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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
46/102

第 46 夜   『リトルレディー』

語り部 : 殿田清慈トノダセイジ

お相手 : 大島希美オオシマノゾミ


盛立役 : 大島由芽オオシマユメ

 定期試験直前と言うことで勉強会を開く事になり、彼女と約束して、市民図書館に行くはずだった。


 ところがその日の朝、今日は家から出られなくなったと連絡があり、それじゃあキャンセルだねと言うと。


「明日、物理と数学でしょ? 私このままだと赤点になるかもしれないから、絶対勉強会開いてもらわないと困るの」


 確かに俺は理数科目は得意分野だから、彼女が当てにするのも理解できるが、さてどうしたものか……。



   第 46 夜

    『リトルレディー』


「いらっしゃ~い」


 結局勉強会会場は彼女の家になった。


 家に居さえすれば、何をしていてもいいと言う事で、俺が呼ばれる事になったのだけど。その理由というのは。


「ほら、由芽ご挨拶して」


「こんにちは……」


 彼女の妹、大島由芽ちゃん。希美とは年が離れていて、由芽ちゃんはまだ4歳、俺達が同い年で16歳だから、その差は12歳となる。


「お兄ちゃんって、お姉ちゃんの恋人?」

「はい?」


「こら由芽!? そう言う事聞かないの!」


 4歳の女の子って、こんな事言うんだ。俺がこの頃ってそんな事言う子いたかな?


 三年保育の幼稚園に行く由芽ちゃんも、日曜日はお休みで朝からいるんだけど、お母さんが急な町内会の寄り合いで出掛けなくてはならなくなり、希美が面倒を見なくてはならなくなった。


「それじゃあお姉ちゃん達、上で勉強してるから、大人しく一人で遊んでいてね。後でお昼ご飯と、おやつは作ってあげるから」


 由芽ちゃんにそう言い聞かせて、二階に上がろうとする希美。


「本当にいいの?」


「だって、あの子がいたら勉強にならないもん」


 後ろでは由芽ちゃんが今にも泣き出しそうな顔をしている。


「由芽ちゃん、お兄ちゃん達お勉強しないといけないから、由芽ちゃんも一緒に本でも読む? あんまり構ってあげられないかも知れないけど」


「うん、静かにしてるから、お姉ちゃんいい?」


「う~ん、じゃあいいよ」


 希美の部屋でやるはずだったのを急遽リビングに場所を移して、由芽ちゃんも一緒に勉強することとなった。


「それじゃあ数Ⅰから始めようか」


「よろしくお願いします」


 教科書を広げて、問題集に取り組む希美は、次第に頭を抱え出す。


「ここは因数分解して、……そう、これにこの公式を」


「お姉ちゃんって頭悪いの?」


 おお、いきなりの原爆攻撃。希美、肩が落ちてる……。


「ああ、いやいや、お姉ちゃんは算数と理科がちょっと苦手なんだけど、国語と英語は凄く得意なんだよ」


 先週にあったテスト前の勉強では、実際かなりお世話になった。


「由芽ちゃんは何が得意なの?」

「由芽はねぇ、お絵描きぃ!」


 そっかそっか、って、えっ!?


「お兄ちゃん由芽のお婿さんにしてあげる」

「あーっ!?」


 希美の悲鳴にも似た大声が耳に響く。


「ちょっと由芽! このお兄ちゃんはお姉ちゃんのなんだからね」


 小さい妹に対して何をマジになってるんだよ。お姉ちゃんだろ。


 と言いたかったんだけど、俺はまだ惚けたまま。


 4歳児にまさかの唇を奪われてしまった。


「と、とにかくお絵かきしようか。何か描いてみて由芽ちゃん」


 まだいきり立っている姉の肩に手を置いて落ち着かせ、由芽ちゃんの興味を他に向けた。


 由芽ちゃんはお気に入りだというらくがき帳を持ってきて、クレヨンを片手にお絵描きに熱中し始める。


「清慈」

「なに?」


「……あとでいい」


 俺達は勉強を再開し、ときどき由芽ちゃんの絵を見せてもらいながら、午前中は他には特に何もなく、11時を回ったので、希美は昼食の支度を始める。


「へぇ、由芽ちゃんは幼稚園にたくさんお友達がいるんだね」


「そうだよ。みんな由芽のこと好きだって言ってくれるの」


「うん、そうだね。由芽ちゃんならみんな好きになってくれるだろうね」


「でも由芽はお兄ちゃんのお嫁さんになるって決めたの。だから安心して、ウワキなんてしないから」


 こういうのって、どう反応していいのか分かんないや。


「ほら二人とも、ご飯できたよ!」


 あ、気のせいじゃないな、希美怒ってる。






 お昼を食べて、しばらくお話をしていたら、由芽ちゃんは電池が切れたおもちゃのように、急に目を閉じて、コテンと転んで寝てしまった。


「子供って、パワフルな分、パワーダウンも一気にくるんだな」


 俺にも妹がいるけど、うちは年子だから、子供のこんなテンションは、初めて見るな気がする。


「やっと静かになった」


「俺は嫌いじゃないけどな。由芽ちゃん賢いから、全然邪魔にならなかったし、割と勉強も進んだんじゃないか? 午前中だけでも」


「まぁね、でもやっぱり図書館でジックリやるみたいにはいかないよ。私まだ数Ⅰの試験心配だもん」


 俺の感触的には、希美は今回の試験を、ちゃんとクリアするはずだ。


 本人が心配だというのなら、後でもう一度練習問題を解いてみるといい。


「それじゃあ物理やろうか」

「……」


 由芽ちゃんが眠っているうちに始めないと、起きたらまた遊ぼうと言い出すだろうに、希美は動こうとしない。


「そう言えば、さっき何か言いかけてたけど、その事?」

「うん」


 やっぱり何か気になることがあったのか、さっきは由芽ちゃんが起きていたから言わなかったって感じだったから、そうではないかと……。


「ねぇ、私にもキスして」


 私にもって、いや、さっきのはキスされたんだけど……。


「ふぅ、ごめんね。小さい子のしたことに動揺して、私お姉ちゃんなのに、全然由芽に優しくしてあげられてないね」


「今日はそうなのかもしれないけど、普段は違うだろ? 由芽ちゃんはお姉ちゃん大好きって、全身で言ってるぜ」


 希美は俺の隣に座って、肩に頭を乗っけてきた。


 握られた手が温かい。


 雰囲気としては最高の気分で、本当にキスも出来るかも。


「あー! ダメだよお姉ちゃん、お兄ちゃんは由芽のなんだから」


 起きたか。


 小さい子とはいえ、彼女の家族に彼女と雰囲気醸し出しているところを見られるのって、かなり恥ずかしいね。


 由芽ちゃんは俺目掛けて、猛タックルをきめてくる。


「ゆ、由芽ちゃんはなんで俺のこと、そんなに気に入ってくれたのかな?」


「だって、優しいし、大人の男の人だし、格好いいもん」


「でも由芽ちゃん、お嫁さんになれるのは16歳になってからだよ。その時俺は28歳だ。もう立派におじさんだよ」


 実際に28歳でおじさんだなんて思いもしていないけど、小さい子には十分なはずだ。


 場合によっては、4歳の子に28歳はお父さんの年齢だもんな。


「そっかぁ~、これが“じぇねれーしょんぎゃっぷ”って言うことなんだね」


 どこでそんな言葉覚えてくるんだ? ……ジェネレーションギャップとは違う気もするけど。


「ただいまぁ」


 大島家の母が帰宅した。


 俺達は2階に上がり、希美の部屋で勉強の仕切り直しをした。


「……そうそう、解ってるじゃん」


 物理の方も順調に試験範囲のおさらいも終わり、数学の練習問題も概ねクリアした。


「今日はこの辺でいいだろ。後はまた夜と、試験直前にチェック入れれば赤点はありえないよ」


 そんなこと言って、俺の方が落としたりして。


「ねぇねぇ清慈」


「なに、まだ心配な点があるのか?」


「違うよぉ……」


 もじもじして、愁いを帯びた目。


 何を望んでいるのか、ここでボケをかましたら、当分口も聴いてくれないだろうな。


「はぁーい、二人ともお疲れ様、少し息抜きしたら」


 彼女のお母さんが、お茶とお菓子を持って入ってきた。


 この家の女性陣は何とも言えない間で入ってくるなぁ。


「あ、ありがとうございます」


「始めまして、希美と由芽の母です」


「はい、初めまして殿田清慈です」


 2度目の自己紹介を終え、腰を落ち着ける一同。


 由芽ちゃんも上げって来て、迷わず俺の膝の上に座った。


「すっかり由芽が懐いちゃって、迷惑じゃない?」


「ああ、いえ由芽ちゃん軽いですから」


 お母さんは井戸端会議でも開いたかのように、なんか居着いてしまった。


 希美がどんどん不機嫌になっていくんだけど。


 そんな事も意に介さず、お母さんは一人で喋り続け、程なくしてお買い物にいくとかで、由芽ちゃんを連れて出かけていった。


「なんか、もうムードも何もなくなっちゃった」


「ははは、俺は今日一日で、希美の事いっぱい知ることができて、凄く嬉しかったよ」


「由芽にキスしてもらったしね」


「確かに悪い気はしなかったね」


 俺は少し態とらしく、思い出し笑いをしている風に装った。


「決めた。もう二度と清慈を家には寄せ付けない」


「なんでそうなるんだ?」


「決めたったら決めた」


 背中を向けて腕組みしている。


 俺は後ろから抱きついた。左の頬を希美の右の頬に当てる。


「じゃあ、今度家に来なよ。俺の家族紹介するからさ」


 今日俺は本当に嬉しかったからさ。


 由芽ちゃんに会えたこと、お母さんと話せたこと。


 ムードは満点、俺達はお互いの唇を重ねようとする。


「そうそう、晩ご飯どうする? あら、ごめんなさい」


 直前だった。


 本当にここの女性達は、思いも寄らないタイミングで入ってくる。


 静かに扉を閉める音がして、耳を澄ませば、階下に降りる足音が遠ざかっていく。


 耳を澄ませば聞こえるのに、落ち着いた音楽、小さい音だったけど鳴らしていたからか、お母さんが入ってくるまで気づけなかった。


 さすがにこれはかなり気まずい、俺達はどちらからともなく離れて、またもう一度おさらいの勉強を始めた。

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