑誌を眺めている。


 いいムードだな、ここで告白したらすんなりOKもらえそうだ。


 俺は意を決して思いを告げた。


 その返事がもらえるか、というところで目が覚めた。


「あ、あれ? まだ夢の中?」


 まだボーッとする意識の中、目の前に西村がいる。


 しかもあり得ない距離。


 この夢、匂いまでリアルだ。


「ねぇ、今言ったこと本当?」


「うん? ああ、本当だよ。俺はずっと前から君のことが好きだったんだ」


 夢の中でなら簡単に言えるのになぁ。


「嬉しい」


 西村はそう言って、俺の胸に頭を押し当ててきた。


 夢ならいいよな。


 俺は彼女の頭を抱えるようにして抱きしめた。


 柔らかいな。


 思っていたよりも、肉付きもいい感じだ。


「って、あれ? 何でこんなにリアルなんだ……」


 意識が段々とはっきりしてくる。


「もしかして夢だと思ってた?」


「なに!?」


 俺はビックリして、その場で跳ね上がるようにして起きあがった。


「今言ってた事って、本気じゃあなかった?」


 ああ、えーっと、その前に何で俺の寝床に入ってきてるのかを突っ込みたいんだけど、今の雰囲気はやっぱりそこじゃあないよな。


「西村って、すっごいパワフルじゃん、なにする時でも全力って感じでさ。俺ってどっちかって言うと無気力なヤツだから、その、憧れみたいのがあってさ」


 本人を本当の意味で目の前にして、なに恥ずかしいこと言ってんだろうな、俺。


「宮瀬は無気力なんかじゃあないよ。いつも冷静に物事を見てくれて、ここぞってところでは、いつも的確な意見をくれる。本当に助かってるんだよ」


「学級院長、って言うのも大変そうだもんな」


 いつも勝手ばっかり言ってる奴らをまとめて、仕切っている姿は本当に凛々しく思える。


「今回のセッティングって、今日この日に、あなたと二人になれるようにしたかったからなんだよ」


「職権乱用かよ。もしかして担任が放置してるのも、何か手回しが?」


「あの先生は天然だよ。放任主義と言うよりは、ただいいかげんな人ってことよね」


 言いたい放題だな。まぁ、当たってるけど。


「それでお前はどうなんだよ。返事とかもらえないのか?」


「って、話の展開で気付くでしょ普通。それとも態と言わせたいの?」


「言わせたい」


 そりゃあ、そうだろう。


「じゃ、じゃあもう一度告ってよ」


「ああ、えっとそうだな。こほん、ってわざとらしいか、……俺、ずっと前から西村のこと好きだった。良かったらつき合って欲しい」


「う、嬉しいよ。私もずっと好きだったから、宮瀬……、耕作くんの彼女にして欲しい」


「西……敦子、本当にいいの?」


「うん」


 もうすぐ夜も明ける。


 俺はまだ十分ではない睡眠時間を苦にもせず、勢いを付けて立ち上がる。


「さてと、完成した映画のチェック、よろしく頼むよ」


「うん、分かった」


 みんなが来るまでの少しの時間、二人でいられる時間をもう少し堪能しよう。


 そして今年の学園祭、出来たら二人で回れるといいな。


 これからの二人のことを話しあわないといけないからな。


 さぁ、早くチェックを終わらせよう。

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