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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
7/102

第 7 夜   『晴天の小雨』

語り部 : 高木夕子タカギユウコ

お相手 : 御影泰之ミカゲヤスユキ


盛立役 : 赤井琴子アカイコトコ

「いよいよ明日だね」


「うん、もう準備も一通り済んだし、明日の二次会よろしくね」


「うん、そっちの方もバッチリバッチリ! しっかり主役を盛り上げるからね」


 明日、私は結婚します。



   第 7 夜

    『晴天の小雨』


「はぁぁぁぁ…………」

「凄いため息だね。まさかマリッジブルー?」


 友人代表、赤井琴子との打ち合わせで、喫茶店に居着いて40分、最後のチェックにと来てもらって、打ち合わせは滞りなく終了、これで後は明日の本番を迎えるだけ。


「なんかあった?」


「べつになんにも、ただ期待と不安が押し寄せてきてるだけよ」


 本当に別に何があるって訳じゃあないんです。


ただ単に彼との出会いから今までを思い返して、これからのことを期待や不安に絡めて考えちゃってるだけで。


 彼との出会いは、暇な時間になんとなく眺めていたSNSの個人的つぶやき。


 そこでは彼の趣味である映画鑑賞に対するレビュー、内容に興味を抱き、リツィートするようになり、いつの間にかIDを交換して、直接のやりとりをするようになった。


 お互いの家が割と近いことを知って、一緒に映画を観に行くようになるのに2ヶ月。


 一緒にいる時間が楽しくて心地よくって、交際を申し込んだ。私の方から。


「それじゃあ琴子、また明日」

「はーい、また明日」


 喫茶店を出て、そこで別れて駅に向かう。

 一人になるとまた今までのことを思い返してしまう。


「え、お付き合いですか?」


「ダメですか?」


 一大決心だった。


 映画以外にも、ちょっといい物も食べに行ったし、カラオケやボーリングなんかも行った。どこに行っても楽しくて、きっと相性がいいのだと感じた。


「それじゃあとりあえず3年、それを目安にお付き合いいたしましょう」


 OKはもらったけど、なぜかそれは期間設定付きのものだった。


 とは言っても、そんなのすっかり忘れてしまうくらい交際は順調で、仕事終わりや週末はどれも忘れられない思い出でいっぱいとなった。


 そしてちょうど3年経ったその日。


「結婚してください」


 彼の言っていたとりあえずと言うのは、一緒になるか別れるかの決断をする目安だった。


 あまりに突然すぎてビックリしてしまったけど、私に断る理由はどこにもなかった。


 YESと答える私に、彼はまた期限を設けた。


 籍を入れる前に六ヶ月の同棲をすること。


 なんと彼はすでに、新生活の為の新居を用意していた。


 お互いの職場までの便も悪くなく、閑静な住宅街で、最寄りのスーパーまで徒歩3分とかからないし、きれいに整備された公園が近くにあり、私は一発で気に入った。


 プロボーズされたけど、それで結婚も決定! と言うわけではないようだった。


 同居してお互いの善し悪しを見極めて、その上で結果を出そう。


 それが彼のプランだった。


 順風満帆、同棲するにあたっての彼からの要望は“自然体”だけだった。


 夫婦生活の予行なのだから、取り繕ったりとかは一切なし、言いたいことはちゃんと言う。ただし相手のことは気遣って、なんか学校の先生と話してるみたいだった。


 家事はあえて分担制にしたりはしなかった。


 どちらかが気付いた事を率先して片づける様にし、無理をしないで手伝いを申し出るように、まさにこれは予行演習だった。


 そしてこれも同棲する前に期限を切られていた半分、三ヶ月目に一度経過を確認し合い、「結婚」はほぼ確定となった。


 そこからは結婚に向けて、必要な事を進めることになる。


 何においても計画を立てて、期限を設ける。


 この半年は余裕を持って立てる、彼のスケジュール通りに動くことで、私は何のストレスも感じることなく過ごすことができた。


「ただいまぁ」


 実家にたどり着き、扉を潜って奥の部屋へと挨拶を送った。


「おかえりなさい」


 明日の準備がまだ終わらず、ドタバタする母が返事をくれる。


 結婚式までの一週間は自宅で生活する。


 これを決めたのも彼だった。


 家族との最後の時間をと言う提案で、私は一週間かけてお母さんの味を盗みまくった。


「何か手伝おうか?」

「え、ああ大丈夫、もうこれで最後だから」


 明日着る着物を陰干しにして、ようやく落ち着いたお母さんにお茶を煎れてあげる。


「ありがとう、それにしても、もう明日なのね。泰之さんのお陰で全てがスムーズに進んだから、本当にあっと言う間って感じだったけど」


 彼に対する両親の印象は最初からよかった。


 お父さんなんて「こんな立派な息子ができてうれしいよ」とか言って、お酒を飲みながら彼を褒めちぎっていたもんだ。


「本当にあんたは果報者だね。細かい事もみんな、彼が気付いてくれるんだからね」


 あ、そうか、私が気になっていたのはそこなんだ。


 私は些細な問題にもぶつかることなく、彼の敷いたレールの上を歩いていればちゃんと望む方向に導いてもらえる。そこに不安を感じていたんだ。


 お茶を啜りながら、なんだか悶々としてくる。


 ピンポーン! 来客だ。


 お母さんが玄関に向かう。


「夕子、泰之さんよ」


 私たちは私の部屋に上がることにした。明日の為の最終確認。


「ねぇ、泰之さん」

「なに?」


 私は感じたままに自分の感情について話した。


「ああ、うん、そう言う風に感じることもあるのかな?」


「泰之さんって、スケジュールおたくって言うか、段取り組むの上手いよね。でもだからって杓子定規に何でもかんでもルールに縛り付けることもないし、だから私はなんのストレスも感じずにいられたけど、だからこそ、このままでいいのかなって」


「これって、御影家の家訓って言うか、親父の持論なんだよ」


 今までいろんな話を聞いてきたけど、これは初めての話だ、これに対して興味は津々。


「夫婦って、距離感っていうか、お互いのスタンスってのをしっかり掴んでおかないと、麻痺して気遣いを忘れてしまう事ってあるだろ? だから最低限の緊張感を無くさないために約束に期限を設けるんだ」


 そうすることで約束を曖昧にはせず、実行しようと努力をし、できなかったことをできないって、キッパリ言えて後腐れも残しにくい。


「効果のほどは立証できてないけど、そのお陰かどうかは分からないけど、家では大きな喧嘩は、俺の知る限りではないんだよ」


 その他にもルールとして、お金に関する隠し事はしないってこと、御影家の教えはそれだけだと言う事だ。


「ふーん、初めて聞いた」


「だって、それはあくまで家の話だし、高木家にまで持ち込む気なかったから」


「私も明日から御影家の一員だよ」


「はは、そうだね。うん、悪かったよ。じゃあ無理をせず実行できそうなら、一緒にやっていこう」


 明日は一日晴天に見舞われるらしい。一生一度の一大イベント、今晩は嬉しくてよく眠れそうにないです。

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