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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
81/102

第 81 夜   『女子として』

語り部 : 秋森美恵奈アキモリミエナ

お相手 : 玄代宗助ゲンダイソウスケ


盛立役 : 望月好江モチヅキヨシエ

 つき合い長いから知ってるけど、あの子って、本当に家事全般嫌いなのよね。


 洗濯も部屋の掃除もお母さんに任せているし、料理も、学校の家庭科ですら、まともに担当もこなせなかった。


 それがどういう訳か、料理が作れるようになりたいとお願いされた。


 ちょうど今度の土曜日はお母さんがいないから、キッチンも自由に使える。


 だから教えに来てと言われた。



   第 81 夜

    『女子として』


 明日は彼氏と出かける予定。


 その約束の確認に電話していた。


「そうなのよ。結局、お母さんが同窓会でいないからって、私に家族の食事を作らせるつもりだったの」


「それじゃあ望月さんは、料理を覚える気はなかったって事?」


「あ、うぅうん、それは本当。覚える気はあるみたい。だからお母さんに任せろって言ってね。一応ね、ハンバーグの具の分量と、焼きのタイミングは私が見たけど、後は好江がやったんだよ」


「それでどうだった?」


「はははっ、味付けは私がしたからね。絶品だったよ」


「自分でよく言うよ。でもまぁ確かに美恵奈のメシは、何食っても上手いからな」


「ありがとう。でもね。焼き加減はまずまずだったんだけどバラバラで、でもうん、おいしかったし、本人もやる気は無くさなかったから」


 私はレシピをメモにして渡した。


「その時になんで私に聞いたのか? なんでお母さんに教わらないのかって聞いたのよ」


 家の中で料理を教えてくれる一番の先生は、やっぱりお母さんだと思うんだけど、あの子は私に先生をお願いしてきた。


「なんで? って聞いたら、「だってお母さんだと、怒られる方が多いんだもん」だって、好江って確かに怒られるの、人一倍嫌ってるからね」


 だけど、今まで避けてきていた割に飲み込みは早かったし、本人がやる気になったのなら遠からず、いい物が作れるようになるはずだ。


 高校1年生女子として、女子力をアップさせたい。いいよね。


「ああ、もうこんな時間だ。それじゃあ明日、9時に。明日は三本映画見るんだからね。ちゃんと寝ておいてよ。それじゃあ」


 電話を切って、時計を見る。


 もう日が変わろうとしている。


 だけど私の前には拡げられた洋服の数々、まだ明日着る服が決まっていない。


 その中に一着、他の物とは明らかに違う毛色の服がある。


「これ、本当に私が着るの? 好江ぇ~」






 本当にいい天気だ。


 天気予報によれば、今日は一日中お日様が見えるだろうって。


 確かに気温の上昇も順調だ。


 ちょっと肌の露出が多い服装になっちゃってるけど、今日の気候なら問題ない。


 そっちの問題はないけど、昨日の事を思い出しながら、改めて自分の格好を確認すると……。


 リブレースのタンクトップにカーディガンを羽織って、ティアードスカートはちょっと丈が短すぎたかな?


 高いヒールのグラディエーターサンダルはあまり履き慣れていないから、転びそうでちょっと怖い。


 好江のコーディネイト、昨日のお礼にと貸してくれた。


「本当にいいの?」


「いいのいいの、美恵奈って家事は完璧でも、ファッションは言っちゃあなんだけど、ちょっといつも同じようなのばっかりでさ。たまには違った風のも悪くないでしょ?」


「う、うん。かわいい。……けど、ちょっと胸が苦しい」


「ぶー、どうせ私はあんたみたいにスタイルよくないわよ」


 身長は同じくらいだから問題ないけど、胸は一回り違うから着てみないとと試着。ああ、でも大丈夫。


「それとこれ、メイク道具も」


「え、でも私、本当にお化粧なんて知らないから、これはいいよ」


「なに言ってんの? 進学するにしろ就職するにしろ、この先必要になるもんだよ。覚えないといけないよ」


 確かにね。けど私は将来的にもあまり気張ったメイクをする気はないんだけどな。


「明日は特別だよ。だから頑張って」


 そう言われて持たされたけど、私はどうメイクしていいのかも、まだ分かっていない。


 事情を説明して、朝から大学生のお姉ちゃんにメイクアップしてもらったけど、こんな面倒な事を毎日しないといけなくなるんだな。


 なるべく薄化粧で、自分にあったメイク術を身につけないとな。


 私の今日の衣装のチェックをしてくれたお姉ちゃんの評価は良好だった。


 後は彼の到着を待つばかりだ。


「お待たせぇ~……、なんか今日は気合い入ってるね」


 彼の感触もいい感じ、かな?


 好江のチョイスとお姉ちゃんのコーデメイクも完璧みたい。


「先に教えてくれていれば、俺も頑張ってオシャレしてきたのに」


「あ、うぅうん、そんなには気にしないで。私が洒落気がなさ過ぎるから、好江が気にしてくれただけだから」


 って、それにしても、この格好は確かに気合い入りすぎに感じるかな。


「行こっか? もうすぐ一本目の上映時間だ」

「うん」


 とは言うものの、ヒールなんて一度も履いたことないから、歩くのが大変。


「腕、捕まってもいいかな?」

「お、おお!」


 ちょっとビックリした顔してる。


 腕組んで歩くのも初めてだもんね。


 だけどこんな格好して、転んだりだけはしたくないし。


 私があんまり早く動けない格好で来ちゃったから、映画館に着いたのはギリギリの時間だった。


 けどえいがは座席指定でチケットとってくれたから、映画はバッチリいいポジションで見ることが出来た。


 一件目の後は昼食を挟んで午後から、二本立て続けで見ることになっている。


 お昼ご飯のために、アーケードの商店街へ移動した。


「何にする? 今日三本も見るから節約したいけど……」


 彼は私の装いを改めて眺めて。


「ファミレスにでも行こうか」


 出費の多いときは、うどん屋さんとかにしてるけど、今日のスタイルは色んな事を気付かされる。


 こういった格好をするのは楽しいけど、色んな事に気をつけないといけないのって大変。ご飯食べるのも。


 時間が決まっているから、あまりのんびりと食べてもいらんない。


 だけど慌てて食べて、借りている服を汚すわけにもいかない。


「なんか緊張し過ぎて、食べたものがどこに入ったか、分かんなかったや」


 なんていいながら次の劇場へ。

 2本目は話題のホラー物。


 あまり得意でもないのに、つい彼の趣味に合わせて首を縦に振ってしまった。


 今日は外でも中でも、彼の腕に捕まりっぱなし。


「はぁ、もう喉痛いや」


「目一杯叫んでたもんな。さて、次の映画、時間もうないから移動しようか」


 3本目は私のリクエストで、コメディータッチのラブロマンスへ。


 一本目のアクション映画は熱く手を握りしめた。


 ホラー映画では全身に力が籠もっていた。


 これで3本目まで力のはいる映画にしたら、心身ともに果ててしまいそうだし、最後なんだからシットリしたいしね。






 はぁ、今日は本当に充実した、いい日だよ。


 最後にちょっと河辺の散歩道を歩き、公園で腰を下ろす。


「ゴメンね。今日一日捕まったまんまだったね」


「うぅうん、いいよいいよ。俺としては、距離が縮んだみたいで嬉しかったし」


 そう言ってくれるとホッとする。


 勝手な事して迷惑かけただけなんて、救われないもんね。


 風が気持ちいい。


 服をどうするか悩んでいたから、ちょっとだけ寝不足で、こう、心地いい風に晒されていると、なんだか眠くなる。


「うん? って宗助くん!?」


 いきなりキスされた。


 つき合いだして3ヶ月、今まで手だってろくに握ってくれたこともなかったのに。


「あ、あれ、ああ、えっと、……ゴメン。なんだか今日はすごく積極的だったから、いいのかなって」


 ……ああ、そうか、私の今日の格好も振る舞いも、彼からすれば誘っているように見えていたのか。


「謝らなくてもいいよ。確かにそんなつもりじゃあなかったけど、宗助くんと、もっと仲良くなれたのはすごく嬉しいから」


 もしかして。


 女子力を高めるというのはいろんな自分を発見し、進化していくって事なのかな?


 今日の衣装は好江に返さないといけないけど、今度自分用の勝負服を買いに行こう。


 好江やお姉ちゃんに相談して、これからはもっと女らしく、自分の知らない新しい自分を発見していこう。

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