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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
55/102

第 55 夜   『思春期の行動』

語り部 : 穂場直行ホバナオユキ

お相手 : 清水泉美キヨミズイズミ

「ヤダ! バカ! エッチぃぃぃ!!」


 俺を力の限りに突き飛ばして、彼女は走り去った。


 あまりの衝撃に、俺は追いかける事もできなかった。



   第 55 夜

    『思春期の行動』


「ごめんね」


 衝撃の逃亡があった次の日の事、日曜日の朝からやってきた彼女がいきなり謝ってくれた。


「まぁ、玄関先じゃあなんだし、上がる?」


 昨日の今日だから俺の部屋には上がりたがらないかもしれないけど。


「それじゃあ、おじゃましまぁ~す」


 あれ? すんなり上がってきたなぁ。


「昨日やりそこなったゲーム対決、楽しみだったんだ」


 俺と泉美はゲーム仲間として、よく対決をしている。


 得意のジャンルが一緒で、実力も似たり寄ったり、やってみないと分からない勝敗の緊張感から、お互い必死にプレーする。


 学校でもゲームの話題が尽きる事はなく、気付いたら男女合わせても一番の仲良しに。


 それがつい先日、「俺達ってどんな関係なのかな?」と聞く俺に、「今さら特別じゃないって言われても、納得してあげなぁ~い」と言われた。


 だけど去年までランドセルを背負っていた俺には、まだ彼女って存在ってのが理解出来ない。


 恋人になったからって、何がしたいのか、何ができるのか、何を望むのか、そのどれもがハッキリしない。


 でも俺が一緒にいたいヤツって、今のところ泉美だけだから、今後どうなるかってのは乞うご期待ってな感じだな。


「なにからする?」


「シューティングやろう、対戦型縦シュー!」


 昨日、映画を見た後にするはずだったゲーム、積み上げられたその一番上にあったソフトをゲーム機にセットする。


 そう、昨日あんな事があった原因はみんな、その時の映画の所為なんだよな。






 泉美がみたいと言うから借りてきたホラー映画、留守にしている兄貴の部屋を借りて鑑賞する事に。


 高校生の兄貴がアルバイトして揃えられたAV機器、中でも兄貴のお気に入りのホームサラウンドスピーカーは、ホラー映画を見るのに最適。


 部屋の灯りも薄暗くして、ソファーに並んで腰掛けて再生ボタンを押した。


「なんでこんな昔の映画を?」


「お父さんのお薦めでね。最近音声の撮り直しをしたとかで、見た目だけでも怖いのに、そこに臨場感が増す音が加わったから、絶対見た方がいいっていうの。でも一人でこんなの見たくないでしょ」


 お父さんのお薦めなら、お父さんと見てあげればいいのに。

 あっ、これR指定だ。まっいっか。


 それは十三年前の、俺達が生まれた歳に上映された映画だった。


 凶悪な殺人鬼が別荘地で大暴れすると言った、ざっくりと言えばそんな映画。


 人を襲う手段や道具が凝っていて、その演出の仕方が目を覆いたくなる場面でも、見たくなる真理をついてきているみたいな、怖いのに目が離せない。


 うん? なんか二の腕が温かい。


 見れば泉美は、自分の両腕を俺の左腕に絡めてきて、しっかり抱きついている。


 ささやかだけどちゃんと感じられる、男にはない柔らかい感触の仕業で、俺はもう映画どころではなくなってしまう。


 泉美は余程怖いのか、全身が強ばり、震えているのに、目を離せないでいる。そんな感じだ。


 ぎゅっとされる度に、違う角度からの弾力攻撃を無視しようとするけど、意識すればするほどに、強烈な刺激を感じてしまう。


 どうにか腕をほどけないかと泉美の顔を覗こうとしたけど、角度としてはここからがバッチリ、首元から中が見えてしまっている。白いインナーも、形がハッキリと分かる膨らみも。


 俺は映画の終了まで、その緊張を解く事のできないままに、脂汗まで流しながら、時間の過ぎるのを待った。


 ようやくエンドロールが流れ、俺は手元にあった照明のリモコンを操作した。


 明るくなる室内。


 まだ泉美は俺から離れようとしない。


 別に下心があった訳じゃない。

 ただ忘れていただけだ。


 下を向いた俺は、照明の灯りを受けてくっきりと見える、服の中身をしっかり見てしまう。


「お、おい泉美、いつまでそうしてるんだ?」


「も、もう少しだけ、わ、私腰抜けちゃった。一人じゃあ倒れてしまいそう」


 しょうがなく頭を抱えてやる。


 こうすれば少しだけ動揺を隠せそうだ。


「ああ、直ちゃんも怖かったんだ。すっごくドキドキしてるよ」


 それは違う事でそうなってるんだけど、そう言われると、また動悸が激しくなる。


「人の鼓動の音って、なんか落ち着くよねぇ。私も直ちゃんにつられてドキドキが強くなってくよ」


 まだ絡められたままの腕から、何となく感じる事ができる。


 泉美の胸の音を感じ取ろうとした時だった、また胸の感触を意識してしまった。


「直ちゃん、イタイよ?」


 泉美の頭を抱え込んでいた右腕の力が強くなってしまっていたようだ。


 ハッとして少し離れて、泉美の肩に手を当てる。


 少し愁いを帯びた瞳が艶めかしい。


「直ちゃん……」


 囁くように俺の名前を呼ぶと泉美は目を閉じた。


 これってもしかして、キ、キスしてもいいって合図なのか!?


 瞳を閉じたまま動こうとしない泉美を見ていると、俺の考えは間違っていない気になってきた。


 少し口を突き出すようにして、顔を近づける。


 もう少しで接触すると言う時、俺は突き飛ばされて、大きな声を浴びせられてしまったのだ。






「よっし! 私の勝ちぃ!! やったね」


 シューティングの後に始めた格ゲーで、俺はこてんぱんにやられてしまった。


 こいつと俺との実力は僅差。


 他の事に気を取られていた俺に、勝つ見込みは端からなかった。


「それじゃあ次は、このパーティーゲームね」


「なんか今日はいつも以上にはしゃいでるな」


 何気なく言った一言だった。


「……うんとね、そうしてないとパニックに陥りそうで……」


 気になっている事と言えば、昨日の事か。


「本当にごめんね。私ちょっとビックリしたけど、あんなに突き飛ばす気は、本当になかったんだよ」


「分かってるって、悪いのは俺なんだし」


 やっぱりまだ中一であれは早いって事だよな。


 気を取り直してゲーム再開と思った俺は、泉美にコントローラーを渡そうと、置いてあったこいつの分のコントローラーを取ろうとする。


 泉美も同じ事を考えていたみたいで、お互いの手が触れる事となった。


 たったそれだけの事で、もうどうしていいか分からなくなる。


 だけどこれでまたキスしようとすれば昨日の二の舞、俺は何事もなかったように手を離そうとする。


「泉美……?」


 泉美は離そうとしていた俺の手を、強く握りしめた。


 ビックリする俺に、彼女は徐に唇を重ねてくる。


「えっ? あれ? なんで……?」


「わ、私だってこう言うのに、興味の沸く歳になったんだもん。初めてが直ちゃんで嬉しいよ」


 お、女の考えてる事って分かんねぇ。


 なんで昨日はダメで、今日はいいんだ?


「き、昨日はね、別にキスされそうになってビックリしたんじゃないよ。私も昨日の雰囲気なら、そのままいいかなって思ってたし」


 やっぱりそうだよな。


 あの表情で拒まれてしまった俺は、本当に頭が混乱したんだもんな。


 でもじゃあ何でだ?


「あ、あのね、……やっぱり言えない」


「言ってくれよ。じゃないと俺は今後、ずっと受け身でいなきゃなくなっちまう」


 途端に真っ赤になる泉美、どうも本当に話しにくい事みたいだ。


「あのね、昨日のあの時、私が驚いたのは……、お、男の子って興奮すると大きくなるんでしょ?」


 思ってもいない方を向いたぞ?


 その目線は俺の……。


 俺はあの時の状況を思い出す。それでビックリって、だから泉美は、って事か。


「そうなる事は知識として知っていたんだけど、直ちゃんのに私の手が当たっちゃって、その、まさかあんなに大きくて、堅くなるなんて知らなかったから……」


 触られた? 意識をキスに集中させていたから、気が付かなかった。


「その途端に頭がパニックになっちゃって、ごめんね。私お父さんのって覚えてないし、記憶にあるのは弟がまだ小さい頃の事だけだから」


 どう、返していいか分かんねぇや。


 親友のように思っていたこいつは、やっぱり違う性別の生き物なんだな。


 俺にはまだ彼氏とか彼女とかは分からないけど、たぶんこれからもこう言った事は、こいつ主導の元に色々あるんだろうな。


 今はまだまだそう言うのって、女の方が気付くことも多いんだろうけど、いつの日か俺がリードしていけるように頑張っていこう。


 俺はもう一度感触を味わいたくなり、今度はこっちから唇を合わせにいった。

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