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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
84/102

第 84 夜   『メールで繋がる関係』

語り部 : 柊沙由理ヒイラギサユリ

お相手 : 脇田純平ワキタジュンペイ


盛立役 : 神林真理子カンバヤシマリコ

 お父さんの仕事の関係で彼が遠くに引っ越すことになった。


 あんまり無理に遠距離恋愛とかしても、お互いしんどいだけだし、私達は小さな恋に一つのピリオドを打った。



   第 84 夜

    『メールで繋がる関係』


 同じ日本で住んでいても学生の身では、そんなに頻繁に合うことも出来ない距離、そんな私達にとって携帯電話やメール、SNSというのは、非常に強い武器となってくれた。


 交際はやめても,友達まで止める必要はない。


 私は大事な友人と化した脇田純平からのメールを読んでいた。


「えっ? 彼女が出来た!? うっそー!? だって引っ越してまだ一月だよ。いくらなんでも早くない?」


 いや、早くはないか、そうかぁ、もう一月になるんだ。


 あ、でもやっぱり、もの凄くショックかも。


 ……いやいやそんなことで沈んでいてどうする。


 あいつだって前を向いて、一歩足を前に踏み出したんだし。


「よーし、私だって」


 新しい恋を見つけて、今度はこっちから写真送らなきゃ。






 また、フラれちゃった。


 って、今度の彼も前の彼も、みんな同じ事を言う。


 私はそんなつもりないのに、なんでそんな風に取られるんだろう?


 うぅうん、たぶん無意識のうちにそういう風に、誤解を生む振る舞いになっているんだろう。


「あ、メール、……向こうもまたダメになったんだ」


 告白されたり、私からアプローチをかけたり、もう3人目になる相手との別れの傷も癒えないところに、純平からのメール、彼もかれこれ4人目の破局。


 なんでだろう、自分の恋の終わりに心を痛めはしているけど、……そんなに沈んではいない。


 それに彼の不幸の知らせを読んで、なぜか気持ちが楽になった。なぜ?






 何かあると誰よりも早く、彼に連絡を入れて、その助言を中心に物事を決めてきた。


 その行動がいつも交際相手の癇に障り、怒りをかう。


 いつもばれないようにメールしているはずなのに、なんで人の携帯チェックするようなことするかな?


 結果として、大げんかにしかならないもんね。


 彼はただの友達だって説明しても、聞く耳も持ってもらえない。


 男って、本当に幼稚なんだから。


「だから違うって、言ってるじゃない」


「何が違うんだよ。大体ただの友達って言うなら、なんでそんなにそいつの意見を尊重するんだ? 俺の言うこと聞けない理由が、そいつが言ってるからって、どういう事だよ」


 いや、それは違う。


「別に彼の言葉を優先している訳じゃない。私の意見が正しいか確認しただけよ」


 今回の件は私自身が理解できないでいて、それについての助言を純平に求めたに過ぎない。


「それなら俺に言えよ。俺だって自分の言葉が全部正しいなんて思ってないよ。違うって思うんならまず俺に言えよ」


 いや、あんた最初から聞く耳なんて、もってなかったでしょ?


「大体誰かに聞きたいんなら、女友達だっているだろ? なんでそんな昔の男に連絡するんだよ!?」


 ああ、やっぱりそうだ。


 結局元彼と今でも仲良くして、自分より先に、そっちの言うことを聞いているから気にくわないんだ。


 どいつもこいつも同じだ。


「もういいわよ。結局私のことが信用できないって事なんでしょ?」


「なんだよその言い方、元をただせば、そっちが俺を信用してないって事だろ?」


 元々の議論の原因は些細なことだったはずだ。


 だけどいつもこんな風に、最終的には、純平のことで火種が大きくなる。


 こうなるとどうしようもない、いくら彼は友達だって言っても聞いてはくれない。純平が元彼だと言うことが、引っ掛かっているのだろう。


「だからもういいって、私のことが信じられなくなったんでしょ? 終わりにしましょう」


「なに言ってんだよ。……俺、絶対お前と別れないからな」


 ……この展開は初めてだ。


「とにかく、この事はまた落ち着いてから、もう一度話し合おう」


 そう言うと彼は、今日はこれでと言って帰っていった。


 今までは私が何かと新しい彼氏と純平を比べてしまって、それが気に入らないくてケンカになり、果てに別れ話に発展する。


「別れないって……」


 私は困惑していた。






 彼の別れないという理由は、最悪の方向に進んでいった。


 あの時は話し合うと言っていたのに、そんな素振りは見せることもなく、思うままに行動をするようになった。


「だからなんで、私があんたの友達に会わないといけないの? 顔も知らない人とデートする謂われなんて、どこにもないでしょ」


 もうそれは、ただの嫌がらせとしか思えない事を口走りだした。


 いい格好して、自分の彼女を友達に自慢し、その友達が一度でいいからデートをしたいと言うと、俺の言うことなら何でも聞くと言ったのだろう、私に対して強く要請をしてくるようになった。


 大体が自分の彼女を他の男とつき合わせるってこと自体が、理解できないのに、それを強要する男の言葉の何を信じろと言うのか。


 私はもうあんたとも会わないから、その友達とも会うことはないと言ったのに、あいつはことある毎に目の前に現れては、デートを迫ってきた。


 これが世に言うストーカーってヤツだ。


 私はとりあえず、自分の親に相談。


 その後、親の同伴で学校と警察に行った。


 これで解決する。ってそんな簡単な話ではないケースが多いから、注意はしないといけない


「もしもぉ~し」


「純平?」


「おお、珍しいな。電話かけてくるなんて、どうかしたか?」


 いつもはあまり気を使わせないようにと、メールで済ませているコミュニケーションを、今回はそれでは収まらず、私は気が付いたら彼にコールをしていた。


「ああ、そんな事になってるのか」


「私、どうしたらいいのかな?」


「とりあえずそいつの嫌がらせの方は、学校と警察で厳重注意してくれるんだろ? じゃあ当分は様子を見るしかないんじゃあないか?」


「そ、そう言う事じゃあなくって」


「俺、考えたんだけど、ちょっと馴れ合いすぎてないか俺達。友達であることはいいとしても、なにからなにまで、側にいる奴らより尊重しすぎだったんだよ」


 だって、誰よりも信頼できる人だから。


「俺さ、今度の彼女とは結構上手くやれてるんだ。って、今気付いたんだけど、君とのやり取りを面白くなくって、今までの子達は嫌気がさしたんじゃないかと思う。だからもう少し慎重にやっていくよ」


「それって、私達のこの関係も、もう終わりって事かな?」


 なんだか無性に心がかき乱されていく。


 心がざわめく。彼女との関係が良好? それはよかったね。友達として祝福のエールを送ってあげるよ。


「終わりって言うのは大げさだけどさ、あんまり粗末な理由で相談事みたいに、メールのやり取りするのは考え直した方がいいかなって」


「だって、私には純平しか相談できる相手いないんだよ」


「いるだろ、側にいてくれる友達なら、何人も」


 だけど、純平みたいに親身になってくれる友達なんて……。


 そうか、私はたとえ距離が離れても、ずっと心は側にいたいんだ。


 いつだって純平の直ぐ側に私はいたんだ。


 デジタルフォトフレームでスライド写真に映し出される彼の顔、会いたい、今すぐ会いたい。


 声だけじゃあ寂しいよ。写真じゃ心が伝わらないよ。


「純平、私、私、ダメだよ。あなたじゃなきゃ! あなたじゃなきゃダメなんだよ」


「沙由理?」


 電話の向こう、彼の優しい声が心配してくれる。


 今やっと気付いた。自分がどうしたいのか。






「なに見てんの?」


「うーん、ああ真理子、お疲れ」


「うん、お疲れ、いよいよ明日だね」


「へへ、本当に今回は、なにからなにまでお世話になりました」


「まぁ、けちけちウエディングだからね。学生上がりがいきなり結婚なんだから。ってそれより最初の質問、一体なに見てんの?」


「ああ、これ? 彼とのメール、ちょっと思い出に浸ってみました」


「おうおう、妬けるね。しっかしよく続いたもんよね、あんた達。私だったら遠距離恋愛なんて、とても続けられないわよ」


「うーんと、それはたぶん私達もそう思って、一度はキッパリ別れたから続いたというか」


「はぁ? よう分からんわ。それじゃあ帰るね、また明日」


「うん、また明日。よろしくね」


「はいはぁーい」


 彼女を見送り、私はまたメールを見た。


 本当に色んな事があった。大変なこともあった。


 あのストーカー男は割と小心者で、警察からの勧告に素直に従って、私にちょっかいを出すのを止めた。


 新しい彼女と上手くいきそうだと言っていた純平も、結局その後すぐに別れることとなった。


 私達は正式に遠距離恋愛をすることを宣言し、その後は順風満帆……とはいかなかったものの、長年にわたり愛を育み、大学卒業と共に結婚することとなった。


 もし私達が最初から、遠距離でも交際を続けていこうと言っていたら、どうなっていただろう? おそらく自然消滅の上で、別々の道を進んでいたに違いない。


 何はともあれ、明日、私達は晴れの舞台を迎えます。

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