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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
40/102

第 40 夜   『一本!』

語り部 : 金場翔平コンバショウヘイ

お相手 : 西田早知ニシダサチ


盛立役 : 久森順子クモリジュンコ

      江田真理子エダマリコ

 去年の夏、引退した女子部の先輩、今年の春に卒業して大学生になった。


 俺は密かに憧れていた先輩のいなくなった剣道場で、朝から振るう竹刀に精神を集中する。



   第 40 夜

          『一本!』


 放課後に西田先輩が遊びに来た。


 近くまで来たからと言っていたけど、どうも久しぶりに竹刀を握りたかったみたいで、汗が粒になるほど真剣に素振りを繰り返していた。


「やっぱりいいねぇ。私が行った大学剣道する人いないのよね。だからって私が新サークルを起ち上げるってのもねぇ。気軽な気分でやれなくなるもんね」


 借りていたジャージから私服に着替えてきた先輩は、その後も後輩の指導をしてくれた。


「おつかれさまでしたぁ」


 いつもの2割り増しで張り切った俺は、もうヘトヘトだけど、今週末は剣道場を殺菌するとかで土曜も日曜も休み、木曜日と金曜日頑張れば、二日間ゆっくり出来るから何も問題ない。


「お疲れ様ぁ~」


 着替え終わって出てきた俺に、先輩が声を掛けてきた。


「ああ、まだいらしたんですね」


「うん、ちょっとね、君に頼みたいことがあって」


 そう言って、在学中も色々と雑用させられたよな。


 なんで俺だったのかというと「言いやすいから」とか言ってさ。


「なんですか?」


「今度の休みって、予定とか入れてる?」


「いや、久しぶりにノンビリしようかと思ってます。当日になれば誰かが電話してくるとは思いますけど」


 現時点では特に何も予定は入れていない。


「それじゃあ土曜日ちょっとつき合ってもらってもいいかな?」


「はい? まぁ、いいですけど」


 先輩のお手伝いってなんだろう?


 剣道部としてはいろんな事やらされたけど、剣道やめたんだよな確か、じゃあ一体……?






 土曜日はいい天気になりました。


 どこに行って何をするか分からないけど、昨日先輩から電話で「明日は目一杯オシャレしてきてね」と言われて、クラスの友達にも相談して、それなりの格好はしてきたつもりだけど、この格好じゃあ力仕事はしづらいけどな。


「お待たせぇ~、もしかして待った?」


「ああ、いえ! そんなには……」


 先輩を待たせる畏れを回避するために、40分前には到着していたことは言わない方がいいな。


「それじゃあ行こうか」


「あの俺、今日何するか聞いてないんですけど」


「いいからいいから、昼食まだでしょ、ちょっと他の人もいるんだけど、奢りだからいいでしょ?」


「あ、はい……」


 結局何をするのかも教えられることなく、俺は一件のお店に連れていかれた。


「さっちー、こっちこっち」


 さっちーって、ああ先輩のことか、西田早知さんだからさっちーね。


 俺達を出迎えてくれたのは二人の女性、感じからして先輩の大学の友達かな?


「こんにちわ。私は久森順子っていいます」


「江田真理子で~す」


「ども、初めまして、金場翔平と言います」


 俺が自己紹介をした途端に「きゃー」って黄色い声を上げるお二人、いったいなんだってんだ?


 そこからは何がなんだか、本当に訳の分からない質問会が開かれて、色んな事を根掘り葉掘り聞いてくる。


 先輩は俺の隣に座り、収支笑顔を絶やさない。


 3人の女子大生のかしましさの前にタジタジの俺は、せっかくの奢りのランチも、どこを通って入っていったのか分からないままに食べ終わったけど、それからもカラオケやボーリングと連れ回された。


 しかしずっと気になっていたのは、西田先輩のスキンシップが大胆であると感じること。


 ことある毎に触れてくるのが、もの凄くドキッとさせられる。


「楽しかったねぇ」


「うん、それじゃあ私たちはこの辺でぇ」


 そう言って久森さんと江田さんは帰って行った。


 なんかもの凄く嬉しそうに「ごゆっくり」って言葉を残していった。


「先輩、今日のこれっていったい?」


 二人っきりになり、今なら教えてもらえると思って聞いてみた。


「ああ、うん、えーっとね。あの子達は大学の友達なんだけど……」


 なんか歯切れが悪い、明朗活発な先輩らしくない態度だ。


「言いにくいことですか?」


「そんなんじゃないよ。……大学ってね、高校生の頃以上に、縦と横の繋がりって大事なんだけど、今の学部で友達と言えば、あの二人しかいないのね。あの子達って男の子の話にすごく興味を示してね、自分たちの彼氏の話で盛り上がるのが好きなのよ」


 言っていることは解るんだけど、まだ見えてこない俺の話。


「だからね……彼女たちには君のことを彼氏だって言ったの。そうしたら会ってみたいって」


 そう言うことだったのか。だからあんなに興味津々で質問攻めにされていたのか。


 先輩のあの大胆さも、その所為だったんだな。


「私だけがいつまでも彼氏を紹介しないって、うるさくってさ」


「何となく分かりました。でもなんか釈然としないと言うか、先輩らしくないって言うか……」


「なにそれ、私らしくないって、金場くんって私のこと、どれだけ知ってるの?」


 あっと、ちょっと気に障ったのかな?


 でも俺だって訳が分からない自体に気が気じゃないんだけどな。


「金場くん明日も時間もらえる? 君の中の私と、実際の私を比べてみてくれるかな?」


 俺は今日に続いて明日の日曜日も先輩と過ごすことが決まった。






「今日も目的地まではナイショって事ですか?」


「そんなことないよ。今日はフォトスタジオに行くの」

「フォトスタジオ?」


 そう言うと先輩と電車に乗り、隣の市までやって来た。


 到着したのは正にフォトスタジオ、一体ここで何をするのか?


「私の密かな趣味ってヤツよ。目的地は2階」


 私を教えるって言うのは、先輩の趣味を教えるって言うことだったのか。


 俺は言われるままに渡された物を持ってロッカールームへ。


 渡された鍵で開いたロッカーに私物などを入れて、渡された物を広げてみる。


「これって、……これが先輩の趣味?」


 とにかく着替えるしかないか。


「着替え終わった?」


 外から声がする。先輩も着替えが済んだと言うことだ。


 ロッカーに鍵をかけて、俺はロッカールームから出た。


「お、いいじゃん、やっぱりこれが似合うと思ってたよ」


 そう言って俺の格好を評価してくれる先輩も、目を奪われんばかりに目映く見えた。


「もの凄くきれいです。っていうか、本当におとぎの世界に迷い込んだみたいだ」

「ありがとう」


 先輩はおとぎ話に出てくるようなお姫様のような格好だった。


 いつも凛々しい立ち姿で、俺達を指導してくれていた先輩の姿しかイメージにない俺にとって、それはもう夢のような光景だった。


「それじゃあお願いします」


 お店の人に言って写真撮影、撮ってもらうのはこれだけじゃない。


 一枚目の王子様風衣装から二枚目の侍、三枚目に白のモーニング姿も撮影してもらい、出来上がった物を受け取って、近くの喫茶店にいった。


「あそこのお店ってね、成り立てのカメラマンが修行する場になっていて、格安でこういった写真撮ってくれるの」


 先輩の趣味はこういった衣装を着て、写真をちゃんとしたスタジオで撮ってもらうこと。


 町娘風の着物姿も、花嫁のウエディングドレスも、とっても似合っている。


 たまにテレビなんかで見るコスチュームプレーと呼ばれるのの、ただ衣装を着たいというのではなく、モデルのように、いつもと違う自分を写してもらいたい。と言うのが先輩の願望。


「どう、こんな私って金場くんにとってイメージできる範囲?」


「正直言ってビックリしました。でもステキですよ。なんて言うか先輩に合っていると思います」


「ありがとう」


 結局先輩が言いたかったのは、高校時分に見せていた自分が全てだと思って欲しくないと言うこと。


 もっといろんな先輩の姿を見て欲しいというのだ。


「でもこんな私を見せたのはあなたが初めてよ。他の人には恥ずかしくって見せられない秘密」


 この二日で知った、大学生になった先輩と、普段見たこともない秘密の先輩、本当に夢にも思わなかった。


 そしてそれを見せてくれたのが、俺にだけって言うのがとっても嬉しい。


「憧れの先輩がもの凄く身近に感じられて嬉しいっす」


「憧れかぁ~、なんかまだ遠い響きだよね。翔平くん、私が友達に紹介したのも、誰でもよかった訳じゃないよ。君だから自慢したいって思ったんだから」


 あんまりにもさらって言われたので、そのまま聞き流してしまいそうになった。


「え、あっ、いや、その、……光栄です」

「それだけ?」


「俺も、ただの憧れの人じゃあなく、誰よりも大切な人になってくれたらと……」

「堅いなぁ」


 ニコニコとした先輩は去年までの、俺をからかっていた頃と同じ顔になっている。


「早知さん、あなたのことが好きです。俺、昨日だけじゃなく、これからも彼氏になっていいですか?」


 俺の言葉に先輩は笑顔を更に柔らかくして目を細めた。


 今度の休みには俺のしたいことに付き合ってもらおう。


 俺の趣味を見てもらって、その次は早知さんのやりたいことをして。


 写真の中の俺の顔は強ばっているけど、次はもっと自然な笑顔を作れるように、これからもご指導お願いいたします。

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