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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
75/102

第 75 夜   『にゃんこいパーティー』

語り部 : 坂上央太サカガミオウタ

お相手 : 金城愛知華キンジョウエチカ

 学校の近くにある空き地は雑草が生い茂っていて、外からだと何があるか分からない場所だった。


 誰もそんなところには近づきたがらない。


 俺だってそうだったのだが、聞こえてしまったその声に、恐る恐る足を踏み入れる。


「お前達か、今の声は」


 ニーニーミーミーと賑やかな声は、それもそのはずだ。


 5匹もいる。

 みんな同じ柄だ。たぶん兄弟なんだな。



   第 75 夜

    『にゃんこいパーティー』


「今度の日曜日?」


「はい、ぜひお越し頂きたいのです」


 誕生会ねぇ~。そう言うのは小学生の頃以来か。


「これが招待状です」


「へぇ、名前入りかぁ。俺宛てってわけね」


 金城愛知華さんは、全国的にも有名な会社のご令嬢である。


 この招待状を手に入れたいヤツは、この学校だけでも山ほどいるだろう。


「それじゃあ、お呼ばれします」


 これはもう周りを憚らず喜ぶしかないでしょう。


 って、そんな事したらこの大事な招待状を、誰かに奪われてしまうか。


 いや、日頃からそれなりに仲良くしておくもんだな。


 しかし一つだけ、手放しで喜んではいられない問題もある。


 さて、そのようなお嬢様に、どんな物をプレゼントすればいいものか。


 とりあえず約束は日曜日だし、土曜日にでも買いに行くか。


 って、他に誰が来るのか聞いておけばよかったかな? プレゼント被るのもなんだし。


「……ま、いっか」


 とにかく重要なのは、気持ちがこもっているかどうかだよな。






 初めて訪れたお屋敷は、想像を遙かに超えていた。


 門扉でインターホンを押すと、金城さんがモニターに顔を出してくれた。


「今すぐ開けまぁ~す」


 と、誰もいないのに門が開いた。


 中に入ると、後ろでまた独りでに扉は閉じて、……これからどうすればいいんだ?


「いらっしゃーい」


 って、家の中で車? プロ野球のリリーフカーみたいなカートに乗って、彼女が迎えに来てくれる。


「なんかすごいね。これないとやっぱり大変?」


「そうでもないんだけど、あると便利なのは確かだよ」


 それはそうだろうね。


「私の部屋でいいかな? ホールは急なお客様で使えなくなったの」


 ホールって、そんな物まであるんだこの家?


 ってあってもおかしくないか。庭だけでもどれだけの面積があるんだか……。


「ところで他の人はもう来てるの?」


「えっ?」

「えっ? へっ?」


 少し運転が乱れてガタつくカートを上手く制御して、彼女がこちらを向いた。


「あ、えーっと、あの……、今日は本当は私の誕生日ではなくて、本当は次の金曜日で、本当のパーティーは来週の日曜日にあるの」


「へぇー、今度の金曜日か、だったら今日お祝いしてもいいよね。だけどパーティーが来週なのなら、この招待状は?」


 もしかして日にちを聞き間違えていたのかもしれないと、脳内を検索してみるが、どれだけ思い返しても、呼ばれたのは今日に違いない気がする。


「ちょ、ちょっとここで待っててね」


 彼女はカートを了いにいった。


 それにしてもでっかい家、それにでっかい玄関だなぁ。


 正に映画の世界だよ。


「お待たせ、どうぞ」


 中も相当なもんだ。


「なー」

 なー? って足下から何か音? いや声がした。


「猫?」

「うん、この子はガーネットって言うの」


 ふーんって、また他の猫が現れた。


「こっちの子がトパーズね」


 そこからの連続攻撃は、本当に驚かされた。


「いったい何匹いるの?」


「今は12匹かな」

「そんなのに?」


「うん、先月に5匹が仲間入りしたから、12匹」


 正に猫屋敷だな。


「ここが私の部屋」


 おお、思春期を迎えてから初めての、同年代の女の子の部屋だ。


「そんなに緊張しないでよ。私まで緊張しちゃうよ」


 開け放たれた扉の向こうは!


「……広っ」


 社宅住まいの俺んちに子供部屋は一つ。


 妹がいつもぶー垂れているが、俺が大学に行って、一人暮らしをするにしてもまだ先のことだ。


「やっぱりなんか緊張しちゃうなぁ。家族以外の男の人入れるのって初めてだから」


「そ、そうなんだ」


 はっ、いかんいかん、こんなところでフリーズしている場合じゃあないな


「なー」


 お、ここにも猫が……。

「って、お前?」


「気が付いた? あの空き地にいた子達。


 増えた5匹って、こいつらのことだったのかぁ。


「って、あれ? もしかして金城さん?」


「うん! 坂上くんが可愛がってた子達だよ」


 まさかここで再会できるとは。


 俺の家は母親が猫アレルギーであると言うことと、親父の勤める会社の社宅住まいであることから、猫を飼うことは出来ない。


 もし飼えたとしても、5匹は無理だけどな。


「坂上くんって!猫好きなんだよね」


「家じゃあ飼えないけどね。だけど野良猫なんかに、本当はダメなんだけど、餌やっちゃったりしちゃってる」


 この猫たちにも数日間だけだったけど、猫缶とミルクを与えていた。


 あれ? 見覚えのある物が机の上に……。


「俺がこいつらにやってたのと同じ缶だ。今もこれ上げてるの?」


「あ、えーっと、実はその缶、坂本くんがこの子達に上げてた時のなの」


 なぜそんなことを?


「そ、そんなことより、お食事用意してあるの」


 出されてきた料理は目にも鮮やかなご馳走ばかり、なんだかお祝いに来てるのにお呼ばれして、これは恐縮してしまいますね。


「ところでさっきも少し聞いたんだけど、他の人はまだ来ないのかな?」


「あ、あのね。今日は二人だけなの。お友達には来週、パーティーの時に来てもらうことになってるの」


「えっ、なんで?」


「……私ね。ずっと猫の話が出来るお友達が欲しかったの。だけど私の友達には、猫を飼っている子も猫が大好きって子もいなくて」


「もしかして、俺があの5匹と戯れていたところも見てた?」

「もうばっちり」


 ああ、なるほどね。


 あの姿を見たら誰だって、俺が無類の猫好きだって事には気付くか。


「そう言うことなら、これから俺達は猫友達だな」

「うん♪」


 ここの猫たちはみんな懐っこい。


 その中でもやっぱりあの5匹は、俺のことを覚えてくれていて、我先にと俺に構ってくる。


「本当に猫に好かれてるんだね。いいなぁ~」


「金城さんだってそうだろ?」


 猫まみれになってる人に言われてもさ。


「あ、そうそう、これ! プレゼント。安物だけど」

「うわぁ、ありがとう」


 今月はまだ小遣いをもらったばっかりだし、少しはこマシな物をと考えたのだけれど、入ったファンシーショップにあったそれに、なぜか惹かれてプレゼントにと選んだ。


「かわいい~、ブローチだね。わぁ、ネコネコだぁ」


 座った猫の形をしたブローチ、正直予定していた以上に、安価な物にしてしまったのは悪い気もするけど、なぜか彼女に似合うと思ってチョイスした。


「ありがとうね。すっごくうれしいよ」


 俺もすごく嬉しいよ。


 俺の感性がピピッときたものに、大喜びしてもらって。


「どうかな?」


「うん、似合ってるよ。って俺が言うのもなんだけど」


「ね、ねぇ、来週のパーティーも来てくれたら嬉しいな」


「ええ、今プレゼントしたのに、また欲しいの?」


「そ、そんなんじゃあ!?」


「嘘だって、でも本当にいいの? またお呼ばれしちゃって」


「うん、もちろん」


 今日の料理もすごかった。


 来週はパーティーだというし、今日以上に見たこともない料理が並ぶのかな?






 さて、もう一度お呼ばれすることとなったのだが、やっぱりプレゼントを用意しないわけにはいかないよな。


 今度は何を上げようかと悩んでいる俺の元へ、朝一番に金城さんが現れた。


「おはよう、金城さん」


「おはよう……」


 あれ? 元気ないな?


「どうかした? もしかして猫が元気ないとか?]


「そんなことないよ。みんな元気いっぱい」


 なら本当にどうしたんだろう?


「あ、あのね。わ、私の父に会って欲しいの」

「えっ? って、ええーっ!?」


 なんでいきなりそうなる。


 詳しくは放課後にと言われて、俺的にはどうしていいか分からず、今日の授業は何を学んだのか、全く一つとして思い出せない。


 そして放課後、彼女と机を挟んで向かい合って座った。


 もうすでに教室には俺達だけ、これで思う存分に話を聞ける。


「私ね。父からお見合いを薦められてるの。父は早く孫の顔がみたいらしくって、けど大学を出るまではそこまでさせる気はないけど、早々に結婚相手だけでも、決めてしまいたいらしいの」


 なんか先時代的な話だなぁ。


 名家のお嬢様だから政略結婚とかあるのかな?


「それで私、お慕い申し上げている殿方がいますって答えたの」


 本当に時代掛かったるなぁ。


 そんな口調、テレビの中でしか聞いたことないよ。

 うん? あれ、まてよ?


 この話の流れで、俺にお父さんと会えと言うことは?


「えっ?」


 俺は自分を指さした。


「うん……、ごめんなさいね。こんな形の告白になっちゃって」


「ああ、いや、そこはいいんだけど、本当に俺でいいの? 家は社宅住まいの絵に描いたような一般庶民だけど」


「えっ、う、うん。父は私に早く結婚して欲しいだけみたいだし、相手は私が気に入った人をエラべって言ってくれているから」


 だからって、いきなりお父さんと会うというのは……。


 第一俺はどうなんだ? 金城さんのことそこまで好きなのか?


 実際そんなこと考えたこともないしな。


「お父さんに会うのは構わないよ。だけど俺はまだ……」


「そう、だよね。坂上くんの気持ちも考えないで、ご、ごめんね先走っちゃって」


「ああ、いやいや、そうじゃないんだ。俺だってきっと金城さんのこと好きなんだ。だけどまだその実感がうっすらしてるし、大体なんで俺なんかが金城さんに選んでもらえたのかが不思議で、だって二人でお喋りしたのって、この前の日曜日がほとんど初めてだったでしょ。」


 それまでも仲はいい方、程度の認識しかなかった。


「あの5匹の猫たち、あの子たちをあの雑草の中で可愛がっているあなたを見て、きっとあなたとなら楽しい時間を過ごせると思って、それで二人でお話ししたら、やっぱりもの凄く楽しくって。だから……」


 そうだ。確かに彼女と話をしていると、時間が経つのも忘れてしまう。


 それが恋なのだとすれば、俺は正に彼女に恋していることとなる。


「俺、真剣に君との将来を考えるよ。だから、その、愛知華さん、俺と正式につき合って下さい」


 俺の一言で涙を流す彼女、泣き笑いの表情にすごくそそられる。


「それじゃあ先ずは、父に会って下さい。交際を宣言しないとね」

「えっ?」


 やっぱり会わないといけないのか?


 俺は今度の日曜日の彼女へのプレゼントとともに、親父さんに会いに行く手土産も考えなければならなくなった。

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