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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
78/102

第 78 夜   『夢の中では』

語り部 : 大橋椿オオハシツバキ

お相手 : 立石誠蔵タテイシセイゾウ


盛立役 : 多々良明夫(タタラアキオ)

      尾藤一樹ビトウカズキ

      新前珠紀ニイマエタマキ

      常盤昌美トキワマサミ

 ここ数日同じ夢を見ている。


 正確には同じではないけど、その終わりの場面はほとんど同じ、場所、相手、シチュエーション。


 その夢を見るまでは、特にそうでもなかった彼のことが、どうしようもなく気になってしまう。


 うぅうん、違う。


 気になっていたから、夢に見るようになったんだ。


 夢を見ることで、無自覚から意識する対象に替わっただけだ。



   第 78 夜

    『夢の中では』


 意識しだしたことが、良いのか悪いのかは分からない。


 だけど自覚したことでまずいことが一つ発生した。


「やっぱり立石くんの事が好きだったんだ」


 彼は仲の良いグループの中の一人で、グループ内の男女間では、私と一番仲が良いとみんなに言われている。


「うーん、確かに誠蔵くんといると楽しいのは本当だよ。だけど特別に感じた事なんてなかったのに、夢で見るようになるまでは本当に」


 そうそう、その問題なんですけど。


「あ、おはよう多々良くん、立石くん」


「おはよう二人とも、今日もかわいいね」


「多々良くん、朝から絶好調だね」


「おはよう、新前さん」


「おはよう立石くん」


 珠紀ちゃんが二人に挨拶する後ろから顔を出す。


「おっす椿ちゃん」


「お、おは、よう」


 ダメだぁ、誠蔵くんの顔が直視できない。


「どうかしたの?」


「う、うぅうん、大丈夫だよ。なんでもない、なんでもない」


 笑って誤魔化すしかないよ、ここは。


 ちょっと珠紀ちゃんは多々良くんに何を話してるのかな?


 多々良くんの顔を見れば分かるぞ。


 おかしな私の態度を気にしながらも、追求はせずに誠蔵くんは話題を変えてくれて、その場は難を逃れることが出来たけど、このままじゃあダメだよね。






「ふーん、やっと認めたのね。本当にやっと」


 グループ内のもう一人の女の子、今年は別のクラスになっちゃった、常磐昌美ちゃんにも報告。


 昼食はいつもこの3人だけ、男子3人、多々良くんと誠蔵くん、別のクラスになっちゃった最後の一人、尾藤くんは食堂に行っていてここにはいない。


「それより珠紀ちゃん、多々良くんにも話しちゃったでしょ?」


「うん、一樹にも言っておいてねって」


 嬉しい友情だよ。本当に。


「それでどうするの? ちゃんと告白するの?」


 それなんですよ。昌美ちゃん。


「この子ね。立石くんの顔見た途端に固まっちゃったんだよ。あんなに軽口叩いてた子が借りてきた猫状態」


「へぇ」


 ああ、この後の展開が手に取るように分かる。


「よし、後のことは私たちに任せなさい」


 そうなるよね。


 去年、多々良くんと昌美ちゃんをくっつけた時みたいにね。


「もういっそ尾藤くんともまとまっちゃたら?」


「ないよ、それは。一樹って子供の頃からゲームにしか興味ないし、今だって女の子に興味示さないでしょ?」


「確かに」


 そんなことより、本当にやるの?


 私たちが昌美ちゃんの時に取った手段は、季節が季節だったので非常に稚拙で単純だったけど、夜の森の中で行った肝試し。


 人一倍恐がりな昌美ちゃんは泣き出しちゃったけど、その姿に多々良くんは完全に落ちちゃったんだよね。


 まぁ、元々惹かれあっていた二人だったから、あの時は私たちが勝手に判断して、適当に行動しただけなのに、結果として二人は結ばれたんだよね。


「誰もお願いも相談もしてないのに、勝手しちゃってさ」


「じゃあ余計なお節介だった?」


「……感謝してるわよ。だから! 今度は恩返し」


 絶対に面白がってるって、その目は。


 でも私はその結果というのに、ちょっと不安を抱いていた。


「だからそれって本気だからでしょ? 本気だから不安になる。大丈夫だって、絶対に誠蔵くんなら椿を受け止めてくれるよ」


「昌美ちゃん……、そんな嬉しいことを、そんな面白そうな目で言わないでよ」


 私がよく見る夢は、いつも違うのに結末だけが同じ、私は誠蔵くんに告白をして、そしてフラれる。


 支離滅裂で繋がりもない場面の展開、でも最後にはいつも学校の屋上、夕日が空を真っ赤に染めて、そして一言「今まで通り、俺達は友達のままでいよう」そう言われる。


「だから考えすぎだって。とにかく椿は腹をくくって、待ってればいいの」


「うん、後のことは任せておいて椿ちゃん。私と昌美ちゃんで、きっと二人をくっつけてあげる」


「それなんだけどさぁ」


 うおっ!? ビックリした。多々良くん! いつの間に?


「とりあえず誠にそれとなく探り入れたんだけど、あいつ、難しい顔して何か考え込んじゃっててさ。ド直球は避けて、ちょっと手を考えた方がいいぜ」


 私の後ろから登場した多々良くんは、ちょっと難しい顔で悩んでいる。


「ところで立石くんは?」


「あいつなら一が相手してる。新しいゲーム手に入れたとかで、ポータブル機片手にはしゃいでいた。教師に見つかって、没収されなけりゃいいけどな」


「またあいつは、そんな物を持ってきて!」


 珠紀ちゃんは本当に尾藤くんの良きお姉さんなのよね。


 幼馴染みだからって、フラグが立つなんて、それこそ尾藤くんが好きなゲームや、昌美ちゃんの好きなラノベの世界でなきゃなかなか……。


「うーん、何か考え込んでかぁ~、ちょっと明夫くん、いいかな?」


 昼食を済ませて、多々良くんと昌美ちゃんは教室を出て行った。


「ふー……、ねぇ珠紀ちゃん」


「なに? 椿ちゃん」


「私、たぶん誠蔵くんと彼氏彼女になれたら嬉しいと思うよ。だけど変な事言って、今の関係すら失うようなことになったら、……それが怖いの」


「うん、だから今度は慎重に行動する。約束するよ。だから安心して」


「……うん、分かった」


 確かに今のままじゃあ、彼の顔もまともに見れないもんね。そんなのイヤだもん。






 あれから10日が過ぎた。


 最近は誠蔵くんと二人でお弁当を食べることが多い。


 多々良くんと昌美ちゃん、尾藤くんと珠紀ちゃんは別々に、なんだかよく分からない用事を作って、他の教室に行っている。


 先ずは私が意識しすぎて、誠蔵くんとの間に壁を作っていることを、どうにかしようと言う話なんだけど。


 これって逆効果だよ。


 誠蔵くんは詮索もしないで、ずっと黙ってお箸を動かすだけ。


 ちっとも楽しそうな顔をしていない。


 このツーショットを作られるようになって五日、最初は饒舌に話しかけてくれていたんだけど、私が愛想笑いのような相槌しか出来ていないから、もう今はそれも諦めたといった感じ。


 食後も誠蔵くんはどこかに行ったりはしないけど、特に話題を作ってくれることもない。私の前で小説を読んでいる。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ」


 こう言って目の前からいなくなって、私の緊張は緩和されて大きく息をはき出す始末。


「いつまで続けるの?」


 他の教室に行っているはずの昌美ちゃんに話しかけられる。


「って言うか、いつまで緊張状態が解けないの?」


 私は長く伸ばした髪の毛を括ることなく流しているから、耳にイヤホンマイクをはめていてもばれたりしない。


 携帯電話越しに指示をくれているんだけど、どうしても行動に移せない。


 こんな事、本当にいつまで続けるのかしら?


 って、全て自分がチキンな所為なんだけど、いい加減このままだと、本当に愛想つかれそう。


「うーん、これは思いのほか手強いわね。ショック療法を取れば意外と腹も括れると思ったけど、もしかしてあんた椿の偽物?」


 昌美ちゃんって、やっぱりどこか楽しんでるよね。


「こうなったら作戦変更!」


 今度は一体何を目論んでいるのか……。






 こ、これが作戦ですか?


 いきなり校庭の片隅に呼び出して、直接告白ですか?


 場所が屋上でなければ夢なんて気にすることないなんて……。


 そこを気にしてくれるんなら、夕方のこんなに空が赤く染まる時間も、避けて欲しかったよ。


「おーい、椿ちゃん、お待たせ。何? こんなところで話って」


 私のフリして手紙送って、こんなところで決着付けろって? 任せておけって言ってたのは、どうしたんだ!?


「ああ、あの、えっとね」


 そうだ! ここで思い切って言っちゃえば、この緊張からも解かれるんだ。


 正直、自分の心の弱さにうんざりだ。いけぇー!


「誠蔵くん、私ね。……、その、えっと、別になにかが変わって欲しいとか、そう言うんじゃあないけど、私の気持ち、その、知っていて欲しくて」


 誠蔵くんは何も言わない。

 ジッと黙って私の話を聞いてくれている。


「あの、その、えーっと、ね。その、私……、私! あなたのことが好きなんです。特別なんです。友達以上なんです、もっともっとなんです。だから」


「今まで通り、友達のままじゃあダメかな?」

「えっ?」


 それは正に夢の通りだった。


 やだ、泣いちゃう! 我慢できない!!


「って、言ったんだって?」

「……?」


「夢の中の俺?」


 なんで誠蔵くんがその事を知ってるの?


「まったく、あいつらはさ」


 あいつらって……、昌美ちゃん達?


「ごめんな。最初からみんな聞いていたのにさ。どうせなら椿ちゃんの口から気持ちを聞きたいだろ。って言われててさ」


 申し訳なさげに頬を右人差し指でかいている。


 困ったことがある時に取る行動だ。


「って、俺もその話にのっかっちゃったんだから、あいつらのこと言えないよな」


 誠蔵くんの視線を追うと、そこには昌美ちゃん達がいた。


「だけどおもしろ半分ばっかじゃあないんだぜ。何かあると直ぐに萎縮しちゃう椿ちゃんに、ちょっと刺激を与えようって言うのも、本当にあったらしいぜ。もっともただの綺麗事だけどね」


 昌美ちゃんの性格なら、確かにそれも理解できるかな。


「さてと、俺の本当の返事だよな。……俺さ、正直言ってずっと椿ちゃんのこと、新前さんや常磐さんと同じように思っていた。いや、気付いていなかったのかな?」


 そうか、だから友達のままでいようって……。


「今回の話を聞かされて、初めて考えたんだ。初めて考えて、俺は君のことが好きなんだって認識した」


 えっ?


「自分の事なのに、他人事みたいに言うのはナンセンスだな。……君のことが好きだ。きっとずっと好きだったと思う。だから」


 私の体は無意識に動いていた。


 彼の胸に飛び込んで一頻り泣いた。


 この後、涙のかれた目はきっと腫れ上がって真っ赤になって、酷い有様だと思う。


 だけど真っ赤な夕日はきっと、赤い目もまだ火照っている頬の赤さも隠してくれている。


 良い仲間と大好きな人、私たちの高校生活はまだ一年以上残っている。


 その後、別々の道を歩むことになったとしても、私たちの友情はずっと続いていく。


 私たちの恋もずっと……。


 さぁ、残るは一組だ。

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