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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
52/102

第 52 夜   『フィーリングカップル』

語り部 : 若松帆奈ワカマツハンナ

お相手 : 道代雄大ミチシロユウダイ


盛立役 : 大隈繁史オオクマシゲフミ

      久保直美クボナオミ

 私の周りにもすぐに一目惚れをしただの、運命の出会いがあったのという子がいる。


 だけどそんなに世の中よくできてもいないし、運命なんて転がってもいない。


 私の初恋は中学生の頃だった。クラスメイトの仲のよかった男の子。


 高校に入って憧れた先輩もいた。


 彼は人気も高く、それなりに面識もあって、恋い焦がれた事もあった。



   第 52 夜

    『フィーリングカップル』


 通学途中の電車の中で見かける人、制服からうちの学校と同学区、隣町の高校だと分かる。


 だけど学年も名前も分からない。どこに住んでいるのかも知らない。


 何も知らない男の人を、顔を見ただけでこんなにトキメクだなんて、思ってもみなかった。


「別にいいじゃない、一目惚れ懐疑派だって、結果としてそう成り得たってだけでしょ?」


「う~ん、やっぱりそうなんだろうなぁ」


「それで! その人イケメンなの? 背も高いの? スタイルいいの?」


「なんで直ちゃんがそんな事まで気にするのよ」


「だって、堅物の帆奈が見ただけで落ちちゃうなんて、やっぱり気になるじゃない?」


 人をなんだと思ってるんだ。そもそも堅物って私が?


 でも確かに直美の言うとおりなんだよね。


 あの人の顔が忘れられない。目を瞑ると瞼に焼き付いているみたいに思い出せる。


 こんな感情を自分も持っていたなんて、本当にビックリなんだけど。


「それでそれで、どうするの? まさか見てるだけじゃあないよね?」


「こういう事で面白がらないでよ。私的にはかなり深刻なんだから」


 人を好きになる事は初めてじゃないし、告白した事もされた事も、フッたこともフラれたことも、交際した事もあるけど、そのどれとも違う状況だって言うのに、この友人は全く役に立とうという気がない。


「もちろん楽しんでるばかりじゃあないよ。だって帆奈がそんなに気にしてるって事は、少なくともお近づきになりたいってことでしょ? だったらまず、相手の事を知らないといけないって事じゃない」


 もっともらしい事を言ってぇ。


 確かにそうだけど、目が笑ってるのよ、しっかりと。


 確かに直美は正しい、このままでいいと思っているなら、こんなに彼の事が気になって、授業に全く身が入らなくなったりしないもの。


 午前中だけで3回も、先生から注意を受けちゃってるもんな。


 お昼休みも直美が口にするのは、これからの計画の事ばかり、私もその気になってきて、どんな段取りを組んでいけばいいのかを考え出している。


「今日は帆奈がいつも乗っている電車に乗り遅れて、一本遅らせたらその人が乗っていたのよね。それで帰りに一緒になった事もない」


「うん、だから分かっているのは、彼が通ってる学校と、私と同じ路線を使っていて、私より下りの駅から乗っているのだろうって事だけ」


 あまりに情報が薄すぎる。


「でもあそこなら……、確か大隈くんが入学してるはずだけど」


「いや、学年も分からないから、私たちと同い年とも限らないし」


「そこはそれだよ。とにかく大隈くんにメール入れてみよう。中学の頃仲良くしてたから、私、ID知ってるし」


 メールをするにも、情報がなさ過ぎる。


 とにかく一度どんな人か確認したいという純子に押し切られて、放課後、隣駅で待ち伏せる事になった。


 放課後を迎えるのは、うちの高校の方が5分早いから、走ってやってきた私たちは、向こうの生徒の第一陣が駅に来る頃に、ホームに降り立つ事ができた。


「どの人?」


「そんなにいきなり来るとも限らないよ。それに部活やってたら、もっと遅い時間になるはずだよ」


 私の心配通り、彼が現れる気配はなかなか無く、私たちもいつまでも立って待っているのも辛くなって、近くのファーストフード店に入った。


「朝の方がチャンスあるんじゃない?」


「だけど今日、帆奈が乗った電車って、すごく混む時間のでしょ? 近づけるかどうか……。それに向こうももしかしたら、その電車がいつものとは限らないし」


 ハンバーガーを手に、お店の2階から通りを見下ろすと、学生服の一段が遠くから歩いてくるのが見える。


「あっ! 直ちゃんいた。あそこ」


「あそこ? って、あぁあれか。おや? あれに見えるは、大隈くんではなかろうか?」


「うんそう、大隈くんの隣、今お喋りしている彼」


 まさかの偶然が向こうから歩いてくる。


 また胸がきゅんとなった。


 すごく不思議な感覚、ふわふわと宙に浮いたような気持ち。


「どうする? 突入する?」


 見れば向こうは男の子ばかり五人組、ちょっと無理っぽい。


「それじゃあ……」


 直美は携帯を取り出して、アドレス帳を開く。


「待った待った、まさかここに?」


「うん、大隈くんに上手い事二人になって、上がってきてもらおうかと」


「やめて、いきなり面と向かっても、何を言っていいか分からないし、変な子に思われてもイヤだし」


「そんな事言ってぇ、チャンスなんて何度もこないよ」


 そのチャンスをピンチに替えたくないから止めたのよ。


 できたら相手の情報を、少しくらい入手してからじゃないと会えないよ。


「それだったら今晩にでも大隈くんに電話して、彼の事聞いてあげる。……自分で電話する?」


「あ、うぅうん、私あまり大隈くんと仲良かった訳じゃないし、お願い出来る?」


 これで彼の事が分かる。


 そう考えただけで、私のテンションはマックスまで跳ね上がった。






 とんでもない急展開です。


 今日は直美と映画に行く事になってます。


 映画に行くのは私たち二人だけではなく、大隈くんと道代雄大くんとのダブルデートとなってます。


 あの日、大隈くんに電話をした直美は、彼の事を色々と聞いてくれた。


 もちろん個人情報を手に入れるため、私が彼の事を知りたがっている理由とを引き替えにした。


 それを聞いた大隈くんが、どうせならお互い顔を合わせて、と言う事でこの企画が発足したんだけど。


 もちろん私の参加は確定とされ、道代くんに、即座に連絡を入れた大隈くんの独断専行で、彼も二つ返事でOKしたとかで、逃げ場を失った。


 私は待ち合わせ場所に一番乗り、手鏡で前髪のチェックをしていると、道代くんが2番手で現れた。


 なんてこった!?


「おはよう」


「あっ、おはようございます」


 爽やかな声、彼のイメージに合った、澄んだトーンの響きが胸を突く。


「繁史はまだなのかぁ?」


「ああ、直ちゃんもまだなんです。全く何してるんだか……」


 ダメだ、このままじゃあすぐに、この緊張と爆発しそうな鼓動の高鳴りが伝わってしまいそうだ。


「そんなに緊張しないで、俺達同い年なんだし」


 それは直ちゃんから聞いて知っている。


 だけどこの緊張は、そんなことの為に起こっているものではない。


「おっ、メールだ……、なんだぁ!?」


 道代くんが読んだ大隈君からのメールは、本当に驚きの内容だった。


 大隈くんと直美は、あっちはあっちで付き合う事を決めたらしく、今日は二人でデートをする約束になっているそうだ。


「こっちも二人で楽しんできてくれだと。どうせ近くで見てるんじゃないのか?」


 その可能性は高い確率で有り得る。


 でもそれを探すのもバカバカしい、道代くんは徐に私の手を取って走り出した。本当にいるとも限らない相手を撒くために。


 私の胸の鼓動は更にビートを上げる。


 手に感じる彼の温もりが、私を溶かしてしまいそう。


「この辺でいいか、ごめんね。いきなり」


「ああ、うぅうん、私もなんだか楽しかったし」


「おお、いいね。自然な感じ」


 突然のハプニングのお陰かな?


 ちょっと緊張が解けた。動悸は治まらないけどね。


「ああそうだ、なんか失礼な話なんだけど、俺まだ君の名前知らないんだった。繁史からは君の写メが回ってきただけで、まだ詳しい事、何も聞いてないんだ」


「なんて無責任な、え、えーっと、私は若松帆奈っていいます」


「俺は道代雄大」

 知ってます。


「でも何だろう、俺、君の事知っている気がするんだけど……、この間電車で見かけた時以外に」


 電車でって、もしかして私が見とれていたのに気付いてた?


「あ、あのさ。俺今日のデート楽しみにしてたんだ。相手が君と知ってさ。その、俺、電車で君を見かけた時から、なんだか気になっちゃっててさ」


 な、なんと! まさか道代くんも私と同じ事を考えていたなんて……。


「一目惚れって言ったらどう思う? 俺、相手の事よく知りもしないのに、いきなり好きになるのって、なんだか嘘くさくって信用してなかったんだけど、その、自分がその立場になったら、全てが有りに思えてさ」


 そんなところまで同じだなんて。


「そうか、若松帆奈さんね。いい名前だ」

 褒められた。もう幸せいっぱいだぁ。


「へっ? 道代くん、どうかした?」


 ジッと私の顔を見て黙ってしまう彼の目線に、私は頬を朱に染める。


「帆奈さん、……ハンナちゃん? ああ、ハンナちゃんか!」


 はい? なんで、なにが、どうなって、こうなったの?


 彼はいきなり私の事を下の名前で何度も呼んでくる。


「覚えてない? 俺の事」


 覚えてって、どこかであったことあるの? 道代、雄大くん?


「ご、ごめんなさい。ちょっと思い出せない」


 嘘は言えない。ここは正直に言うしかない。


「ははっ、そっか、思い出してもらえないか。でもまぁそうだな。あの頃の俺しか記憶にないもんね。思い出せなくても当然か」


 道代くんは学生証から、一枚の写真を取りだした。


「男の子? すっごいポッチャリだね。……あれ? 私この子知ってる? 誰だったっけ?」

「それ、俺」


「えっ? えぇーっ!?」


 だって、どう見たって今の道代くんは、このポッチャリおぼっちゃまには見えないよ。


 だって道代くんのウエストは、女の私にもうらやましいサイズと言えて、この写真の子はたぶん7、8才だよね? この子のウエスト、どう思い浮かべてみても今の彼と同じ、それ以上の胴回りをしている。


「俺、その頃まだ小さかったのに、いくつかの成人病にかかってたんだぜ。その体格矯正のために、山の上の学校に転校して、ようやく今の体型になって、この町に戻ってきたのが高校入学の春だったんだ」


 そう言えば小学生の頃、クラスに一人、そんな子がいたなぁ。


「俺、君の事覚えてたのになぁ……」

「ああ、えっと、ごめんなさい」


「あはは、ウソウソ、俺が覚えていたのは君の名前だけ、変わった名前だなぁって、思ってたから」


 そんな覚え方っすか……、それでも覚えてくれてた事は本当に嬉しい。


 でもそうか、もしかして何となく面影を覚えていて、私は彼の事が気になったのではないだろうか?


 ……それはちょっと無理があるか。


「でも本当にすごい偶然だよね。俺の初恋の人って君だったんだよ」


 すごい告白を受けてしまった!?


「嘘じゃないよ。じゃないと君の名前だけを、いつまでも覚えていられやしないだろ? 小学校1年生で転校していったんだから」


 そ、そう、なの、か?


「それにたぶん君の面影も覚えていたから、あの日一発で惹かれたんだと思う」


 そっちはムリクリ過ぎるよ。って、私が言うのも何だけど。


「ねぇ、道代くん、これって、運命、かな?」


 私は満面赤面化して、何を言ってるんだろうね。


「運命とかって言うとちょっと恥ずかしいよね」


 あ、やっぱり? そう言われて私は更に赤みを増した。


「けど、嬉しい響きだ。一目惚れした事には違いないんだろうけど、この再会は神様が用意した、サプライズだったのかもしれないね」


 その台詞も恥ずかしいよぉ。


 けど一目惚れしたのは間違いない。


 それとそれだけじゃない赤い糸のお陰で、私はきっと幸せな高校生活を送れるに違いない。


 次の週もその次の週も会う約束をし、それから今日の予定を考える事となった。

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