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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
71/102

第 71 夜   『テレホンショッキング』

語り部 : 大野隆之オオノタカユキ

お相手 : 新前恵美香ニイマエエミカ


盛立役 : 桜井麻綾サクライマアヤ

 自分の携帯電話をテーブルの上に放り出して、トイレなんて行くもんじゃあないな。


 こんな事になると分かっていたら、もっと慎重に行動したのにさ。



   第 71 夜

    『テレホンショッキング』


 大会の後の打ち上げと言うことで、みんなでカラオケに行くことになった。


 特に歌うことが好きでもない俺は、歌う方は他の部員に任せて、ずっとお喋りをしていた。


「へぇ、大野くんと私の携帯同じ機種だったんだ」


 俺は中学入学の時に買ってもらった携帯を、そのままずっと使っている。しかも今時ガラケー……。


「本当だね。でもまさか、高校生にもなってガラケー使ってるヤツ、俺以外にいると思わなかったよ」


「電話なんてメールと通話ができれば、別に他の機能なんて何もいらないってお母さんが。ホント時代錯誤で困っちゃう」


 確かにスマホは便利だけど、俺は別に今はこれでいいと思ってる。そんなに必要か、スマホ。


「確かに持ち運びには邪魔にならんだろうけどな」


「そのフォローおかしいよ。準絶滅危惧種にこんなところでお会いできるとは思わなかったけど」


「そっちの感想の方がオカシイだろ」


 こいつは人の携帯バカにしやがって!

 ……気持ちは分かるけど。


 いいんだよ。調べものなんて、家帰ってからパソコン使やいいんだからさ。


「俺、ちょっとトイレ」


 ここで俺は大きなミスを犯してしまった。


 用を足して戻ってくると、……別になにも状況に変化はない。


 たっぷりの時間楽しんで解散。


 帰り道に中学生の頃からつき合いの続いている彼女に電話をかけた。


「……なんで出ないんだ?」


 まだ夜の10時だ。まだもう少しは起きてるはずだよな。


 もしかしたら今日は早く寝たのかな?


 そう思って俺は、メールを送って携帯をしまった。


 明くる朝、もうそろそろ彼女は起きているはずの時間、なんでメールの返信がないんだろう。


 気にはなったけど、俺の朝に余裕はない。


 朝飯をかっ込んで家を出た時には、もう走るしか遅刻回避の方法はない。


 短距離ランナーが毎日長距離を走るなんて、こんな事なら長距離に転向した方がいいのか?


「おはよう大野くん」


「おお、桜井さん! おはよう。君も毎日長距離走してるよね」


「したくてしてる訳じゃないんだけどね。どうしても二度寝だけは回避できないんだよね」


「ははは、俺もそうだよ。朝辛いの分かっていながら、夜更かししちゃうんだよね」


 もう走らなくても間に合うところまで来ているのに、俺達は正門をくぐるまで一緒に走り、教室に入るまで小走りを続けた。


「まだ5分以上あるじゃん」

「けっこう余裕だったね」


 汗を滲ませて息せき切っての言葉じゃないけどね。あっ、メール。


 何気なく見た携帯に新着メールのマークが。


 走っていて気付かなかったんだな。


 今日の夕方6時に公園で待ってる?


 なんだろう、待ち合わせが公園って、珍しいな。


「なに、彼女?」

「う、うんそう」


「やっぱり彼女だったんだ……」

「えっ、なに? ちょっと聞こえなかった」


「あ、うぅうん、こっちのこと」


 なんか意味深な言葉を吐いていたように思ったけど、ちゃんと聞こえなかったから、憶測すらできない。


 そうこうしているうちにチャイムが鳴って担任が入ってくる。






 彼女は地元の女子校に進学し、俺は片道一時間の道のりが掛かる、公立高校に通っている。


 俺が共学校に通っているのが気になるらしく、日に3回は電話が鳴り、日によっては、何回来ているのか分からないほどのメールが来る。


 だけど今日は、ここに呼び出すメールが一件のみ。


 今日は試合後の休養日として、練習がないことは前から言ってあったから、この時間に会おうとは前々から約束してあったんだが、妙な緊張を覚える。


「隆之」

「おお、恵美香」


 地元だからもっと早い時間に、一度帰宅しているのだろう。私服姿の彼女がやってきた。


「昨日は寝るの早かったのか? 打ち上げの後、電話したけど繋がらなかったぜ」


「知ってる」


 やっぱり様子がおかしいなぁ。


「なんかあった?」


「……、ねぇ、昨日本当は誰といたの?」


「誰って、だから打ち上げだって言ったろ? 陸上部のみんなとだよ」


「嘘!? 昨日、電話した時、妙な女が出て「あんた誰よ。あいつのなんなの?」って、私のことを隆之の浮気相手みたいに呼んでた」


 昨日? いつだ?


 俺は携帯の着信履歴をチェックする。


「ちょっと待て、この時間ならカラオケにみんなで行ってた時だぞ」


「確かにやけににぎやかだったけど、カラオケにいたのかどうかは分かんなかったよ。それよりなんなの、あの女?」


 いや、待てよ。こいつからの電話に俺じゃあなく、他の子が出たというと……。


「ああ、そう言うことか。分かった分かった」


「何がよ?」


 この時間と言えば、きっと俺がトイレに行っている時のことだ。


「たぶんお前と話したのは桜井美澄さんだよ。彼女の携帯と俺の携帯が偶然に全く同じ機種で、同じ色だったから、着信音はカラオケで聞こえなかったんだろうな。自分の電話が鳴ったと思って出たんだと思うよ。俺、トイレに立つ時、持って出るの忘れたから」


「……本当に? なんかできすぎじゃない?」


「小説は現実より奇なりなんだよ」

「それ、逆だよ」


 へへっ、ややウケしたぜ。ちゃんと分かってくれたみたいだな。


 その彼女の反応に安心している俺の携帯電話が鳴った。


「もしもし、ああ桜井さん。ちょうど今、君の話をしてたんだ。昨日、俺の携帯に間違えて出たよね」


『わ、私は知らないよ』


 他に思い当たる人はいない。なんで彼女は否定するのだろう。


「ちょ、ちょっと待って!?」


『そんなことよりちょっとお願いがあるんだけど』


「えっ、なにお願いって?」


 横で俺達のやり取りを聞いている恵美香が、機嫌を損ねていくのが手にとって分かる。


『私の彼に会って欲しいの』


「な、なんで? ちょ、ちょっと詳しく説明してよ」


 意味が分からない。なんで俺が?


『お願いします。私を助けて下さい』


 声が真剣だ。なんだか電話で済ませてはいけないような気がする。


「桜井さん今どこ?」


 割と近くにいることを確認し、これから会えないかと言うと、彼女は了承した。


「恵美香、時間大丈夫かな? ちょっと一緒に来て欲しいんだ」


「え、う、うん大丈夫だけど……」


 とにかく会って、確認をしないといけない。






 約束の場所には俺達の方が先に着いた。


 しばらくして桜井さんがやってきた。隣に見たことのない男がいる。


「桜井さん……」


「おい、お前か、こいつにちょっかい出してるヤツってのは?」


「……はい?」


「分かったでしょ、私はこれから彼とつき合うの! もういいでしょ!?」


 なに? もう何がなんだか分からんぞ。


 って、恵美香はなんで泣きそうな顔してんだ。


「こ、このやろ、後からシャシャリ出てきていったい何なんだ」


 男が俺の胸ぐらを掴んでくる。


 もう黙っていられないぞ。


「ちょ、ちょっと待て! 何がなんなんだか先ずは説明しろ。君でもいい、あんたでもいい、先ずは俺に分かるように言え」


 訳も分からないまま振り回されてたまるか。


「……昨日の事よ。大野くんの電話に誤って出てしまって、そこの彼女でしょ? 私が勘違いして怒鳴ったの?」


 ようやく俺の電話に出たことを認めたな。


 今さら誤魔化しようもないんだろうけど。


 突然思いもよらず振られてキョトンとしている恵美香だったが、今の声を聞いて思い至ったのか、首を縦に何度も振っている。


「それを私はこいつの二叉の相手だと思って、カラオケの後に問いつめたのよ」


 思いこみ激しいなぁ。


 桜井さんってそんな子だったんだ。


「その詰め寄った切っ掛け自体は、私の勘違いだったんだけど、こいつ本当に浮気してたのよ」


「浮気じゃあネェよ。たまたま友達になった子と、ちょっと遊びに行っただけだろ?」


「何がちょっとよ! 友達とあんなところ行くわけないでしょ」


 どんな問いつめられ方したら、そこまでゲロ吐くんだ?


 今の話の流れであんなところって言えば、あんなところだよな。


「別にいいわよ。あんたがどこに誰と行こうと、私は私で好きな相手と好きなことするから」


 なるほどね。売り言葉に買い言葉、あるもないもの話で、桜井さんは私にもこの彼以外につき合ってる人がいるとか言っちゃったんだな。


「これで分かっただろ? 桜井さんはあんたに一度裏切られたとしても、あんたのことが好きなんだよ」


「ちょっ、大野くん!? 私、そんなこと言って……」


「言ってるでしょ?」


 柔らかい表情でほほえみかけると、彼女は素直に「うん」と答えた。


「そんであんたはどうなの? 本当にもう一人とは出来心だったの? 彼女とはどうしたいの?」


「あ、いや、俺、実は浮気してたってのは嘘なんだ……」

 な、なんだ?


「どういう事よ?」


「桜井さん、ちょっとここは任せてよ」

「う、うん」


 この子にはこれがよく聞くみたいだな。


 俺のにやけ顔も、たまには役に立つってもんだ。


「俺達結構つき合いが長いんだけど、その、なかなか進展がなくってさ。あんまり知らない人に言うこっちゃないけど、そっちの方の進歩って言うのもあっていいんじゃないのかって思うんだ」


 しかし彼女にその気はなく、それで浅はかな策に走っちゃったんだな。


 彼女にヤキモチを焼かせて、危機感を煽ろうとして、それができるって事は、それだけ愛されている自信はあったってことだ。


 ここまで本音を聞き出せば、もう後は二人の問題だ。


 二人は気まずそうな空気に途惑いながらも、仲良く並んで帰って行った。


「とまぁ、こういう事だ。お前もあんまり詮索ばっかりすんな」


「だって、私は女子校だけど、隆之は共学校に行ってるんだもん。気になるよ、毎日心配になるよ」


 いや、女子校だから安心なんてないんだけどな。


「だったらどう? 俺達もそろそろ」


 少しオブラートに包んで打診してみるけど……。


「う、うん……隆之が……なら……」


 あらら、真っ赤っか。


 俺は恵美香のおでこを突っついた。


 赤い顔してはにかんでるよ。


 俺はこの可愛い笑顔を曇らせたくない。


 先ずは怪しまれる行動も取らないように、今回みたいに無意識でも何が起こるかもしれない。ってことを念頭に置いておく必要があるな。

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