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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
85/102

第 85 夜   『思いの丈をぶつけて』

語り部 : 北田命キタダメイ

お相手 : 大宮政伸オオミヤマサノブ


盛立役 : 佐川可南子サガワカナコ

      平家直人ヘイケナオト

 あの子は昔っから、私のことを振り回して、人が文句を言わないのをいいことに、私に対して気を使えないのは当たり前。


 だけど私だって堪忍袋の緒が切れる事だってあるんだよ!



   第 85 夜

    『思いの丈をぶつけて』


 あの子がつき合っている彼氏と一緒に行く予定だった、人気アーティストのライブコンサート。


 しかし彼が所属している剣道部が他校との合同合宿があるとかで、可南子はあっさりとふられてしまった。


 コンサートチケットは何ヶ月も前から予約して手に入れた物、順番としては先月末に決定した合宿の方が後となる。


「先にした約束の方が、大事だと思わない?」


「うーん、人間関係の方が大事だってのも、あると思うよ」


「やーん、命が意地悪だぁ。やっぱり約束は守らないとダメなんだって」


「そんなだだっ子みたいに泣いたって、どうにもならないって、分かってんでしょ?」


 彼に我が儘を言ってもしょうがないことはこの子も分かっているから、こうして私に愚痴をこぼしているわけで、だけどその愚痴をこぼされる私のことは、気遣ってくれないんだよなぁ、いつだって。


「まぁ、いいや」


 だったら最初から言うな。


「今日は楽しもうね」


 彼氏の代役は私、それもまぁ、いつもの事ね。


 私、つき合ってる人も好きな人もいないし、休みの日に遊ぼうって言う友達は、大抵はこの可南子だから、このチョイスは間違ってはいないけど。


「だけどよく取れたね。SUTERAのチケットって、なかなか取れないんでしょ?」


「そりゃあね、直人が大ファンでさ。あちこち当たって、ようやくってところ」


 なるほどね。


 彼のために取ったチケットなのに、その彼が来れなくなったとなれば、文句の一つも言いたくなるか。


「野外だっけ? 珍しいね。明るいうちからコンサートだなんて」


「うん、午前中から初めて、今度は移動して夜にもライブするんだって。すごいよね」


 でもそうか、私もSUTERAは結構好きだから、タダでライブに行けるんなら、今度ばっかりは直人くんに感謝でも言っておこうか、心の中で。


「あ、ちょっとごめん、電話……、直人からだ。いったいなんだろう?」


 彼は彼で気を遣ってのことだろうか? 電話までかけてきて、ご機嫌取りかな?


「えぇ、えっ、本当? それで、ふんふん、30分? だったら間に合うね」


 うん? なんだろうこの会話、なんだか悪い予感が……。


「うん、じゃあ」


 電話を切った可南子がこちらを向く。


「ごめん!」


「へっ?」


 なんだか一気にやな予感が直感に。


「彼、来れるようになったんだって、向こうの学校の都合で、今日の合宿は取りやめになって、練習も自由参加になったんだって、顧問の先生が来れなくなったとかで」


 うそでしょ、この展開……、もしかしなくても今のごめんなさいは。


「また、今度埋め合わせするから!」


 まぁ、そうなるわよね。


「ああ、いいって、いいって、元々直人くんが楽しみにしてたんでしょ? 二人で楽しんできてね」


 本当はいいわけないんだけど、ここで私がごねても、どうにかなるわけでもない。


「じゃあね、私行くね」

「ばいばい」


 ……。


「なにが、ばいばいなんだか」


 可南子の姿が見えなくなるまで見送って、私は帰ろうとしてバス停に向かう。


「北田さん?」


「えっ、大宮くん?」


 彼は同じクラスの大宮政伸くん、たまにお喋りするけど、穏やかで落ち着いた雰囲気の、大人しい男の子。


「どこ行くの?」


 行くんじゃなくて帰るんだけどな。


 この時間に外にいるのに、もう帰るところなんて、誰も思わないか。


「私は今から帰るところ」

「帰る? って、朝早くからどこかに行ってたとか?」


 まぁ、普通そうなるよね。


 私はどうやってお茶を濁すのかと、本当のことを言おうかという二つの選択に頭を悩ませた。


「ああ、えーっと……」


 彼の顔は人懐っこく、私はついついさっきあったことを、彼に聞いてもらった。


 まだ朝メニューの出されているファーストフード店に行き、一部始終を語った。


「ふーん」

「非道いと思わない?」


「そうだね。でもなんでだろう? 北田さん、口で言うほど佐川さんのこと怒ってないように聞こえるけど」


 おお、なかなか鋭いなぁ。


「そりゃあね、あの子とはもう、幼稚園の頃からの付き合いだし、こんな事も、もうしょっちゅう。今の彼とは比較的仲良くやってるけど、今までも非道いこといっぱいあったし」


 今日の予定は特にないという大宮くんに、私は次から次に可南子との珍事を披露しまくった。


 大宮くんは私がそんなに怒ってないだろうと言うけど、実際腹を立てているのは本当で、人間機嫌が悪い時は、結構お腹に物が入るもんで。


「ああ! 私、ハンバーガー4個も食べちゃった。カロリー高いのにぃ」


 それもこれも可南子の所為だ。


「けど、喋って食べてして、気分はどう?」


「う、うん……、スッキリ、した、……かな?」


「それはなにより、じゃあさ、今のカロリーを消費しに、どっか行こうか? 俺、今月は財布の中も余裕あるし、ホンの少しなら大丈夫だし」


「そんな、悪いよ。私、このお店で予定外に使っちゃったし、もうあんまり持ち合わせないし」


「デートしてくれるんなら、そこはそれ、男持ちって事で」


 デートって? あ、やだ変に意識して顔が赤くなってる私。


 ニコニコ顔でそんなこと言われたら、その気になっちゃうよ?


 たぶん他意はないんだろうけどさ。


 と言うことで、私達はカラオケに行った。


 大きな声で思いっきり発散。


 生演奏聞けなかったけど、こうなったら自分で歌うしかない。


 私は懇親の思いを込めて、SUTERAの歌を熱唱した。


「上手いなぁ。声もいいし」


「ありがとう、でもそんなに気を遣ってくれなくてもいいよ」


 お互い数曲歌った後は、ちょっとお喋りタイム。


 そんなに喋ったこともないから、聞きたいことは山ほど、趣味とか、好きなテレビ番組とか、好物とか、苦手な食べ物とか、そんな他愛もないこと。


「えぇ、彼女いないんだ? 本当にぃ」


「そんなのいたら、今日のこれってちょっと問題だよね」


「確かにねぇ。あっ、と言うことは私にも彼氏がいないって、ばれてるとか?」


「ああ、えっと、その気で誘ったのは確かだけど」


 彼氏のいない女の子を誘うってどういう気分なんだろう?


 それを確認しようと思ったら、終了時間のお知らせが入った。


「うーん、楽しかった。ゴメンね。カラオケ代全部出してもらって」


「いやいや、礼には及びませんって、姫の機嫌が直ってくれたなら、小生は本望の至り」


「なにそれ、時代背景バラバラだよ」


「それじゃあ、また学校で」


 なんだか不思議な気分、大宮くんって、あんなに面白い人だったんだ。


 イヤな気分は全てどこかに行った。


 その日の夜、可南子がやってきていつものように謝ってくれた。


「本当にゴメンね。ダメな事だってのは分かってるんだけど、命にならって、甘えが生まれちゃって、他の人にはこんな事、絶対しないのに、一番嫌われたくない人なのに、どうしてもこうなっちゃって、ダメだね私」


 いつもならここで、グチグチこぼすんだけど、なんだか今日はオールオッケーで許しちゃった。


 明日もお休みだから、可南子はそのまま私の家でお泊まり。


 お互い今日の出来事を報告し合った。


「直人ってば今日、合宿なくなったって言うの嘘だったんだよ。本当はね、ちゃんと部活にも出ないといけなかったんだけど、先輩に嘘付いて休もうとしてたんだって。けどそんなんじゃあ楽しめないでしょ? だから私、今日はいいから部活に出てって言ったの」


「へぇ、珍しいね」


 そのパターンなら、そのままライブに行ってそうなもんだけど。


「うん、けど命に言われたでしょ? 他の人との人間関係も大事だって、今日休んだことで、クラブに居づらくなったら大変だもんね」


「じゃあ、ライブは?」


「うん、命に電話したんだけど、繋がらなくて、しょうがなく翔子を呼んで二人で行っちゃった。あんなに楽しみにしてたのに、私の所為でゴメンね」


 そうだったんだ。ちょっと残念。


 ……あれっ? そんなでもないや。


「本当は今日の可南子の仕打ち、もう絶対に許してやんないって思ってたんだけど、私もね、ある人に色々聞いてもらって、気持ちがすごく楽になったんだ」


 今度は私の番、大宮くんと出会って、一緒に過ごした事を話した。


「へぇ、じゃあ大宮くんのお陰で私も大目玉を食らわずにすんだんだね」


「そうだね。可南子も彼に感謝しないとね」


「なんか命、彼のこと話している間、本当に嬉しそうにしてるね。……もしかして惚れた?」


「えっ?」


 私が? 彼に?


 どうなんだろう……。






 可南子があんな事言うから、変に意識しちゃって、お泊まりがあったその明くる日からの学校では、終始彼の視線が気になって、ずっと気分が上付いていた。


 何度か話しかけられていたのに、ほとんど無視しているような状態で、そんなことがある度に、私は自己嫌悪に陥った。


 間違いない、私は彼を意識している。


 好きかどうかまでははっきりしないけど、好意を抱き始めていることは確かだ。


 なのにならなんで逃げ回る?


 私は自問自答を繰り返しながらも、彼を避けるような行為を続けていた。


「命、大丈夫?」


「うぅー、大丈夫じゃあないかも……」


 意識すればするほどに、彼のことで胸がいっぱいになっていく感じ。


「北田さん」

「はひっ?」


 気が弛んでいるところに大宮くん登場、完全にマヌケな返事をしてしまった。


「……ちょっといいかな? 場所変えたいんだけど」


 あう、なんだろう……、最近態度が悪かったから、気を悪くしちゃったのかな。


 やだな私、たぶん大宮くんのこと好きになってるはずなのに、……気まずい。


「えーっと、もしかして俺のこと、警戒しちゃってる?」


 あまり人通りのない非常階段の踊り場まで来て、彼が口を開いた。


「え、なんで?」


 あんまり唐突な質問に、構えることなく返事が出来た。


「この間、ちょっと調子に乗りすぎたのかなって、そんなに親しくないのにズケズケ入り込むような事して」


「あ、うぅうん、あの時は本当に楽しかったし、感謝してる」


「だけど、この頃ずっと俺のこと、意図的に遠ざけてるよね」


 ああ、やっぱりそう思われていた。


 どうしよう、本当のことを言った方がいいんだろうけど、そんなこと出来るぐらいなら、こんなに悩まないよ。


「その子ね」


「え、可南子?」


「大宮くんのことが好きになっちゃったんだよ。だから態度がおかしくなってたんだ」


「ちょ、可南子!?」


「間違ってないでしょ? 私の目はごまかせないもの」


 それはそうだろうけど、私達の間で隠し事はできないって分かってるけど。


「なんだぁ、そう言うことかぁ」


 それを聞いて深くため息を吐いたのは大宮くん?


「いや、俺絶対フライングしたって思って、どう軌道修正すればいいのか本当に分かんなくてさ」


 言ってることが分かんない。


「正直チャンスだと思ったんだ、ダウナーなオーラを出している君を見かけた時、ここで畳みかければ、俺のカブを上げられるんじゃあないのかって」


 いや、だから何言ってるのか分かんないって。


「大宮くんはずっと命のことが好きだったんだよね。でもどうアプローチしていいか分からないから、いつも話しかけるチャンス伺って、学校ではたまにしか話せなくてもどかしくて、やっとチャンスが巡ってきたんだもんね」


「そう、なの?」

「うん」


 それじゃあ私達、両想いって事?


「回りくどい事してゴメン。俺、すぐにいろいろ考え過ぎちゃって動けなくなる性格でさ。本当にまどろっこしくてゴメン。出来たらこれからも二人でカラオケとか、他のこともしたいって思ってるんだけど」


「あ、はい喜んで」


 それは何よりも嬉しい言葉だった。


 私達はしばらくその場所にいた。理由は私がまだ落ち着きを取り戻していないから。






 その日の帰り道、家の近所まで来て可南子と二人っきり。


「けど、可南子はいつから気付いてたの?」


「大宮くんが命のこと好きかもって思ったこと?」


「うん」


「彼の態度見てたら大体はね。確信に繋がったのは、あの日のことを命から聞いた時。まぁ、命は気付いてないなとも思ったけど」


 どうせ私は鈍感女ですよぉだ。


「でも良かったじゃない。なんか私も嬉しいよ」


「そうだね、これからは私も!可南子のこと振り回さないとね」


「ええ、やだよぉ。それは私の専売特許だから」


「なによそれ、そんなの許されるわけないでしょ」


「私なら許されるもーん、それにこれからは、何かあったら大宮くんにも泣きつけるもーん」


「だめぇ!?」


「へへっ、うそうそ」


「うー……」


 私はこんなだから自分の気持ちを表に出すのも苦手だし、人の本音を見抜くのも下手だけど、自分に正直なこの子のお陰で、彼と気持ちを通じ合えることが出来た。


 これからも可南子には振り回されるんだろうけど、私達の友情には全くかげりを感じることはない。


「可南子、これからもよろしくね親友」


「こちらこそ親友」


 可南子は白い歯を覗かせて、ピースサインをかざして答えてくれた。

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