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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
57/102

第 57 夜   『問題はサクッとね』

語り部 : 長尾伊吹ナガオイブキ

お相手 : 木部英太キベエイタ


盛立役 : 山屋明日見ヤマヤアスミ

      戸羽優子トワユウコ

 生まれて初めての告白だった。


 自分からお願いした事はあったけど、男の人の方から、それも校内でも有名な美男子からなんて。


「いいかな?」

「私でよければ喜んで」



   第 57 夜

    『問題はサクッとね』


 あの時は考えもなしに即答しすぎた。


 あいつは思いも寄らない外道だって、最初から知ってたらなぁ。


「なぁ、なんで俺の気持ちに答えてくれないんだよ。最初は喜んでくれたじゃないかよぉ」


「うるさい、ついて来んな!」


 大きな声を上げてついてくるから、私まで目立ってしょうがないでしょうが。


「分かった。もう一回、最初からやり直そう。そうすれば……」


「いらないし! 絶対何度だって返事は決まってるし、そもそも最初のが気の迷いだっただけだから」


「なんでだよぉ~」


 そんなの自分の胸に手を当てて考えろっての。


 こいつ、木部英太はトンでもない悪党だった。


 私に告白したあの時、こいつは同時に7人もの女の子と交際をしていた。


「だからあの子達とは円満離別してるんだからさ」


 私がOKしたことで、他の女の子の事を整理したってことなんだけど。


「大体、そのつもりだったんなら、最初から別れてから来なさいよ」


「いやぁ~、もし断られたらって思ったらさ。ちょっとだけ順番逆転させただけだろ?」


「じゃあ私も逆転、あんたなんてごめんだから、またその子達と仲良くやってね。さようなら」


「だって、一度でもOKくれたってのは脈があったって事だろ? それを聞いたらやっぱり本命を諦めるなんてできないだろ」


 これだ。これが私が気に入らない、一番の理由だ。


 生まれてこの方、一度だって男の子にもてた事もない私に夢を見させて、いい返事をもらったからって、私には自分を想う気持ちがあると分かると押せ押せになる。


 私はあの後すぐにこいつの本性を聞いて、もの凄く後悔したわよ。


「ねぇ、伊吹ちゃん」


「気安く名前で呼ばないでくれる、木部くん」


「えぇ~、俺の事も英太でいいからさ、伊吹ちゃん」


「さようなら」


「あ、ま、待ってよ長尾さん!」


「ふぅ、……全くしつこいんだから」


「ああ、やっと待ってくれた」


 このままだと女子トイレでも入ってきかねないからね。


「それじゃあちょっとだけ話を聞いてあげる。それで理解できなかったら潔く退いてね」


 逃げ回り続けて早3日、これ以上つきまとわれたくないし、ここいらで白黒つけようじゃないか。


 私たちは場所を、図書室横の談話室に移した。


 昼休み終了まで10分、サクッと話しなさい。


「なんで私なの? 本命って言ってたけど、なんか理由あるの?」


「俺、自慢じゃあないけど、結構どんな子にでもウケがよくてさ。女の子が相手だと割といろんな面で優遇されてきたんだ」


 十分自慢じゃないか。


「その分、男からのアタリが強かったりするんだけど、そんなの日常茶飯事だからさ、親父にケンカ仕込んでもらっていて、それなりに自信もあるんだよ」


 一体何の話なのよ。全く見えてこないんですけど? 残り7分。


「先月の事だけど覚えてる? 俺、3人組に絡まれてて」


「ああ、そこに風紀委員の私が、たまたま通りかかった時の事ね」


 立候補者がいなかったので推薦で決められた委員の仕事。


 校内を巡回していたときのこと、派手な容姿でよく目立つ木部くんと、素行に問題有りとして報告されている三人の生徒が、連れだって歩いていた。


 行き先はグラウンドを抜けた先にあるプールの裏側。


 校内には普段立ち寄る人のいない場所が何カ所かあって、ここもそのうちの一つ。


「お前、優子の告白受けたんだってな?」


「ああ、別に友達としてつき合う分にはって言っただけさ。もし俺に好きな子ができたらそこまでね。っていうのにも理解してくれたし」


 どうやら男女問題のいざこざのようだ。

 それで彼らの一人の反感を買ったと言ったところだ。


 それは呼び出された木部くんにも非があるようだけど、この場合どっちかというと三人組の方が筋を通していない。


 とは言え、お互いが納得しないと、こういう問題は解決しないんだろうな。


「はぁ~い、そこまでにしてぇ~」


「なんだ? ……風紀委かよ。ほっとけよ。個人の問題だ」


「そうして上げてもいいけど、その前にあなた達の話を聞いていて気になったんだけど。あなた、その優子さんに自分の気持ち伝えたの? その人の事好きだから、彼に絡んでるんでしょ?」


「そ、そんなのお前には関係ないだろ!?」


「全く、自分は何もしてないくせに、彼女が彼を好きになったからって報復しようだなんて。筋の通らない事しておいて、それで言うことはそれ? 最低ね」


「うっせぇーよ!」


 私も言い方が悪かった事は認めるけど、ちょっと言ったくらいで手を挙げるなんて。


「女の子に手を挙げてんじゃないわよ。ちょっとその辺、もう一度ちゃんと考えなさい」


 彼が拳を振り下ろす前に、平手一発入れて動きを止めて、それから傍にあった用具箱の箒を取り出した。


「おい、まずいよ。こいつあの長尾だぜ」

「って、剣道部の? 県大会までいったやつか?」


 説明ありがとう。最後に威しを込めて箒を構える。


 三人組はオドオドとしながら去っていった。


 って、そんな事があったんだっけか。


「あの時の事? まさか助けられたからって言う気?」


「半分正解、と言うか、獲物のないうちから、素手でも全く腰も引けてなかっただろ? あれ、格好良いなぁと思って」


 なんか褒められている気がしない。


 けどなるほど、そう言う始まりも確かにあるのかもしれないな。


「確かに筋は通ってるみたいね。それじゃあ返事ね。ごめんなさい。サヨナラ」

「え、え、なんで?」


「なんでって、私、筋の通らない事って嫌いなの。あなたにはまだ一人残ってるでしょ?」


「それは向こうが勝手に食い下がってきてるだけだよ」


「その原因を作ったのはあなたでしょ、だったら無関係とは言えないじゃない」


 問題は一つ一つ解決していかないとね。


「分かったわ。それじゃあ今日の放課後、一緒に行ってあげるから、ね」


 一度話を聞くって決めたんだから、最後までつき合ってあげましょう。






 放課後、掃除当番の私を待っていた所為か、問題の彼女は既に下校していた。


 しょうがないからまた後日。と言う事になったんだけど、その帰り道、とある現場を目撃する事となる。


「あれ? 明日見じゃん」


 木部くんが見つけたのは例の彼女だった。


 でもあれって腕組んで歩いている。あの人、家族とかじゃないよね。


 なに、これって向こうは向こうで、二股かけているってこと?


「えらい現場目撃しちゃったな。って、お、おい伊吹ちゃん、どうする気だよ」


「どうするも何も確かめるのよ。このままじゃあ納得できないでしょ?」


 止めようとする彼の手をふりほどいて、私は彼女の前に立ちはだかった。


「なに? あなた長尾さん、それに英太!?」

 すごく驚いている。


 見られてはならないところを見られたって所か?


「なんで? あなた達の家は反対方向でしょ?」


 私のことも知ってるなら好都合。


「私がこっちに用事があって、彼は勝手に付いてきたのよ」

「明日見、こいつらなに?」


 彼女が手を組んでいる彼が聞いてくる。


 さて、彼女はどう答えるの?


「タダのクラスメイトよ。なんでもないわ」


 こっちが本命か、それじゃあなんで木部くんにこだわってたんだろう?


「あの、ちょっとだけいいかしら? 彼女と二人で、すぐに済むから」


 私は明日見さんと二人になり、木部くんの事について聞いてみた。


「私の目に狂いがなければ、さっきの彼があなたの本当の恋人よね」

「そ、そうよ。だからなに?」


 もう完全に開き直ってるなぁ。それなら……。


「木部くんの事はどうしたいの?」


「ああ、もういいわよ。彼見た目はいいから、友達に自慢するのによかったけど、それだけだもの」


 彼の何を知っているのか知らないけど、最低の捨てゼリフね。


「分かった。もういいよ。ごめんね、そっちの何番目かの本命さん」

「あ、あんた!?」


「なに?」


 まだ何か言いたそうだったけど、本命さんがいきりだしたから、これから修羅場ね。


 筋を通さない相手には、こういうのもしょうがないでしょ。


 一つの解決は見られた事だし、もういいや。


 もちろん木部くんが、どう思うかは別だけど。


「もしかしてショックだった?」


「うん? ああ、いやそうでもない。と言うかたぶん彼女だけじゃないから。俺、今まで俺らしさを見せた子って、一人もいないから」


「一人も?」


「そうだな、今回の事で一人だけ特別に俺らしさを見せた子ができたけど、今までは一人もいなかった」


 今まで彼の周りには、彼の整った容姿にしか興味を持たない人ばかりしかいなかった。


 そう言う意味で言えば、確かに私は彼の内面を見ようとしていたのかもしれない。


「君といればいるほどに、俺は飾らない俺でいられる。

最初はハッキリとした物言い、物腰に興味を抱いたけど、本当にここ数日はずっと楽しかった。君の事を少しでも知るたびに嬉しくなった。

筋を通すのって難しいけど、深く考えなければ簡単な事なんだってのも分かった。すごく貴重な毎日だったよ」


 初めてだった。

 彼の本心をやっと聞けたような気がした。


 なんだろう、こんなに気になるなんて、もっとこの人を知りたいと思っている。私は。


「俺、今まで自分から告白した事なかったから、他の子達の存在を利用していたんだと思う。

背中を支えられているって気になって、少しだけ大きな気持ちになれた。

でもそれって君の言う筋を通せていないって事だよね」


 そうか、それであんな行動とったのか、なんだ筋は通ってるじゃない。ちょっと道は外しちゃってたけど。


「それで、木部くんはどうしたいの?」


「えっ? お、俺はやっぱり君の事が気になってしょうがない。できたら俺とつき合って欲しい」


「うん、これで私が納得できなかった筋はみんな通ったわね。後は私の中に生まれた、あなたへの興味をどう納めるかだけね」


「それって、……じゃあ」


 こんな性格だから今まで男の子にもてた事なんてなかった私。


 こんな私でもいいって言ってくれる彼。


 これからどんな道が続いていくのかは分からないけど、あなたと一緒なら筋の通らない結果にはならないと思えるから。


「これからよろしくね」

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