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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
61/102

第 61 夜   『青春ホスピタル』

語り部 : 新庄哲治シンジョウテツジ

お相手 : 阿久津詠歌アクツエイカ

 高校入学早々に、自転車で事故に遭い、俺は病院送りになった。



   第 61 夜

    『青春ホスピタル』


 俺の自転車にぶつけてきた車は、この辺りではなかなかの著名人で、事故に関しては、全面的に謝罪してくれて、俺が今入院しているこの病院でも、最上級の個室をとってくれた。


 入院2日目、学校の友達が見舞いに来てくれた。


 目的は足のギブスにらくがきすること。


 俺は自転車大破、向こうの車も修理が必要という事故に遭っておきながら、全身ほぼ無傷、ただ飛ばされてコンクリートに打ち付けた右足を、骨折してしまったのだ。


 しかし普段は時間を気にせず思いっきり眠りたいとか思っていながら、いざ眠れるようになったらなったで、そうそう眠れるわけでもなく、とにかく暇だ。


 夜に眠れないのも困るから、できるだけ昼間は起きておきたいけど、骨折なんて、ほとんど健康体なんだから、時間を潰すのが大変だ。


「あんたはそうかもしれないけど、他の患者さんはもっと辛い人もいるんだから、あんまり贅沢言うもんじゃないよ」


 と、母さんに言われたけど、確かに人のことは分からないもんな。


「暇なら勉強したら、時間の有効利用よ」


 よし、耳は寝てることにしよう。


 時間が余ることも辛いが、もっと辛いのは食事、健康優良児である俺に、病院食は腹の足しにもならない。


 母さんが毎日弁当を作ってきてくれるが、それも夕飯のみ、朝昼はもう腹の虫との戦いが、激しくてしょうがない。


 どうのこうの言いながら、昼寝をいっぱいしてしまった。


 もう就寝時間過ぎたのに、全く眠れる気配すら感じられない。


 俺はジュースを買いに行くついでに、病院内を少し見て回った。


 途中出くわした看護師さんに注意を受けたが、目的の飲み物を購入して、自室に戻ろうかと思ったところ、ベンチに腰掛けて、鼻歌を小さく口ずさむ人影と遭遇した。


「こんばんは」

「ひっ!? ああ、ビックリした。……どなた様?」


 思わず寝間着姿の女の子に声を掛けてしまい、ビックリさせてしまった。


「ああ、俺、昨日ここに入院した新庄哲治っていいます」


「この病院の常連の阿久津詠歌です」


 おお、可愛いな! 年の頃も同い年くらいか?


「詠歌ちゃんはこんな時間にこんなところで何してるの?」


「ああ、えーっと、やっぱり怪しかった?」


「いや、そう言うんじゃあなくって、気になるでしょ? なんとなく」


「そうだね。だけど声掛けられたのって、哲治くんが初めてだよ。看護師さんにはよく注意されるけど」


「俺もさっき注意された」


 こんなところでお喋りしていると、また巡回に捕まると思い、俺は思わず彼女を自分の部屋に招き入れた。


 彼女の病室は俺の部屋の隣だった。


「常連とか言ってたけど、入院生活長いの?」


「と言うか、出たり入ったり、私、生まれつき心臓が弱くてさ。あっ、変な気遣いはなしね。私自身、自分のことを悲観したこと一度もないから」


 そうは言うけど、やっぱり俺みたいに、日々安穏と生きてきた人間からしたら、それってかなりディープなんだけどな。


「えっと、心掛けるけど、もし気に障ること言ったりしたら、少しくらいは許してね」


「ふふ、哲治くんって優しいね。かなりもてる方じゃない?」


「いやぁ、彼女いない歴と年齢が比例します」


「そうなの? 周りの女の子達って見る目ないね」


 お世辞でも嬉しいな。


 それにしても気を遣うなって言うけど気になる。


 心臓の病気? 大丈夫なのかなこんな時間までお喋りしてて。


「俺、2週間くらい入院してるから、そろそろ休んで、明るいうちにまたお喋りしようか」


 そろそろ巡回が回ってくる気がして、俺は詠歌ちゃんに提案した。


「看護師さんが来たら、哲治くんの布団の中に隠れるから大丈夫だよ」


「いや、俺がタダじゃ済まない。君みたいな可愛い子と一緒に布団入るなんて」


「へへ、可愛いって言われた。本当に哲治くんって、もてないの?」


 日も変わろうかという時間、それじゃあまたねと言って、彼女は自室に戻っていった。






 今日で入院五日目、もう友達もあまり見舞いに来なくなった。


 退屈な入院生活も、同じ患者の中に友達を作ると、そんなに悪い生活でもないように思えてくる。


 詠歌ちゃんは実は、俺より一つ年上であることが判明した。


 だけど今さら「さん」づけって言うのもなんだから、本人了承の元、今まで通りの接し方をすることにした。


「ああ、なるほどこうなるのか、詠歌ちゃんって教えるの上手だね」


「入院中って本当にやることないでしょ? だからもう勉強するくらいしかなくって」


 本読んだり雑誌見たりとかもしているようだけど、やっぱり勉強するのが一番時間の経過が早く感じるのだそうだ。


 俺には絶対そうは思えないけど。


「少し勉強遅れてるけど、これなら復学しても、置いて行かれたりしないよ。ありがとう」


「どういたしまして、でも……」


 急に沈み込んでしまう詠歌ちゃん、何かあったのだろうか?


「うん、ここでお喋りできるのも今日までだから、ちょっと残念で……」


「えっ、なんで? もしかして退院するの?」


「うぅうん、私、明日手術を受けるの」


 それは少し前から決まっていたこと、実は初めてあった日のお昼間に日付も決まったと言うことなんだけど、俺に気を遣われるのが嫌で、今まで黙っていたらしい。


「難しい手術なの?」


「うぅうん、今は当たり前のように行われている施術らしく、心配はほとんどいらないって」


 そうなんだ、なら安心なのかな?


「でも100%なんてないからね。全身麻酔もするし、やっぱり怖いんだ。今からもう震えちゃってるし」


「でもなんで今日までなの? 手術済んで麻酔解けたらまた会えるんじゃないの?」


「術後は暫くICUに入るから、哲治くんが退院までに、一般病棟に戻ってくるかも分からない」


「大丈夫、俺が退院しても、ちゃんとまた会いに来るから。普通の面会として」


「ふふっ、ありがとう」


「それにこの手術が終われば退院できるんでしょ? 近くに大きな公園あるんだ。あそこを散歩したりとかしない?」


 術後に楽しいことがあると思えば、オペへの恐怖が和らぐかと思って言ってみた。


 詠歌ちゃんは少しポーッとした表情で俺のことを見ている。ちょっと引かれたのかな?


「ね、ねぇ哲治くんって、本当につき合っている子とか、好きな子っていないの?」


「えっ? う、うんいないよ」


「もし手術が成功して、元の生活ができるようになったら、私のことを恋人にしてくれませんか?」


 それは唐突な告白だった。


 すぐに返事ができず、ジッと黙っている俺の目を見つめて放そうとしない。


 俺は微笑を浮かべ、引き出しに手を入れて、中からお守りを取りだした。


「これ、あげる」

「えっ?」


「そのお守りのお陰で、俺はあの事故でも足一本折るだけで済んだんだ。まぁ無傷で済まなかったんだから、ちょっと縁起悪いかもしれないけど、その分まだ効力は残っているはずなんだ。御利益は十分だよ」


「そうなんだ、だったらきっと私のことも守ってくれるよね。ありがとう」


「それさえあれば、間違いなく成功する。そして近いうちに退院もできる。そうしたらいろんな事しよう。二人で」


 詠歌ちゃんは満面に笑みを浮かべてくれた。






 あの後、彼女に会うことはなかった。


 まだギブスは取れていない俺は、松葉杖のまま登校。


 久しぶりに会うクラスメイトに囲まれて、歓迎ムードのまま久しぶりの授業がスタートした。


 詠歌ちゃんのお陰で、授業に置いていかれることもなく、俺の復学は順調に再スタートを果たした。


 そんな事も今や一月前の事だ。


 手術は無事成功していた。


 心配する必要もないくらいにあっさりと。


 けれど俺はあれから一度も、彼女には会えなかった。


 何度かお見舞いに行ったけど、術後は毎日検査をし、後遺症がないかの診断があり、面会はできなかった。


 暫くいけない日が続き、久しぶりに行くと、彼女は退院した後だった。


 俺は会えなかったんだけど、退院できたと言うことは、一安心だってことだよな。


「まさか、もう会えないのかな?」


 病院の中だったから、俺は携帯電話を持っていなかったし、彼女は元々持ったことがないと言っていた。


 メモでもいいから連絡先を聞いていればよかった。


「ほら、早く座れよぉ」


 担任が入ってきた。


 どうにかしてもう一度会いたいけど、授業中に何かいい方法がないかを考えてみるか。


「今日からの新しい仲間だ。彼女の名前は……」


「詠歌ちゃん!?」


「なんだ新庄知り合いか?」


 なんで彼女がここに? 確か俺達より一つ年上のはずなのに。


「阿久津は病気がちでな、去年はほとんど学校に来られなかったから、もう一度1年生をすることになった。本当は学力的には2年生に進級できたけど、本人の希望でな。このクラスに編入することとなった」


 まさか同じクラスになれるなんて思ってもいなかった。と言うかこの学校の生徒だというのも知らなかった。


「どう、ビックリした?」


「かなり、やられた感でいっぱいだよ」


 ホームルーム後、しばしの休憩時間で、俺は彼女に話しかけられた。


 本当なら転校生なんかがあると、その周りに人が集まるもんなんだけど、病気と留年というキーワードが人を遠ざけているのかもしれない。


 だけどお陰で二人でゆっくり喋ることができた。


「だってまだ約束の一つも果たしていないんだよ」


 詠歌ちゃんの顔色は本当に健康色で、本当に元気になったんだってよく分かる。


「分かった。それじゃあ手始めに今度の土曜日に、病院の近くの自然公園に行こうか?」


「うん!」


 人より少し遅れたかもしれないけど、彼女の青春の時間は幕を切って落とされた。


 俺達は一足遅れた高校生の時間を、二人で順番に満喫していった。

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