第 45 夜 『恋の方程式≠』
語り部 : 間島誠登
お相手 : 西嘉部雅子
暮林祀
盛立役 : 松方慎吾
俺の下駄箱に入っていた俺宛の手紙、差出人の覧には同じクラスの西嘉部雅子の名前が書いてあった。
俺と同じクラス学級委員で、春の体育祭の準備で共同作業をしてから仲良くなった。
気さくであっさりした性格は取っつきやすく、西嘉部さんが彼女になってくれるって言うのは、正直に嬉しいと思った。
「あ、いたいた、間島くん!」
「暮林さん?」
同じテニス部所属の暮林祀さんに呼び止められる。
「なに?」
「うーん、長くなると余計言いづらくなるからスパッっと言うね。えっと……、間島くん、私を彼女にして下さい。私とつき合ってく~ださい」
えっ? このタイミングって誰のイタズラだ?
第 45 夜
『恋の方程式≠』
生まれてこの方、女の子にモテた試しなんてない。
彼女が出来た試しもないし、仲良く下校なんて経験もない。
高校1年生になったからって、何かが変わったわけでもない。
部活だって中学の頃と同じテニス部に入ったけど、特に活躍している訳でもない。
「ふーん、西嘉部とD組の暮林さんか、どっちもレベル高いなんて、大したモテっぷりだな」
同じ中学出身で、中学時代からの親友、松方慎吾に昨日の放課後にあったことを話した。
暮林さんに呼び止められて言われたことと、西嘉部さんからの手紙に質目られた内容を。
「どうしたらいいかな?」
「先ずはお前をここから突き落とすかな」
5階建ての校舎の屋上から、マジで突き落とそうとするコンチクショーから逃れ、俺はもう一度手紙の内容に目を落とした。
俺のことを気にしだしたのは、やっぱり体育祭の準備の時から。
その後もレクリエーションなんかでも、一緒に頑張ったこととかが書いてあって、頼りになる相棒のことが気になるようになりましたと括られている。
「で、暮林さんからは、ダブルスのペアになって、一緒にいる時間が増え、話しているうちに。だっけ? 豆腐の角に頭ぶつけるなら手伝うぞ」
悪意が見え見えな野郎の嫉妬を感じて、相談相手を間違えたことを今さらながらに悟った。
「それで? お前的にはどっちが本命なんだ? それとも他にいるのか?」
「どっちか先に告白してくれた方、俺的にはどっちといても楽しいんだよ」
「先にって、それじゃあラブレターか? 暮林さんに言われる前に手に取っていたんだろ?」
「いや、確かに手紙の方が先だけど、中身を確認したのは暮林さんと話した後なんだよな」
これを俺的に、どっちが早かったかの判断をするのは難しい。
「つまり選べないってことなんだな。ならいっそのこと二股しちゃえよ」
なんて極端な!?
「それは一番ないよ。そんなこと許されるわけがない」
「堅いヤツだな。しかしそうなると、決め手だよな。二人との今までの思い出でとか、これからを想像してとかさ」
あまりふざけていても仕方ないと悟ってくれたのだろう。慎吾はまともな返しをしてくれた。
「暫く二人には時間もらって、もうちょっとジックリ考えてみるよ」
俺自身が迷わず、できれば二人にも納得してもらえる結果を残したい。
あまり長くはムリでも、少しでも時間がもらえるなら、しっかりと答えを出したい。
「ああ、いたいた、間島くん、探してたんだよ」
「西嘉部さん!?」
渦中の人が現れて、俺は飛び上がりそうな思いになる。
「な、なにかあった?」
「昨日のあれ、見てくれた?」
やっぱりそれ?
ああどうしよう。今もう少し待ってもらおうって、決めたところなのに。
「うん、とっても嬉しかったよ。だけど、返事はもう少し考えてからでもいいかな?」
西嘉部さんの眉が寄るのを見逃さなかった。
「あ、ああ、うん、そうだね。あまり長く待たされるのは嫌だけど、少しなら……」
俺ならすぐに答えを出すと思っていたんだろうな。
普段の俺ならそうしてる。君からだけだったら多分そうしてる。
「えっと、それだけかな?」
「ああ、違う違う。先生が呼んでるの」
ああ、学級委員の仕事ね。
とりあえずこれは、もう一度宿題に持ち帰ります。
ごめんな西嘉部さん、暮林さん。
さて、どうしたものか……。
失礼なんだけど俺的には、二人を天秤にかけたとしても、その差は全くない。
ハッキリとキッパリ物を言う、西嘉部さんの直球思考っていうのは、一緒にいても気持ちいいくらいサッパリしている。
俺がどちらかと言うと優柔不断なので、ここぞという時には本当に助かる。
暮林さんは俺と同じタイプの人間で、以心伝心というか、阿吽の呼吸というか、彼女の行動は予測が出来て、共にいても気を遣うこともなく楽でいい。
全く両極端な二人なので、比べるのは難しい。
俺にとって苦手な部分ってどうだろう?
「……」
特にないなぁ。
俺って人との距離感考えて、ちゃんと接していられてるのかな?
二人の嫌なところが見あたらない。
「ふぅあ~あ……」
ダメだもうそろそろ寝なきゃ、宿題は……、こんな状態じゃあ出来なくても当然か。
明日早めに学校行って、頑張ってみるか。
放課後、俺は二人を校舎裏の人気のない場所に呼び出した。
こんな答えで二人が納得してくれるかは分からないけど、一生懸命考えた結果だ。
頑張って分かってもらうしかない。
「間島くん、こんなところまで来なくても、もう教室誰も残ってないのに」
今日ここで返事をすると言っておいたから、西嘉部さんにはあの手紙の返事だと察しが付いたのだろう。
「間島く~ん!」
「あれ? D組の暮林さん……」
「どなた?」
「あ、えっと、私は間島くんのクラスメイトで西嘉部雅子です」
「暮林祀で~っす」
さて役者はそろった。
「これってどういう事?」
「間島くん、あの日の返事くれるって言うの、この人にも関係あるの?」
先ずはそこら辺からだよな。
「西嘉部さん、暮林さん、こんな俺を気に入ってくれてありがとう。二人の気持ちとっても嬉しかった」
そう言うと、彼女たちはお互いの顔を見やった。
「でも俺はどうも優柔不断で、なかなかいい返事が浮かばなかったんだ。何日か待たせちゃったのは悪かったんだけど、許して欲しい」
静かに長く、深いため息を吐いて、俺は心臓の鼓動を整える。
「ごめんなさい。二人の気持ちに答えられそうにありません」
俺は90度腰を折り曲げて、頭を下げた。
「え?」
「それって、なんで?」
暮林さんは短く、それに続ける格好で西嘉部さんが聞いてきた。
「もしかして他に付き合っている子とか、好きな子とかいるの?」
「今仲良くしている女の子は君たちしかいない」
「そ、それじゃあ、なぁ~に、どうしてごめんなさいなのぉ!?」
暮林さんがべそをかき始めている。早く説明しないと。
「俺、君たちのこと誰よりも大事だから、二人とも同じくらい大切だから、どちらかを選べない。だからって二股なんて考えられないし。だから、身勝手かも知れないけど、よかったら今まで通り、仲のいい友達でいられたらと」
本当に自分勝手な都合のいいことを言っているよな。
でも本当に今は、二人のうちのどちらかなんて選べない。
「……、そっか。残念だけど君らしいね。あんまり感心出来ないけど、結果保留かぁ」
「えーっ、だったらぁ、いっその事3人でおつき合いしようよ」
暮林さんが提案を述べた。でもそれは。
「いや、だから二股なんて」
「二股は嫌だよ。私のいないところで二人で仲良くしてるなんて、我慢できない」
だったら何をどうするって?
「二股じゃあなくって、これからは何をするにも3人で、内緒事は作らないで」
「なるほど! 抜けがけなし、正々堂々お互いに自分をアピールする場として、グループ交際をするって事ね」
いや、西嘉部さん、それってグループ交際とは少し違うのでは……?
「そんなのいいの?」
「いいんじゃない。別に結婚しようって言うんじゃないんだもん。おつき合いの中で、並んで行動をしていれば、どっちがいいって言うのも、いずれ決められるんじゃあないの?」
「……もう一回聞くけど、本当にいいの?」
「私はそれでいいわよ。今まで通りの友達じゃあない。それ以上にはなれるんだし、そうなったら他の子も後から入ってもこれないでしょ」
いや、だから俺そこまではモテないよ。
今回のことで一生分使ったかもしれないのに。
「ふふん、なんだか楽しみだね。ねぇ、先ずは親睦も兼ねて、今度の土曜日どこか行かない?」
「ああ、いいわね。暮林さんはどこ行きたい?」
「祀でいいよ。雅子ちゃん!」
女の子って強いなぁ。
俺にはない発想で、ベストではないかも知れないけど、ちゃんと3人が納得できる結果を導き出してくれた。
いつかどちらか一人を選ぶ日が来るんだろうけど、それまではよろしく。