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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
86/102

第 86 夜   『イメージのままに』

語り部 : 美樹本紀亜ミキモトキア

お相手 : 甲塚吾人コウヅカアヒト


盛立役 : 千堂紀美センドウノリミ

      栗本美希クリモトミキ

      南条優香ナンジョウユウカ

      園宮瀬梨花ソノミヤセリカ

      木下満里奈キノシタマリナ

 八方美人で格好付けたがり、大ボラ吹きの無責任。


 そんなやつだからなのか、そんなやつなのにって言っていいのか、女の子にウケがよくって、と言うか男友達っているのかなアイツ。



   第 86 夜

    『イメージのままに』


「おっはよう、ミキちゃん、ユウカちゃん、おっ、セリカちゃんも今日もかわぅいねぇ」


 うちは普通科がなくって、国語科と英語科だけっていう学校で、全校生徒の8割以上が女子。


 クラスの中でも40人中6人だけ、なんて環境だからもてるんだよね。草食系男子。


 そんな中にいるから愛想のいいこいつ、甲塚吾人は人一倍、女の子ウケがいい。


 ルックスだけならこのクラスでは一番なのは、まぁ、私も認めている。


 ただ見てくれだけ良かったって、いい男だなんて言えないよね。


 その実、私はこいつが大ッ嫌いだった。


 なにが嫌いって、実際には噂でしか知らないけど、その不誠実さは、嫌悪するに十分だった。


「おはよう、美樹本さん」


 と言っても実害を被ったことも、目撃したこともないので、煙たくても無視するほどではない。


「おはよう……」


「昨日さ、美樹本さんが前にマリナちゃんに面白かったよ。って薦めてた本を見つけてさ」


 だからって、ここでお喋りしていってもいいとも、思わないんですけど。


「だけど手にとってビックリしたんだよね。あれって高いね。小説って文庫本しか買ったことないからさ」


「読みたいんなら貸そうか?」


 あんまりウダウダ喋っていたくもない。


 こんな話さっさと終わらせるのが一番だ。


「ああ、いやいいや、気が向いたら自分で買うから」


 本当、口先ばっかり……。


 私との会話の接点を失って、甲塚は離れていった。


「ねぇねぇ」


 代わりにやってきたのは千堂紀美ちゃん、朗らかで明るいスポーツ少女。


「なんで甲塚くんにいつもきつく当たるの?」


「なんでって、別にきつくしてるつもりないよ」


 どうも紀美ちゃんは本気であのアホのことが好きみたいで、よく目でアイツのことを追いかけている姿を見る。


 ただアイツの方が、紀美ちゃんはタイプとは違っているみたいで、他のみんなと同じようには接していないように見受けられる。


 そこはそれ、好みのタイプってのは本人次第だし、それを責める事なんて出来ないから、私としては女好きなら万遍なく相手しろよ。とも思う一方で、仕方ないのかなと感じる点でもあったりする。






 なぜ私がこいつと買い出しに行かなくてはならないのか……。


 学祭のための準備は、いつも早めに始められる。


 今年のうちのクラスはスイーツショップを開く予定で、お手製のジェラートやクッキー、パンケーキやフルーツポンチなどを、お茶やコーヒーで食べてもらう事となっている。


 最近は食べ物系の催しは、禁止してる学校もあるって聞くけど、うちは余程でない限り、先生からの待ったはかからない。


 フロア係は制服のまま、調理係も制服の上から、自前のエプロンを着る。


 IHヒーターやオーブンでその場で調理するのだけれど、電化製品は学校で借りられるから、必要なのは食材のみ。


 予算の大半を食材に当てられるので、味で勝負して模擬店投票一位を目指すことになっている。


 当日の調理係の責任者を仰せつかった私は、当然食材選びも任されてしまう。


 そしてこいつは荷物係と言うことだ。


 格好付けるための努力は惜しまないって、不純ではあるけど体を鍛えているから、荷物持ちにはもってこいなのだ。


 と言っても、ほとんどはお店から学校に送ってもらうし、今日は試作品のための材料を集めるだけだから、そんな力持ちはいらないんだけどね。


「美樹本さんって、いつから料理に凝り出すようになったの?」


 二人っきりなので、受け答えをしないと気まずさばかりが拡がるからな。


 そこそこ相手はしないといけないか。


「両親の影響だよ。うちは個人経営のスゥイーツショップだから、割と小さい頃からお菓子作りはお父さんからも、お母さんからも教わってたからね」


 高校の学園祭だから、そんなに本格的な物は出せないけど、他のクラスに負けないようにと、ここ数日はレシピ作りで、寝る時間が大幅に減っているのが悩みの種だけど。


「あんまり根つめちゃあダメだよ、体壊したら元も子もないんだから」


「……ありがとう」


 変な先入観なしに接していれば、会話の幅も効かせてくれるし、いい感じで買い出しも楽しめるんだろうけど。


 私にはこの手のチャラ男を嫌うのには歴とした理由がある。


 それは中学時代、生まれて初めての告白を受けて、生まれて初めての男女交際を承諾して、だけどそいつはもの凄くなつっこい男で、甲塚みたいにあっちにもこっちにも、いい顔を向けるヤツだった。


 そう言うタイプってもてる人多いのかな?


 その彼もいろんな子から告白を受けていた。


 それでも他の誰かとつき合って、二叉したりとか、私のことを捨てて他の女に走ったりとかはなかったんだけど、それはそれでやっかみを生む結果となり、私はいろんな女子から嫌がらせを受けることがあった。


 揉め事なんて誰も望んでないよね。


 私だってそう、その事を彼に話したら、放っておけばいいよ。と一蹴するのみ。


 放っておいてどうにかなるはずもないからね。


 私は嫌がらせをしてくる子達に注意するか、もう他の子に愛想を振りまいたりしないように、ってお願いしたのに、どちらも聞き入れてもらえなかった。


 耐えられなくなって、別れ話を切り出したら、何時間もかけて説得しようとしてくる。


 それなのに私の願いは、聞き入れてくれない。


 堂々巡りを経ていても、結論は出るはずもなく、翌日からも今まで通りにしていこうとする彼を、一切相手にはせず、そんな状態を2週間くらい続けた辺りで彼は諦めて、疎遠になってしばらく、他の子からの嫌がらせも減っていった。


 そんなことがあったからだろう。


 私はこの手のタイプの男を信用できないでいる。


「ねぇ、甲塚……」

「なに?」


「なんで、あんた、いつもあんなに愛想ばっかり振りまいてんの?」


「振りまいてって、別にそういうつもりじゃあないんだけどな。……けどそう見えるんならそうなのかな?」


 肯定も否定もなしか、本当にいい加減なんだなぁ。


「けど強いて言うなら、俺んちの環境の所為かな?」


 環境?


「生まれた時から賑やかなところで育ったからね。そこにいる子には分け隔てなく接してこないといけなかったから」


 甲塚の家って……。


「俺の家、協会なんだよ。ちょっと訳ありの子供を預かっている施設でもあるんだ」


 そう言えば、そんな話も聞いたことがあるな。あれって本当だったんだ。


「じゃあなんで、その分け隔てなくって言うのを、クラスの子にもやってあげないの?」


「えっ? なんのこと?」


 しらばっくれるつもりなのか、やっぱりいい加減なのか、それとも自覚がないのか?


「千堂紀美ちゃん、知ってるでしょ」


「ああ、彼女の事か、……えーっと、あんまり人に言うような話じゃあないんだけど」


「なによ、ここまで話したんだから、はっきり言っちゃいなさいよ」


「他言無用だよ」


「もちろん! 信用しなさい」


「それじゃあ、えっと千堂さんとかね、俺のことが好きだって言ってくれる子とは!ちょっと距離を置きたいんだ。その、俺にも好きな子がいるからね」


「そう、だったんだ」


 こうして話していると、いろいろとイメージと違う、この感じに途惑いを覚えてしまう。


 甲塚ってやっぱりいい格好しいだけど、いい加減ではないのかもしれない。


「好きな子って誰? 聞いてもいい?」


 これはタダの好奇心。


 ちょっと聞いてみたくなっただけなんだけど。


「ははは、ここまで話しておいて、言わないわけにはいかないか……」


 えっと、いやなら別にいいんだけど……。


「美樹本さん!」

「はい?」


「俺、ずっと君のことが好きだったんだ」

「……はい?」


 思わず手に持っている袋を落としそうななった。


「ゴールデンウィーク前のことなんだけど覚えてる? ボランティアで児童教室の子供達の相手をしに行った時のこと」


 うちの学校では、定期的にグループ毎に奉仕活動をすることになっている。


 私のグループには甲塚もいて、一緒にあてがわれたボランティアに参加した。


 私は子供達のためにケーキを作って持って行ったんだよね。


 その時のこと……。


「覚えてるよ」


「美樹本さんって、もの凄く子供達に人気あったでしょ? 子供って、自分たちを好きかどうかって事に敏感だからね」


 家は築20年を超える団地だからね。


 小学生の頃から近所の子供相手に、一緒に遊ぶことはしょっちゅうだったから、今でも小さい子の相手は嫌いじゃあないし。


「その時の光景がすごくいいなって思って、それからかな」


 って理由がまともだ。ってことはつまり本当の事……?


「え、ええ、私? なんで、だって私」


「ああ、うん美樹本さんって、俺のこと嫌ってそうだもんね」


「いや、嫌ってるって言うか、その、私が苦手なのは、君みたいに周りに愛想振りまいて、チャラチャラしてる人なんだけど」


 ただ今日、話してみて嫌なイメージは一掃されたけど。


 今、彼に感じてるままに感想を述べてみれば、決して敬遠することもなくなっている。


「そっか、うん、分かったよ。……それじゃあまた、これ明日学校に持って行けばいいんだよね。じゃあねぇ」


 そう言って、私の返事も聞かずに帰って行った。






 次の日から甲塚の態度は一変した。


 今までのなつっこいキャラを返上して、落ち着いた振る舞いを見せている。


 みんな何気なく戸惑っていたけど、また新手の演出かと、誰も深くは突っ込む人はいなかった。


「おはよう紀亜ちゃん」

「おはよう紀美ちゃん」


「ねぇねぇ聞いて、甲塚くん、私にもちゃんと挨拶してくれたんだよ。なんか雰囲気違うけど、ああ言った落ち着いた彼もいいよね」


 紀美ちゃんの彼が好きって言うの、結構ミーハーで言ってたんだな。


 でもこの変貌って、間違いなく私のためだよな。


 ドキドキが止まんない。


 一時的なことだとしても、私のことを想ってくれてるから、ああしてくれてるんだもんね。


 けど!どう言えばいいのかが分からない。


 昨日思いっきり好きじゃあないみたいなこと言っちゃってるからな。


 とにかく慌てず騒がず、ゆっくり考えてみるしかないか。


 だけど彼の態度の変化はそればかりじゃあなかった。


「美樹本さん、一緒に帰ろう」


 私へのアピールが増している。






 噂は瞬く間に拡がって、彼の積極的な態度を袖で振る。


 私はあっと言う間に、悪女呼ばわりされるようになる。


「美樹本さん、あなた吾人くんのことどう思ってるの? 彼、あのままなんて可哀相じゃない?」


 そんなこと言われても……。


「本当、あなたがこんな人とは思わなかったわ」


 周囲を囲まれて、あれやこれやと言われると、昔の嫌な思い出が蘇る。


「やめてくれよ。美樹本さんはなにも悪くないよ。俺が勝手に押してるだけなんだから。頼むから温かく見守っててくれないかな? 絶対に彼女のこと落としてみせるから」


 甲塚登場!


 衝撃が体中を走った。


 そして体は心に反して、行動を起こす。


 その場にいられなくなって走り出す。


 とにかく誰もいない場所、校舎の裏へ。私は全力で走った。


「どうしよう、もうだめだ。私、本気で彼のこと……」


「本当?」


「甲塚くん!?」


 まさか追いかけてくれていたなんて思っていなかった。


 今の聞かれた?


「今のって、良い方に捕らえていいんだよね。そう言うニュアンスの口調だったもんね」


「ああ、えっと、その……、一つだけ約束してもらってもいい?」


「うん、なになに?」


 私は一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。そして……。


「私のために自分をねじ曲げたりしないで。けどあんまり周りに愛想振りまきすぎないで。もっとあなたのこと私に教えて。それから、えーっと、えーっとぉ……」


「一つじゃあないね。……とにかくそれじゃあ先ずは、ちゃんと話をしよう。お互いが歩み寄れるように」


「うん、じゃあ一つずつ、ね」


 この日を境に私達は交際宣言をした。


 周りの反響は相変わらず大きいけど、これからは二人で問題を解決していける。


 きっと上手くやっていける。

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