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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
56/102

第 56 夜   『点と線と二人の距離と』

語り部 : 大江美奈代オオエミチヨ

お相手 : 安城真樹アンジョウマサキ


盛立役 : 松本千秋マツモトチアキ

      藤堂虎助トウドウコスケ

      神谷泰士カミヤタイシ

      小森鈴香コモリリンカ

 長い間友達でいると、二人の距離感って言うのが、特には気にならないようになる。


 でも周囲の人たちはどうしても私たちのことを誤解していて、当人達を抜きにして、公認のカップルと呼ばれるようになっていた。



   第 56 夜

    『点と線と二人の距離と』


 毎日他愛もないお喋りばかり、テレビの事や流行りの歌、服、スイーツなんかの話を繰り返すように。


 明日になったら忘れていそうな何でもないような事、そんなくだらない事が楽しい日々。


「安城くんってソース派? しょうゆ派?」


「俺はソース、っていうかソースの味が好きなんだよな」


「ソースの味って言うのは分からないでもないけど、やっぱり玉子焼きにはしょうゆだよ」


 本当にくだらない話なんですけど、内容なんてどうだっていいんです。


 彼を含むいつもの仲良しグループと居るだけで楽しいんです。


「それじゃあ今日、帰りにラーメン屋にでもいくかぁ」


 食の話題の締めくくりは、醤油ラーメンと豚骨ラーメン、今はどっちが食べたいかだった。


 私の豚骨に対して安城くんは醤油ラーメン。私たちのどっち派論争は、たいていが別れてしまう。


 そこから展開されるプレゼンテーション。結果は出せず、放課後に実際、どっちがいいかの食論を展開する予定だ。


「本当に好きだよねあんた達」


「もう本当に私たちって相性最悪だよね。意見があった事なんてほとんどないもん」


「相性は最高なんじゃない? 意見は確かにかみ合わないけど」


「もう、ちーちゃんまで私たちをひっつけたい派なの?」


「派閥は関係ない」


 松本千秋ちゃんとは安城くんと同じくらいの仲良し。


 小学校の頃からよく同じクラスになり、同じ塾にも通っている。


 昔からいろんな相談やお願いをしてきた親友だ。


「虎助と泰士も言ってるよ。っていうか、あんた達だけが認めてないんだって」


 本人達が否定してるんだから、勝手に周りで、盛り上がったりしないで欲しい。


 こんな話はどうでもいいの、早く掃除終わらせて、寄り道するんだから。


「あれ、真樹は?」


 掃除を終えて教室に戻ったら、藤堂虎助くんと神谷泰士くんが私たちを待っていてくれました。


 でも本当、安城真樹くんどこ行ったんだろ?


「あいつなら呼び出し、3組の女子」


「えー、またぁ? 私お腹空いてるのに」


「おー、スナック菓子ならあるぞ」


「ラーメン食べに行くのに、今それはいらないよ」


 それにしても呼び出しかぁ。今度は同い年の子なんだ。


 最近は下級生からばっかりだったんだけどな。


「もう、あんたらが寝ぼけた事ばっかり言ってるから、そいうマヌケが出てくるんだよ」


 えー、そんな事言っても、それは私たちがって事とは、ちょっと違う気が……。


「それにしても、まだ同学年にそんな無謀な奴がいるとはな」


「もうあいつ置いていこうぜ。俺もう我慢できないぜ」


「もう少し待ってよう、藤堂くん」


 いつもの通りなら、さっさと済ませて、とっとと帰ってくるはずだもん。


「もしあいつがOKしたらどうする?」


「泰士ぃ、それはないない、真樹は美奈のこと一筋だもんよ」


「そうだな、美奈代ちゃんが素っ気ない対応すると、あいつこの世の物とは思えない、狼狽えぶりを見せるもんな」


 ちーちゃんはもう、神谷くんまで……。


「もしもってことは、あるんじゃないの?」


「藤堂くんまで……、もしもが合ったとしても、それは個人の自由だから、別に私がいう事はないよ」


「ね、この子の真樹への信頼はちょっとやそっとの事では、揺るがないから」


 千秋! 私の言ってた事ちゃんと聞いてたのか!?


 周りがこんな事ばっかり言うから、誤解されるんだよ。


「おっ、真樹お帰りぃ! さぁ飯食いに行こうぜ。俺もう限界だよ」


「ああ、悪いんだけど、俺ちょっとパスするな」


 えっ? だって今回の寄り道は私たち発信だよ。


「それからちょっと、五日間ほど俺一緒できないから」

「えっ、なんで?」






 あれから五日が過ぎました。


 いつものグループで、いつも通りの毎日を過ごしたけれど、安城くんが居ないだけで、なんだか物足りなさ120%増し。


 楽しいのは、楽しいんだけどね。


「まさか真樹が他の女の子と交際を始めるなんて、冗談でしかないよな」


「今までどんな可愛い子に迫られても、全く靡かなかったのにな」


「それだけ美奈の事を愛していたって事でしょ? だけど今回に限っては……、ねっ!」


 また好き勝手言ってる。


「だから期間限定のお付き合いだって言ってたでしょ?」


 3組の小森鈴香さんは、明日引っ越しをする。


 結構遠くの町に引っ越すことになり、その前にこの学校でいいなと思っていた、安城くんとの思い出が欲しくて、意を決して告白をしてきたのだという。


 五日間という事で了承した彼は、毎日小森さんの思い出作りのために、一生懸命プランを練っていた。


 今日が最後の日、この放課後にショッピングに行って終わり。


 明日からはいつも通りに、私たちの輪の中に戻ってくるはずだ。


「はぁ……」


「近頃多いね。ため息」

「やっぱりほら、愛しの君が他の女の子と一緒なんだぜ」


「あんた達にはデリカシーってもんがないの? 美奈の事は今は放って起きなさい。この子ももう子供じゃないんだから、自分で考えるから」


 あんたもね千秋。


「ただいまぁ」

「あれ、真樹? どったの?」


「いや、彼女も今日は明日の引っ越しの支度が残っているからって、帰っちゃたよ」


「と言う事はもう終了なのか?」

「まぁ、そう言う事になるね」


 これで全て元通りかぁ。本当にそれでいいのかな?


 私は自分で元通りがいいと願っていたはずなのに、安城くんのいつもの笑顔を見た途端に、なんだか変なもやもやが胸につかえた。


「そんじゃあ帰ろうか?」


「ああ、えっと、悪い。美奈代と二人にしてもらっていいかな」


「えっ、なになに? ようやく告白かぁ」

「こら、バカ泰士!」


 ちーちゃん渾身の回し蹴り、お尻にヒット。


「そっか、そんじゃあ今日はこれで、じゃあな」


 お尻を今さら庇う神谷くんを藤堂くんが支えて、3人が先に帰って行った。


 私たちは二人っきりで校舎を後にする。


「話?」


「うん、その前にこれ」

「私に?」


 差出人は小森さん。私宛?


 内容としては安城くんを借りた事へのお詫びと、楽しい思い出がいっぱいだったという報告。


 なんだか胸がチクリとする。なんでこんな手紙を?


「小森さん、美奈代の事、俺の彼女だと思っていたらしいんだ。だから悪い事したからって」


「そう、なんだ」


 どうして誰も彼もが、誰と誰がつき合っているとか話したがるんだろう。


 それってそんなに大事な事なのかな?


「ちょっと長くなるけど、聞いてくれるかな?」

「あ、うん」


 安城くんはこの数日間、小森さんとどう過ごしたかを細かく教えてくれた。


 その内容はいつも私たちとやっていることばかり。


 安城くんが思いつく限りの事を振る舞ったのだと分かる。


「ものすごく喜んでくれたよ。すげぇ突っ込まれもした。俺、ちゃんと気配りしていたつもりだったんだけど、ついついお前といる気になってたらしいんだ」


 向こうは私たちがつき合っていると思い込んでいるから、変に不自然に見られた訳じゃないけど、やっぱり気の悪い思い出になったかもと、彼は気にしている。


「俺、今回の事で色々考えてみた。今までの俺達は、それはそれで別に問題ないと思うし、それって俺達がどう思うか、どんな位置関係にいるかってことだろ?

 だから俺は今はいつもの五人でいいと思ってる」


 私もそうだ。


「でもな、こうしてあのメンバー以外の人といて思ったんだ。どんな位置関係にいても変わらないんなら、俺達恋人同士でもいいんじゃあないのかって」


 曖昧な気持ちでいたから、今回みたいな事で甘い考えで了解して、結果として少なからず、相手を傷つけたかもしれない行動を取ってしまった。


「なんか不純なのかもしれないけど、俺、美奈代の事が誰よりも大事なのは、間違いないからさ」


「わ、私もね。事情があると知っていても、安城くんのいない数日、とってもつまんなかった。もしかしてこういう気持ちが特別って事なのかなって。

交際を宣言することって、自分の気持ちを誤魔化さないためにも必要なのかなって」


 まだどこか曖昧なまんまだけど、私たちが自分から恋人宣言をすれば、きっと心も付いてくる。


 お互いがお互いを、もっともっと大切な存在に思えるようになる。


 だけど今まで通り五人で、時には二人で、私たちは歩みが遅かろうと、なるべく今までのまんまでちょっとでも成長していこう。


「ねぇ、小森さんの引っ越し先の住所って聞いた?」


「う、うん、教えてくれた」

 先ずは彼女にお手紙しよう。


 そして今度はちーちゃんと藤堂くんと神谷くんに。


 そう、できる事から少しずつ。

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