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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
83/102

第 83 夜   『情報最前線』

語り部 : 岸野武登キシノタケト

お相手 : 魚住梓ウオズミアズサ


盛立役 : 大和田結香オオワダユカ

      鳴伴元気ナルトモゲンキ

 あんなに全身で感情表現する子に、好意を寄せられるのは悪い気はしない。


 だけど彼女がはしゃげば、はしゃぐだけ心が痛くなる。


 だって俺は彼女に何度も何度も「ごめんなさい」と言ってきているのだから。



   第 83 夜

    『情報最前線』


 キッカケはなんだったのかは分からない。


 彼女に聞いたら笑顔で「ないしょ」と言われたことがある。


「どうかした? 武登くん?」


「あ、いや、そろそろ現れるんじゃあないかって」


 彼女とのデートの最中、これはもう癖になってしまっている。


 辺りを探るような行動。


「たっけと君♪」


「魚住さん、やっぱり今日も来たんだね」


「あったり前でしょ。武登くんが今度の彼女との初デートだよ。黙って待ってられないもの」


 いや、これは俺とこっちの彼女とのデートであって、君には関係ないんだからさ。


 前の彼女の時も毎回現れて、最終的には、彼女にこの子が何かを言って、どうもそれが原因で、破局となった経緯がある。


「あなたが魚住梓さん? 初めまして、私、岸野武登くんとお付き合いしている大和田結香です」


「初めましてぇ。ねぇ今日は映画を見に行くんだよね」


「なんでそれを、どこで?」


「世の中情報が命だよ。なんちゃって、昨日の教室で、二人で楽しそうに喋ってたでしょ」


 それを聞いていたのか。


 油断も隙もないもんだ。


 って、その話していた時に魚住さん側にいたかな?


「それっじゃ行こうか?」


「って、君とは行かないって」


 さも当たり前のように言われても、誰も首を縦に振ったりしないよ。


「一緒に行くなんて言ってないよ。たまたま目的地が一緒になるだけだから」


 それって付いてくるって事でしょうに。


「勘弁してよ」


「いいんじゃない? 別に映画見るくらい。でも見終わったら素直に帰ってね」


 そんな余裕見せていていいの? 


 だって彼女の情報網って、舐めていると痛い目に。


「そうそう、大和田さん、4組の鳴伴くんの事なんだけどさ」


「えっ? ああ、ちょっと魚住さん、ちょっとだけ向こう行かない?」


 ほら、なんか地雷踏んだでしょ?


 二人は俺を置いて、物陰に行ってしまった。


 しばらくして帰ってきたのは魚住さんだけ。


 もう彼女との付き合いは始まってもないのに、これで終わりかな?


「彼女帰っちゃった。じゃあ映画行こうか?」


「だから行かないって。なんでいつもこういうことするの?」


「だって、大和田さん武登くんと鳴伴くんの二股かけてたんだよ」


 それをちらつかせて、退散させたってわけだ。


 でもそれで帰ってしまうくらいだから、俺には脈はないな。


「ねぇ、どうせだから行こうよぉ」


「魚住さん、いつも言ってるように、君とつき合うつもりは俺にはないよ」


「いいよ、今はそれでも、でもいつかきっと、こっち向かせるんだもん」


 と言っても、俺は第一印象でかなり引いてしまっているから、なかなか靡くというのは難しいと思う。


 と言うか、今もあまり言葉を交わしていたくないと思っている。






 彼女の情報網は、本当に正確で早い。


 将来報道の仕事に就きたいと言うのだが、だからと言って、他人の個人情報にまで踏み込んでくるのはどうかと思う。


 そんな風に感じるようになったのには訳があり、それは今年の春のこと、入学早々声を掛けられて、振り返ったそこには魚住さんが満面の笑みで立っていた。


 割と好みのタイプだったのでドキドキしたけど、俺が周りには伏せている事に、いきなり触れてきた時は驚いた。


 小学生の頃、事故にあって左足を複雑骨折した俺は、長期のリハビリで回復して、普通の生活をするのには、支障がないようにはなったものの、本格的にスポーツをやることは出来ず、その事故までは毎日のようにやっていたサッカーも出来なくなっていた。


 学校の授業ではお茶を濁せても、部活に出られるほどには治ることはなかった。


 その事故についても実のところ、あまりちゃんと覚えていない俺に、彼女は本当に事細かく説明してくれた。


 それで俺は怖くなったのだ。


 彼女に関わると全て丸裸にされてしまうような、そんな錯覚に襲われて。


 とにかく彼女によって、終わりを向かえたのはこれで二人目。


 断っても断っても言い寄ってくる彼女に対処しようと、別の彼女を作ったのだが、二人とも瞬殺されてしまって、どうしたものか……。


 それにしてもなんであの子は、出会って間もない俺のことを、好きだと言えたのだろうか。


 本人に確認してもナイショとしか言わないし、ここは目には目をと言うことで、彼女のことを探ってみるのもいいかもしれない。






 この辺りだよな、彼女の家。


 魚住さんは先生に呼ばれて職員室に行った。


 その隙に下校したのだが、それで今の俺は、彼女の家の前に立っている。


「はい、どちら様?」


 出てきたのは彼女のお母さんだ。


 先ずは家の人に魚住さんと、仲のいい友達のことを聞いてみようと思ったのだが。


「あれ、もしかしてあなた、岸野武登くん? へぇ、梓から聞いてたけど、本当に同じ学校になったのね」


 これまた途惑い。


 俺は一体どこで彼女のお母さんと会ったのだろうか?


 それについて詳しく聞こうとしたところに、魚住さんが帰宅してきた。


「なにしてるの、こんなところで?」


「梓お帰りなさい。なんだか懐かしいわね、もっと早く連れてきてくれればよかったのに。さあさあ上がって上がって」


 俺は遠慮無く中へ。


 魚住さんが着替えてくるまで、お母さんと話し込んだ。


 話題は昔話。


 俺達が小学生の頃の話だ。


「武登くん……」


 彼女が着替えを終えた。


「ちょっといい?」


 場所を彼女の部屋に移す。


「話、聞いたよね」


「うん、おそらく君が俺のことを好意に思ってくれる、理由なのだろうと思う話を」


 俺達は小学生の頃に、一度だけ会っていた。


 夕方の公園、俺は友達とその日も飽きずにサッカーをしていたその帰り道。


 なんだか危ない走りをする、一台の乗用車。


 歩道には俺達以外にも多くの人がいた。


 暴走する車にいち早く気付いた俺の友達が、大きな声を上げたから、その周囲にいた人たちは、蜘蛛の子を散らすように飛び退いた。


 ただ一人、女の子が少し遅れて、突っ込んでくる車を避けることが出来なかった。


 咄嗟だった。


 反射的に体が勝手に動いたんだ。


 女の子を突き飛ばした俺は車と接触、辛うじて触れる程度だったので、命に別状はなかったものの足を骨折。


 ただそれも最悪なことに、足の骨が皮膚を破って出てくるほどの、見るからに重症の複雑骨折。


 長い間の治療と、リハビリを余儀なくされた。


 せめてもの救いは、俺が突き飛ばした女の子が無傷だと教えてたこと。


「けど、本当は無傷ではなかったんだよね。左手首だって? 動かせなくなったの」


「う、うん。けど痛みがある訳じゃあないから、手を使う競技以外は体育の授業も問題ないんだよ。曲げられなくなっただけだから」


 俺達をはね飛ばした車を運転していたのは、当時有名だった代議士の息子、酒気帯び運転をしていたらしい。


 ただその事件は公には、別の人間が事故を起こした事になっていた。


 噂は噂を呼んで、大きく報道はされたけど真相は闇の中。


「私がジャーナリズムの世界を目指すようになったのは、その時の報道を見てからなの」


 本当のことが知りたい。


 そう言った思いから進路を定めて、独自の勉強と訓練を行っている。


「そうか、それで俺の過去を知っていたんだな。なんだ、俺はてっきり、俺のこともその勉強の一環で調べられたのかと」


「え、そんな事しないよ。人のプライベートに無闇にくちばし突っ込んだりしない」


「だけど俺とつき合ってた彼女達のことは?」


「ああ、それは武登くんとつき合うのに相応しい子かどうか、検証してただけだよ。いくらこっちを振り向いて欲しいからって、自分から嫌われるようなことしないよ」


 それならそうと、はっきり言っておいてもらわないと、俺、その嫌う方向性で君のこと見てたよ。


 そうか、それで魚住さんは俺のこと、最初から知ってたんだな。入学式で見かけて、名前を確認して俺だと分かり、声を掛けてきたのだ。


 全ては誤解から始まって、ずっと警戒してきた。


 今まで悪いことをしてきたな。


「なんか恥ずかしいね。改めて話すと」


「いや、俺は今日来てよかったよ。本当に」


 でもだからって、直ぐにこの子のことを好きになったり出来ないし、おそらくしばらくは逃げ回ることしかできないだろう。


 けど、状況は変わった。


 もしかしたら俺の隣に魚住さんが並んで、いつか一緒に街を歩く日が来るかもしれない。


 そんな思いが心に生まれたことは本当だ。

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