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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
5/102

第 5 夜   『アフター5』

語り部 : 竹内順樹タケウチジュンキ

お相手 : 柚原千晶ユズハラチアキ


盛立役 : 小紫由香コムラサキユカ

 職場で恋をして、恋愛に発展すると大変だと聞いたことがある。


 告白してうまくいかなかったときも、うまくいったとしても、その恋が終わったりしたら、相手との気まずい空気だけが残ってしまうような。



   第 5 夜

    『アフター5』


 仕事が楽しいと思った事なんてなかった。

 いや、現に今だって仕事が楽しい訳じゃない。


 ただ職場に顔を出すのが楽しいんだ。


 俺の仕事は外回りの営業、朝出勤して訪問先を決めて、商品を持って外に出る。


 その短い社内勤務を心の糧に一日を過ごし、仕事を終えて帰社した頃には、もう俺の楽しみは帰った後、朝一番が俺のピークとなる訳で、青空を見上げるこの時間は、テンションはダダ漏れ状態。


 いっそのこと内勤に部署異動を希望しようかと思うことがある。


「竹内さん、なに難しい顔してるんですか?」


 今日は朝から企画会議で営業周りは昼を回ってからになる。


 10時からの会議の資料をまとめている俺のデスクに、彼女がコーヒーを入れて持ってきてくれた。


「ありがとう、……はぁ~あ」

「凄いため息」


「いやこの企画って、俺とお得意先の部長で手がけた、新プロジェクトの社内プレゼンだからさ、役員の前でだよ、出来たら今すぐ帰りたいよ」


「へぇ、そうだったんですね。総務部でも話題に上ってましたよ。今回のプロジェクトは、材料費の大幅削減が出来るって、期待が集まっているとか!」


「柚原さん、プレッシャー、もの凄いよ」


 柚原千晶さん、社内でも有名な天然ちゃん。


 こういう事を平気で言えちゃうあたりも、俺にはメガヒットなんだけど、今日のはちょっとマジで控えて欲しかった。


「頑張ってください!!」


 本当に天然ちゃんってのは怖いな。






 あの後のプレゼンは大成功。

 俺は社内業務が増えた。


 今は提出する企画書を一日かけて資料にまとめている。


 上司がその助手に彼女を付けてくれた。

 感謝します。


「それじゃあここからここまでを5部ずつコピーしてきてくれる?」

「分かりました5部ずつですね」


 天然ではあるけど仕事はしっかりとこなすことで有名な彼女、作業はスムーズに進み、予定していた時間より早く終わった。


 久しぶりに定時に退出。


 事務所の人たちと一緒に会社を後にして、食事でもと言う展開。


「こういう事ってよくあるの?」

「ええ、今日みたいに週末だと、たまにですけど一緒に食事しようって事になりますよ」


 と言っても総務部にいる男性はみんな年配の方々で、その人たちは帰ってしまうので、食べに行くと言っても女性ばかり3人、今日は俺を入れて4人でとなったのだが。


 女3人がよって、なんてかしましいんでしょう。


 標的はもちろん俺、こうなるのが分かってるから他の男性陣は早々に帰ってしまったんじゃあないだろうか。


「そう言えば、竹内くんって、千晶ちゃんのこと、実は隠れファンだったりするんじゃない?」


 女性陣最年長社員から突然の図星が飛んできて、思わず顔に出しそうになる。


「止めてくださいよ。竹内さん困ってるじゃあないですか」


 酒が入って、遠慮が吹っ飛んだお局様ってのは怖いわ。


「なになに、千晶ちゃんだって竹内くんに……」

「わー、わーわー!?」


 来るんじゃなかった。


 酔っぱらいは一人でケラケラ笑い出すし、もう一人は最初からずっとチビチビと飲んでいるばかりだし、この会って柚原さんがこの先輩に弄られるだけの会じゃないのかな。


 悪い酒ってのは周りが早い、先輩はあっさりと出来上がって、まだまだ夜はこれからだというのに、もう一人の物静かな人に連れられて、先に帰ってしまった。


「俺、まだちゃんと飯食ってない」


 突き出しや酒のつまみは頼んでくれていたけど、ガッツリ腹に溜まる物は全くなし、酔っぱらいの相手をしながらだったから、飲む方も中途半端だった。


「俺、改めて飯食いに行くけど」

「あ、お供していいですか?」


 俺と一緒に置いてきぼりになった柚原さんと共に、ラーメン屋に入った。


「本当にこんなんでよかったの?」


「はい! このお店、雑誌で見てから一度来たかったんですけど、先輩方は乗ってきてくれないし、一人で入るのもなぁって、思ってたんです」


 今日だけでも結構新しい一面を見ることが出来たなぁ。


 俺の隠れファンていうのは眉唾だとしても、ちょっといい雰囲気じゃないか今って。


「あっ、そうそう、遅くなりましたけど、今日でプレゼンの企画書、全部通ったんですよね。成功おめでとうございます」


「ああ、いやいや、お陰で仕事が増えて、まだしばらくは外回りにも出られなくなっちゃったけどね」


「でも凄いですよね。一大プロジェクトを任されるなんて」


「運が良かっただけだよ。先方の部長さんが、俺の案を上手くまとめてくれたからね」


 とは言っても、これが起動に乗るところまで持っていければ、その後の査定はちょっと期待できる結果となるはずだ。


「ほんとう、週末に女だけで飲み会が常だなんて、寂しいですよねぇ。竹内さんもたまに参加してくださいね」


「そんな事したら、彼氏に叱られそうだけど」


「むー、そう言うのって、私にちゃんと彼氏がいるかどうか、確認してから言ってくださいよぉ」


「彼氏いるの?」

「……傷つきますよ」


 ラーメンと一緒に頼んだビールを一気に空にして、この天然ちゃんは酔い潰れるのも良しとでも思っているんだろうか?


「そんな飲み方して大丈夫?」


「竹内さん、後はお願いしますね」


 天然ちゃんってのは、本当に危険な生き物だ、俺を男として見てないから言えるんだろうな。


「竹内さんは彼女とかいるんですか?」

「おお、仕返しか? 残念ながらいません。もう長い間ね」


 今年になって君に出会うまでは、長いこと恋すらしたことなかったよ。


「ふーん、そうなんだ」


 ズルズルと、それからしばらくラーメンに没頭して会話がとぎれる。


 食べ終わるまでほぼ沈黙したまま、どんどんと混み合ってくるお店を後にして、さてこれからどうしようか。


「そう言えば柚原さんってどこだっけ、帰るの? 時間大丈夫?」


「はい平気です。すでに自宅近くのバスは終わってますから、今日はカプセルホテルか何かで、朝になったら帰ります」


 片道2時間、彼女の家は本当に遠かった。


「自宅を出て、通勤が楽なところに部屋借りるのもいいんですけど、うちの会社って、交通費は全額実費で出してくれるじゃないですか、一人で食事摂るのって寂しいし、まぁ今のままでいいかなぁって、だから大丈夫もう一件! いきましょう」


 まだ終電までは時間もあるし、俺の場合歩いてでも帰れないこともないし。


「いいよ。どこにいく?」






 三軒目はシックなカウンターバー、オリジナルカクテルなんかを出してくれる店で、俺はブランデーをロックで、彼女はカクテルを作ってもらい、改めて乾杯をした。


「先輩、社内恋愛ってどう思います?」


 前振りなく突然聞かれた。


 しまった顔に出るほどに狼狽えてしまった。


 上手い具合にばれないようにしてきたはずなのに、なんでこんな展開に……。


「由香先輩が言うんですよ。竹内さんが私を気にしてるって、2週間前くらいから」


 ああ、やっぱりあのお局様には見抜かれていたんだ、だからさっきも前触れなしに隠れファンがどうのって話が出たんだな。


「それ聞いてから、なんだか意識しちゃうようになって、誤解しないで欲しいんですけど、私もなんだか気になるようになっちゃって、そんな話を由香先輩にしたら、今日の飲み会に発展しちゃって」


 つまりみんなで飲んで、酔い潰れた邪魔者二人が早々に退散する。単純な手だけど効果的な罠に、俺はまんまと填まってしまったと言うことか。


 オフィスラブは恋愛に発展しても、その後に何かあったらやり辛くなる。


 どこかでそんな話を耳に挟んで、「なるほど」と考えるようになった。


「私とお付き合いしていただけませんか?」


 もの凄い急な展開だ。正直嬉しい、嬉しいけどやっぱり同じ職場でってのが気にはなる。


 失敗することを付き合う前から考えるのもおかしいんだけど、それとこれを別々に考えることは出来そうもない。


「そうだね。結婚を前提としてなら」


 はっ! 俺はいったい何を口走っているんだ!?


 見れば彼女はお酒の所為だけじゃあないだろう、赤く染めた頬、潤んだ瞳で上目遣いになって躙り寄ってきた。


「今の本気にしちゃいましたよ。責任とってくれますか?」

「お、男に二言は……」

「ありませんね!」


 確かに口にしたことにウソ偽りはない。でもやっちゃたなぁ……。


 とりあえず今夜は朝まで彼女に付き合うことにしよう。


 後のことは酒が冷めてから考えることにしよう。


 でもこれだけは約束しよう、男に二言はないってもんさ。

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