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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
43/102

第 43 夜   『コンプレックスキャンパス』

語り部 : 相沢宗助アイザワソウスケ

お相手 : 竹建優美タケタテユウミ

 出会ったのは中学生の頃だった。


 その頃は身長差もほとんどなかったのに、今や彼女は見上げる存在。


 いや、彼女が大きくなり過ぎたばかりじゃないな、俺の身長が151cmで止まったことが、一番の問題だったんだよ。



   第 43 夜

    『コンプレックスキャンパス』


 もうじき学祭が開かれようとしている。


 大学のキャンパス内は、もうとっくにお祭り騒ぎなのだが、

俺はどこのサークルにも参加していないし、どこの研究室にも出入りしていないので、

祭は当日楽しむだけの物でしかない。


「宗助ぇ」


 今日も元気いっぱいだな、そう言えば優美って四六時中フルパワーだなぁ。


 もの凄く遠くから、人の名前を呼んで、全力疾走してくる。


「お待たせ、ちょっと4限の講習が延びちゃってね」


 あれだけ全速で走ってきたのに、息一つ乱れていねぇよ。


「優って、なんでサークルに参加したりしないの?」


 高校卒業までは女子サッカー部で活躍してたのに、別にサッカーでなくても、色んなスポーツサークルもあれば、

何だったら自分でまだない女子サッカー部を起ち上げたっていいだろう。


「やだよ。そうしたら宗助、一人でさっさと帰っちゃうでしょ?」


「そりゃあ、まあな」


「せっかく同じ大学選んだのに、そんなんじゃあ意味無いよ。頑張って勉強したのにさ。だいたい3回生にもなって今さらそれはないよ」


 学部も選択も別々だし、授業はほとんど別々だからな。


 確かに優の言うとおり、俺が先に帰ったら、二人の時間は少なくなってしまうだろうけど。


「宗助って無趣味だもんねぇ。成長期にちゃんとスポーツでもしていれば、もう少し育ってたかもね」


 ことある毎にこれだ。


 だけど不思議なことに、他のヤツに言われたら腹立つのに、こいつに言われても、全く怒る気が起きないんだよなぁ。


「そうか、成長期に暴れすぎて、そんな178cmまでデカくなっちまったんだな」


「なにおー! あんたなんて、私の胸までしか頭来ないくせに」


 なんて言いながら、頭を抱え込みやがった。


「だから人前で、そう言う事をするんじゃないって!?」


「あはは、いいじゃない。もうみんな私たちの仲は知ってるんだし」


 そう言う問題じゃない。倫理的な事を言ってるんだ。


 優の腕から逃れた俺は、リアクションもせずに、正門に向かって歩き出す。


「あ~ん、待ってよ」


 周りの目線が痛いんだよ。


 どうせまた仲のいい姉弟のスキンシップとかって、思ってるんだからさ。


「もうすぐだね学祭」


「ああ、去年はなかなかの力の入れようだったからな。今年は運営部の予算も大幅に上がったって言うから、更に盛り上がるんだろうな」


「ねぇ、今年はなにかに参加しない? 来年は就職活動で、それどころじゃないもんね」


 最後になにか思い出に残ることをしたい。というのだけれど。


「俺はいいや、当日楽しめれば、それで」


「もう、またそう言って宗助はぁ」


 なんでこんなに意欲的なのに、俺みたいな無気力なヤツと一緒にいたがるんだろうな。


 そんな日常が当たり前すぎて、彼女が側にいない数日なんて、想像もしていなかった。






 今日で4日目、俺は一人帰り道をダラダラ歩いていた。


 いつも隣にいるはずの優の姿がない。


 友人のサークルの催し物の手伝いをすることになったとかで、今も大学内にいるはずだ。


 何もしない派の俺だったけど、あいつが何かするなら手伝ってもいいかなと思って、一応申しではしたんだけど。


「それじゃあ当日ちょっとだけ手伝ってね」


 だと。内容も知らないで何をしろと言うつもりだろうか。


「本番になれば分かるんだろうけどな、もう明日じゃん、一体どうなるんだろうな?」


「宗助おかえりぃ」


「うん? ああ母さん」


 家の近所まで来た辺りで、買い物帰りのお袋と遭遇、俺より低い149cm、ちなみに親父は俺より少しだけ背が高く、それでも153cmしかない。


 完全に遺伝なんだよな。


「今帰り? あれ優美ちゃんは一緒じゃないの?」


 両家公認のお付き合いだからな。お袋の疑問も分かるけど、そうか最近一人で帰っていたこと、家では話題に出したりしないからな。


「もしかしてあんたフラれたの?」


「フッたのかとは聞かないんだな」


「ははは、それだけはあり得ないよ。あんたあの子にベタ惚れじゃない」


 母親に言われるほど恥ずかしいことはないな……。


「あいつは学祭で何かやるらしくって、その準備で居残ってんだよ」


「あんたは手伝わないの?」


「当日何かあるらしい。まだ内容も教えてもらってないけど……」


「ふーん」


 今さらだけど、俺もサークル活動すればよかったかな。アルバイトもしてないのに毎日ダラダラしちゃってさ。


「あんた、勉強以外はからっきしだからね」


 俺の志望は教師になること、課題も多く、実習も多いから、他のことしてる暇ないんだよ。






 学祭当日、今朝も優は先に行ってしまった。


 お昼前11時過ぎにA棟の前の特設ステージに来るように言われている。


 それまでは何の予定もないし、一人であちこち回るのも気乗りしない。


 優の出番は今日の午前中だけらしいので、その後は一緒に回れるって言ってたから、朝はまったりお茶でもしているか。


 あと一時間半くらいだもんな。


 俺はこんな日にも持ってきているテキストを開いて、カフェでお茶していた。


「もう、宗助! やっぱり時間忘れてる」


「おう、優! 久しぶりって感じだな。ここんところ朝も早かったしな」


「呑気に世間話してないで、もうすぐ出番だよ」


 ああ、もうそんな時間か? って打ち合わせも受けていないのにもう出番!?


 A棟のとある部屋に連れてこられた俺の前に、女子が数人現れた。


「それじゃあ相沢くんはこれに着替えてね。竹建さんはこっちへ」


 デザイン学科の学生に指示されて、俺は用意された衣装に着替える。


「って、なんで燕尾服!?」


 見渡せば、みんな忙しそうに動き回っている。


 仕方なく俺は、その衣装に袖を通した。


 優が手伝っていたのは、芸術学部のデザイン学科が手掛けるファッションショーだった。


 おそらくあの長身を買われたのだろう。


 そのモデルのために、数日間かけて衣装あわせをしていた。


 俺は事前になにもしていないが、数日前に俺のサイズが知りたいと、寸法を書いたメモを、お袋が優に渡していたらしく、

男物の燕尾服なんて、肩幅と裾と裾の長ささえあっていれば、後はどうとでもなるからな。


 だから直前までナイショに出来ていたってわけだ。


「トんだサプライズだよ」


 この衣装から推測される答えはただ一つ、優はウエディングドレスを着るのだろう。


 あいつの身長なら、さぞかし映えることだろう。


「しかし相手が俺じゃあ、締まるものも締まらなくならないか?」


「えっ? ああ! でも彼女、相手があなたでないと出てくれないって言うし、このキャンパスであなた達のこと知らない人はいないから、大丈夫ですよ」


 押し切られた感じか。


 悩んでいる時間はない。すぐに出番が回ってくる。


 先にステージ上に立ち、優を待ち望む新郎役。


 あいつを見た時の俺の表情も演出の一つにするために、今まで黙っていたそうだ。


 うわっダメだ、必要以上に緊張してきた。


 多分このままじゃあ、あいつの晴れ姿を見ても、感動できないかもしれない。


「それでは午前の部、最終ステージ! ウエディングドレスです」


 MCの後に流れだした、定番ののウエディングソングに乗って、花嫁が入場した。


 俺は自分の役目も忘れて、完全に魅入ってしまった。


「宗助……」


 衣装の艶やかさも目を惹くが、何よりその表情がたまらない。


「あ、えーっと、その……、き、綺麗だ」


 やっと出た言葉は、そんな陳腐な物だったけど、優は至極の笑みで応えてくれた。


「それではここで、神父様の登場です」


 この日のために雇われた男子学生に神父役をやらせて、式はスタートした。


「って、おい待て、そこまでは聞いてないぞ」


 そこまでもどこまでも、何一つ聞いてないけどさ。


「汝、竹建優美、あなたはこの者を健やかなる時も病める時も……」


 って、お決まりの台詞、しかも新婦から?


「はい、誓います」


「汝、相沢宗助、あなたは……」


 おいちょっと待て、なんでこうなるんだ。


 と言うか落ち着け俺、これは催し物のイベント事だ。なにも焦ることはないんだ。


「……誓いますか?」

「あ、ああ、その……」


 ブーケを握りしめる優の瞳はが真剣そのものだ。


 これは役にのめり込んでいるのか?


 それとも俺の言葉を受け止める気持ちの現れか?


「ち、誓います」

「本当に?」


「って、なんでお前が聞くんだよ?」

「役だから言ったの?」


 マジ顔!? こいつの本命はこれか?


 これはもう立派なプロポーズだよな?


 と言うことは先に誓いを告げたこいつは、俺にプロポーズしたって事か?


 ここで俺がもう一度「誓います」と言ったところで、優もギャラリーも納得するのか?


 俺は逃げ出したくなった。


 上からのぞき込んでくる花嫁は、ベール越しに見ても分かるほどの威圧感を持っている。


 俺はベールを取り、いつも傍にいてくれる見慣れた顔をマジマジと見つめる。


「本当に俺でいいんだよな?」


「今は宗助しか見えていないよ」


「俺もそうだよ。でもそれでお前は本当に幸せになれるのか?」


「幸せなんて、もらうもんじゃあないよ。私がそうなるって決めたんだから、その為には宗助が必要なの」


 俺達の会話は集音マイクに拾われて、特設ステージ前のみんなに聞かれている。


 俺は迷いを振り切った。


「わたくし相沢宗助は、竹建優美を生涯幸せにすることを誓います」


 会場は大きく沸いた。


 その後はお約束の誓いの口吻。


 学内一の逆身長差カップルは、公認度を益々増して、初日の学園祭を大いに盛り上げるのだった。

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