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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
53/102

第 53 夜   『チャイルドフッド』

語り部 : 尾口京香オグチキョウカ

お相手 : 宮前大次郎ミヤマエオオジロウ

      佐々倉鈴音(ササクラスズネ)


盛立役 : 宮前敬太郎ミヤマエケイタロウ

 私の好きになった人は、私の親友の幼馴染みだった。


 私と彼女が一緒にいるといつも首を突っ込んできては、私たちを笑わせてくれる彼の事を、密かに思い続けていた。


 その私の恋心に気付いた友達が勧めてくれたので、私は思いきって彼に想いを打ち明けた。


 彼は私の気持ちを受け入れてくれた。


 私たちは恋人同士となった。



   第 53 夜

    『チャイルドフッド』


「えっ、旅行?」


「ああ、祖母ちゃんの法事も兼ねて、いつもこの時期なんだ。土曜日から月曜日の祝日までの三日間」


 家族旅行に行くのはお父さんの故郷。


「鈴ちゃんも一緒なの?」


「鈴音の親父さんと、うちの親父が同じ会社でさ」


 それは知ってる。


 だから二人は同じ社宅に住んでいて、ご近所さんで、幼馴染みなんだよね。


「で、父親達の田舎が一緒でさ。だから毎年一緒に、家族旅行する事になってるんだよ」


 それで大ちゃんと鈴ちゃんは一緒に旅行することになるんだ?


「京香も来る?」


「えっ? でもそれはちょっと……」


 家族旅行におじゃまするにしても、私はどちらの家のご家族とも面識ないし。


「それじゃあお土産買ってくるから」


 大ちゃんは分かってるんだろうか?


 私が心配しているのは、鈴ちゃんと大ちゃんは私の知らない歴史を持っていて、今も大の仲良しで、よく一緒にいろんな事をしているのが、一番気に掛かっているのを。


 ちゃんと聞いた事がある訳じゃないけど、もしかしたら鈴ちゃんが私より先に大ちゃんに告白していたら、やっぱり二人は付き合っていたんじゃないかな。


 告白を勧めてくれたのは鈴ちゃんだけど、その胸の内を話してくれた事はないから……。






 本当なら楽しいはずの三連休は、何もする気が起きず、とてつもなく長かった二日間を終えた。


 もう今日は月曜日、夕方には二人が帰ってくる。


 大ちゃんからは毎日電話をもらったけど、その電話の向こうから鈴ちゃんの声が聞こえてくるたびに、胸が苦しくなる。


 私と鈴ちゃんとは、小学校3年生で同じクラスになってからの友達で、勉強も遊びも何をするのにも二人だった。


 小学生の間は特に気にもならなかった大ちゃんは、やっぱり昔から鈴ちゃんと仲がよくて、私も一緒によく遊んでもらった。


 中学生になり、周りの友達が男の子の話をするたびに、私にはいつ初恋が来るのだろうとワクワクしていた。


 それこそ切っ掛けが何だったのか分からないほどに、私の心に住み着いたのは、彼のくったくない笑顔だった。


 相談する相手なんて、鈴ちゃん以外にいなかった私は、もしかしたら鈴ちゃんも大ちゃんが好きなんじゃないのかと思いながらも、話を聞いてもらうしかなかった。


 卒業を前に想いを伝えようと、卒業式の日に告白し、彼は即答でOKをくれた。


 私には高い偏差値の学校だったけど、どうしても彼と一緒に高校生活を送りたくて、必死に受験勉強をした中学3年生の一年。


 今も授業について行くのがやっとで、成績優秀な大ちゃんや鈴ちゃんのお世話になる日々。


「私、何のために頑張ってきたんだろう?」


 いつまでもこんな気持ちを抱えたままなんてイヤだから、鈴ちゃんの気持ちを確かめようと思った事が何回あったことか。


 被害妄想だという自覚はあるんだけど、あの二人の距離は、友達以上だし、恋人未満なんかじゃないと思える。


 大ちゃんの私に対する優しさに不満はないけど、その優しさはそのまま鈴ちゃんにも注がれている。


「嫌な子だな、私って」


 小学生の頃のように、みんなでいるだけで楽しかった時代がなつかしい。


「鈴ちゃんが誰かとお付き合いしてくれれば、こんな想いする事もないのになぁ」


 そうだ、それがいいじゃないか。


 そんな簡単な事がどうして今まで思いつかなかったんだろう。


「だけど、鈴ちゃんにいきなりそんな話持って行っても、きっと真剣に考えてくれないよなぁ」

 だったら大ちゃんに!


「ダメだ。大ちゃんにどう説明していいかすら、思い浮かばない」


 私ってこういった話は、いつも鈴ちゃんに頼りっきりだったから、他の誰に相談すればいいかも分からない。


「京香ぁ~、鈴音ちゃんと大次郎くんが来たわよう」


 ベッドの上でゴロゴロと、出口の見えない考えに耽っていたら、いつの間にか寝てしまっていた。


 声を掛けられて、飛び起きるとそこには二人の姿が。


「お帰りぃ~」


「ただいまぁ~、って京香の部屋着ってセクシーだね。ねっ! 大次郎」

「えっ?」


 言われて自分の姿を検める。


 チューブトップにショートパンツのヘソ出しルック。これは!?


「お、大ちゃん! ちょっと外に出てて!!」


 彼を追い出して、私は慌てて着替える。


 今日はお父さんが朝から出かけちゃってるからって、ちょっと過ごしやすい格好をしてたのを忘れてた。


 Tシャツとロングパンツに着替えて大ちゃんを改めて部屋に招き入れる。


「俺、もう少しあの姿、見ていたかったなぁ」

「あはは、バッカだねぇ」


 私は何も答える事はできず、ただただ俯いたままになる。


「はい、お土産! って言っても何もない田舎だからねぇ。これおばあちゃんの作った佃煮」


 山の奥って言ってたもんね。


 でもこういう普段あまり口にしない物の方が嬉しいよ。


「後はお菓子ね。一応これはご当地名産のおやつだから」


 一通りお土産ももらって、今度は土産話。


 でもその話は聞くべきではなかったのかもしれない。


 鈴ちゃんの口から出てくるのは大ちゃんの話ばっかり、川に行ったり、近所の神社に出店が出ていたから遊びに行ったとか、私の知らない彼の事。


 私が一緒に行けなかったから、私の知らない大ちゃんの事を教えてくれているだけなんだろうけど。


 その顔は本当に楽しそうだ。満面の笑みで喋るんだね。


「……京香? どうしたの? なにかあった?」


「ねぇ、鈴ちゃん、鈴ちゃんって大ちゃんの事好きなの?」


 二人の前では決して見せないようにしてきた裏の表情が押さえきれない。


「大次郎の事? もちろん好きだよ」

 やっぱりだ。


「こいつちっちゃい頃から、私の後ろチョロチョロ追い回してさぁ」


「そんなの幼稚園に入るまでの事だろ? 大体俺もお前もその頃の事覚えてないし、全部兄貴から聞いた事だろ?」


 また私の知らない話かと思った。


 大ちゃんには二つ違いのお兄さんがいて、今年は高校3年生の受験生、今回の旅行には同行しなかったんだよね。


 鈴ちゃんは一人っ子、だから今回の旅行では二人でいる時間がきっと長かったはず。


「鈴ちゃん、なんで私に告白する事を勧めたの? なんで自分は気持ち打ち明けなかったの? なんでいつも私たちの傍にいて、笑っていられるの?」


「京香? どうしたの? 何言ってるのか解らないよ? 私の気持ちってなに?」


「だって、鈴ちゃんも大ちゃんの事が好きだったんでしょ?」


「へっ? ……あぁ! そう言う事? やだ、そんな意味じゃないよ。私が大次郎の事好きだっていったのは、弟みたいなものってことよ」


 そんな誤魔化し、もうしなくていいよ。


 二人の歴史に私が入り込もうとしたって、どうしようもないもん。


「もしかして京香、お前と兄貴の事を知らないんじゃないのか?」


 なんでここでお兄さんの話が出てくるのよ。今は二人の関係についてでしょ!?


「ああ、えーっと、だって話してないもん」

「なんで?」


「だって、恥ずかしいじゃない? 親友の彼氏のお兄さんとつき合ってるなんて」


 えっ? 誰とつき合ってるって?


「こいつは中学の時から俺の兄貴とつき合ってるんだよ。それもこいつの方から猛アタックをしかけてな」


「もう、恥ずかしいって! 京香には今度ジックリ話してあげるから、今は勘弁してぇ」


 そんな……、ずっと気にしてきたのに、ずっと悩んできたのに。


「それって俺の事を信用してなかったって事?」

「私の事も?」


 ぐっ! そう言われると辛い。


「だって、だって、二人の仲って普通なら友達なんてあり得ない距離だよ。そりゃあ私にも同じようにしてくれるけど、それって大ちゃんからすれば恋人のはずの私と、鈴ちゃんは一緒って事でしょ?」


「そうだったか? 俺にとっては京香がやっぱり一番特別なんだけど、……鈴音に対しては、昔っからの流れってのがあるからな、気にした事もなかったよ」


「それにずっとフリーだと思っていた鈴ちゃんだって、端から見てたら大ちゃんの事を狙ってるようにしか見えなかったもん」


「いやぁ、敬太郎さんのこと黙ってたからね。そう見えていたかもしれないけど、一人っ子の私的にはこいつは、同い年の弟でしかなかったからね。仲のいい姉弟みたいだったでしょ?」


「そんなの知らないよぅ……、私一人でバカみたいじゃない」


 二人はお互いの顔を見合わせた。


 泣いてしまった私を前に、どう宥めていいかが分からず、オドオドしている。


 なかなか泣きやまない私を、大ちゃんは優しくハグしてくれた。


「大次郎もさすがにそれは、私にもしてくれないからね。言い訳じゃなく、大次郎にとって京香は、本当に特別なんだよ」


 うん、信じるよ。もう私の中にわだかまりは何もない。


「ねぇ、鈴ちゃん……」


「うん、なに?」


「今度お兄さんも入れて、4人で遊びに行こう。鈴ちゃんが甘えているところ、見たいな」


「うっ、う~ん」


 鈴ちゃんは本気で困った顔をしているけど、言う事聞いてくれなきゃ、お兄さんの事を黙っていた事、許してあげない。


 今から楽しみだな。


 一体何をすれば鈴ちゃんの思いっきり甘える姿が見られるのか、鈴ちゃんを抜いた3人で決めてしまおう。


 抱きついたままの大ちゃんの耳元にそう囁いた。

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