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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
59/102

第 59 夜   『夢の中でも会いたくて』

語り部 : 堂前ドウマエまどか

お相手 : 関屋拓セキヤタク


盛立役 : 王寺真紀オウジマキ

      坂本直武サカモトナオタケ

 私もいいなって思っていた男の子から交際の申し込みを受けた。


 もちろん私の返事は可!


 人を好きになるのってなんだかワクワクでドッキドキで、夜眠るのも惜しくって、夢の中でも会いたくて。


 でも恋って、もちろんの事なんだけど、いい事ばかりでもなくって……。



   第 59 夜

    『夢の中でも会いたくて』


「真紀ちゃん真紀ちゃん! あれ、あれ見て!?」


「なに? ああ、関屋くんじゃん! よく見つけられるね? あんなの」


 カタカナのコの字型をした校舎の、いま私達がいる反対側に見つける愛おしい人、その姿を私の傍にいる友人にも教える。


「隣にいるのって、確か他の組の子だよね」


「あんたよく見えるわね、本当に」


 楽しそうにお喋りなんかしちゃって、手に持ってるのってプリント?


 手伝ってあげるよとか言って!


「落ち着きなさいよ。みんな見てるし恥ずかしいよ」


 これが落ち着いてなんていられますか!?


 私以外の女の子と、あんなに仲睦まじく。


「どう見たってただの友達でしょ? 普通にしか見えないよ」


 真紀ちゃんが言っているのは、二人の距離が、ただのクラスメイトの距離を超えていないっていうんだけど……、まぁ確かにそうだけど。


「だからってあんなに笑顔振りまく必要ないよね」

「だから普通だって」


 二人の行く先が気になって、ずっと目で追いかけていたけど、昼休み終了の予鈴が鳴って、どうしよう、授業をさぼってって訳にはいかないし……。


 って、思っていたら。


「自習って……」


 担当の先生も、代理の先生もいない英語の授業は突然自習となり、監督の先生も出て行ってしまい、教室内は無法状態。


「なに、何か言った?」


「ねぇ、私ってそんなにずれてるのかな?」


「ずれてるって? ああ、関屋くんの事か、まぁ気持ちは分からなくもないけどね。あんまり五月蝿くしてると愛想つかれたりしない?」

「えっ!? そうなの?」


 配られたプリントを目の前に置いて、こんな風にずっとお喋りしていたら、ガラリと扉が開いて、また監督の先生が入ってきて、「残り時間は今のプリントの小テストです」と言われて、教室中がブーイング。


 当然の事ながら、私のテストは散々たる結果でした。






 学年の違う彼とは校舎が違い、休み時間毎に会うのは、ちょっと努力が必要で、でも時間は不十分で、放送部員の私はシフトによっては、お昼もあまり暇はない。


 特に今日は4限目が体育だった彼とは、お弁当すら一緒できなかった。


「年下の彼だと、従順でかわいいでしょ?」


「従順って、ペットみたいに言わないで、まぁかわいいのは当たってるけど」


「はいはい、ごちそうさま。それよりダメだよ。お昼休みの事、あんな程度で怒ったりダダこねたら、本当に煩がられるよ」


 靴箱まで一緒した真紀ちゃんと別れて、まだ来ていない彼を待つ。


 そうだよね、もう手遅れかもしれないけど、今からでも少し自重した方がいいのかな。


「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃった。まどかさん待たせちゃったかな?」


「あ、うぅうん、そんなに待ってないよ。拓くんは今週掃除当番だもんね。それに私が放送部のシフトで放課後残らないといけない時は、いつも待っててもらってるんだもん、お昼休みも今日はもしかして日直だったの? プリントいっぱい抱えてたけど」


 お昼のシフトが回ってきて、放送室にいた私が帰りに見かけたのは、女の子と連れ立っていた姿だったけど、そこには触れないで聞いてみる。


「ああ、えーっと見てたんだ? でもあれはたまたまなんだよ」


 私が言おうとしている事に気付いたみたい。


「担任に呼ばれて職員室に行ったんだ。その用事を済ませて教室に帰ろうとした時に、彼女が他の先生にプリント運ぶように頼まれていて、職員室出るの一緒だったから俺が」


 本当に優しいんだこの人は、そこも私が彼を好きになった理由の一つなんだけど……。


「ああ、そう言う事だったんだ」


 私は彼女とは仲がいいのか?

 普段からよく話をするのか?


 彼女には特定の彼氏がいるのか?


 など聞きたかったんだけど、でもここは真紀ちゃんの助言を参考に、心を穏やかにしてみる事にした。


「あれ?」

「なに?」


「ああ、いやなんでもないです。こっちの話。それよりまどかさん、もしよかったらこれから……」


「関屋くん!」


 話の途中で横槍。誰?


 声のする方に目をやれば、走ってくるのはお昼休みのあの女の子。


「坂本さん? なに?」


「あ、えーっと、時間あったら、ちょっと手伝って欲しいんだけど」


 この子、明らかにこっちを意識している。


「手伝いってなに?」


「うん、先生に頼まれて、資料を移動させないといけないんだけど、うちのクラスの学級委員の男子、もう帰っちゃってて、私親しい男の子って、関屋くん以外いないから」


 確かにこういった用事を嫌う男子はいっぱいいるし、拓くんならこういった頼み事なら快く受けてくれるだろう。


 でも彼みたいな性格の男の子は、各教室に2、3人いると思うんだけどな。


「えーっと、まどかさん、ちょっとだけいいかな?」


 いつもの私なら決してOKを出さない。


 周りからいくら理不尽と言われても、最悪同行して邪魔をする。


 この場合も私が一緒に行っても別にいいんだろうけど、私は彼が他の子とお話ししているだけで我慢できなくなるから、了承するならここで待つのがベストとなる。


「うん、事情が事情だし、行ってきて。私はここで待ってるから」


 いつもにない物わかりの良さで彼を送り出した私だったけど、ダメだ、もうすでに彼の事が気になってしょうがない。


「……、このままここで待っていたら、戻ってきた拓くんにあれこれ聞いちゃいそう。……顔見る前にいなくなる方が簡単そう」


 私は彼の携帯にメールを送って先に帰った。






 携帯の電源はオフにしてある。


 いつものこの時間なら、彼とおしゃべりしている時間だけど、まだ気持ちの整理がついていない。


 真紀ちゃん苦しいよぉ~。


 その日の夜、私は夢の中で拓くんに会う事ができた。


 普段は見たくても見られない彼の夢を、今日はちょっとダウンした気分で過ごしたから、夢の中で拓くんに会えた事は、本当に嬉しかった。


 嬉しかったんだけど、夢の中の彼は思わしくない表情をしている。


 これは私の心がそう感じているからなのか、いろんな場面に転回していくけれど、ずっと彼は寂しそうな顔を続けていた。


 目覚めは最悪、私はいつもの一段くらい酷い寝起き顔を鏡に映して、このままじゃあいけないと、自分の両の頬を強めに叩いた。


 ササッと朝の支度を終え、ちょっと早いけど家を出る。


 学校最寄りの駅、改札を出たところで、夢の中と同じ表情の彼の待ち伏せにあった。


「昨日、なんで先に帰ったの? なんで電話しても繋がらなかったの?」


 そこまで気にしていたんなら、家電にかけてくればいいのに、って、そう言う問題じゃないよね。


 この顔は怒っているんだよ、ね?


「何があったの? 昨日から変だよ。俺、何かしでかしたのかな? 謝る事に思い当たらないんだけど、なんでも言ってみて」


 通勤通学の通行人の視線がイタイ。


 とにかく学校に行ってからと、場所を移して話の続き。


 移動中は無言のままだった。


 私は昨日の真紀ちゃんとの会話の、一部始終を包み隠さずに言った。


「俺そんなことで、まどかさんの事あきれたりしないよ。

と言うか、いつもまどかさんが詰め寄ってくれるのは、愛情の表れだって思って、嬉しいって思えるんだけど……、

なんか俺、危ない事を口走ってるな……」


 ふふっ、そうだったんだ。


 そうだよね、今さら態度替えたらおかしいって思っちゃうよね。


 畜生! 真紀のヤツがあんなこと言うから。


「だけど、そうか、これからは今までより押さえてくれるって言うんなら、それはそれでいいのかな?」


「えー、やだ! 拓くんがそう言ってくれるんなら、私もう絶対我慢なんてしないから! ……そ、そりゃあ少しは場の空気とかには、気を遣うようにするからさ」


「はははっ、うん! 何事も加減よくやっていこうよ。俺はずっとまどかさんと一緒にいたいから」


 うん、そうだね。


「ところであの子、もしかして拓くんの事?」


「ああ、やっぱり分かった? 俺、昨日彼女に告られた。そんで即断った。その報告もあったから、電話したのに繋がらなかったんだ」


 昨日の夢では曇り空だったけど、今日の夢はきっと快晴に違いない。


「ごめんね」


 また夢の中でも彼に会えるように、私は私らしく、でも少しは成長して、もっともっと彼が私を好きになってくれるように頑張ろう。

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