表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
77/102

第 77 夜   『鉄の女』

語り部 : 町戸正登マチドマサト

お相手 : 里中礼子サトナカレイコ


盛立役 : 筒井陽大ツツイヨウダイ

 今つき合っている人とかいますか?

 いないけど。


 じゃあ好きな人は?

 生憎それもいないわね。


 それじゃあ俺とつき合って下さい。

 えっ?


 ああ、NOの言葉は聞きませんよ。今フリーなんでしょ?

 だったらお試し期間と言うことで。



   第 77 夜

    『鉄の女』


 今日の放課後迎えに行きます。


 そう言って別れて自分の教室へ。


「お前、本当に里中礼子に告ってきたの?」


「おう、言いたいことだけ言って、押し切ってきた」


「よくやるよ。しかしお前のマゾっ気って本物だったんだな? あの里中を選ぶなんて」


「みんな誤解してるだけだよ。彼女は絶対にいい女なんだって」


 貴重な昼休みを使って、一大決心して言ったんだ。このチャンス、絶対ものにしてみせる。


 とは言え、果たして里中さん相手に、一体何をすればいいのか。


 彼女とはクラスも違うし、選択授業も違う。


 おそらく向こうは、俺のことをほとんど知らないだろう。


 彼女は“鉄面皮”という、女の子に当てるなんてどれだけ失礼なんだ。というあだ名が付いている。


 鬼の風紀委員長。


 理論的に言葉を選んで相手を追い込む。


 素行の悪い生徒も、彼女の前では口ごもってしまう。


 先生達の信頼も厚く、成績も高めの彼女は、校内一の有名人と言えるだろう。


 授業中だというのに、彼女とのデートのことばかり考えてしまう。


「よし! とりあえずは、そこから切り出していくか」

「なにをだ? 町戸」


 教師にもお約束の突っ込みを受けて、いざいざ放課後です。


 なのですが、生憎の掃除当番。


 やばい! 言ってないぞ。


 もしかして先に帰ってしまわれたか。


「あ、いたいた。お待たせぇ」

「あっ、う、うん」


 教室の自分の机に着いて、ちゃんと待っていてくれた。


「遅くなってゴメンね。もしかしたら先に帰っちゃったかもって、少し焦ったよ」


「なぜ? 約束したんだから、先に帰ったりなんてしないわよ」


 確かにそう言うイメージだよな。


「それじゃあ帰ろう」


「あ、あのそれなんだけど、町戸くん」

「正登でいいよ」


「え、そんないきなり……」

「俺はそう呼んで欲しいんだよ」


「そっ? それじゃあ正登くん、なんで私なの?」


 メガネの奥の瞳は胡乱とし、いつもの毅然とした彼女の表情しか知らない者から見れば、本当に新鮮に見えるだろう。


「それについては歩きながら……、俺ん家、結構君の家に近いの知ってた?」


「えっ? あ、う、うん。そうだよね」


 おお、俺のことを知ってくれている?


 なんか嬉しいじゃないか。


「俺も君のことを名前の方で呼んでもいい?」


「あ、はい、正登くんがそうしたいのなら」


「じゃあ礼ちゃんって呼ぶね」


 やっぱり思った通り、彼女は素直そのものだ。


 みんなが思っているような、堅物ではないんだよ。


 さて帰り道。


 俺は彼女に俺のことをどれくらい知っているのかを聞いてみた。


「2年6組、出席番号24番、成績は常に上位、部活動への参加はなし。けれどスポーツは決して苦手ではなく、去年の球技大会ではバスケに参加、クラスの準優勝に貢献した。ってことくらいかな」


 知っていてくれたんなら尚のこと、俺が告白してから調べたのだとしても、現状これだけ知ってくれているってだけで、もう満足だ。


「あの、そろそろ私の質問にも答えてもらってもいいかな?」


「ところで礼ちゃんって、なんでオールバックなの? びんびんに引っ張ってるよね」


 後頭部で一本に縛って、肩胛骨くらいまで伸びてるかな? 束にして垂らしている。


「もう少し括る位置高くしてポニーテールにすればいいのに」


「私、見て分かると思うんだけど、天然のウェーブが強くて、しっかり引っ張っておかないとすごいことになるの。引っ張って括るにはこの位置が一番楽なの」


 ほぅ、なるほどね。


「それじゃあそのメガネは? 似合ってない訳じゃあないけど、縁取りの太いメガネって、きつい印象与えない?」


「わ、私、実は対人赤面症で、その、今みたいにジッと見られたら動けなくなっちゃうの」


 彼女が作り出した鉄のような無表情は、身を守るための物のようだ。


「あの、そろそろ私の質問……」


「ああ、ごめんごめん、答える為に聞いてたんだけど。思った通りの答えをくれた事に、先ずは一安心だよ」


 キョトンとしてしまっている彼女。


「えっとね、俺の勝手なイメージなんだけど、みんなが言うような冷たい印象って、きっと理由があって、ちゃんと話をすれば馴染みやすいだろうって、そんなことを考え出したら、色々と気になりだして、礼ちゃんと仲良くなりたいと、色々知りたいと思ったんだよ」


「そ、そうなんだ……」


「あのさ、明後日の休み、どこか行こうよ」


 これからが本題だ。


 とにかく今は攻めに攻めて、彼女に俺を認めさせないと。


「どこか行きたいところある?」


「あの、えーっと、それじゃあ動物園とか」


「お、いいね。オッケーオッケー、それじゃあ明後日、そうだなぁ……朝の10時くらいでいい?」


「あ、はい」


 よし、初デートにこぎ着けたぞ。気合い入れていこう。






 いい天気だ。


 は、いいけど、やばい。遅れた。


 彼女、今時まだ携帯も持ってないって言うし、出る時に家に電話したらもう出た後だって言うし。


 一応俺の携帯番号は教えておいたけど。とにかく急げ!


 急いでるんだよこれでも、だけどどうにも言い訳がきく遅刻じゃないな。20分も遅れるなんて。


 待ち合わせ場所。


 息せき切ってたどり着くと、彼女の姿が見あたらない。


 怒って帰っちゃったかな?


「おはよう、正登くん」


「えっ? ああおはよ……、おお!」


 声を掛けられて、そちらを向いた俺は驚いた。


 彼女は花柄のワンピースにソフィアハットだっけ? つばの広い帽子がよく似合っている。


 それよりもだ。


「メガネなくて大丈夫なの?」


「あ、コンタクトレンズ入れてるから」


 ああ、なるほど。それと髪の毛、全部下ろして前髪だけ髪留めで揃えている。


 この前に言っていたとおり、彼女の髪の毛はウェーブが強く、もの凄く髪の量が多く感じる。


「見違えるもんだねぇ」


「へ、変かな?」


「変じゃないよ。いつもの十倍増しにかわいいよ。いつもの凛々しい姿もいいけどね」


「ま、正登くんって口が上手いからなぁ。信用していいのか、いまいち分かんないよ」


「何気に酷い事言うよね」


「ああ、ごめんなさい」


「おっと誤らない誤らない。俺、嬉しいんだから。っと、それより遅れてゴメンね」


 さて行きますか。


「お、町戸じゃん、どっか行くの? って、その子誰? お前の彼女? かわいい子連れてんじゃん」


「おお、筒井か」


 駅の改札前でクラスメイトに会い、軽く質問を受ける。


「お前って里中とつき合うとか言ってなかったか? いきなり二叉かよ。まぁいいか、この事は黙っててやるよ」


 俺は何とも答えていないのに、勝手に思い込んで、結論づけて筒井は去っていった。


「ねっ、かわいいって言ってただろ?」


 礼ちゃんは耳まで真っ赤にして俯いていた。


 一分一秒、一緒にいるだけでいろんな彼女を発見できる。楽しいな。






 朝、登校すると筒井の周りにヤロー共が固まっていた。


「おっす」


「おー、来た来た。町戸ぉ、昨日のことなんだけど」


 数人が沸き立っているのは、筒井が携帯で撮った、昨日の礼ちゃんの写真。いつの間に……。


 謎の美少女についての検証だそうだ。


 さてどうしよう。


 彼女はあのメガネと髪型でバリアーを張っているんだよな。


「おーい、町戸、お客さん」


 別の方向から呼ばれた。


「はいはぁーい」


 とりあえず時間を置いて、どう説明するか考えよう。


「おはよう正登くん」


「おはよう礼ちゃん、って今日もコンタクトなんだ。なんか嬉しいな」


 昨日「俺個人的にはメガネじゃあない方が好きかな」って言ったからかな?


「ああー! まさか」


 筒井の声? こっちに指向けている。あっ、もしかして気付いたか?


「だろだろ?」


「えっ、しかし本当に里中なのか?」


 ばれたな。


 まだ始業まで10分あるな。


「礼ちゃんちょっと」


 教室内がざわめき立ってるけど、そっちは後回し、とりあえずこの状況を彼女にも把握しておいてもらわないと。


「えーっとこれ、昨日言ってた参考書、まだ家の近所の本屋さんに残ってたから」


「それはわざわざありがとう」


 ってそれどころじゃあないな。


 おれは彼女の耳元で囁き掛ける。


「ええっ? それは困ります」


 だよね。礼ちゃんは極度の人見知りを隠すためにカモフラージュしてきたんだもんね。


「大丈夫だよ。俺がフォローするから。っていうか、みんなに本当の君を知ってもらうチャンスだとは思うんだけど。って俺まだ君の正式な恋人になった訳じゃあないけど」


「困る」


「えっ? ああ大丈夫ってのは軽はずみすぎたかな。上手い手を考えないとね」


「そうじゃない、今さら恋人じゃあないなんて言われても、私困る」


「それって……」


「責任、とって下さい。今回のことも、……私の心を奪ったことも」


 そうだね。


 俺、きっとこれは本当にみんなに知ってもらうチャンスだと思う。


 二人で頑張ろう。恋も、人間関係も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ