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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
9/102

第 9 夜   『放課後スキャンダル』

語り部 : 小西盟子コニシメイコ

お相手 : 結城幸介ユウキコウスケ


盛立役 : 間菱沙也香マビシサヤカ

 あれ間違いなく彼だったよね。やばい絶対に誤解された。


 今日の放課後、バレーボール部の買い出しで、みんなで商店街にやってきて、気が付いたら男子部員の先輩と二人っきりになっていた。


 学園祭の催し物のための買い出しだったんだけど、みんな思い思いに材料集めに歩き回っていたから、あれはまるっきりの不可抗力だった。


 馬鹿話をしながら、端から見れば仲良くじゃれあっているようにしていたから、なんだか何を言っても言い訳になりそうだ。


 どうしよう、いつもなら、そんなの気にもしないけど、今はまずい。私にはそれだけの材料があった。



   第 9 夜

    『放課後スキャンダル』


 今から遡ること2週間前、部活は違うけど毎日一緒に帰るようにしている彼氏が、その日は用事があるからと言って先に帰った。


 メール一つで私を置いていくなんて! って怒り心頭で打ち込んだアタックは今までで最高の威力を持っていた。


 部活後、彼氏ができてからは一緒しなかったクラブメイトと、寄り道をしながらの帰り道、アイスクリームを片手にショーウインドーに展示されているファンシー雑貨を眺めていた。


「ねぇねぇ、メイ! あれって結城君じゃない?」

「えっ、幸介?」


 友達が指さす方向、そこには確かに今日、私を放ったらかしにしてさっさと帰ってしまった幸介が街頭を歩いていた。


「もう、用事があるとか言って部活まで休んで、こんなところで何を!? って、あれ誰?」


 幸介の隣に見たこともない女の子、あの制服は隣の市にある高校のものだ。


「これって、何? どういう事?」

「なになに、これってもしかして修羅場?」


 友達はおもしろがって煽ってくる、私の脳は一瞬で最高沸点まで到達した。


「ちょ、ちょっとメイ!」


 人をあおっておきながら、幸介の元に向かおうとする私を見て、慌てて止めようとする。


「離して! 二人を見失っちゃうでしょ!?」


 凄い剣幕だったんだと思う。

 彼女は掴んでいた私の二の腕を離し、ジッと押し黙ってしまった。


「幸介!」

「うん、おう盟子! もう部活終わったんだなって、ああ、もうこんな時間か」


 何その態度! 私を放ったらかしにして、別のと楽しそうにして!


「この、誰?」


「えっ、ああこの人は崇然すうぜん校の間菱沙也香さん、彼女は……」


「どうだっていいわよ! そんな事!?」


 自分から聞いておいて、それを制止して、もう完全に頭は暴走していた。


 話も聞かずに走り去り、後はメールも電話もシャットアウト。






 そして一週間が過ぎ、幸介の行動の意味を知ることになる。


「練習試合?」


 彼が所属している野球部は、大会を前に練習相手を探していた。


 顧問監督の先生が決めてきた試合の段取りで、向こうのマネージャーが書類を持ってきたとかで、先輩の命令で幸介が取りにいったと言うことだ。


 この周辺まで持ってきているんだから、学校まで持ってきてくれるのを待っていればいいのに、その先輩は「向こうのマネージャーに失礼だろ」って、トンチンカンなことを言い出したらしい。


 急に言われて慌てて飛び出したから、メールで最低限の説明を私に送り、後はここまでの経緯のまんまとなった。






「ごめんなさい!」


「ああ、いいよいいよ、愛情の裏返しだと思えば嬉しいよ。って恥ずいなこれは。けど盟子はいつも言ってるけど、もう少し人の話聞くようにしような」


 本当にいつも言われることなんだけど、なかなか直せないんだよね。


「まぁいいや、間違いだって解ったら、ちゃんと直ぐに謝ってくれるところは、本当に長所だと思うよ」


 いつも優しく甘やかしてくれるから、ついつい甘えちゃってるんだろうな。






 ああ、どうしよう。


 電話もメールも来ないよ。怒ってるのかな? やっぱり誤解されてるのかな?


 幸介はあんなこと気にして、勝手に誤解するタイプじゃないよ。


 そう思うんだけど、こっちから電話するのも怖いし、本当に怪しまられたら、どうしていいか分かんないよ。


 なんて考えながら登校、幸い彼の教室とは棟も違うから、ギリギリに教室に入ったら取り敢えずはセーフ。


 休憩時間、このままじゃあダメだよね。って思い、それも次の時間、次の時間って先送りにして、女子トイレや更衣室に逃げ込んでいたら、あっと言う間にお昼休み。


 普段なら私から彼の教室に行って、お昼ご飯も一緒するんだけど、どうしても行けない。


 でもご飯食べずにはいられないし、トイレや更衣室で食べることもできないから、本当に久しぶりに自分の席で、こっそりイソイソと食べてたら、幸介が目の前にやってきた。


 ふつうに考えたら、このパターンは想定内なんだけど、お昼も食べずに走ってきたみたい。汗がシャツに滲んでる。


「何かあった?」


「えっ、なんで? 何もないよ。あっ、ごめんね急いで食べ終わって、行かないといけない所あるから」


 咄嗟の嘘を信じてくれた幸介は、「ふーん……」っとだけ言って、出て行っちゃった。


 今の目、絶対に疑ってる。やっぱり誤解されてるよ。


 どうにかしなきゃ、このまま別れたりするのはヤダ!






 放課後、部活を休んで野球部の練習するグラウンドに行った。


 例の練習試合をやってる。


 幸介はまだレギュラーじゃないけど、この練習試合ではショートで出場していた。


「そう言えば、この紅白戦の活躍次第で、補欠ベンチ入りできるかもって言ってたっけ」


 私と彼との出会いはやっぱり野球部の試合。友達に誘われて応援をした時、六回に代打で出場し、その後も野手として頑張る彼を見てファンになった。


 お世辞にも上手とは言えないけど、野球を好きって気持ちは誰にも負けていない。


 懸命にプレーする姿に心打たれて惹かれるようになったんだ。


 後日お話しする機会があり、その時に恋に落ちた。


 けど今日の彼はどうだろう、全く試合に集中していない。


 何かに気をとられている様にも見える。なんとも単純な凡ミスをしてチームのピンチを広げてしまっている。


 チームメイトは「どんまい」って声を掛けてくれているけど、明らかに幸介のプレーにイライラしているのが解る。


「こーすけー、なにやってんのぉー」


 彼の顰めっ面にいたたまれなくなって、私は無意識に大きな声を出していた。


 一斉にその場にいた野球部員から、ギャラリーまでが私の方を向く。


 さすがに気圧されて、その場から逃げだしちゃう。


「ダメダメ、ちゃんと最後まで応援しなきゃ……」


 しばらく乱れる動悸を治めてから、グランドに戻った。


「あれ、終わっちゃってる」


 ウチのチームは負けちゃったみたい。


 幸介、どうしちゃったんだろ?


 彼の姿を追い求めてキョロキョロしてみるけど、どこにもいない。


「こら、盟子!」

「ひっ!?」


 ビックリした。振り返れば幸介が仁王立ちしている。


「遅いんだよ。もう少し早く来いよ。負けちゃったじゃないか」


「あ、私の所為?」


「いいや、負けたのは俺の所為だよ」


「……でもそうさせたのは私の所為かも」


「昨日部活の先輩といるところを俺に目撃されて、誤解されたとか思ったんだろう」


 図星です。


「そんなのミジンコほども思ってねぇのに、今日も学校に来てるのに、俺んとこに来ねぇから、もしかしたら誤解じゃなく本当に? 昼休みのあの態度見て、本気で誤解じゃなかったのかと思っちまったよ」


 昨日の事がではなく、今日の行動が彼に誤解を生ませた?


「そ、そうなの?」


「普段は悪いことしたときは、ちゃんと謝れるヤツなのに、やっぱあれか? この前こっちも同じ様な事あって、誤解したから昨日のもって思ったか?」


 だって本当に怖かったんだもの、私が幸介にしたみたいに怒鳴られて、口も聴いてもらえなくて、愛想尽かされないかって。


「逆にあんなことあったんだから、そんなんで疑うなんて有り得ないだろ」


 そうだろうけど、そうかもしれないけど……。


「俺を見くびんなよ。確かに告ってきたのは盟子からだったけど、俺の愛は、今や最強レベルなんだぜ! って、恥ずいなこれって」


 ごめんなさい。ありがとう。


「おいおい、泣き出したりするなよ。着替えてくるからよ。待っててくれよ」


「幸介ぇ~」


「あん?」


「レギュラー、なれそう?」


「あのなぁ、あんなプレーしてて、なれるわけないだろ。でも見てろよ! チャンスはまだまだあるんだ。直ぐにスタメン入りまでしてやるからな」


 うん、信じてる。


 これからも早とちりで、思い込んで迷惑かけるかもしれないけど、ずっと信じて見守ってるよ。

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