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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
48/102

第 48 夜   『想い人はお調子者?』

語り部 : 相下美柚アイシタミユ

お相手 : 辻本康大ツジモトコウダイ


盛立役 : 七瀬杏ナナセアンズ

      兵藤優子ヒョウドウユウコ

 学年に一人はいるひょうきん者で人気者。


 いつも一人で静かに本を読んでいる私の事なんて、絶対知らない。そう思っていた。


 でも彼はこんな私にも、みんなと同じように接してくれた。


 いつもおかしな話題で笑わせてくれる。


 私が笑うのがおかしいんだろうね。


 彼もあどけない顔で笑う。


 気がついたら恋に落ちていた。



   第 48 夜

    『想い人はお調子者?』


 今日の話題は近所のわんこ、変な癖があって、ちょっと太ったトイープードルが、人間のおじさんみたいな、低く響くイビキをかくのだと言う。


 辻本くんはそのモノマネをして見せる。


「ふふふっ、そんな声なの? 絶対脚色してるでしょ?」


「本当だって、なんなら一緒に見に行こうか? 今日の放課後空いてる?」


 えっ? もしかして誘われているの?


「う、うん今日は何も予定ないよ」


「それなら……」


「康大、今日の約束ちゃんと覚えてるぅ?」


 タイミングよく、割って入ってきたのは、確か隣のクラスの女の子。


「あれ、今日だったっけ? ……ゴメンね美柚ちゃん、また今度でもいいかな」


「あ、う、うんいいよ」


 残念、先約があるんじゃあしょうがないよね。


 私は親友と連れだって、下校することにした。


「美柚って、あいつのどこがいいの?」

「内緒」


 毎度聞かれる理由については、いつものように濁してしまい、私は今日も七瀬杏ちゃんと帰ります。


「あいつ、今年度だけでも、もう4人フッてるんでしょ?」


「へぇ、でもしょうがないよ。人気者だからね」


「顔はいいのは認めるけど、あとかなりお調子者で八方美人で」


 随分な言われようだなぁ。みんな合ってるけど。


 そうか、もう4人かぁ~、なんで彼女作らないんだろ?


「誰か好きな子がいるらしいよ」


「それって誰なの?」


「あんたじゃないの? 美柚」


「それはないって、私みたいな目立たない子」


「でもしょっちゅう、あんたに引っかかってんじゃん」


 私の反応がナチュラルにバカっぽいから、面白がってるんじゃないかな?


 いつも笑わせに来ては、自分も笑ってるし。


「一体どれだけの数、仲のいい女がいるんだろうね?」


「うーん、同じ学年だけじゃなく、上級生にも下級生にも人気あるからねぇ」


「あんたもその中の一人だしね。でもあんたは辻本のこと独り占めしたいとかって思わないの?」


 独り占めって言うのは大げさだけど、出来たら他の女の子に愛想振り撒くのって、して欲しくない。


 でも私もその愛想ばらまいてもらっている一人だもんな。


 それは凄く嬉しいことだし、だから同じように他の子にも、笑顔を配り歩いたとしても、文句言えないよね。






 やばいぃぃぃ!?

 今日は日直の日だ。


 朝から花瓶のお水替えたり、日誌を職員室に取りに行かないといけないのに、いつものように起きて、いつものように朝の準備をしていて、朝ご飯を食べようと思った時に思い出し、ご飯も食べずに飛び出してきた。


 学校に着いたのは8時を回った頃、よかった! 予定していた時間に間に合った。


 教室に入ろうとする私は、男女の声が聞こえて動きを止めた。


「辻本くん? それとあれは……」


 窓からこっそり中を覗きこむ。


 誰だっけ? 同い年だよね。体育の時一緒になる人だから、隣の組だ。


 確か……、兵藤優子さん。


「ごめんね。俺、君とちゃんと交際することは出来ないよ。友達としてたまに遊びに行くのはいいけど、二人っきりでデートって言うのはできない」


 そう、辻本くんはいろんな子と約束して遊びに行ったりしているけど、決して二人っきりで出かけたりしない。


「今まで通りじゃあダメなのかな」


 思わず隠れてしまったけど、立ち聞きなんてよくないよね。


「そうやって誰からの告白も断ってきてるんでしょ? ねぇ本当なの? 好きな子がいるって言うの」


 盗み聞きをやめようと思って、移動しようと思ったんだけど、この質問が耳に入ってきて、私は動けなくなった。


「いる」


「なんでその子に言わないの? あんたが好きだって言ったら、喜んでくれるでしょ? もしかして彼氏持ちの子なの?」


「たぶん恋人はいないと思う。だけど告白はできない。俺にとっては本当に癒しの空間なんだ。それを間違っても失いたくないから」


 辻本くんにそこまで言わせる女の子って、どんな人なんだろう? 辻本くんにも負けないくらい饒舌で、知的な人なんだろうなぁ。


「それであんたは今まで通り、いろんな子と交友を重ねて、その本命の子にも気持ちがばれないように、のらりくらりと過ごしていくのね」


 そんな言い方ひどいよ。


 確かにいろんな子に声掛けしているのは、私もその中の一人に過ぎないけど、どうにか私だけにならないかって思ったりもするけど。


「うん、じゃあ私が手伝ってあげる。フラれたけど、それくらいはしてあげるわよ」


 相手が辻本くんのことをどう思っているのか、それが分かれば告白もできるだろうと言う提案。


 もし相手にその気がないなら、今まで通りの友達同士でいればいいというわけだ。


 彼女は雰囲気を出して詰め寄り、辻本くんの口元に耳をもっていく。


 肝心なところが聞こえない。


 私がもっと聞こえる場所はと、辺りを見回していると、教室から出てくる辻本くんの姿が目に入って、慌てて隣の教室に入った。


 彼の靴音が遠ざかっていく。


「あなた、ずっと聞き耳立ててたでしょ」


 あまりの驚きに、心臓が止まるかと思った。


「あうあうあう……」


「別に誰にも喋ったりしないから、落ち着きなさいよ」


 別に立ち聞きがばれたから、慌てている訳じゃあないんですけど……。


「あんた!? ふぅ~ん……、さっきのやり取り見てたんだよね。彼の意中の人が誰だったかも聞こえた?」


「あ、いえそれは……、と言うか立ち聞きも本当はする気もなかったので、あくまでたまたま出くわしただけで、結果として聞いちゃったけど……」


「教えて欲しい? 彼が誰を好きなのか」

 それは……。


「なんて、これを教えたら彼との約束、破っちゃうことになっちゃうからね」


 約束は辻本くんの意中の相手の気持ちを確かめること。


 それを言えないって事は、やっぱりその相手は私ではないって事だね。


「あ、あの私、日直の仕事あるから」


 逃げるようにして、私は自分の教室に戻った。


 やっぱりそうだよね。


 私なんかが選ばれるわけがない。分かっていたことなのに、だめ押しをされたら泣き出しそうになる。


「おはよう美柚ちゃん」


「あっ! おは、よう」


「どうかしたの? 元気ないんじゃない」


「そんなこと、ないよ。……私、日直の、職員室いってくるから」


 めちゃくちゃ動揺しているの、絶対伝わっているよね。


 だけどもう少し落ち着かないと、普通ではいられないから。






 結局今日は、彼とはほとんど喋らずに過ごすこととなった。


 こんな事ではいけない。


 もう放課後だけど、今からでもちゃんとしなきゃ。


「辻本くん、きょ、今日はイビキ犬に会いに行けるかな?」


「……、そんなにムリしなくてもいいよ」


「えっ?」


「今日一日変だったから、気になってたんだけど、今朝の俺達の会話聞いていたんだってな」


 それを誰から!? ってあの人……。


「俺のこと避けるくらいだから、あいつの言ってたことも本当なんだろうな。ごめんね、今までムリに合わせてもらっていて」


 いやちょっと、なんだか話が見えてこない。


「俺、君が喜んでくれていると思って調子に乗りすぎていた。でももうあまり五月蝿くしないから、今まで通り友達でいてもらっていいかな?」


 調子に乗ってって、そんなこと私言ってない。

 思ったこともない。

 いつも本当に嬉しかったのに。


「他に俺に腹立っていることある? 治した方がいいところあるなら遠慮無く言って」


「ちょ、ちょっと待って、なんでそんな話になってるの? 全然見えてこないよ」


「だって、あいつにそう言ったんだろ? クラスメイトとして話を合わせているけど、本当は辟易しているって」


「そんな、そんなこと思ったこともない。いつもいつも楽しかったし、辻本くんが声を掛けてくれるのも、本当に嬉しかったし、だって私は!」


 何がどうなっているのか分からない。


 でも分かるのは辻本くんが、何か誤解をしているって事。


 それも私にとって一番望まない方向への歪曲。


 そして勢いで言ってしまった心の叫び。


「だって私はあなたのことが好きだから」


 まだ数人かが残る教室の中、みんなに聞こえるほどの大きな声で。


 我に返った時にはもう遅い。


 周りの視線が熱い。


「あ、あの私……」

「それ、本当?」


 さっきまでの険しい顔の彼ではなく、いつもの、いやいつも以上に優しい表情になった辻本くんが、まっすぐ私の目を見つめてくる。


「うん……」


 恥ずかしい、ギャラリーの目が痛い。


 どうにかここから消えてしまいたい。


「俺、好きな子がいるんだ。その子といるとすんごく癒されて、落ち着いた気分になれるんだ」


 私の告白に返してくれようとする言葉、あの子からも聞いた、私以外の誰かの話。


「好きなんだ美柚ちゃん、君のことが、俺いい加減で意気地なしだから、ずっと言えなかった。もし断られて、今まで通りに仲良くやれなくなるかもと思うと、どうしても」


 彼の表情は嘘を言っている風でもない。


 でもそれじゃあなんで、あの子は私にあんなことを?


「腹いせなんじゃないのか、俺あいつに本気の気持ち打ち明けて、その直後に君に出くわしたから、当の当人に対しての嫌がらせ」


「そう、なのかな?」


 こうして私たちは、公然の場でお互いの気持ちを打ち明け合った。


 もちろんお互いOKを出して、これからはあまり、他の女の子達と出かけたりしないことを約束してくれた。


 イビキ犬にも会った。


 初デートも私好みの映画をチョイスしてくれた。


 誰にでも分け隔て無く、でも私だけは特別に思ってくれて、いつも私を笑わせてくれる。


 他の誰にも見せない、私が恋に落ちる切っ掛けとなったヒーリングスマイル。


 それを独り占めして、これからも私は彼にとっての、癒しのアイテムでいられるよう努力しよう。

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