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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
69/102

第 69 夜   『さぷらいず!』

語り部 : 仰木咲耶オオギサクヤ

お相手 : 倉濱俊彦クラハマトシヒコ


盛立役 : 宮川幸乃ミヤガワユキノ

 彼が私の親友の恋人だというのは知っていた。


 その人を好きになるのはいけないことだとも分かっていた。


 だけど心をコントロールすることはできず、その彼から愛の告白を受けた時、自分を止めることはできなかった。


 私と彼が陰で付き合うこととなって数週間が過ぎて、その秘め事がついには彼女にばれてしまった。


 大きなケンカとなった。


 彼は彼女と私、結果として私を選んでくれた。


 だけどそんな彼だったから、また直ぐに違う女の子にちょっかいを出すようになった。


 私は自分たちのスタートがスタートだったから黙認していたんだけど、相手の女の子が二叉を許さず、その結果、私は捨てられることとなった。


 私には何も残らなかった。恋人も、親友も……。



   第 69 夜

    『さぷらいず!』


 そんな辛い思い出も残っているけど、もちろん幸せな思い出もいっぱい残っている。


 その幸せを今度こそ逃さないように育んだ成果として、私は今年結婚することとなった。


 婚約者と一緒に訪れた結婚式場で今回の担当者を待つ。


「お待たせしました。今回のコンサルタントを担当致します、宮川幸乃と申します」


 えっ? 幸乃?


 かつて親友と呼んでいた彼女との再会。


 運命のイタズラは、私に忘れたくても忘れられない傷を抉る。


 ここで勤めていると言う彼女は、私の顔を見ても表情一つ変えない。


 当然前もって私の名前と写真も確認しているだろうから、当たり前と言えるのだろうけど。


「咲耶さん、どうかした?」


「えっ、ああ、いや、なんでもないわ俊彦さん」


 今は披露宴の打ち合わせに集中しないと。


 とは思ったんだけど、どうしても気になる彼女の存在が。


 私が集中できなくても彼がしっかりと話を聞いてくれているから、それはいいとして、私は打ち合わせ後、俊彦さんと別れて、さっきのコンサルタント会社の前で、彼女が出てくるのを待った。


「やっぱり待ってたわね。咲耶」

「幸乃……」


「本当にビックリしたよ。お客様リスト見た時、名前見てまさかと思って、写真見て驚いたわ」


 驚いたはこっちの台詞よ。


 例の事が合ってから、高校在学中は一切話もしなくなった。


 別の大学に行った私たちは、今の今まで、連絡すら取り合ったこともなかった。


「彼との出会いは大学生の頃、同じサークルに所属した縁で交際をスタート、か。今度の人はいい人だったみたいだね。昔のあんたのこと教えてあげたら、どんな顔するんだろうね?」


「何が言いたいの?」


 昔っからこの子は、こうして人を小馬鹿にする態度を取る、イヤなところがある子だった。


「あはは、怒らない怒らない。久しぶりに会って嬉しいだけだから、ねぇ、これから飲みに行かない? 再会と結婚を祝して、私が奢ってあげるから」


 これから? 本当なら行っていろんなことを聞きたいところなんだけど。


「私、明日は仕事だから」


 今日は帰らないといけない。


「そっかぁ、それは残念。それじゃあ、軽くお茶くらいは行ける?」


 それくらいなら……。と言うことで駅の方に歩き、手頃な喫茶店を見つけて入った。


「結婚かぁ。いいよね。私なんてデートをする相手もいないのに」


 饒舌にしゃべり続ける幸乃。


 もうあの頃のわだかまりは、全く残っていないみたいに見える。


 なんだか私も楽しくなってきて、もっとお喋りしたかったんだけど、明日使うデータを少しまとめておかないとならない。


 私は結婚式のことをよろしくお願いして、お店の前で別れた。






 携帯番号とIDの交換をして別れたあの日。


 それから数回連絡をいれるが、事務と接客業の二人が落ち合う時間はなかなかとれず、もう式まで後10日を迎えていた。


 今日は俊彦さんと落ち合って、幸乃の会社で最終打ち合わせをすることになっている。


 約束の時間まで、まだ20分ある。


 少し早めに着いてしまい、どこで時間を潰そうかと悩んでいた時。


「幸乃、と俊、彦、……さん」


 なぜ二人が横に並んで歩いているの?


 そういえば幸乃は、今はフリーであるみたいなことを言っていた。


 まさかあの俊彦さんに限って、間違いなんてないと思うけど、幸乃の方はもしかしたら昔の事もあるし、私からは咎めることもできないしで、何か理由を付けてデートにこじつけたのかもしれない。


「そんな、そんなことあるはずないよ」


 そう思えば思うほどに、イヤな気分が増していく。


 とにかく電話を入れてみよう。


 何か用事があって先に来ていて、たまたま連れ立って歩いているだけかもしれないし。


「あ、俊彦さん? 私今、駅前に着きました」


「あ、本当? えーっと俺はちょっと電車遅れていて、もうすぐそっちの駅に着くから、その時また電話するよ」


 電話は一方的に切られた。


 私に追撃のチャンスはなかった。


「どういう事? なんで嘘なんてつくの? 何を私に隠しているの?」


 それから更に20分、彼は一人で現れた。


「ごめんごめん、仕事押した上に、電車が人身事故で遅れちゃってさ」


 なんでそんな言い訳がましい言い方するの?


 もしかして本当に浮気なの?


 彼のことは信じている。信じてはいるけど、相手はあの幸乃。


 幸乃だって、私が知る限りは絶対に、そんな事をする子じゃあなかった。


 でも私だって、あの子から彼氏を奪ってしまおうなんて、考えたこともなかったけど、ああなってしまった。


 疑念が膨らんでいく。幸せいっぱいの時期のはずなのに、なんでこんな事になってしまったのだろう。


 幸乃の会社に着き、二人は顔を合わせて、お互い会釈と軽い挨拶を交わし合った。


 さも今日は今初めて会ったと言わんばかりに、社交辞令を交えて。


 もう何を信じていいのか分からない。


 私は今日もまた初めて、ここを訪れた時同様に幸乃を待ち伏せた。


「なに、どうかした? もしかして結婚式が目の前にきて、マリッジブルーになってるとか?」


 白々しい笑顔と白い歯が腹立たしい。


「あんた、今日なんで俊彦さんとツーショットで歩いていたのよ」


「えっ? 私と清白さんが? 見、見間違えたんじゃないの? 私、あなた達がくるまで、ずっと会社にいたし」


「この目で見たのよ。そっちは気付いていなかったみたいだけど、本当にすぐ傍で見たんだから。着ている服だって同じだったし、他人の空似でもないからね」


 二人が連れ立っていたことを問題視しているのではない。


 それを私に隠していることを咎めているのだ。


「ああ、……そっか。そこまでしっかりと見られていたんならしょうがないなぁ。正直に話すけど条件が二つ。いい?」


 観念した様子の幸乃だけど、話をするための条件を出してきた。


「何? 条件って」


「一つは、今から私が話すことに嘘偽りはないからこれ以上疑わないこと。それともう一つはあんたがこの話を聞いたことは決して旦那さんに気取られないこと、最後まで黙っていること」


 最初の方は分かる。そこを疑っては話が前に進まなくなる。


 でも二つめの条件が今一つ理解できない。だけど今は……。


「分かった」

「そう? それじゃあ」


 幸乃は自分のカバンの中から書類の束を取りだした。


「今回のプランにね、旦那さんがあんたに黙って追加を申し込んできたの。所謂サプライズってやつね。それに参加していただくメンバーのところに、二人で赴いてお願いして回っていたの」


 私と彼が大学時代参加していたサークル、大道芸研究会のメンバーにお願いして回って、当日二次会で演技を披露してもらう算段をしていたのだという。


「とにかく、絶対に一生で一度の一大イベントにしてあげるから期待して、何も知らないフリをしてよ。って、咲耶? なんで泣き出してるのよ」


 私はもう情けなくって、人の目も気にせずボロボロと涙を流した。


 それからしばらく、少し落ち着いたところで、私は幸乃に謝罪した。


「あんた、そんなこと気にしてたの? もう何年前の話よ? 第一あの時一番悪かったのって、結局はあいつでしょ。そりゃあ、あの時は絶対許さないとか思って、距離置いちゃったけど、そんなの今まで引っ張っていてもしょうがないでしょ」


 私はそこからずっと謝り続けだった。


「じゃあ今から飲み行こうか、咲耶の奢りで、それで全て水に流そう。そうしたら今度は結婚式! 最高のセレモニーにしよう」


 俊彦さんは本当に最高のコンサルティング会社を選んでくれた。


 彼女と再会できた私は、きっと強運の持ち主だ。


 私たちは周りの人たちに支えられた、きっと最高の夫婦になれるはずだ。そう確信した。

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