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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
64/102

第 64 夜   『クロスロマンス』

語り部 : 駒瀬享滋コマセキョウジ

お相手 : 蓋谷奈月フタダニナツキ


盛立役 : 北谷美志麻キタガヤミシマ

      小泉史郎コイズミシロウ

 家族ぐるみのお付き合い。


 その両家には、男女の同い年の子供がいる。


 よくあるシチュだと思うけど。


 世の中の人が思っているほどの期待を裏切らないイベントなんてありもしない。



   第 64 夜

    『クロスロマンス』


 彼女を連れて俺ん家に。


 目的はレンタル映画鑑賞。


 今月のお小遣いデーまで後2日。


 乏しい財布に優しくしようという発想。


「ただいまぁ」


 返事がない? 母さんどこかに出かけているのかな? この時間なら兄貴達もいないだろうし……。


「まぁ、いいや。上がって」

「おじゃましまぁ~す」


 彼女が家に来るのはこれが初めてではない。


 お袋とも何度も顔を合わせている。


 交際が良好に進んでいるってことなんだけど、それにしてもこの家に二人っきりって言うのは初めてだな。


 ちょっとだけ緊張するぞ。


 彼女も気になっているのか、少し言葉数が少ない。


「あっ、おかえりぃ」

「……なんでお前が俺の部屋にいる?」


「うーん? おばさんにお留守番頼まれて、ただいま享ちゃんの部屋を物色中」


「泥棒か、お前は……。警察に突き出すぞ」


 ケツ尽きだして俺のベッドの下に手を突っ込んでいる大馬鹿者、こいつはお隣の北谷美志麻。

 俺と同じ高校一年。


 学校は違うが、小中の頃はよく同じクラスにもなった、ただそれだけの幼馴染みってヤツだ。


「そうか、留守番ならもういいぞ。ご苦労だったな」


「うーん、ああ、奈月ちゃん、いらっしゃあ~い」

「だからお前がもてなすな」


「こんにちはミーちゃん」


 いや、ここで君が甘い顔を見せるとこいつ調子に乗るから……。


「ああ、うむ! お邪魔なようだから私、帰るね」


 何がしたいのか分からないまま、ミーは帰って行った。


「ふー、私が機嫌損ねていたから帰っちゃったんだよね。悪いことしちゃったな」


 機嫌を? あー、すごいな女同士って。ダメだな俺って。


「ゴメンな。あいつには悪気は全くないんだ」


「分かってるよ。でもね享滋くん、こう言う時に享滋くんからフォローされるのって、あんまりいい気しないんだよ」


 それは……そうなのかもな。


「本当にゴメン」

「うぅうん、私の方もごめんなさい。……映画、見よ」


 仕切り直して借りてきたメディアをプレイヤーにセットする。


 借りてきたのは20世紀に放映されたラブロマンス。彼女のリクエストだ。


 コメディータッチで、飽きることはないけど、ムード作りには今一つ役立ってはくれない。


「はははっ、面白かったね。次は?」


 借りてきた映画は三本。


 そろそろ昼飯にしたいんだけど。母さんまだ帰ってないよな。


「なんなら私が作ろうか?」


「お、いいの? それじゃあ下に行こうか」


 部屋の灯りを消して、階下のキッチンへ。


「……」


 思いも寄らぬ光景に目が点になる。


「ああ、そろそろ呼ぼうと思ってたんだ。座って座って」

「美志麻、何してるの?」


「何って、おばさんに享ちゃんのお昼の面倒頼まれてたから」

「母さん今日はどこに行ってるの?」


「えー、確かバスツアーだよ。聞いてなかったの?」


 聞いてねぇよ。それだったら何日も前から決まってたことだよな。こいつはなんの冗談だ。


 美志麻が用意したのは天麩羅ぞば。天麩羅も自分で揚げたのか?


「蕎麦も自家製だよぉ♪ さぁ、座って」


「あ、ああ、食べようか?」


「う、……うん」


 今度は俺にも分かるよ。奈月の機嫌が急降下していくのを。






「あれって当てつけだよね、こうなったら」


 昼食後、部屋に戻っての奈月の開口一番がこれだった。


 せめて後片付けをと言いたかったみたいなんだけど、「どこに何をしまうか分からないでしょ?」と言われて引き下がった。


「なんかもう嫁姑戦争だよな」


「人事みたいに言ったぁ~」


「あ、いやいや、そうではなくて、あんまり気にしすぎてもさ、あいつ、家の母さんのポイント稼いでるから」


「だからなんで? そんなポイントなんでいるの? やっぱり享滋くんのこと狙ってるんじゃあないの?」


「とにかく落ち着いて! あいつには本当に、他に好きなヤツがいるんだから」


 この情報に間違いはない。


 当の当人から聞いたことだ。


「それなんだけどね」


 いつの間にか部屋の前まできていたミーが、扉越しに言葉を挟んでくる。


「これ、コーヒー、飲むでしょ? 奈月ちゃん本当にゴメンね。私イヤな女の子だよね。でもね。本当に私には、享ちゃんに対しての恋心はないんだよ」


 それだけ言うと、コーヒーを置いて出て行こうとするミー。


「待って! ミーちゃん、あなたの気持ち、教えて欲しいの。あなたの片恋の相手が誰なのか? もしもやっぱり享滋くんだったとしても、私は真正面からあなたと向き合いたい」


 ミーは奈月の言葉を聞いて引きとどまった。


「じゃあ、もし本当に私の好きなのが享ちゃんなら、あなたはどうするの?」


「私には二人のような歴史がない。だけどこの気持ちは、享滋くんを想う気持ちは絶対あなたにも、他の誰にも負けてない!」


 顔色一つ変えずに宣言された。こっちが赤面しちまうよ。


「え、あ、えーっと、その」


 そして今さらになって、自分の大胆発言に取り乱してしまう奈月。


「ぷぷっ!! 分かってるよそんなの。だから本当に私は享ちゃんのこと、そんな目で見てないんだって。あーあ、なんか当てつけられちゃったなぁ。今の奈月ちゃんに免じて教えてあげよう。って、享ちゃんは既に知ってるんだけどね」


 最初に相談を受けたのは俺だからな。






 ふぅ、結局昨日は残り二本の映画を観ることができなかった。


 勿体ないけど当日返しで借りてきたから、観ないままに返却した。


「ねぇ、享滋くん」


 俺と奈月は高校で知り合い、クラスメイトとして仲良くなり、彼女から告白を受けて交際がスタートした。


「ミーちゃんの想い人って、どんな人なの?」


 小泉史郎、俺とミーが通っていた中学時代の友人だ。


 今はミーと同じ高校に進学している。


「元々二人はちゃんとつき合っていたんだよ。だけどミーはあれでいて、人一倍人見知りで憶病でな」


 ずっと昔から一緒にいて、人と絡む場面があるとずっと俺がリードしてきたから、あいつは小泉とのデートにも俺を同伴させた。


「確かに告ったのは小泉からだったけど、ミーもずっとあいつのことが気になっていたから、余計に舞い上がっちまってな」


 最初のデートから数回、いつまでも一緒に行ってやっていた俺も悪かったんだろうけどさ、いつまでたっても同伴デートってのは、誰だってイヤになるわな。


「それでついに、あいつがキレて破局したって」


「結局、享滋くんもミーちゃんも同じ事して、相手の気分を損なっているのね」


 うっ、耳が痛い。


「俺も責任感じて、どうにか小泉と話をしようと思ったんだけど、会ってくれなくてさ」


 メールも電話も受け付けないから、なかなか話が前に進まない。


「待ち伏せとかすれば?」


「ああ、その手があるかぁ。さて、それで捕まえたとして、聞く耳を持ってないヤツに、どう説明すればいいか……」


「うーん、えっとこれは私の憶測なんだけど、その小泉くんって人、ちゃんと面と向かえば、話も聞いてくれると思うんだけど」


「そうなのかな?」


 そうなのかな?






 俺はヤツが帰り道に使いそうな場所を選んで、一人で待ち伏せをした。


 最後のデートの日からだから、かれこれ2ヶ月は会っていない。


「しかし会って先ずは、どう言おうか?」


 あんまり言い訳がましく言っても、信用しないよな。


「お前、何を道端で悶えてんだ?」


「お、おお小泉!? げ、元気そうだな」


 待ち伏せしていたのに、心の準備ができる前に見つかっちまうとは……。


「その分だと用があるのは俺にか、なんの用だよ?」


「あ、ああミーのことなんだけど……」


「……その事か、できれば何も聞きたくないんだけどな」


 そう言う事も想定済み。


 そこで俺は、二人が破局する直前に、俺にできた彼女の話をした。


「本当はあの日、お前に紹介してな、お前とミーとの間に、もう俺が入ることはない。って言うはずだったんだ」


「お前に彼女? どんな子だ」


 食いついてきた。


 俺達はハンバーガーショップに場所を移した。


 そこには手はず通りなら。


「お前、謀ったな?」


「これは俺の彼女の立案なんだ。とりあえずお前らを、もう一度会わせようって言う」


 先に来ていた奈月とミーと合流。


「小泉もここまで来たんだから、頼むからジタバタしないでくれよ」


「卑怯者め」


 しぶしぶ同じ席に着いた小泉は、深く目を瞑った。


「小泉くん」


 真っ先に口を開いたのはミーだった。


「私、本当に享ちゃんとはそんな関係じゃないんだよ。そりゃあ昔はそんな感情を抱いたこともあったけど」


 なに? それは初耳だぞ。


「だけど享ちゃんにはその気は全くないって分かって、私のことを妹としてしか見てくれないことに気付いて、私の心は本当に傷ついていたの」


 参ったぞ。どう反応していいのか分からない。


「小泉くんに告白されたのって、その頃だったのね。もう私には享ちゃんの恋人になれるチャンスが、本当にないんだって思ってた時」


 目線が全て俺に向けられている。視線がいたい。


「正直言って、これは享ちゃんと擬似デートをするチャンスだと思った。私の人見知りを利用すればって、案の定、享ちゃんは私のことを心配して付いてきてくれた」


 この流れってまずくないか?


 小泉頼むから怒って帰ったりしないでくれ。


「小泉くんは気付いてたんでしょ?」


「ああ、だから俺にとってもチャンスだと思った。享滋が一緒でも、共に過ごす時間があれば、俺にだって好機は巡ってくるって」


 俺が考え及ばぬところで、そんな攻防が繰り広げられていたのか。


「そんなデートを繰り返すうちに、私は享ちゃんの事を忘れて、小泉くんと仲良くやっていこうって気になり始めていた」


「えっ?」


 今のミーの言葉に驚いたのは小泉だった。


「本当だよ。そう思い始めていた時に、享ちゃんにも彼女さんができて、今度こそ、想いを小泉くんにって思ってた」


 だけどその時にはもう、小泉の堪忍袋の緒は切れていた。


「……小泉くん、私、本当にあなたのことが好きなの。今度こそ間違いなく正真正銘の想いなの」

 俺は奈月を連れて店から出た。後は二人の問題だ。


 席を立った後、ちらりと見れば、小泉はミーの隣に席を移して、何か一生懸命に話し始めている。


「一件落着かな?」


「そうだね。だけど享滋くんは、もう少し女の子の気持ちの勉強した方がいいよ。今回の件、享滋くんが気をつけて立ち回っていたら、間違いなくこうはなっていないはずだもん」


 チクショー、反論できない。


「まっ、そう言うところもひっくるめて、私はあなたを好きになったんだけどね」


 今度から遊ぶ時は、ダブルデートになる事もあるだろう。


 奈月も美志麻と、いい友達関係が築けそうだと言ってるし、その時には思う存分、小泉とミーを冷やかしてやろう。


「それがダメだって言うの!?」


 あう、またダメ出しされちまった。

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