第 58 夜 『止まない動悸』
語り部 : 間島有佳
お相手 : 大岡珊慈
盛立役 : 久地静香
吉水沙里
親友からの頼み事で恋のキューピッドをする事になった私は、彼女と私の共通の友人、大岡珊慈くんに会いに来た。
最初に聞いたのは、こう言った時のお約束、「今、つき合っている人っている?」だ。
そして返ってきた言葉もまた、「つき合ってる人はいない、けど好きな人ならいる」と言った、よく耳にするものでした。
第 58 夜
『止まない動悸』
なんでこんなややこしい事に……。
「ふーん、珊慈くんって有佳の事が好きだったんだ」
「そんなサプライズなんていらないよ。あんまりビックリして、静香の事伝えるのも忘れちゃったし」
「それで有佳はどうなの? 珊慈くんの事?」
私は、タダの陸上部のクラブメイトってだけの彼を、いきなり意識したりもできないし、それにやっぱり静香の事も放っておけないし。
「ああ、もう! さっちゃんどうしよう?」
吉水沙里とはこの高校で出会い、同じ陸上部に所属した事で友達になった。
彼女の男らしさっぷりに惚れ込んで、一も二もなく親友となった。
「久地さんと珊慈くんってどういう間柄なの?」
「クラスメイトだよ。静香と一緒に生徒会執行委員をしてる」
「その活動の中で、仲良くなったって事か」
私と静香は小中学も一緒で、今もプライベートでは一番仲がいい。
「もしあんたにその気が全くないんなら、彼女の気持ちを伝えればいいし、少しでも珊慈くんの事が気になってるんなら、……伝えられないよね」
私が大岡くんをどう想ってるかかぁ~。
確かに仲はいいんだよね。
と言うか、同じ短距離の選手だから、一緒にいる事も多いんだよなぁ。
「久地さんと珊慈くんの共通の友達って、他にいないの?」
生徒会の中にはいると思うけど、私がそっちの繋がりを知らないからなぁ。
「よし! じゃあさ、私も一緒に行ってあげるから、3対3でどっか行かない?」
「それってややこしくならない? 二人の気持ち知ってるのに弄んでるみたいな」
「考えすぎだって、それは」
とにかく別の案を考えよう。
「もう正直に久地さんに話した方がいいんじゃない? 友達なんでしょ?」
そうだよね。その方がいいよね。
さっちゃんも立ち合ってくれて、私は大岡くんに言われた事を、そのまま静香に伝えた。
「そうなんだ、なんか残念だけど、正直に言ってくれてありがとう、ちょっとだけスッキリしたよ」
よかった。やっぱり正直に伝えて正解だったんだ。
「でも有佳はどうなの? 大岡くんの事、本当にどうとも想ってないの?」
「えっ、私?」
「そうだね。珊慈くんだって、自分の気持ち伝えたいって思ったから、告白したわけだしね。ちゃんと答えてあげないといけないんじゃない?」
「有佳ってどうなの? 彼とつき合ったりしないの?」
ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて欲しい。
「そうだ吉水さん、6人デートって本当に実現できる?」
ああ、こんな所まで喋らなくてよかったのに、デートのプランを立てていた事まで、さっちゃんはばらしてしまった。
「大丈夫大丈夫、それと私の事は沙里でいいよ」
「じゃあ……サリーでいいかな?」
「あはは、中学の時の友達も、そう呼んでたよ」
「それじゃあ私も静香って呼んで」
なんか大変な事になってきたなぁ。
私たち3人女子と、男の子はさっちゃんの彼氏とその友達、そして大岡くんの計六人、グループ交際がスタートしました。
事情を知らないのは大岡くんだけ、他の男の子達も、私と彼の事を盛り上げる役に徹してくれる事になっている。
なっているんだけど、さっちゃんの彼の友達は本気で静香を口説き始めている。
でも静香も楽しそうにしているから、まぁ~いいか。
そうなると自然とさっちゃんは彼氏と、私は大岡くんとといったポジションに落ち着く事となる。
アイススケートなんて何年ぶりだろう?
割といろんなスポーツで活躍する自信のある私だけど、こういった滑る系だけはどうにも苦手でよくない。
「ごめんね。なんだかつき合わせちゃって」
こういったスポーツも得意な大岡くんは私の面倒を見てくれて、他のみんなが楽しそうに滑り回っているのに、隅っこでふらついている私の手を取って、支えてくれている。
「謝んなくていいよ。それにしてもこう言うのは苦手だったんだな。著しく意外に思えるけど」
だからあの二人はこの遊びをチョイスしたんだろうけど、大岡くんの楽しそうな顔、ちょっと腹立つなぁ。
って違う違う。
今日は彼と遊んでみて、どれだけ楽しめるかの検証に来てるんだから。
とは言え、自分自身がこれだけ必死じゃあ、そんな余裕なしだよ。
結局スケート中は全く彼との事を考える暇もなく、次のボウリングにかける事に。
ところが地に足が着くと途端に元気になり、私の負けず嫌いが顔を出して、もう勝つ事に必死。
それじゃあ今日のプランが意味がなくなることに、途中で気付いた私は、今度は必要以上に彼を意識すると、そこからはもうゲームはガタガタになり、一体何やってんだか……。
その後ゲームセンターに行ってみても同じような結果で、ただただ恋も遊びも、中途半端に終わった一日だった。
「二人とも今日はありがとうね。ちょっと上手くいかなかったけど、ちゃんと参考にするから」
今日はたっぷりお金も使ったのに、微々たる成果しか実感できていない。
折角ここまでしてもらったのに……。
「間島さん……」
「大岡くん!?」
解散後の待ち伏せ、今日一番の印象がここに。他の事は全部吹っ飛んじゃった。
「な、なにか忘れ物?」
「いや、何か今日一日ちょっと変だったなって思って、気になったんだけど」
「えっ?」
またここで今日一番が塗り替えられた。
私の様子がおかしい事に気付いてたんだ。
「なんか心配事でもあるの? 俺でよかったら聞くけど」
本当に見ててくれたんだね。
自分的にはそんなに大きな違いは見せなかったはずなのに、こうして先回りまでしてくれて。
私は今回の企画について、全て打ち明ける事にした。
公園のブランコで隣に並んで座って、なんだか申し訳なくて泣きそうにもなるけど、頑張って最後まで喋った。
「ごめんね……」
「なんで謝るのさ。そんだけ真剣に考えてくれたって事だろ? ものすごく嬉しいよ」
「でも私、結局答え出せなかった」
「だけどこれからも考えがまとまるまで、俺の事を見ててくれるんだろ? ならいつも通りの自然体でさ、いずれ出る結果ってのを楽しみにしてるよ」
この数十分のお話で十分だった。
私の心はもう既に彼の虜になっている。
だけどすぐには打ち明けない。
なんだかもう少し、この雰囲気を味わいたい。
そうだね、いつかきっと気持ちを伝える時が来るよね。
その時の私は、自然体でいられるのかな?