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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
49/102

第 49 夜   『デート シミュレーション』

語り部 : 大平慎オオヒラシン

お相手 : 溝口郁子ミゾグチイクコ


盛立役 : 中町清矢ナカマチセイヤ

      浅木映華アサギエイカ

 彼女を好きになって、もうじき一年を迎える。


 特に仲良しというわけでもなく、話しかけられることすらほとんど無いまま、違うクラスになった。


 今日こそは今日こそはと思っても、なかなか想いを伝えるには至らない。



   第 49 夜

    『デート シミュレーション』


 今日こそは浅木映華さんに告白を!


「そんなことを、拳を握って言っているうちはダメだよな」


 そりゃあ毎日言ってるからね。


 そう言われてもしかたないけど、これは決意表明だから。


「結局お前って、本当に浅木と付き合いたいの?」

「うん、そうだよ」


「いまいちそうは見えないんだよな。女が欲しいヤツってもっと真剣って言うか、死に物狂いでさぁ」


「そんながっついたりはしないけど、あの人の特別になれたらって、本当に毎日考えてるから」


 こういうやり取りもほぼ毎日、清矢くんは言葉にすることで、僕をたきつけてくれているみたいなんだけど、それが難しいことなんだよ。


「慎、俺考えたんだけど、ちょっとシミュレーションしてみないか?」

「シミュレーションって、告白の?」


 それならずっと続けているけど、これと言った決め手が見つからずに、ここに至ってるんだよね。


「そうじゃなくって、ちょっと女の子に慣れて、雰囲気が出せるようになれたらって思ってさ」


「女の子に慣れてって、一体何をする気なの?」


「デートだよ」

「デート!? だ、誰と?」


「それなら俺に当てがあるから、そうだな、当日のサプライズって事で、一応今度の日曜で調整してみるよ」


 僕一人じゃあ何もできずに終わるだけ、と言うことで、今度の日曜は空いていると言う清矢くんにあわせて、僕も空けておくことに。


 相手の女の子って言うのにもメールで確認。OKをもらったそうだ。


「それじゃあ日曜、俺が迎えに行ってやる。そんで服も決めてやっから、ある程度絞っておくように」


 デートかぁ、生まれて初めての経験だ。


 と言っても清矢くんもいることだし、緊張しちゃいけないんだよね。


 ……って緊張するなって言う方が、ムリな話だ。






 日曜日は朝から快晴! 天気予報では降水確率0%。


 清矢くんが見立ててくれるという服だけど、僕はあまり物持ちのいい方ではないから、選ぶも何も、タンス丸ごと見てもらっても、そんなに時間は掛からないだろう。


 とまぁ、やっぱり心配することもないほど、あっさりと決まりました。


「ここにあるものじゃあ、この辺が無難かな? 本当ならもう少しコーディネートに懲りたかったんだけどな」


 高校生らしいスッキリとしたジャケット姿じゃないか、別に問題ないでしょう。


 今日の目的地は街、ショッピングを楽しもうと言う事。


 待ち合わせ時間までは後40分、だけど相手を待たせるような事はNGと言う事で、現地には20分前に着くように家を出る。


「あれ、もう待ってるじゃないか」


 清矢くんは約束の場所に人影を見つけて歩み寄っていく。


「おっす」

「あ、おはよう中町くん」


「って、あれ? 溝口さん」


 溝口郁子さん、今年から同じクラスになった、僕と同じ放送部の女の子。


「おはよう大平くん、今日はよろしくね」


 そうか、僕が面識のある人なら少しは緊張もほぐれると思って、彼女に頼んでくれたんだね。


 それでも極度の緊張感はもてるように、当日まで相手は伏せておいたんだろう。


「そんじゃあま、今日のエスコート役は慎、お前な」


「えーっ? そんなのどうすればいいのか分からないよ。……、溝口さん、何かしたい事とかある?」


「こら慎! 今日はデートだぞ。彼女の事は下の名前で呼べよ」


 そんないきなり……。

「そんなの溝口さんも困るよね」


「私は別にいいよ。慎くん♪」


 そうだよね。こんな事に協力してくれるんだもの、それくらいは簡単にOKしてくれるよね。


「それじゃあ、あ、い、う、ぅう、い、郁子さん」


「堅い堅い」


 清矢くんうるさい。


「い、郁子ちゃん」


「イッコでいいよ。友達はみんなそう言うし」

「じゃあ、……イッちゃんは何がしたい?」


「今日は慎くんのトレーニングだよね。それじゃあ全てお任せで」

 イッちゃんって、こんな感じの子だったっけ?


 放送部の活動ではあまり接点ある方じゃないけど、一緒に活動する時なんかは、いろいろ気を遣ってくれる人って、イメージしかなかったもんな。


「じゃ、じゃあ遠慮なく」


 僕は少しばかり、絵を描く趣味を持っている。


 美術部にも所属していて、油絵を描いているんだけど、ちょっと少なくなった画材を買い足しておきたい。


「うわぁ~、こんな所初めて。なんか独特の匂いだね」


 こんなところで本当によかったのか心配だったけど、イッちゃんは興味津々にあちこち眺めている。


 物珍しい様子であれこれと質問してくる彼女に、一つ一つ丁寧に説明する。


 必要な物も集まりレジに並ぶ。


 袋を片手に戻ると、あれ何かさっきまでと違う。


「清矢くん、どうしたの?」


「中町くん、ちょっと用事思い出したからまた後で落ち合おうって」


 携帯に連絡くれるのかな? 用事があるんじゃあ、しょうがないか。


「それじゃあ次は?」


「ああ、やっぱり一緒に考えようよ。イッちゃん本当にやりたい事とかない?」


「えっ? そうねぇ、それじゃあカラオケ行こ」


 無難なチョイスだけど、あまり遊び慣れていない僕にも、それならどうにかなる。


 日曜日のカラオケ店は、お客さんの数もほどほどで、僕たちみたいな二人連れもチラホラ。


 通された部屋は二人連れにちょうどいいサイズ。


 最初2曲ずつ交互に歌い、その後はお話をする。


 イッちゃんは将来美容師になりたいらしい。


 進路ももう決まっていて、この町にある美容学校に行く予定だそうだ。


「慎くんは?」


「僕は芸大、絵描きになるってのはムリにしても、絵を描く仕事を何かできたらいいなぁって」


「絵を描く仕事って?」


「イラストなんて描けたらいいなって。それに専念出来なくっても、時々ポップとか描く必要がある時なんかに、任されるような」


「そう言えば、去年の学園祭、放送部での模擬店の飾り描いたの、慎くんだったもんね」


 本当に他愛ない話だけど、楽しい時間が過ぎていく。


 けど、いつまでもお喋りで時間潰すのも勿体ない。


 僕たちはまたマイクを手に持った。






 二人で2時間カラオケをし、場所を移して、ファーストフード店に入った。


 そこでもずっとお喋り。


 イッちゃんとの会話は楽しくて、あっと言う間に時間は過ぎていった。


「よっ、お二人さん」


「ああ清矢くん、用事済んだの?」


「おう、悪かったな急で」


 清矢くんは注文のために再び退場し、今度はすぐに戻ってきた。


 3人になった座談会は、さらに時間の経過を早く感じさせる。


「あっと、それじゃあ私はこの辺で、今日は楽しかったよ」


 駅まで送りに行く僕たちも、残っていたバーガーを食べ尽くし、席を後にした。


「うん、もうここでいいよ」


「そんじゃあ今日の仕上げに慎、彼女にキスしてやれよ」


 んな!? それはあり得ないよ。


 それこそイッちゃんに協力を求めたりできないよ。


「この壁をクリアできたら、告白ぐらいなんてことないだろ?」


 理屈は分かるけど、それっていろんなところで、問題抱えてるんじゃあないか。


「私は……、いいよ」


 えーっ!? なんでそこまで力を貸してくれるの?


 だって僕は他の子をイメージして、今日に挑んできたのに。


 他の子のイメージで……、イメージで?


 僕、今日一日、浅木さんのことを忘れていた。


 イッちゃんとの時間が楽しかったんだ。もしかして……僕?


 思うより早く、僕はイッちゃんの肩に手を置いていた。


 距離も縮まり、もうちょっと寄ればキスができるところまで。


「や、やっぱりダメだよ。も、もう十分だから、あ、ありがとう溝口さん、ま、また学校で」


 たまらなくなって逃げ出した。


 追ってきたのは清矢くんだけ、イッちゃんはもう、帰りのホームに向かったと言う。


「で、実際どうだったんよ今日」


「うん、すごくいい感じで、すごく楽しめたよ。清矢くんの思惑通り、大分と女の子との接し方も分かった気がする」


「そっか、それじゃあこっち来い。今から行くところあるから」

「って、どこに?」


「ナンパだよナンパ」


「そ、そこまでしなくていいよ。今日の経験を活かして、明日こそは……」


 それもこれも清矢くんとイッちゃんのお陰だ。


「……、でも彼女、どうしてあそこまでしてくれたんだろう?」


 最後のキス未遂は一歩間違えば、本当にしてしまっていたかもしれない。


「その理由、聞きたいか?」


「えっ? う、うん!」


「お前の性格だと、それ聞いたら後悔する事になるかも知れないぞ」


 そう言われても、こんな言われ方して、気にするなって方がどうかしてる。


「知ってるんなら教えて」


 たとえどんな理由でも、後悔する事になったとしても、僕にはそれを知らなければならない義務がある気がしていた。






「大平くんおはよう」


「おはよう、溝口さん昨日はありがとう」


「どういたしまして、私もすごく楽しかったし」


 それなら何よりだ。っと、そんなことより。


「ちょ、ちょっとだけいいかな? ちょっと屋上まで」

「うん? いいよ」


 僕たちは連れだって階段を登り、屋上に繋がる踊り場で、話しをする事にした。


「昨日あれだけ協力してもらっていてなんだけど、最後にもう一度、告白の練習させて貰っていいかな?」


「う、うん、私でよければ。……そ、それじゃあ私は浅木さん役だね」


 僕は大きく深呼吸した。


 鼓動が激しい。彼女に心臓の音が聞こえたりしないかと心配になるほどだ。


「僕って本当にダメだよね。こんな事も、誰かが後ろから強く押し出してくれないと、何にもできないし、僕の事を大事に思ってくれている人の想いにも、気づけないでいるし」


「大平君?」


「イッちゃん、君の事好きになってもいいかな?」


「ちょ、ちょっと、私の名前じゃあなくって、浅木さんの……」


「昨日、清矢くんから聞いたんだ。君があそこまで、僕のためにしてくれた理由」


「え、えぇーっ!? も、もう中町くん絶対黙っていてくれるって言ったのに」


「黙っていなきゃいけないって、それじゃあ僕が聞いた事は嘘だったの?」


「ぶー、その聞き方反則だよ。それじゃあ私絶対に否定出来ないじゃない。……で、でもこの話しの流れって?」


 ようやく理解出来たみたいで、イッちゃんは一気に紅潮してしまう。


「僕ももしかしたら、ずっと君の事が好きだったのかもしれない。自分の気持ちにも気付かずに」


「でも絶対これは譲れない。私の方が先にあなたの事を好きになった」


「今度はどこに行こうか?」


「くすっ、エスコートは男の子の役目よ」


「そんな事言わないでさ、今度も二人で考えようよ」


 生まれて初めての愛の告白は、僕が思っていたほど緊張するものでもなかった。


 もしかしたら死に物狂いになった心が、緊張している場合じゃあないと言ってるのかもしれないな。


 僕は後悔なんて一つもしなかった。


 きっとこれが決定していた、本当の気持ちだったんだろう。


 ありがとう二人とも!

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