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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
76/102

第 76 夜   『ウエイトコントロール』

お相手 : 萩倉美樹ハギクラミキ


盛立役 : 松方雄哉マツカタユウヤ

 何かあると直ぐに泣きついてくるあいつ、根気がないし無計画、やる気は見せるけど、長続きしないんだよな。



   第 76 夜

    『ウエイトコントロール』


 小学生の頃からのつき合いで、ことある毎に泣きつかれること早6年。


 俺達もとうとう高校生、示し合わせた訳じゃないのに同じ高校に入り、通算何年目になるのか、今年も同じクラスになった。


「私、今度こそしっかりダイエット成功させる!」


 またか……。


「本当に本当なの、来月は私の誕生日でしょ? その日までに後2センチ、ウエストを絞るの」


 今度は体重じゃあないんだな。


「しかし今年何回目だ? 毎回毎回、続いても10日、大体は一週間で断念するじゃないか」


「今度は違うの。だからお願いに来たんじゃない。私じゃあまた、3日しか保たないから」


 俺と組んでも一週間だもんな。


「誕生日までって、もう2週間しかないじゃないか。そうなると10日やそこらで成果を上げないといけないことになる」


 美樹がダイエットと言って騒ぎ出す時は、いつだって人から何か言われたとか、画期的なダイエット方法を見つけたとかなのだが。


「絶対の絶対なの。どうしてもやせた私を見て欲しいから!」


 誰かのために? そんなことは初めてだ。


 一体誰のことを言っているんだろう? 見せたいって何を?


「お願い。こんなこと頼めるの、大亮だけだから」


 ともかくこいつが見せたい相手ってのも気になるけど、俺って言うことはないからな。


 俺のことを男とは思ってないからな。こいつは。


「お願い、ねぇ、お願い」


「だぁー! 分かったから引っ付くな」


 俺を男として認識していれば、こんなに抱きついたりしないよな。


「そんで、今回は体型の改善だよな。今の体脂肪率は?」

「あー、えっとね……ごにょごにょ」


 美樹は周りを憚って、俺の耳元で数字を打ち明ける。


「そんだけ絞ってるんなら、食事制限は難しいんじゃないか? これはもう徹底的に運動して、汗かいて絞るしかないだろ」


 こいつのダイエットに毎回つき合わされているので、ちょっとばかしだけど、何をどうすればいいかは心得ている。


「脂肪の燃焼だな。ジョギングでもするか」


「えー、走るの苦手ぇ」


 いきなり決意が揺らいでやがる。


「やらないんなら別にいいぞ。今まで通りのペースでも十分だろ?」


 美樹は子供の頃はすごくふくよかな子だった。クラスメイトから中傷を受けるくらいに。


 何かと面倒くさがりで、ホンの些細なことでも周りに頼る性格が、運動不足の子供にしてしまっていた。


 このままだと体を悪くする。


 母親同士が仲のいい俺は、母さん達から美樹のことを任されるようになった。


 いろんなことをゲーム感覚で、体を動かせるように工夫して、段々と運動をこなせるようになっていった。


 中学生になる頃には、見た目にはかなりスッキリした体型になっていたが、隠れ肥満はなかなか抜けず、食事療法を取り入れようと、俺は色んな本をあさった。


「ごめんなさい。ちゃんと言うこと聞くからお願い」


「ったく、俺も走るんだからいいだろ? 頑張るんだぞ」


「はぁ~い」


 いつも返事だけはいいんだよな。






 今回の美樹はいつもと違った。


 本当の本気でジョギングも筋トレも、ちゃんと身を入れて取り組んでいる。


 最初の一週間で体重も2キロ落ちた。体脂肪もそこそこ。ウエストも1センチ絞った。


 しかしここからが大変だ。


 美樹のダイエットはいつも無駄に終わっているわけではなく、なんでこんなにダイエットダイエットって大騒ぎするのか、理解できないくらいに、最初から絞られている。


「後五日か、ちょっとペース上げた方がいいかもな」


 だけどこの頃の俺は、心中穏やかではいられなかった。


 今回のダイエット開始の理由と思われる情報が手に入ったのだ。


 美樹に何か言ったらしい相手が判明した。隣のクラスの松方って野郎だ。


 何かを言われたのが10日ほど前。俺に今回のダイエットの話を持ってきた数日前のことだ。


 今回のダイエット、もし原因が松方になるのだとすると、今度こそ美樹は彼氏をゲットするかもしれない。


 小学生の頃から比べて激やせし、すごくかわいくなった美樹は、高校デビュー以来何人もの告白を受けてきた。


 その度に元の体型に戻るのが不安になり、ダイエットに励むのだが、それはあくまで自分のため。


 今回のように誰かに見せるためなんて、一度もなかった。


「美樹がその気になったから、今までとは違う結果を出そうとしているかも? だもんな……」


 くそ、なんだか面白くない。






 とうとう美樹の誕生日の朝がきた。


 朝のジョギングを終えて、俺は早朝から本城家にお邪魔していた。


 軽くシャワーを済ませて上がってきた美樹は、ちびTシャツにホットパンツというヘソ出しルック。


「お願いします」


「よし! それじゃあいくぞ」


 メジャーを取り出して、美樹の腰に巻き付ける。


「どう?」


 俺は思いきって測定数値を告げた。


「はぁあ! や、やった、やったぁ!!」


 ギリギリではあったが、目標を辛うじてクリアした美樹は大喜び。


「これで今回はお役ご免かな? さてそろそろ学校行く支度しないとな」


「あの、ちょっとだけ待ってて。ね」


 そう言うと部屋から出て行く美樹に待たされること3分、再び戻ってきた美樹は、今まで一度も見たことのない短パンを履いていた。


「やったよ。ちゃんと履けたんだよ」


 もの凄い喜んでるな。


 この半ズボンを履くのが目標だったのか?


 それを問いただしたかったが、もうそろそろ朝飯食って、学校に向かわないと遅刻してしまう時間。


「それじゃあ、また後で」


「うん! 今度は大亮が約束守る番だからね」


 立ち上がろうとする俺に、美樹が気になる事を言った。


「約束?」


「そうだよ。ちゃんと16才の誕生日にこれ履いたんだから、男には二言はないんでしょ」


 16才? 誕生日? ……半ズボン?


「ああ!」


「って、もしかして忘れてたの?」


 全部思い出した。


 このズボン、俺が小学生の頃に美樹の誕生日に買ってやったもんだ。


 あの頃、体型改善の秘策として考えた、ガキの浅知恵で渡した物だ。


「それを16才の誕生日までに履けるようになったら、俺なんでも言うこと聞いてやるよ」


 って、そんな約束したっけか。


 その最終期限が、今日だったわけだ。


「もしかして今まで何度もダイエットに励んでいたのは?」


「もちろんだよ。なのに今の今まで忘れていたなんて、信じられない!」


 いや、だって子供の頃に思いついたことだし、成長期に入るまでに履けるようになるのならともかく、今の身長で、まさかこのサイズが入るなんて思いもしていないし。


「通りでこんな無茶なウエイトダウンを目標にするわけだ」


 それを達成できたんだから、今回ばっかりは素直に褒め称えよう。


 しかし、褒め称えると言うことは、忘れていたとはいえ、約束は守らなくてはならなくなる。


「それで、俺はどうすればいい?」


「やった、ちゃんと守ってくれるんだね」


 男に二言はないからな。


「それじゃあ……、こほん! 私をあなたのお嫁さんにして下さい」

「……はい?」


「こ、こう言うのは二度と言いません。いいんですか? いいんですよね」


 いや、えーっと、小学生ではあるまいし、いきなりお嫁さんにしてとは……。


「今のは小学生の頃、これをさっさと履けるようになって言おうとしていた言葉よ。先のことは分からないけど、今は恋人にしてくれたら十分なんだけど」


「なるほど、そう言うことならちゃんとしないとな……。俺もずっと君のことが好きだった。約束とかではなく、こちらからお願いしたいんだ」


 ずっと俺は美樹から、男として見てもらっていないと思い、打ち明ける事の出来なかった一言。


 特別に思っていてくれたから、他の男には出来ないことも、気にせず出来たのだということが分かった。


 俺のことを想っていてくれたから、体が自然と動き、大胆なスキンシップをしていたのだそうだ。


「これからはもう無理なダイエットはしないようにしような。自然体で、でも油断だけはしないように。それを心掛けていこう」


 とにもかくにも目標は達成した。


 だけど明日からも当分はジョギングを続けるらしい。


 ダイエットのためではなく朝デートのためだと言う美樹が、その後3日と続けられなかったことは言うまでもない。

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