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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
96/102

第 96 夜   『いけない気持ちを抱いたなら』

語り部 : 尾畑朋香オバタトモカ

お相手 : 南城海士ナンジョウアマト


盛立役 : 草野芳美クサノヨシミ

      長尾満彦ナガオミツヒコ

 気にならないなんて言えない。


 うぅうん、気にならない。気にしちゃダメなんだ。


 だってそれが友情のためなんだから。



   第 96 夜

    『いけない気持ちを抱いたなら』


 あの日はもう朝からうだるように暑くて、だからプールに行こうと誘われた時は大いに喜んだ。


「他にも友達呼ぶけどいい?」


「いいよ、大勢の方が楽しいし」


 その時の私は、彼女が呼んでくるのは、やっぱり女の子なんだと思っていた。


「初めまして」


 集合場所に現れたのは、親友の草野芳美と、彼女の中学時代の友達だという男の子と、さらにその男の子の友達の男の子。


「初めまして、長尾満彦です」


「南城海士とです。よろしく」


 南城くんって、確か前に芳美のアルバムで見たことがある。


 確か二人はつき合っているはず。


「初めまして尾畑朋香です。よろしくお願いします」


「南城くんは知ってるよね。彼とは中学が同じで、私とつき合って……」


「知ってるよ。そう言う事じゃあなくて、なんで男の子連れ?」


 今日はプールに行こうというのに、男の子と一緒は緊張するし。


「いいじゃん、どうせプールに着いたら、他にもいっぱい男の子はいるんだし」


 知っている人かどうかっていうのは、かなり重要なファクターですよ。


「ナンパ防止ってのがあるでしょ」

 ナンパされるの前提ですか?


 私にはそんな自信はありませんよ。


「それじゃあ行こうか」


 ナンパ対策はいいけど、本当に先に言って欲しかった。


 今日の水着、女同士だと思って、ちょっとだけだけど、露出多めのやつにしちゃった。


 上からシャツ着るとしても、何かと気を使いそうだ。






 着替えを終えて、先に更衣室から出てきていた男の子達と合流。


「ああ、いいね。ちょっとシャツの中身が気になるところだけど、それを想像するのもまた何とも……」


 長尾くんのリアクションは返しに困る。


 シャツの上から中身を妄想して、興奮するのは止めていただきたい。


「本当だな」


 南城くんもですか、男の子ってヤツは……。


 これは益々シャツを脱げないな。


 と言いたいけど、ここのプールは遊泳中は、水着以外NGなルール。


 ウエットスーツはOKみたいなんだけど、そんなの持ってないし、ビキニになんて、着るんじゃあなかった。


 でもここまで来て水に入らないなんてあり得ない。


 ここは意を決して!


「おお!」


 歓声まで上げる男子二人、うぅ~……。


「ほらほらそんなにマジマジ見ない」


 芳美の一括で、それ以上茶化したりはしてこなかったけど、やっぱビキニになんて、着るんじゃあなかったな。


「かわいいよそれ」


 芳美が小声で言った。


「よ、芳美も新しいのでしょ? 可愛いの買ったね」


 女の子同士のこのノリのために買ったんだもの。


 気を利かせてくれた芳美のおかげで、少しだけ気分を盛り上げられた。


「いこ!」


 お腹の辺りまでの水位の波の出るプールでボール遊び、さすがの天候にプールは混み合っているけど、4人程度で輪を作って遊ぶ分には、十分なスペースがある。


 しばらくするとプールから上げられ、ちょっとだけ休憩。


「飲み物買ってきて」


 軽いゲームをして、負けた私が買い出しに。


 うう、4人分のカップって、割と重い。


 トレーを借りてカップジュースを運んでいた。


「ね、かぁのじょ♪」


 このノリで寄ってくる見知らぬ男。これって……。


「重そうだね。手伝ってあげようか? 4人分って事は友達と来てるのかな? よかったら俺達と遊ばない。こっちも男4人でむさ苦しいと思ってたんだ。人数多い方が楽しいっしょ」


 よくべらべら喋る男だな。ここはキッパリ断って!


 みたんだけど、なかなかひるまない。


 このままみんなのところに行けば、こっちも男の子がいるし、どうにかなるかなと無視することにしたら、今度は前に回り込んできて、通せんぼをしてきた。


「ちょ、ちょっと止めてください」


「ねぇ、いいじゃん、ねぇ」


「尾畑さん」


 ナンパ男の向こう、聞き覚えのある声がする。


「南城くん」


「あぁ~ん、男ぉ? なんだよ男連れかよ。……まぁいいや、だったら君だけでもいいよ。俺と遊ぼうよ」


 なおも食い下がってくるナンパヤロー、しつこい。


「あんまりちょっかい出さないでくれないか? 分かるだろ。うちの連れなんだ」


「男にゃ用はネェよ。すっこんでろよ」


 南城くんに凄味をきかせる男。


「こんなところで揉め事はよそうよ」


 柔らかい口調だけど、目が真剣そのもの。しばらくにらみ合いが続いて。


「ちっ、男連れじゃあしゃ~ネェか。そんじゃあね、尾畑さん、またどっかで遊ぼうね」


 ようやくナンパ君は引き下がっていった。


 名前覚えてんじゃねぇよ!


 どうせすぐ忘れるんだろうけど。


「あ、ありがとう」


「ああ、いや、一人で四人分は大変かなと思って、様子見に来てよかったよ」


 そうだったんだ。助かったよぉ。


 それにかっこうよかった。胸がキュンとした。


「そんじゃあ、ここからは俺が運ぶよ」


 あっ、なんだか胸がドキドキする。


 ダメだよそんな、だって彼は芳美の……。






 あれから日を改めること数回、私は秘密のデートを重ねている。


 もちろん誘ってくるのは南城くんから。


 彼女がいるのにいいの?


 と思いながらも、断りもせず会っているのは私。


 最初のトキメキから数回、いけないことをしていると思っている緊張感も相まって、彼への想いは急加速する。


 このままじゃあいけない。


 このままだと、私は本気になってしまう。


 いけない、ダメだよと思うたびに更に想いは募るばかり。


「とぉもか、おはよう」


「お、おはよう芳美」


「あれ、どうしたの? なんか元気なくない?」


「なんでもないよ、なんでも……」


 南城くん達とは学校が違うからまだよかった。


 3人で話したりしたら、絶対ばれてしまう。


「ところでさぁ、今度また遊びに行こうよって話が出てるんだ。南城くん達と」


「えっ?」


「それで今度の土曜日空いてる? 日曜日でもいいけど、ボーリング行こうって」


 ダメだよダメ、断らなきゃ。


 でもなんて?


 理由がない。言えない。


「うん、空いてるよ」


 ダメだって! 絶対にばれちゃうよ。


 だって彼もその気になってきてるみたいなんだし、絶対にばれて私か芳美、どちらかがフラれちゃう。


 最悪二人とも、少なくとも友達ではいられなくなる可能性が高い。


「それじゃあ決まりだね」


 上機嫌で手帳に印を入れる芳美、このままでいいはずがない。


「あ、あの……」

「なに?」


 私が南城くんを諦めればいいんだ。


 だけどそれが出来るくらいなら?こんなに悩んだりしない。


 今言わなきゃ、そうすれば被害は今の時点で、最低に押さえられる。


「た、楽しみだね」


 私にはそんな意気地はなかった。






 でもやっぱり、このままでいいはずがない。


 私は決心を固めて、芳美の家に行った。


 明日はボーリングに行く約束の日だ。


「いらっしゃい、上がって」


 事前に連絡を入れていた、名目上は明日着ていく服を選ぶこと。


「どの服とどの服で迷ってるの?」


 あまり遅くなってもいけないので早速と、芳美は自分の洋服は既にセッティング済み。


 私も自分の服をカバンから出して並べる。


 だけどその前に、言わないと……。


「芳美……」


「なに? おっ、これ可愛いじゃない。色も綺麗ぇ」


「私ね」


「うん」


「南城くんのこと好きになっちゃったの」


 ここで黙りをしたら、また言えなくなっちゃう。


 私は勢いを付けて告白した。


「本当?」


 思い通りの反応……。


「やっとかぁ~」


 えっ? 思いがけない反応?


「もう! もう少し早く気付いてくれていれば、明日のボーリングの設定もしなくて済んだのに。まぁ、たまにはみんなで遊ぶのも悪くないし、別にいいんだけどね」


 はい? これは一体どういう事?

「い、いいの?」


「なにが?」

「だって、南城くんって、芳美の彼氏でしょ?」


「はぁ? ちょっと、それは中学生の頃の話でしょ? 朋香にはちゃんと言ったじゃん。覚えてないの?」


 えっ!? あれ、そんなこといつ?


「中学卒業の時に、お互いの性格の不一致で別れたって、随分前だよ。もしかしてそれで、彼のこと好きだって認められなかったの?」


「あ、いや、彼を好きになったのはずいぶん前、ただいけないことだって思って、ずっと言えなかった。えー、なんだそうだったの?」


「それはこっちの台詞だよ。大体私の今の彼は長尾くんの方、南城くんに紹介してもらってね。今じゃあ南城くんとはマブダチだからね」


 そうだったんだぁ~。


「そいで、そのお礼にあんたと会わせてあげたの。前に写真見せた時!気にいってたから、あんたに彼の写真見せた時も満更でもなかったし」


 私、南城くんのこと好きになって良かったんだ。


 そうとも知らずに悩んだりして。


「だけど、そのドキドキがまたたまんなかったりしたんでしょ?」


「もう、芳美ったら止めてよ。さ、早く明日の服決めちゃいましょ」


 昔からよく、人の話をちゃんと聞きましょうと言われる。


 今度のことで身につまされた。


 これを機に、本当に人の言葉にちゃんと耳を傾けるようにしよう。


 よーし、明日は後顧の憂いなく遊ぶぞぉ!!

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