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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
65/102

第 65 夜   『はーふ あすりーぷ』

語り部 : 糸巻武深イトマキタケミ

お相手 : 神前一代シンゼンヒトヨ

 家に集まってグループ研究を片付けることになり、気が付けばかなり遅い時間。


 電車はまだあったけど、父さんが車で送っていくことになって、まず3人を送っていった。


 家の車は軽自動車で4人乗りだから、別方向で少し距離のある神前一代さんは、次便を待つことになった。



   第 65 夜

    『はーふ あすりーぷ』


 よく寝てるなぁ……。


「どうしようか、母さん」


「そうねぇ、こんなにぐっすり眠っちゃってるのに、起こしちゃうのもかわいそうだし」


「どうするの?」


「もう遅いし、お宅には私から電話入れておくわ。武深、この子をお姉ちゃんのベッドまで運べる?」


 眠っている人間がどれだけ重いか知ってて言ってるのかな? もし起こしたら意味無いんだけど。


「よっと!」

 抱え上げた彼女は、思ったよりもずっと軽く感じた。


「これなら起こさずにいけるかな?」


 階段を上り、大学生になって、一人暮らしを始めた姉さんの部屋に入る。


 いつ帰ってきても、すぐ使えるようにって、ベッドは母さんがこまめにキレイにしている。


 ゆっくりと、ここで起こしたら元も子もない、ゆっくりと。


「むむ、はぁ、糸巻くん……」


 ベッドに寝かせてあげて、彼女の頭をできるだけ、優しく枕に下ろしてあげようとした時だった。


「あちゃー、起こしちゃったか? でもそれならもうすぐ父さんも帰って……」


 それは突然の、そして一瞬の出来事だった。


 目を覚ましたかと思いきや、寝ぼけて手を伸ばしてきて、俺の首に捕まってきた。


「ふむっ、……えっ、あれ? 神前さん? 寝ちゃってる?」


 俺は彼女の手をほどいて、自分の口に指をなぞらせながら、彼女の唇を見つめてしまう。


「なんでキスなんて……」


 心地よさそうな寝息を立てている。


 寝ちゃってるんだよな。


 寝ている女の子の顔をずっと眺めているのも失礼だな。


 俺は電気を消して、自分の部屋に入った。






 彼女は朝早く、俺が起きる前に父さんが送っていった。


 今日はまだ平日、学校があるからだ。


 学校で会った彼女は気まずそうに少しはにかんで、おはようと言ってくれた。


 授業は頭に入ってこない。


 昨日のこと、覚えているのかな?


 覚えてないのに聞いたら、迷惑に思われるかもしれないし。


「糸巻くん昨日はご迷惑おかけしまして」


 昼休みのこと。


 弁当を食べ終わって、ジュースでもと考えて食堂に来た俺に、神前さんが声を掛けてきた。


「ああ、いや朝大変だったんじゃない? 俺より先に登校してたけど」


「うん、平気ぃ。私朝ご飯食べないし、割と朝の準備早いんだよ」


「ダメだよ。朝はしっかり食べないと」


 って、あんまりあれこれ考える必要なかったな。


 自然な会話ができてる。うん。


「ところでさ、糸巻くんって、明後日、何か予定ある?」


「土曜日? 空いてるよ」


「あのね、買い物につき合ってもらってもいいかな? って、そんなことしたら彼女に怒られる?」


「ああ、いや、彼女なんていないけど、何買うの? 俺の意見って活かせるるのかな?」


 なんか急に嬉しそうな顔して、すごく小さな声で何か言ってる。


「神前さん聞いてる?」


「あ、う、うん! えーっと、昨日すごくお世話になっちゃったでしょ? うちのお母さんがお礼しなきゃって」


「そんなの、気にしなくていいのに」


「でもやっぱりお礼はしないと、ねっ!」


 でもそう言うことなら……。


「分かった。それじゃあサプライズのために、両親には隠しておくよ」


 なんか昨晩のことを聞くタイミングが取れなかったよ。






「おはよう、ゴメンね朝から」


 朝10時、どうせだから他にも買い物があるから、よかったらつき合って欲しいと言われて、今日は半日一緒に出歩くことになった。


 それにしても彼女の私服姿は、なかなかエキゾチックだ。


 白いワンピースに彼女自身の白い肌。

 それだけにリップに嫌みにならない程度に、赤を差しているのがよく映える。


 俺はあの夜を思い出してしまい、彼女の口元に意識が寄ってしまう。


「いこっか?」


 声を掛けられて我に返る。


「あっ、う、うん……」


 見ていたの、気付かれてないよな。


「どうかした?」

「いや、なんでもない」


 先ずは彼女の洋服を見立てて欲しいと言われて、俺なんかの好みで選んでいいのか? と思いながらも見たままの感想を述べる。


 選んだ服を順番に試着していく彼女、クラスではどちらかというと控えめなポジションで周りに合わせるタイプなんだけど、今日の彼女はいつもと違った印象を受ける。


「もしかして疲れちゃった?」


「あ、うぅうん。なんて言うんだろう? こう言うの初めてで楽しいんだよ」


「そう? それはよかった」

 数着の買い物をした彼女は満足げ。


 ただ、割と長いこといた一件目で、思いの外に時間を取られた。


 お腹がなっちゃったのでお昼ご飯を食べた後、次のお店に。


「ゴメンね。つき合ってもらってるのに、お昼ご飯ごちそうになっちゃって」


「いやいや、今日何をするかは言ってないけど、君と出掛けるって言ったら、食事ぐらいはこっちから出しなさいってくれたから」


 彼女は食後化粧室に行ってリップを塗り直してきた。


 今度のリップはピンク。


 彼女のイメージとしては、こっちの方が似合ってるかなって。


 俺の個人的意見だけどね。


 二件目はファンシーグッズのお店。


 ここでは買い物はしないけれど、仲のいい友達の誕生日が近いとかで、色々見て回りたいと言うことだった。


 女の子が好きそうな小物ってもの凄い数あるんだなぁ。


 中には俺も興味を抱くものがあり、今の財布の中身を何度か計算してしまった。


 やっぱり無駄遣いかなと思って、結局何も買わなかったけど、ここもまた楽しい時間だった。


 その後は百貨店に行って、今日の第一目標である、俺ん家へのお礼の品を選ぶ。


 第一と言っても、ここは簡単に済ませる。


 これですぐに帰ったりはせずに、二人でゆっくりと、河川敷を散歩することにした。


「はぁ、楽しかったぁ。って私はだけど、糸巻くんはどうだった?」


「うん、楽しかったよ。こんな事したこともないから、とっても新鮮だった」


「本当に? 今まで女の子と出歩いた事ってないの?」


「ないよ。相手がいないもの」


 もちろん憧れてはいたけど、それは自分が望んだからって手に入るもんじゃあないからな。


「それじゃあさ、また付き合ってって言ったら、相手してくれる?」


「えっ? 神前さんが? 本当に? 俺なんかでいいのかな」


 なんだかいい雰囲気じゃないか?

 もしかしてこれって?


 って、そんな都合のいい展開あるはずないか。と思ったけど。


「糸巻くんじゃなきゃ意味無いの。

あの夜の私は衝動的に動いちゃったけど、全然後悔なんてしていない。

もし後悔があるとしたら、あんな事をする女の子なんて、って軽蔑されること」


 やっぱりあれは起きていたんだ。


 そうでなかったらあまりに申し訳なさすぎる。


 頼むから、寝ぼけてキスをしたんじゃない。って言ってくれって、願っていた。


 それは彼女のため? いや、きっと俺自身、あれは彼女の想いであって欲しいと思っていたんだ。


「神前さん、もしよかったらなんだけど、これから君のこと一代ちゃんって呼んでもいいかな?」


「うーん、できたらイッちゃんって呼んでくれると嬉しいな。本当に親しい一部の人しかそう呼ばないの」


「そう、それじゃあ、イッちゃん」

「なに? 武深くん」


「明日って暇? 今日楽しませてくれたお礼に、今度は俺から誘いたいんだけど」


 俺が今日の彼女みたいに、彼女にとっての初めてを提供できる自信はないけど、楽しんでもらえるように努力はしたい。


「二人だったら、どんな事だって楽しいことに変えられるよ」


 満面の笑みが、夕日と重なってまぶしい。


 少し目を細める俺に、彼女はすーっと近づいてきて、俺の首に腕を絡めてくる。


 柔らかい感触を唇に感じる。


 ホンの一瞬でまた離れていく。


 彼女の頬はほんのり朱に染まっている。


「これからいっぱいいっぱい、二人で楽しい事していこうね」


 イッちゃんはまた、まぶしい笑顔を振りまいて、夕日の沈む方に向かって歩き始めた。


 俺が隣に並ぶと、さり気なく腕を組んでくれる。

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