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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
47/102

第 47 夜   『チャイルドぷれー』

語り部 : 正岡邦夫マサオカクニオ

お相手 : 野上若菜ノガミワカナ

 子供の頃の思い出は、ほとんどが苦い経験の物ばかり。


 楽しかったこともあったはずなのに、思い出せたとしても、ほんの断片的な物。


 それでもたぐり寄せれば浮かんでくる。


 少し甘い記憶。それは小学校5年生の頃だった……。



   第 47 夜

    『チャイルドぷれー』


「お前なんか大っ嫌いだ!!」


 いきなりこいつは何を言い出すんだ。


 力の限り大声で言ったもんだから、プルプル震えてるじゃないか。


 理由に思い当たらないもんだから、言葉が出てこない。


「思い当たる節がないって顔じゃないか、怒ってるんだぞ。本気で怒ってるんだぞ」


 それは見ていれば分かる。


 だけどその向けられた矛先が俺だっていうのが理解できない。


「つまり、俺がお前を怒らせているって事だよな」

「それも分かってないの?」


 もう何もかもが気に入らない! って顔してるなぁ。


「それじゃあ教えてくれよ」


「そんな簡単に教えてもらえると思ってんの? 人を本気で怒らせたんだからね。ここはゲームで私に勝てたら教えてあげる」


 野上若菜、こいつは事ある毎に俺にゲームを挑んでくる勝負好きだ。


「まぁいいか、それで今日は何で対決するんだ?」

「よし! それじゃあ1on1からだ」


 から? まあいいや。


 野上が指定したのはバスケットボールのゲームの一つ、一対一の得点ゲーム。


「はい、俺の勝利な」


 この手のゲームで、こいつが俺に勝てた試しはない。


「さて次いくぞ」


 俺、勝ったじゃん。教えてくれるんじゃなかったのかよ。


「それじゃあ卓球勝負だ」


 うちの小学校は土日の校庭開放の時は、体育館にある物も自由に使っていいことになっている。

 卓球、竹馬、一輪車。


 将棋に五目並べ、トランプゲーム。

「まさかの全敗……」


 だってお前スポーツ苦手じゃん。それに将棋はルール知らないし、五目並べは人の手ちゃんと見てないし、神経衰弱は注意力の足りないヤツには、向いてないってのがよく分かった。


「そ、それじゃあね」


「いい加減教えろよ。俺が悪いってんならちゃんと謝るからさ」


 正直飽きてきた。


 このまま付き合っていたら、夕方のバラエティー番組に間に合わなくなる。


「……本当に思い出せないの?」


「思い当たる節がまったくない」


「……この間の水曜日、どうしてたの?」


 水曜日と言えば確か……。


「お前の誕生日? プレゼントはおばちゃんに渡してくれるように頼んだけど、まだもらってないのか?」


「それはもらった。じゃあなくてお誕生日会、今年もやったし、やったの知ってるでしょ?」


「ああ、小学生の間は開くってあれ? 毎年聞いてるんだから忘れたりしないぞ」


「それじゃあそれじゃあ、何で来てくれなかったんだよ」


 毎年招待を受けているから、毎年参加している。


 いつも主役以上にケーキを食っちまうから毎年喧嘩になる行事。


「電話して言ったじゃん、俺風邪引いちゃったからいけないって。学校も休んだし」


「風邪?」


「だから木曜日も休んでたろ? 昨日の朝に言ったぜ」


「そんなの私、聞いてない」


「嘘だろ、絶対言ったって。俺風邪で喉がらがらだったけど、ちゃんと言ったよ」


 実のところ今もまだイガイガしている。


「聞こえなかった……」


 そんなことだと思った。


 聞こえなかったのなら聞き直せばいいのに、あんなに怒るくらいならさ。


「だけど約束守れなかったのは謝るけど、なんでそんなに怒ってるんだ?」


 理由は分かったけど、あれだけ大きな声上げるほどの理由には思えない。


「だって、正岡くんが祝ってくれるの楽しみにしてたから」


「なんで? 他の奴らも行かなかったの?」


「来たよう、だからそうじゃなくて、私は誰よりも正岡邦夫くんにお祝いして欲しかったの」


 だからなんで俺なんだよ。


 他のみんなが居たんなら寂しくなんかないじゃん。


「だから……、私は2年生の時から正岡のことが好きだったんだよ」


 そう、だったんだ。


「その、だから正岡くんと一緒にいろんな事がしたくって」


 いろんな競技を思いついては突っかかってきてたのか。


 これが愛の告白ってやつかぁ~。


「それで正岡くんは、私の事どう思っているの?」


 上目遣いで俺の返事を期待して待っている。


 確かに学校でも他の女子とはあまりお喋りもしないけど、野上とは遊びに行ったりもしてるからなぁ。一番仲のいい女子であるのは間違いない。けど。


「ああ、えっと……ごめん、そんな風には考えられないや」


 俺は思ったままを口にした。






 あの後また「勝負だぁ~」って言い出したんだよな。


「うぅ~ん、はぅあ~あ、……おはよう」


「おはよう」


「早いねぇ……、眠れないの?」


 まさかあの時のあいつが、俺の目覚めの時に、隣にいることになるなんて、あの頃は思いもしていなかった。


「なに?」


「あ、イヤなんでもない」


 籍を入れたのは先月のこと、その日から一緒に生活をしている。


 結婚式はまだ終わっていない。


 今日がその日だ。


 一日忙しくなりそうだが、まだ起きるには早い。


 でもなんだろう、緊張したり高揚したりして、眠れないわけでもないのに、短時間睡眠の割にスッキリしている。


「小学生の頃のことを思い出していたんだ」


「ああ、あの頃は楽しかったよね。毎日が」


 楽しかった? 女の人ってそんな風に感じるのか?


 楽しいことはあったけど、楽しかったことだけを思い出すのは難しい。


 思い出そうとすれば、その倍以上の数、喧嘩したことが甦る。


「何言ってんのよ。邦夫さん、結局中学2年生になるまで、私の告白、受け止めてくれなかったくせに」


 確かに周りと比べても、俺の思春期の到来は遅かったのかも知れない。


「でもよくそれだけ一途でいられたもんだよね。俺、今さらだけど気持ちが落ち着くの時間かかったもんな」


「それはひとえに愛の力ですよ」


「俺が全然靡かないから、意地でもつかみ取る。とか言ってなかったっけ?」


「そう、それが私の愛なのです」


 完全に目が覚めたのだろう。


 若菜はベッドから起き出して、着替えを始める。


 俺も着替えてキッチンに入り、二人分の食事を用意する。


「それにしても今日なんだよね、もう」


「ああ、そうだな」


「小学生の頃からずっと、そう考えたらなんだか夢みたいね」


 こんな俺だからハッキリと分かる。


 友達から恋人に変わった瞬間。


 あの時のことを忘れなければ、俺達はきっと、ずっといい夫婦としてやっていける。


「それじゃあ後片付けの一勝負、何にする?」


 こいつの勝負癖もあの時のまんま。


 そうだな。そう思えば、昔の記憶もまんざら捨てたもんじゃあないな。

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